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第2章 不穏の影
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〈勇者一行サイド〉
「ところで破壊神を呼び出したいのは分かったが…呼び出した後願い叶えてもらったらどうなるんだ?居続けられても困るぞ?」
そう口にしたのはアーロゲントだ。
「封印に戻るはずですが…不安ならもう1人人柱を用意しましょうか。ちょうど、ルナと一緒に裏切った者がいますし、ね。それにもし失敗しても良いようにもう1人いれば安心でしょう?」
そう言ってスコッレットは怪しげに笑った。
「ね、ねえ…ルナじゃなくてノワールじゃダメなの?」
「…なんだスポイルド、やけにルナの肩持つじゃねえか。」
「だってあの子は悪い子じゃないよ?」
「その割にお前も食事の時2人をハブったりしたじゃないか。」
「あれは…だって、私までハブられたりしたくはないし…。」
スポイルドはリューゲに言い負かされ気まずそうにそっぽを向く。
(本当は助けてあげたかった。ルナは私を助けてくれたから…。でもハブられるのは怖くて嫌だ…。)
そう思うスポイルドの本心は誰も知らない。
「いえ、ルナだから人柱なんです。理由彼女が好きか嫌いかではなく。まあ、個人的には嫌いですが…。そうではなく、彼女、普段は上手く隠してますが…桁違いの魔力を秘めてましてね。おそらく、人間ではない何かの。破壊神は生贄の魔力に比例して強い力を持つと言われています。悪を滅ぼすには沢山の魔力を供給し、破壊神に力を付けて貰う必要があるのです。ルナなら話せばきっと喜んで身を捧げてくれるでしょう。適材適所だって。」
「ちょっと待って、つまりスコッレットは皆の魔力がどのくらいか分かるの?」
スポイルドの言葉にスコッレットはペンダント黒い宝石のついたを取り出す。
「このペンダントのおかげでね。これは相手の魔力がどのくらいあるか見れる優れものでね。ちなみのルナの次はスポイルドが魔力高いんですよ。」
「ひっ!!」
怪しげに笑いながら舌舐めずりをするスコッレットを見てスポイルドは小さく悲鳴をあげる。
「やめないか、スコッレット。悪ふざけが過ぎるぞ。」
見かねたファイゲが叱咤する。
「冗談ですよ。スポイルドは仲間ですから。」
「でもルナは仲間であっても生贄にするつもりだったんでしょ?もし生贄の代わりが見つからないってなったら…。」
「大丈夫だ、僕がさせないよ。」
そう笑顔でいうファイゲだが明らかに身体が震えている。
「…ぷ、あはは、震えながら言われたらかっこつかないって。」
ファイゲのおかげでスポイルドに笑顔が戻った。
この時はまだあんなことなるとも知らずに…ー。
〈ユーベルサイド〉
「ルナ、ノワール、貴女達を呼んだのは他でない。勇者一行について話がしたかったからよ。貴女達から情報が欲しいの。最近彼らが何かおかしい動きをしているってアルビノから情報がきたのよ。」
「アイツらがおかしいのはいつもだと思うけど…。」
「ノワール…」
「だってアイツらいつもコソコソと私達を蔑んで…おかしい以外の何でもないって。」
「そういうことじゃなくて…追放した筈の貴女達を探しているらしいの。ルナを盾にするような人達が…よ?とりあえず、ルナはどうして勇者一行仲間になったのか…聞きたくて。」
「元々ギルドで野良として活動していて…たまたま、同じミッションを受けてミッション先で出くわしたの。その時はまだ、ファイゲとスポイルド、スコッレットだけだった。会ったときにはスポイルドが魔物に食われそうなとこで私はそれを助けた。そしたらスコッレットに仲間誘われて…。最初は断ったんだけど、あまりにもしつこいから了承したの。」
「ちょっとまって、ファイゲじゃないの?」
ノワールもこの話を聞くのは初めてのようで驚いている。何故、リーダーであるファイゲじゃないのかと。
「ええ。貴女の魔力がどうしても必要って聞かなくて…。」
「…そのスコッレットって人、胡散臭いわね…。魔力が必要ってとこが気になるわ。おそらく貴女の魔力をなにかに使いたいのでしょうね。」
「そういえばスコッレットはいつも嫌味たらしく私にルナは皆とは桁違いの魔力を持っているって言ってきてた。…つまり普通の魔力じゃできない様なことでもするのかなって…。」
ノワールの言葉にミヤは考え込む。
「召喚術…。」
やがてぽつりとそう口にした。
「召喚ってウンディーネやノームみたいな精霊を呼ぶやつ?」
「一般的なものはそうね。…中にはね、禁忌とされる召喚もあるの。術師の魂と引き換えに…。術師はそうならないように、人柱を用意する。」
「ちょ、ちょっとまって…まさかルナを人柱にってあの胡散臭いなんちゃって僧侶は考えてるってこと?」
「可能性が高いってだけでまだ決まってはないわ。でも…人柱の魔力が多い程、呼び出した魔神は性能が高くなり言うことも聞いてくれる。それに最高ランクの魔神だと最低あの勇者一行のピンク髪の子くらいはないと出てきてすらくれないわ。」
「そんな…それの為にルナを探して生贄にするってこと?私の大切なお友達…。」
悲しそうにルナに抱きつきく。
「ご、ごめん。ルナの方が辛い、よね…。」
そう言いルナの頭を撫でる。
「まずは目的を知らないといけないわね。…と言っても私やノワールは顔が割れていてルナは論外…。」
「おやおや、でしたら私が行きましょうか?」
そう言って現れたのはアルビノだ。
「だ、ダメだよ。眼が赤いと…私みたいに悪い扱いしかされないから。」
「おや、心配してくれるんですか?優しいのですね。」
「べ、別に私は…。」
「さくらんぼのお姫様の言うことも一理ありますね。」
「は?さくらんぼのお姫様様って…わ、私!?」
アルビノの言葉にノワールの顔はみるみる紅く染まっていく。
「あら、可愛い反応。」
そう言ってミヤは不意をつきノワールの前髪を掻き分けその瞳を見る。
「ちょっ!?」
ノワールは慌ててミヤから距離をとる。
「さくらんぼってよりはサンキライの様ね。ちなみにサルトリイバラが正式名称で山に入った人がこの実を食べて元気になったことから山帰来って呼ばれるようになったの。可愛い実がなるのよ。」
「いや、誰に向けて豆知識ですか、それ。」
ノワールは困った様に言う。眼のことで差別されてきた為、褒められるのには慣れていないのだ。
「…私が普通にパーティに戻れば良いと思うけど…。」
おずおずとルナが提案するが、
「「却下。」」
ノワールとミヤにハモリ否定された。
「悪の幹部って実はあと5人いるのよ。紹介するからいらっしゃい。」
そう言ったミヤに連れて行かれたのは会議室の様なところ。
ガチャー。
扉を開けると既に5人は揃っていた。
「いや、悪の幹部って大体3人ってイメージだけど…。」
「どこの世界観の話かしら。」
ルナの言葉にミヤはそう返す。
「7人なのはちゃんと、意味があるんですよ。分かりますか?」
アルビノの言葉にルナとノワールは考え込む。
「ラッキー7?」
「クス、可愛い答えですね。残念ながら違います。」
ノワールは恥ずかしくなりルナの後ろへ隠れる。
「悪…7…七つの大罪?」
「ええ、あたりです。まあ、これはボスの趣味でしてね。カッコいいからと。」
「ボスって厨二?」
思わずそう口にしてしまうルナ。
「…まあ、皆そう思ってますよ…。」
苦笑いしながら肯定するアルビノ。
「ちなみ私は色欲、アルビノは怠惰の役位置なの。他は…」
「俺はオスローだ。役位置は傲慢。話は2人から聞いてる。よろしくな。」
赤い髪に紺色の瞳。爽やかな雰囲気だ。
「オスローは女ったらしなのでお2人とも注意してくださいね。」
アルビノはそう耳打ちをする。
「私はヤコ。役位置に負けじ劣らずの暴食。…ふふ、貴女達2人可愛くて美味しそ♪」
そう舌舐めずりする。金色の瞳はまるで獲物を見つけて猛獣の如く光る。髪は薄紫で短髪。
「ヤコ…食べちゃダメよ?この子達は私のお気に入りなんだから。本当に危険な子…。」
「ええ…。色欲に言われたくないしい。」
とりあえず敵意はなく愛情表現の様だ。
「レイヴィ…。嫉妬…。」
無口なのかそれだけポツリと呟く。ワイン色のウェーブの長い髪。切れ長な目の瞳は菫色。
「レイヴィはすぐに嫉妬して怒るからなるべく喋りたくないらしいの。」
「今もしてる…。ミヤ、アルビノ…ズルイ。私も2人と話たい。」
「後でお話ししましょう、ね?」
慌ててルナが言うとドス黒いオーラを放っていたレイヴィはコクンと小さく頷きオーラはおさまった。
「俺はサンダー。雷ってカッコ怖くて俺にピッタリ名前で気に入ってんだ。…笑ったら怒るぞ。」
むじゃきな笑顔を浮かべる幼い子どものような少年…否、青年。金髪にバンダナ容姿はメカとか好きそうに見える。夕焼け色の目はつり目でだがなんとも笑顔が似合う。
「怒るってことは憤怒…?」
「そうだ。俺って短気だからすぐ怒っちゃうんだよ。」
気にしてるのか困ったように頭をポリポリとかいている。
「最後に強欲の私ね。私はレンカっていうの。よろしくね。」
レンカはルナとノワールに近づくといきなり抱きしめた。
「はああああっっっっっっ!!かあわいいっっ!!!ルナちゃん髪の色可愛い、声可愛い!!ノワールちゃん瞳が兎みたいで可愛い、モジモジしてるの可愛い!!大丈夫よー、お姉さんが守ってあげるからねえ!!」
「…レンカから2人を守った方が早い気がするわ。」
ミヤが呆れた様に言う。
「…なんか想像と違う…。その、こんなウェルカムされるとは思わなかった…。」
ルナが言うのも無理はない。同様にノワールも戸惑っている。
「ルナとノワールの話をしたら皆すぐに仲間にするって言ってくれたわ。勇者一行は私達なんかよりよっぽど悪だもの。…その、もう痛くない?」
ミヤは前傷つけたルナの腕を心配そうに撫でる。
「大丈夫だよ。だってすぐに薬塗ってくれたし。すぐに痛みなくなったもの。」
「そう…良かったわ。…それで、5人の中から誰か勇者ギルドに偵察に行って欲しいのだけど…。オスローかレンカが最適だと思うの。」
「俺が行こうか。レンカより最適だと思うぞ。」
「あらあ、どういう意味かしらあ?」
「レンカは好きになると見境ない時あるからな。2人が気に入ったんなら勇者一行に攻撃しに行くだろうし勇者一行に気に入った奴出来たら敵対しそうだ。」
オスローの言葉に皆頷いている。
「もう面倒くせえから勇者一行を滅ぼせばいいんじゃねえか?」
サンダーの言葉にミヤは首を振る。
「そう簡単にいかないわよ。それにそんなことルナは望んでないわ。」
「はあ?お人好しかよ。」
「…中には私のこと、心配してくれた人もいた。その人まで消したいなんて思えないよ。それに皆は消えたら誰か悲しむ人がいると思うから…。」
「わ、私はルナが居なくなったら悲しいよ。」
悲しそうに目を伏せるルナに慌ててノワールは言う。
「ありがとう。」
こうしてオスローはギルドへ偵察に向かうことになった。
〈勇者ギルドにて〉
「さて…ルナから聞いた勇者一行のパーティの特徴と一致する奴らを見つけないとな…。」
そうキョロキョロとしていると声をかけられた。
「やあ、君1人かい?」
「ん?ああ、ここ初めてでな…困ってたんだ。」
「良かったら僕らのパーティに入らないかい?あ、名乗ってなかったね、俺はファイゲ。」
(飛んで火にいる何とやらだな。標的自ら声をかけてくれるなんて。)
「俺はオスロー。是非パーティに入れてやってくれ。」
「ありがとう、丁度2人パーティから抜けて人員不足でさ…。」
「ほう?その2人とは?」
「2人とも女の子でね。アーチャーと銃使いなんだ。実は悪の幹部に誘拐されちゃって。取り戻す為に戦力が欲しかったんだ。」
「…何故2人を探しているんだ?アーチャーや銃使いが良いなら他にもいるだろう?」
「2人は仲間だからね。」
そう言うファイゲの顔には陰りが見えた。
ファイゲと共に向かった先には他のパーティメンバーが待っていた。
「…って訳で、新しく仲間に迎えたいんだけどどうかな?」
「…私はどっちでも良いわ。」
ファイゲよりさらに表情が曇っているスポイルド。
「私は大歓迎ですよ。2人の奪還には戦力が必要ですし。」
スコッレットはそう怪しく笑う。
他のメンバーも賛成の様でオスローはスパイ潜入に成功した。
「…ねえ、お兄さん。辞めとくなら今のうちだよ。」
コソっとスポイルドはオスローに耳打ちする。
「どういうことだ?」
「私とファイゲ以外は態度悪いし…スコッレットは要注意。」
「スコッレット殿?見たところ僧侶のようだが…」
「あいつ召喚術も使えるの。油断してたら生贄にされるかもよ。」
そこまで言うとスポイルドは慌てて離れて行った。
(ふむ…、鍵はやはりスコッレットか。皆何かを隠してる様に見える。ここは単刀直入にスコッレットの聞いた方が良いだろう。)
単刀直入にしてもどう探りを入れようかと考えるオスロー。
「オスロー、早速で悪いけど…仕事の依頼だ。今回は素材集めでレアメタルを3つ採取だ。」
それはc級の依頼だった。
(いつもこんなレベルのものをやっているのか?後で確認しよう。)
ルナ達の話をによると勇者一行のギルドランクはSS。だからこそ違和感を感じた。
「レアメタルの採取にはメタゴモラを倒して素材屋へ運ぶ必要がある。」
「ああ、それくらいは知っているよ。」
「なら良かった…。」
そしてファイゲ達と共にメタゴモラのいる森へとオスローは向かった。
〈森にて〉
オスローは最初、手を出さずに様子を見ていた。リューゲとアーロゲントが前衛で動き、ファイゲはその補助。スポイルドが後援から魔術で攻撃。スコッレットは回復役に徹していた。
(連携は悪くない。だが…いまいち戦力とギルドランクが釣り合っていない。せめてAランクにギリギリってとこだろう。つまりあの2人が強いってことだ。いや、こいつらが本気かは分からない以上過小評価は危険だな。)
「連携が凄いな。俺がでしゃばったら迷惑になりそうだ。」
「そんなことないよ。…これから仲間になるんだし、君の実力、知っておきたいんだけど…。2匹目、前衛でやってみない?」
「…いいだろう。俺は強い。だから1人で仕留めて見せよう。」
と、その言葉通りオスローはハンマーを盛大にぶん回し、1人で倒したのだった。
ファイゲ達はただただ呆気にとられていた。
「どうだ、強いだろ?」
「あ、ああ、頼もしいよ…。」
ファイゲは圧倒されたのかオスローから少し距離を置く。
やがてオスローはスコッレットに近寄っていくと彼と同じ速度で歩きながら問う。
「ファイゲ達から聞いたぞ、召喚術が出来ると。是非見てみたいものだ。」
「ええ、昔から勉強していたんですよ。中々に扱い辛いものなので普段はこうして皆様の回復や補助をしているのです。しかし貴方は運が良い。私達ととある少女を探してくだされば見れますよ、召喚術。」
召喚術興味を示した途端、スコッレットは饒舌になりだす。
「実は召喚には対価が必要でして…。中には術者の命がなくなるほどの…。」
「だから召喚に魔力の高い者が必要で心当たりが探してる少女だと。」
「っ、そうなんです、そうなんです。いやあ、お詳しいですね。」
「…カッコいいからしてみたいと一度調べたことがあってな。まあ、俺は魔力が低いからできなかったんだがな。」
オスローの話はハッタリだ。だが、気を良くしているスコッレットは全く気付く様子もなくさらに語り続ける。
「その少女はルナと言いましてね。昔から目をつけていて…多分この世で今一番魔力が高い少女です。ああ、私、このペンダントのおかげで魔力の値が分かるんです。ちなみにルナは測定不可…。つまりそれくらい高い魔力が秘められているんです。」
「して、そのルナとやらを見つけた暁には何を召喚するつもりで?」
「破壊神です。破壊神を召喚して世界を壊し、1から作り直す。それが私の夢なのです。」
(なんて狂っているんだ…。)
「へえ?それは楽しそうだな。」
「オスロー、貴方には私と共に世界を作る者として一緒にいて欲しいです。ふふふ、楽しみですね。」
スコッレットはそう嗤うのだった。
不穏ながひたひたと迫り来る事にまだオスロー以外気付く者は居なかった…ー。
「ところで破壊神を呼び出したいのは分かったが…呼び出した後願い叶えてもらったらどうなるんだ?居続けられても困るぞ?」
そう口にしたのはアーロゲントだ。
「封印に戻るはずですが…不安ならもう1人人柱を用意しましょうか。ちょうど、ルナと一緒に裏切った者がいますし、ね。それにもし失敗しても良いようにもう1人いれば安心でしょう?」
そう言ってスコッレットは怪しげに笑った。
「ね、ねえ…ルナじゃなくてノワールじゃダメなの?」
「…なんだスポイルド、やけにルナの肩持つじゃねえか。」
「だってあの子は悪い子じゃないよ?」
「その割にお前も食事の時2人をハブったりしたじゃないか。」
「あれは…だって、私までハブられたりしたくはないし…。」
スポイルドはリューゲに言い負かされ気まずそうにそっぽを向く。
(本当は助けてあげたかった。ルナは私を助けてくれたから…。でもハブられるのは怖くて嫌だ…。)
そう思うスポイルドの本心は誰も知らない。
「いえ、ルナだから人柱なんです。理由彼女が好きか嫌いかではなく。まあ、個人的には嫌いですが…。そうではなく、彼女、普段は上手く隠してますが…桁違いの魔力を秘めてましてね。おそらく、人間ではない何かの。破壊神は生贄の魔力に比例して強い力を持つと言われています。悪を滅ぼすには沢山の魔力を供給し、破壊神に力を付けて貰う必要があるのです。ルナなら話せばきっと喜んで身を捧げてくれるでしょう。適材適所だって。」
「ちょっと待って、つまりスコッレットは皆の魔力がどのくらいか分かるの?」
スポイルドの言葉にスコッレットはペンダント黒い宝石のついたを取り出す。
「このペンダントのおかげでね。これは相手の魔力がどのくらいあるか見れる優れものでね。ちなみのルナの次はスポイルドが魔力高いんですよ。」
「ひっ!!」
怪しげに笑いながら舌舐めずりをするスコッレットを見てスポイルドは小さく悲鳴をあげる。
「やめないか、スコッレット。悪ふざけが過ぎるぞ。」
見かねたファイゲが叱咤する。
「冗談ですよ。スポイルドは仲間ですから。」
「でもルナは仲間であっても生贄にするつもりだったんでしょ?もし生贄の代わりが見つからないってなったら…。」
「大丈夫だ、僕がさせないよ。」
そう笑顔でいうファイゲだが明らかに身体が震えている。
「…ぷ、あはは、震えながら言われたらかっこつかないって。」
ファイゲのおかげでスポイルドに笑顔が戻った。
この時はまだあんなことなるとも知らずに…ー。
〈ユーベルサイド〉
「ルナ、ノワール、貴女達を呼んだのは他でない。勇者一行について話がしたかったからよ。貴女達から情報が欲しいの。最近彼らが何かおかしい動きをしているってアルビノから情報がきたのよ。」
「アイツらがおかしいのはいつもだと思うけど…。」
「ノワール…」
「だってアイツらいつもコソコソと私達を蔑んで…おかしい以外の何でもないって。」
「そういうことじゃなくて…追放した筈の貴女達を探しているらしいの。ルナを盾にするような人達が…よ?とりあえず、ルナはどうして勇者一行仲間になったのか…聞きたくて。」
「元々ギルドで野良として活動していて…たまたま、同じミッションを受けてミッション先で出くわしたの。その時はまだ、ファイゲとスポイルド、スコッレットだけだった。会ったときにはスポイルドが魔物に食われそうなとこで私はそれを助けた。そしたらスコッレットに仲間誘われて…。最初は断ったんだけど、あまりにもしつこいから了承したの。」
「ちょっとまって、ファイゲじゃないの?」
ノワールもこの話を聞くのは初めてのようで驚いている。何故、リーダーであるファイゲじゃないのかと。
「ええ。貴女の魔力がどうしても必要って聞かなくて…。」
「…そのスコッレットって人、胡散臭いわね…。魔力が必要ってとこが気になるわ。おそらく貴女の魔力をなにかに使いたいのでしょうね。」
「そういえばスコッレットはいつも嫌味たらしく私にルナは皆とは桁違いの魔力を持っているって言ってきてた。…つまり普通の魔力じゃできない様なことでもするのかなって…。」
ノワールの言葉にミヤは考え込む。
「召喚術…。」
やがてぽつりとそう口にした。
「召喚ってウンディーネやノームみたいな精霊を呼ぶやつ?」
「一般的なものはそうね。…中にはね、禁忌とされる召喚もあるの。術師の魂と引き換えに…。術師はそうならないように、人柱を用意する。」
「ちょ、ちょっとまって…まさかルナを人柱にってあの胡散臭いなんちゃって僧侶は考えてるってこと?」
「可能性が高いってだけでまだ決まってはないわ。でも…人柱の魔力が多い程、呼び出した魔神は性能が高くなり言うことも聞いてくれる。それに最高ランクの魔神だと最低あの勇者一行のピンク髪の子くらいはないと出てきてすらくれないわ。」
「そんな…それの為にルナを探して生贄にするってこと?私の大切なお友達…。」
悲しそうにルナに抱きつきく。
「ご、ごめん。ルナの方が辛い、よね…。」
そう言いルナの頭を撫でる。
「まずは目的を知らないといけないわね。…と言っても私やノワールは顔が割れていてルナは論外…。」
「おやおや、でしたら私が行きましょうか?」
そう言って現れたのはアルビノだ。
「だ、ダメだよ。眼が赤いと…私みたいに悪い扱いしかされないから。」
「おや、心配してくれるんですか?優しいのですね。」
「べ、別に私は…。」
「さくらんぼのお姫様の言うことも一理ありますね。」
「は?さくらんぼのお姫様様って…わ、私!?」
アルビノの言葉にノワールの顔はみるみる紅く染まっていく。
「あら、可愛い反応。」
そう言ってミヤは不意をつきノワールの前髪を掻き分けその瞳を見る。
「ちょっ!?」
ノワールは慌ててミヤから距離をとる。
「さくらんぼってよりはサンキライの様ね。ちなみにサルトリイバラが正式名称で山に入った人がこの実を食べて元気になったことから山帰来って呼ばれるようになったの。可愛い実がなるのよ。」
「いや、誰に向けて豆知識ですか、それ。」
ノワールは困った様に言う。眼のことで差別されてきた為、褒められるのには慣れていないのだ。
「…私が普通にパーティに戻れば良いと思うけど…。」
おずおずとルナが提案するが、
「「却下。」」
ノワールとミヤにハモリ否定された。
「悪の幹部って実はあと5人いるのよ。紹介するからいらっしゃい。」
そう言ったミヤに連れて行かれたのは会議室の様なところ。
ガチャー。
扉を開けると既に5人は揃っていた。
「いや、悪の幹部って大体3人ってイメージだけど…。」
「どこの世界観の話かしら。」
ルナの言葉にミヤはそう返す。
「7人なのはちゃんと、意味があるんですよ。分かりますか?」
アルビノの言葉にルナとノワールは考え込む。
「ラッキー7?」
「クス、可愛い答えですね。残念ながら違います。」
ノワールは恥ずかしくなりルナの後ろへ隠れる。
「悪…7…七つの大罪?」
「ええ、あたりです。まあ、これはボスの趣味でしてね。カッコいいからと。」
「ボスって厨二?」
思わずそう口にしてしまうルナ。
「…まあ、皆そう思ってますよ…。」
苦笑いしながら肯定するアルビノ。
「ちなみ私は色欲、アルビノは怠惰の役位置なの。他は…」
「俺はオスローだ。役位置は傲慢。話は2人から聞いてる。よろしくな。」
赤い髪に紺色の瞳。爽やかな雰囲気だ。
「オスローは女ったらしなのでお2人とも注意してくださいね。」
アルビノはそう耳打ちをする。
「私はヤコ。役位置に負けじ劣らずの暴食。…ふふ、貴女達2人可愛くて美味しそ♪」
そう舌舐めずりする。金色の瞳はまるで獲物を見つけて猛獣の如く光る。髪は薄紫で短髪。
「ヤコ…食べちゃダメよ?この子達は私のお気に入りなんだから。本当に危険な子…。」
「ええ…。色欲に言われたくないしい。」
とりあえず敵意はなく愛情表現の様だ。
「レイヴィ…。嫉妬…。」
無口なのかそれだけポツリと呟く。ワイン色のウェーブの長い髪。切れ長な目の瞳は菫色。
「レイヴィはすぐに嫉妬して怒るからなるべく喋りたくないらしいの。」
「今もしてる…。ミヤ、アルビノ…ズルイ。私も2人と話たい。」
「後でお話ししましょう、ね?」
慌ててルナが言うとドス黒いオーラを放っていたレイヴィはコクンと小さく頷きオーラはおさまった。
「俺はサンダー。雷ってカッコ怖くて俺にピッタリ名前で気に入ってんだ。…笑ったら怒るぞ。」
むじゃきな笑顔を浮かべる幼い子どものような少年…否、青年。金髪にバンダナ容姿はメカとか好きそうに見える。夕焼け色の目はつり目でだがなんとも笑顔が似合う。
「怒るってことは憤怒…?」
「そうだ。俺って短気だからすぐ怒っちゃうんだよ。」
気にしてるのか困ったように頭をポリポリとかいている。
「最後に強欲の私ね。私はレンカっていうの。よろしくね。」
レンカはルナとノワールに近づくといきなり抱きしめた。
「はああああっっっっっっ!!かあわいいっっ!!!ルナちゃん髪の色可愛い、声可愛い!!ノワールちゃん瞳が兎みたいで可愛い、モジモジしてるの可愛い!!大丈夫よー、お姉さんが守ってあげるからねえ!!」
「…レンカから2人を守った方が早い気がするわ。」
ミヤが呆れた様に言う。
「…なんか想像と違う…。その、こんなウェルカムされるとは思わなかった…。」
ルナが言うのも無理はない。同様にノワールも戸惑っている。
「ルナとノワールの話をしたら皆すぐに仲間にするって言ってくれたわ。勇者一行は私達なんかよりよっぽど悪だもの。…その、もう痛くない?」
ミヤは前傷つけたルナの腕を心配そうに撫でる。
「大丈夫だよ。だってすぐに薬塗ってくれたし。すぐに痛みなくなったもの。」
「そう…良かったわ。…それで、5人の中から誰か勇者ギルドに偵察に行って欲しいのだけど…。オスローかレンカが最適だと思うの。」
「俺が行こうか。レンカより最適だと思うぞ。」
「あらあ、どういう意味かしらあ?」
「レンカは好きになると見境ない時あるからな。2人が気に入ったんなら勇者一行に攻撃しに行くだろうし勇者一行に気に入った奴出来たら敵対しそうだ。」
オスローの言葉に皆頷いている。
「もう面倒くせえから勇者一行を滅ぼせばいいんじゃねえか?」
サンダーの言葉にミヤは首を振る。
「そう簡単にいかないわよ。それにそんなことルナは望んでないわ。」
「はあ?お人好しかよ。」
「…中には私のこと、心配してくれた人もいた。その人まで消したいなんて思えないよ。それに皆は消えたら誰か悲しむ人がいると思うから…。」
「わ、私はルナが居なくなったら悲しいよ。」
悲しそうに目を伏せるルナに慌ててノワールは言う。
「ありがとう。」
こうしてオスローはギルドへ偵察に向かうことになった。
〈勇者ギルドにて〉
「さて…ルナから聞いた勇者一行のパーティの特徴と一致する奴らを見つけないとな…。」
そうキョロキョロとしていると声をかけられた。
「やあ、君1人かい?」
「ん?ああ、ここ初めてでな…困ってたんだ。」
「良かったら僕らのパーティに入らないかい?あ、名乗ってなかったね、俺はファイゲ。」
(飛んで火にいる何とやらだな。標的自ら声をかけてくれるなんて。)
「俺はオスロー。是非パーティに入れてやってくれ。」
「ありがとう、丁度2人パーティから抜けて人員不足でさ…。」
「ほう?その2人とは?」
「2人とも女の子でね。アーチャーと銃使いなんだ。実は悪の幹部に誘拐されちゃって。取り戻す為に戦力が欲しかったんだ。」
「…何故2人を探しているんだ?アーチャーや銃使いが良いなら他にもいるだろう?」
「2人は仲間だからね。」
そう言うファイゲの顔には陰りが見えた。
ファイゲと共に向かった先には他のパーティメンバーが待っていた。
「…って訳で、新しく仲間に迎えたいんだけどどうかな?」
「…私はどっちでも良いわ。」
ファイゲよりさらに表情が曇っているスポイルド。
「私は大歓迎ですよ。2人の奪還には戦力が必要ですし。」
スコッレットはそう怪しく笑う。
他のメンバーも賛成の様でオスローはスパイ潜入に成功した。
「…ねえ、お兄さん。辞めとくなら今のうちだよ。」
コソっとスポイルドはオスローに耳打ちする。
「どういうことだ?」
「私とファイゲ以外は態度悪いし…スコッレットは要注意。」
「スコッレット殿?見たところ僧侶のようだが…」
「あいつ召喚術も使えるの。油断してたら生贄にされるかもよ。」
そこまで言うとスポイルドは慌てて離れて行った。
(ふむ…、鍵はやはりスコッレットか。皆何かを隠してる様に見える。ここは単刀直入にスコッレットの聞いた方が良いだろう。)
単刀直入にしてもどう探りを入れようかと考えるオスロー。
「オスロー、早速で悪いけど…仕事の依頼だ。今回は素材集めでレアメタルを3つ採取だ。」
それはc級の依頼だった。
(いつもこんなレベルのものをやっているのか?後で確認しよう。)
ルナ達の話をによると勇者一行のギルドランクはSS。だからこそ違和感を感じた。
「レアメタルの採取にはメタゴモラを倒して素材屋へ運ぶ必要がある。」
「ああ、それくらいは知っているよ。」
「なら良かった…。」
そしてファイゲ達と共にメタゴモラのいる森へとオスローは向かった。
〈森にて〉
オスローは最初、手を出さずに様子を見ていた。リューゲとアーロゲントが前衛で動き、ファイゲはその補助。スポイルドが後援から魔術で攻撃。スコッレットは回復役に徹していた。
(連携は悪くない。だが…いまいち戦力とギルドランクが釣り合っていない。せめてAランクにギリギリってとこだろう。つまりあの2人が強いってことだ。いや、こいつらが本気かは分からない以上過小評価は危険だな。)
「連携が凄いな。俺がでしゃばったら迷惑になりそうだ。」
「そんなことないよ。…これから仲間になるんだし、君の実力、知っておきたいんだけど…。2匹目、前衛でやってみない?」
「…いいだろう。俺は強い。だから1人で仕留めて見せよう。」
と、その言葉通りオスローはハンマーを盛大にぶん回し、1人で倒したのだった。
ファイゲ達はただただ呆気にとられていた。
「どうだ、強いだろ?」
「あ、ああ、頼もしいよ…。」
ファイゲは圧倒されたのかオスローから少し距離を置く。
やがてオスローはスコッレットに近寄っていくと彼と同じ速度で歩きながら問う。
「ファイゲ達から聞いたぞ、召喚術が出来ると。是非見てみたいものだ。」
「ええ、昔から勉強していたんですよ。中々に扱い辛いものなので普段はこうして皆様の回復や補助をしているのです。しかし貴方は運が良い。私達ととある少女を探してくだされば見れますよ、召喚術。」
召喚術興味を示した途端、スコッレットは饒舌になりだす。
「実は召喚には対価が必要でして…。中には術者の命がなくなるほどの…。」
「だから召喚に魔力の高い者が必要で心当たりが探してる少女だと。」
「っ、そうなんです、そうなんです。いやあ、お詳しいですね。」
「…カッコいいからしてみたいと一度調べたことがあってな。まあ、俺は魔力が低いからできなかったんだがな。」
オスローの話はハッタリだ。だが、気を良くしているスコッレットは全く気付く様子もなくさらに語り続ける。
「その少女はルナと言いましてね。昔から目をつけていて…多分この世で今一番魔力が高い少女です。ああ、私、このペンダントのおかげで魔力の値が分かるんです。ちなみにルナは測定不可…。つまりそれくらい高い魔力が秘められているんです。」
「して、そのルナとやらを見つけた暁には何を召喚するつもりで?」
「破壊神です。破壊神を召喚して世界を壊し、1から作り直す。それが私の夢なのです。」
(なんて狂っているんだ…。)
「へえ?それは楽しそうだな。」
「オスロー、貴方には私と共に世界を作る者として一緒にいて欲しいです。ふふふ、楽しみですね。」
スコッレットはそう嗤うのだった。
不穏ながひたひたと迫り来る事にまだオスロー以外気付く者は居なかった…ー。
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