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二人とも旅装だが、なかなか仕立てのよい服を着ている。ただし仕立てはよいものの、何と言うか、どうにも野暮ったい。
シモンはミリーに目礼してから、アンジーに尋ねた。
「せめてものお礼に夕食をご馳走したいんだけど、都合はどうかな?」
アンジーはミリーを振り返って、目顔で問いかける。ミリーは微笑んでうなずいてみせた。
「では、お言葉に甘えます」
「時間は六時くらいでどう?」
「はい」
男たちといったん別れ、自分たちの部屋へ向かう。アンジーとミリーの部屋は、屋根裏だ。
男たちに譲ったほうが二階奥の部屋で、そちらのほうが一般的にはよい部屋と言われるのだが、広さは屋根裏の部屋のほうがある。ただし屋根裏の部屋は広いかわりに天井が一部低くなっていて、長身の男たちには不都合がありそうだと思い、二階の部屋を譲ったのだった。
部屋は簡素だが清潔で、居心地は悪くなさそうだ。
大きな張り出し窓があるため、屋根裏といっても室内は明るい。アンジーは張り出し窓から身を乗り出して、歓声を上げた。
「わあ、いい眺め。ほら見て、ミリー!」
「海がきれいですね」
「ね」
部屋の窓はちょうど海側に面していて、港の風景が見渡せた。
ミリーは、はしゃぐアンジーを見て口もとをほころばせた。
アンジーは王都育ちで、地方に出たことがない。王都にも港はあるが、あちらは基本的に大型の交易船ばかりが停泊している。ここシュラウプナーの港は王都の港とは違って、半ば漁港となっているため趣きがだいぶ違っていた。
そうこうするうちに時間になり、二人は階段を降りて待ち合わせ場所である宿屋の入り口に向かった。入り口には、すでに二人の男が立っている。
「お待たせしました」
「こちらも今来たところですよ。さあ、行きましょうか」
シモンは宿屋を出ると、先に立って歩き始めた。アンジーとミリーをはさんで、その後ろからユリスが歩く。アンジーが腕を差し出すと、ミリーは面白がっているような視線をちらりと向けたものの、何も言わずにエスコートに応じた。
町の中心部に向かって少し歩き、あまり庶民向けには見えない高級そうなレストランに案内された。
「さっき宿屋の主人に教えてもらったんだけど、このあたりで一番、郷土料理のおいしい店だそうです」
郷土料理と聞いて、アンジーは目を輝かせる。
事前に予約してあったようで、すぐに奥の個室に通された。
席に着くと、アンジーはわくわくと期待を隠しきれない顔でメニューを眺める。
どうやらアンジーには、お目当ての料理があるようだ。
「『船乗りの雑炊』って呼ばれる料理が有名だと聞きました」
「ああ。それは下町の居酒屋みたいな店で出す料理だから、ここではちょっと難しいと思います」
「そうなんですか。それは残念」
「あれはひと皿でお腹がいっぱいになっちゃうからね。それより今日は、せっかくだから少しずつたくさん種類を食べてみたらどうでしょう?」
「はい、そうします!」
メニューの相談をしている間に、お互い少し打ち解けてきたようだ。
食欲に忠実なアンジーを、ほかの三人は微笑ましく見守っていた。
シモンはミリーに目礼してから、アンジーに尋ねた。
「せめてものお礼に夕食をご馳走したいんだけど、都合はどうかな?」
アンジーはミリーを振り返って、目顔で問いかける。ミリーは微笑んでうなずいてみせた。
「では、お言葉に甘えます」
「時間は六時くらいでどう?」
「はい」
男たちといったん別れ、自分たちの部屋へ向かう。アンジーとミリーの部屋は、屋根裏だ。
男たちに譲ったほうが二階奥の部屋で、そちらのほうが一般的にはよい部屋と言われるのだが、広さは屋根裏の部屋のほうがある。ただし屋根裏の部屋は広いかわりに天井が一部低くなっていて、長身の男たちには不都合がありそうだと思い、二階の部屋を譲ったのだった。
部屋は簡素だが清潔で、居心地は悪くなさそうだ。
大きな張り出し窓があるため、屋根裏といっても室内は明るい。アンジーは張り出し窓から身を乗り出して、歓声を上げた。
「わあ、いい眺め。ほら見て、ミリー!」
「海がきれいですね」
「ね」
部屋の窓はちょうど海側に面していて、港の風景が見渡せた。
ミリーは、はしゃぐアンジーを見て口もとをほころばせた。
アンジーは王都育ちで、地方に出たことがない。王都にも港はあるが、あちらは基本的に大型の交易船ばかりが停泊している。ここシュラウプナーの港は王都の港とは違って、半ば漁港となっているため趣きがだいぶ違っていた。
そうこうするうちに時間になり、二人は階段を降りて待ち合わせ場所である宿屋の入り口に向かった。入り口には、すでに二人の男が立っている。
「お待たせしました」
「こちらも今来たところですよ。さあ、行きましょうか」
シモンは宿屋を出ると、先に立って歩き始めた。アンジーとミリーをはさんで、その後ろからユリスが歩く。アンジーが腕を差し出すと、ミリーは面白がっているような視線をちらりと向けたものの、何も言わずにエスコートに応じた。
町の中心部に向かって少し歩き、あまり庶民向けには見えない高級そうなレストランに案内された。
「さっき宿屋の主人に教えてもらったんだけど、このあたりで一番、郷土料理のおいしい店だそうです」
郷土料理と聞いて、アンジーは目を輝かせる。
事前に予約してあったようで、すぐに奥の個室に通された。
席に着くと、アンジーはわくわくと期待を隠しきれない顔でメニューを眺める。
どうやらアンジーには、お目当ての料理があるようだ。
「『船乗りの雑炊』って呼ばれる料理が有名だと聞きました」
「ああ。それは下町の居酒屋みたいな店で出す料理だから、ここではちょっと難しいと思います」
「そうなんですか。それは残念」
「あれはひと皿でお腹がいっぱいになっちゃうからね。それより今日は、せっかくだから少しずつたくさん種類を食べてみたらどうでしょう?」
「はい、そうします!」
メニューの相談をしている間に、お互い少し打ち解けてきたようだ。
食欲に忠実なアンジーを、ほかの三人は微笑ましく見守っていた。
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