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5杯目 ネトル
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〈ネトルティー〉
花粉症等のアレルギー症状や、貧血の予防に。
貧血予防や、生理時の出血量の調整、かふんしょうえ、喘息、関節炎、リウマチ、通風等、様々な症状に効果が期待できる。
緑茶の様な香りと味で、飲みやすい。
「くしゅん、クシュ、クシュンっ!!」
音楽教室の帰り道、色んな木や植物が並ぶ並木道は花粉症にとって地獄。
音楽教室に通う少女、鈴白華穂(すずしろかほ)は春はスギに、夏はスズメノテッポウ、秋にはヨモギ等年中花粉症に悩まされている大学1年生。
「うう…マスクも意味ない。」
二重にマスクを付けているが並木道ではくしゃみが止まらなくなるのだ。
「くしゅ…ん、あれ?こんなところに喫茶店なんてあったかな?」
華穂は吸い込まれる様に中へと入った。
チリンっと可愛いベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませ。中にどうぞ。」
出迎えたのは白衣を着た場に似合わない女性。
「えっと…ここは?」
「初めてのお客様ですね。まずはこちらの記入を。」
そう言って差し出されたペンと紙。
紙を見て華穂の疑問は深まる。
「あの、ここって病院…ですか?」
「いえ、違いますよ?ここはお客様の心や病気、疲れ等を癒す為の場所です。このカフェではお客様にこのアンケートに答えて貰い症状に応じて配合したハーブティーとチャーム、店員との時間をお楽しみ頂くコンセプトとなってます。」
「そう…なんですね。」
華穂ペンを手にとるとサラサラと記入をしていく。
「出来ました。」
紙を渡された月羽はサッと目を通して華穂を見る。
「お客様は“花粉症”なのですね。では、花粉症によく効くハーブティーをお淹れ致します。」
華穂は奥の部屋へ通され、月羽はカウンターの奥でハーブの入った瓶を漁り始める。
しばらくして、ドアのノック音が鳴る。
「は、はい!」
慌てて返事をする華穂。
入ってきたのはマスクをした気怠げな女の子。
「お待たせ…。これ、ハーブティーとお菓子。」
そう言ってお盆を机に置く女の子。
「あ…ハーブティーはネトル、花粉症に効くよ。私はネムって名前。…よろしく?」
「ネトル?初めて聞く名前…。」
口に含むと、飲み慣れた様な味が口に広がる。
「…飲みやすいでしょ?緑茶みたいな味がして。私もお気に入り。」
ネムは華穂の横に腰掛ける。
「私も花粉症で此処、来た。そしたらこれ出された。」
「そう、なんですね。」
「最初、ハーブティーってクセがあって苦手だった。けど、これ好き。」
そう言ってお茶を飲むネムはどこか嬉しそうだ。
「…ネムさんはどうして店員さんになったんですか?」
「ネムでいい…。マスターに誘われた。丁度店員探してたって。ちなみに…ここにはハーブティーの種類の数だけ店員いる。」
「え?そんないらっしゃるんですか?」
「マスターが不思議な人で…、ここは癒しを求めてる人が来るから少しでも多くの店員が欲しいって声かけてきて…。最初は断った。接客苦手って。でも、マスターの一言で働くの決めた。」
「一言で…?」
「マスターは私を選んだのはネトルに似てるからって、無理強いはしないけど好きなら苦手も苦痛なくなっていくかもって。」
「あのっ、わた、私も…ネムさんみたいになりたい…なれますか?」
「私みたいに…?」
「私…ヴァイオリンをやってるんです。ヴァイオリンが好きだけど…コンクールとか…人前で演奏するの苦手で…。したいって気持ちもあるけど…失敗したらって怖くなって…。だから…ネムさんみたいに苦手…克服したい、です。」
「…好きって気持ちを忘れない、それが大事。好きなものの為なら苦手でも頑張れる。…参考、なった?」
「好きが大事…忘れない…そうかも、しれません。私、失敗したらとか人目ばかり気にして、ヴァイオリンが好きって気持ち忘れてた。正確な演奏を重視してて演奏を楽しむことを忘れて…。今、大切なこと思い出せました、ネムさんありがとうございます!」
「ん、私で良かったらさ、また話…相談聞く。だから、また来ると良いよ。ほら、このハーブティ飲んで花粉症楽になったでしょ?」
「言われてみれば…そう、ですね。鼻のムズムズがしなくなりました。」
「ハーブティー目当てでも私目当てでも良いから来て欲しい。ヴァイオリン、頑張った報告とか。頑張ったらご褒美、あげる。こうして…」
そう言ってネトルは華穂の頭を撫でる。
それが心地よく、華穂は目を閉じる。
「気持ちい…。こんな風にして貰ったの始めて。嬉しい…です。ネトルも美味しかったです。だけど…ネムさんに会いに来ても良いですか?この優しい手を求めて…。その…もうすぐコンクールあって…終わったらご褒美にまた、来ます。」
「ん、待ってる。…あ、これ」
ネムはポケットからサシェの様な物を取り出す。
「これ…持ってると花粉症多少良くなる。ネトルが入ってる。…御守り。」
ネムは微笑んでそれを華穂へ手渡す。
「ありがとうございます!…嬉しい。」
「そんな嬉しそうにしてくれて…こっちが嬉しくなる。…じゃあ、名残惜しいけど。」
ネムがひらひらと手を振る中、華穂は外へ出た。
「凄い、花粉症のくしゃみとか出ない。…ありがとうございます、ネムさん。」
華穂はネムから貰った御守りをきゅっと握り締め一歩を踏み出した。
花粉症等のアレルギー症状や、貧血の予防に。
貧血予防や、生理時の出血量の調整、かふんしょうえ、喘息、関節炎、リウマチ、通風等、様々な症状に効果が期待できる。
緑茶の様な香りと味で、飲みやすい。
「くしゅん、クシュ、クシュンっ!!」
音楽教室の帰り道、色んな木や植物が並ぶ並木道は花粉症にとって地獄。
音楽教室に通う少女、鈴白華穂(すずしろかほ)は春はスギに、夏はスズメノテッポウ、秋にはヨモギ等年中花粉症に悩まされている大学1年生。
「うう…マスクも意味ない。」
二重にマスクを付けているが並木道ではくしゃみが止まらなくなるのだ。
「くしゅ…ん、あれ?こんなところに喫茶店なんてあったかな?」
華穂は吸い込まれる様に中へと入った。
チリンっと可愛いベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませ。中にどうぞ。」
出迎えたのは白衣を着た場に似合わない女性。
「えっと…ここは?」
「初めてのお客様ですね。まずはこちらの記入を。」
そう言って差し出されたペンと紙。
紙を見て華穂の疑問は深まる。
「あの、ここって病院…ですか?」
「いえ、違いますよ?ここはお客様の心や病気、疲れ等を癒す為の場所です。このカフェではお客様にこのアンケートに答えて貰い症状に応じて配合したハーブティーとチャーム、店員との時間をお楽しみ頂くコンセプトとなってます。」
「そう…なんですね。」
華穂ペンを手にとるとサラサラと記入をしていく。
「出来ました。」
紙を渡された月羽はサッと目を通して華穂を見る。
「お客様は“花粉症”なのですね。では、花粉症によく効くハーブティーをお淹れ致します。」
華穂は奥の部屋へ通され、月羽はカウンターの奥でハーブの入った瓶を漁り始める。
しばらくして、ドアのノック音が鳴る。
「は、はい!」
慌てて返事をする華穂。
入ってきたのはマスクをした気怠げな女の子。
「お待たせ…。これ、ハーブティーとお菓子。」
そう言ってお盆を机に置く女の子。
「あ…ハーブティーはネトル、花粉症に効くよ。私はネムって名前。…よろしく?」
「ネトル?初めて聞く名前…。」
口に含むと、飲み慣れた様な味が口に広がる。
「…飲みやすいでしょ?緑茶みたいな味がして。私もお気に入り。」
ネムは華穂の横に腰掛ける。
「私も花粉症で此処、来た。そしたらこれ出された。」
「そう、なんですね。」
「最初、ハーブティーってクセがあって苦手だった。けど、これ好き。」
そう言ってお茶を飲むネムはどこか嬉しそうだ。
「…ネムさんはどうして店員さんになったんですか?」
「ネムでいい…。マスターに誘われた。丁度店員探してたって。ちなみに…ここにはハーブティーの種類の数だけ店員いる。」
「え?そんないらっしゃるんですか?」
「マスターが不思議な人で…、ここは癒しを求めてる人が来るから少しでも多くの店員が欲しいって声かけてきて…。最初は断った。接客苦手って。でも、マスターの一言で働くの決めた。」
「一言で…?」
「マスターは私を選んだのはネトルに似てるからって、無理強いはしないけど好きなら苦手も苦痛なくなっていくかもって。」
「あのっ、わた、私も…ネムさんみたいになりたい…なれますか?」
「私みたいに…?」
「私…ヴァイオリンをやってるんです。ヴァイオリンが好きだけど…コンクールとか…人前で演奏するの苦手で…。したいって気持ちもあるけど…失敗したらって怖くなって…。だから…ネムさんみたいに苦手…克服したい、です。」
「…好きって気持ちを忘れない、それが大事。好きなものの為なら苦手でも頑張れる。…参考、なった?」
「好きが大事…忘れない…そうかも、しれません。私、失敗したらとか人目ばかり気にして、ヴァイオリンが好きって気持ち忘れてた。正確な演奏を重視してて演奏を楽しむことを忘れて…。今、大切なこと思い出せました、ネムさんありがとうございます!」
「ん、私で良かったらさ、また話…相談聞く。だから、また来ると良いよ。ほら、このハーブティ飲んで花粉症楽になったでしょ?」
「言われてみれば…そう、ですね。鼻のムズムズがしなくなりました。」
「ハーブティー目当てでも私目当てでも良いから来て欲しい。ヴァイオリン、頑張った報告とか。頑張ったらご褒美、あげる。こうして…」
そう言ってネトルは華穂の頭を撫でる。
それが心地よく、華穂は目を閉じる。
「気持ちい…。こんな風にして貰ったの始めて。嬉しい…です。ネトルも美味しかったです。だけど…ネムさんに会いに来ても良いですか?この優しい手を求めて…。その…もうすぐコンクールあって…終わったらご褒美にまた、来ます。」
「ん、待ってる。…あ、これ」
ネムはポケットからサシェの様な物を取り出す。
「これ…持ってると花粉症多少良くなる。ネトルが入ってる。…御守り。」
ネムは微笑んでそれを華穂へ手渡す。
「ありがとうございます!…嬉しい。」
「そんな嬉しそうにしてくれて…こっちが嬉しくなる。…じゃあ、名残惜しいけど。」
ネムがひらひらと手を振る中、華穂は外へ出た。
「凄い、花粉症のくしゃみとか出ない。…ありがとうございます、ネムさん。」
華穂はネムから貰った御守りをきゅっと握り締め一歩を踏み出した。
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