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第肆話 壊れゆく心
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「っ!!こ、ここは?」
簡単な医薬品に3つのベット。
壁には保健だよりとプリントされた紙が貼ってある。
どうやら学校の保健室のようだ。
「って、あれ?皆は!?」
ぱっと見だれも見当たらない。
「ここは学校か?」
あ、人じゃないやつはいた。
九条千亞だ。
「貴女だけ?」
「いや、この辺には後2人ならいたよ。」
「誰?」
「誰と言われても…。私は君の名前しか知らないんだが。強いて言うなら女の子2人だ。」
「…案内して。」
「案内も何も、すぐ近くにいるよ。」
九条千亞がそう言ってベット横のカーテンを開けてまわる。
九条千亞が言っていた2人の女の子はライチさんとはな先生だった。
「…他のひとは?」
「多分別の場所に転送されたんじゃないかな。第2ステージで私とコウタりんが一緒だったのに紅蓮だけ別になっちゃったでしょ。その時みたいに…。」
「そんな…。」
よりにもよって愛姉とはぐれるなんて…。
私はまだこの時知るよしもなかった。自分の罪に…ー。
「あれ…?ここは?……優?皆?」
体育館のステージに月村一夜はいた。
「気がついた?」
月村一夜に声をかけたのは春日清彦だ。
「春日さん…。優は!?人達は!?」
「優ちゃんはここにはいない。女と男1人ずつなら近くにいる。」
「そんな…優とはぐれるなんて…。」
「とりあえず2人に声かけて優ちゃん探そう?」
春日清彦に言葉に月村一は頷いた。
体育館に居たのは柳類と紅蓮だった。
「早く優達と合流しよう。」
一方、校長室に残りの3人がいた。
「3人だけみたいね。皆無事だと良いのだけど…。」
そうため息をつくのは邦孟陸奥。
「とりあえず優ちゃんとかなら情報を集めようと思う筈だから情報が何かありそうな場所に行くか。」
「それなら職員室とかは?」
みっしぇるの提案に2人は頷き、職員室へ向かう事にした。
〈月夜優サイド〉
「とりあえず、ここに居ても仕方ない。情報を探しつつ、皆も探そう。」
「まあ、それしかないよね。何処行く?」
「…その前に、保険室でちょっと情報を集めてからね。」
そう言って私は鍵付きの棚を見る。勿論、鍵はかかってて開かない。
「開かないな。どうするんだー?」
開かないことを楽しんでいる九条千亞。
でも鍵が開かないのなんて想定内。私だってそこまで馬鹿じゃない。
「勿論、想定してた。でも開けれるかもしれない。」
「なんだ?ヘアピンか針金かなんかで開けるつもりか?」
「いや、そんな泥棒みたいなスキル持ち合わせてないから。私が考えたのははな先生の能力を使うことだよ。」
「わ、私?」
「水を操れるんでしょ?なら水で鍵を作れないかなあ…って。」
「なるほど、やってはみるけどあんまり期待しないでね。」
そう言うとはな先生は近くの蛇口を捻る。
流れてくる水を手の上に集めていく。まるで見た目は某ゲームのスライム。
「なんかすごい能力…。」
思わず言葉に出す。
「そ、そうかな?」
集めた水を鍵穴へ流し込み、回す仕草をする。
カチャー。
鍵の開いた音がした。どうやら作戦成功の様だ。
「ありがとうございます!…危ないかもしれないので私、開けます。下がっててください。」
「危ないなら月夜さんも危ないよ。」
そう心配して私を止めようとしてくれるはな先生。美人で優しくて…反則だよ、本当に。
「それならさ、九条さんに開けさせたら?霊体なら無害じゃない?」
そうライチさんが提案してくる。
「…でも今まで会った霊って物持ってたよ?貫通はしないから何か危なくない?」
「いや、大丈夫だ。私がやろう。」
そう言って九条千亞は勢いよく棚を開けた。
開けた刹那沢山の鋏やら薬品が降ってきた。
薬品をよく見ると“塩酸”と書いてあった。危ない。
しかし、九条千は全てかぶった筈なのに、無傷だった。
「よく無事だったわね。」
「霊体だからな。細かいこと気にしてたらハゲるよ?」
「ハゲないし。まあ、その…ぶ、無事ならいいの。」
「ツンデレか。」
「違う。」
なんてコントの様に会話しているとライチさんが棚から一冊のファイルを取り出す。
「これ、全学年の全クラスの名簿が載ってるよ。」
「ありがとう、早速貞岡尚を探そう。歳が17だから多分学年は3年生。」
「何で歳知ってるの?」
「第1ステージで情報集めてた時にたまたま見たの。他にも貞岡尚を虐めてたとされるクラスメイトも名前と歳が書いてあって18歳か17歳だった。だから高校3年生の確率が高い。」
「3年生は8クラスあるみたい。とりあえず順番に見てくか。」
そう言ってページをめくって探してくれるライチさん。
ページをめくっていくと4組のところに4人の名前はあった。
「優ちゃん、4組みたいだけどどうする?教室行ってみる?」
「そうだね。何か情報が得られるかもだし、行って損はないかな。ただ、危険な可能性も高い。…まあ、何処に居ても危険か。」
そう口に出した瞬間に改めて愛姉がいない事に不安と焦りを感じる。
とりあえずここに居ても埒があかない。私達は3年4組の教室へ向かう事にした。
〈月村一夜サイド〉
「とりあえず何処に行けば…。」
月村一夜の呟き。
しばらく沈黙が続いたのちに口を開いたのは春日清彦だった。
「尚ちゃんは高校3年生。クラスまでは聞いてないけれど…。だから、3年の教室探せば多分、誰かと合流できる…と思う。」
「優…。優もその情報知ってる!行けば優に会える!!」
「そうだったのか?」
「第1ステージの時にね。私達は偶然、資料室に落ちてのスタートだったの。優の提案で情報をそこで集めててそこで尚ちゃんの年齢や、尚ちゃんを虐めてた?3人組の情報を手に入れてたの。」
「なら、3年の教室を探そうか。組までは分からなくても廊下ウロウロしてたら優ちゃんとは少なくとも合流できるんじゃない?」
紅蓮の言葉に皆頷き、3年の教室を目指した。
一方、邦孟陸奥達は職員室へ来ていた。
「誰もいないわね。」
「まだ来てないのかな?それとももう来た後、とか?」
「分からないけど、とりあえず情報集めないか?」
コウタの提案に2人は頷き、机の上や引き出しの中の捜索を始めた。
しばらく捜索をしていると…
「あ!これって…。」
「みっしぇる、どうかした?」
「これ、3年4組って書いてある日誌みたいなやつに貞岡尚って名前が書いてあるの。」
「何て書いてある?」
「えっとね…貞岡尚がいじめを受けていると養護教諭から報告あり。めんどくさいからしばらく様子見てなかったことに…。」
「酷い話ね。担任の教員日誌みたいなものかしら。」
「でも、こんなクビになりそうなこと書くものなのかな?」
「可能性はあるわよ。校長とか偉い人達の命令だったり。ようはグルってこと。」
「そんな…。」
「ま、よくある話よ。あとは賄賂とかもあるかもね。」
「なんか、ドラマみたいな話ですね。」
「それならここの幽霊って担任の先生?」
「可能性としてはあり得るけれど…。まずはその教室に言ってみない?きっと教室で待っていれば再開できるわ。」
邦孟陸奥の言葉に2人は賛同し、3年4組の教室へと向かった。
「ここ…か。」
私達が着いたその教室は鍵は開いていてすぐに扉は開いた。
木の床は所々抜けていて自分の重みで床が壊れないか心配だ。
「古いのかな?床が危ないから皆気をつけて。」
中に人の姿はなさそう。真っ暗な中、手探りで電気をつける。
人がいる様子はないが黒板に何か書かれている。
“無罪は有罪に。有罪は無罪に。”
と書かれて下に小さな字でみっちりと“許さない”文字。
「これは…きっと貞岡尚が書いたんだ。」
「ほう?何故そう思う。」
「貞岡尚は3人組の女子生徒を中心に虐めを受けていた。最初、私は刑務所のステージをクリアした。その刑務所では貞岡尚は捕まっていたって聞いた。看守記録には3人を殺してって書いてあったの。でも、同時にそのステージの鍵だった春日清彦の日記には貞岡尚は無実の人って書いてあった。」
「矛盾してるじゃん。」
ライチさんの言葉に私は頷く。
「そして黒板を見て確信したわ。貞岡尚は殺人の汚名をきせられた無罪の人間だった。」
「っ!?優ちゃん、後ろ!!」
いきなり取り乱したライチさん。
急いで振り返ると、そこには幽霊がいた。
名前はわからないが首から上がなく、首断面がゴポゴポと音をたてている。
多分、本人は何かを喋っているつもりなのだろう。
「えっと…3人の中の誰かってことしかわからないな。」
そう言いながらゆっくりと後ろに下がるとドンっと誰かにぶつかった。
「あ、ごめ…っ!?」
3人の誰かだと思ったが今度は顔面ぐちゃぐちゃに潰された幽霊が現れ、そいつにぶつかってしまった。
(囲まれた…。)
明らかに最悪の状況。
とりあえず首なしの方は危害を加える様子はなく、何かを必死に訴えている様に見える。
とー
「月夜さん、危ない!!」
はなさんがそう叫んだ後、視界が真っ暗になる。
そして次第に手に違和感が伝わる。
それは生暖かくてヌルリとした感触。
そして少し時間を空けて鉄の匂いが鼻腔を突く。
何が起こったか分からず、確認しようと身じろぎ、ようやくその光景を見ることが…いや、見てしまった。
「え…?」
何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
否、理解したくなかった。
私の上には背中から血を流し倒れているはなさん。
「な、なんっ!?」
私はもう冷静じゃいられなかった。
必死に持っている簡易救急セットで止血しようと試みた。
能力も使った。
でも、血は止まらない。
「嘘……やだ、やだ!!」
次第に涙が溢れて溢れる。
だって私のせいで巻き込まれた。
だから助けたかった。
なのに私が腑抜けて いたばかりに死にそうな今。
「つ、月夜…さ…。」
「喋っちゃダメですよ!こんなに怪我してて喋ったら!」
「なか、な…で…。」
どんどん掠れていく声。
死にそうなのに人の心配。
優しく頭を少し撫で、その手はゆっくりと降りて…。
それが死であると悟る。
「や…ヤダ…。冗談…だよね?……ねえ!!」
しかし屍となった彼女が返事をする訳も無く…。
「っ、優ちゃん、ここから一旦離れよう。」
「嫌!!だってはなさんが!こんなとこに置いて行ったら何されるか!」
「そんなの、はなさんが庇ってくれたのを台無しにするようなもんだよ!!」
「死体になって弄ばれるなんてヤダよ…。」
「まだ霊がいるんだよ!早く逃げないと本当に死んじゃう!」
頭では勿論分かっているが感性が強くて私はライチさんの話を聞こうとすることが出来ずにいた。
「マズイな。」
「…こうなったら。」
それから気付いたら私は社会準備室にいた。近くにはライチさんと九条千亞がいた。
「私…」
「ライチに感謝するんだな、月夜優。ライチが能力を使ってここまでお前を運んでくれなかったら今頃皆で仲良くお陀仏だったぞ。」
「…はなさんは?」
そう聞いた瞬間、頬に熱くなり、次第に痛みが走る。
叩かれた事に気づくのに少し時間がかかった。
「気持ちは分かるけど…今は生き残ることに集中して!!せっかく命をかけて守ってくれたはなさんに失礼。」
「っ!!」
「今出来ることは私達が1人でも多く生き残ること。ちがう?」
「……ごめん、なさい。私…。」
泣いたって何も変わらないことは分かるのに涙が溢れて止まらない。
「ちが、止めるから……止まるまで……」
必死に涙を拭っているとライチさんは優しく肩を寄せてポンポンと子どもをあやすようにしてくれた。
「今泣いておけばまた立ち直れるから。泣くのは我慢しないで良いよ。」
「う、うあああっっ!!!」
ぷつんと糸が切れた様に、私はただ泣きじゃくった。涙が枯れるまで。
「もう、大丈夫だから。ありがとう。ライチさんが一緒いてくれて良かった。」
「ん、良かった。私でよければまた助けるから。無理しない様に。」
「うん。」
そう話して廊下に出てみると人影が見えた。
警戒していたがその警戒はすぐ解かれた。
「みっしぇる!コウタさん!邦孟先生!」
「良かった、会えて。私達、情報調べて貞岡尚が3年4組だったって聞いて向かってたとこ。」
「行っちゃダメ!!!」
そう笑うみっしぇるに思わず叫んでしまった。
「え?ど、どうしたの?」
「危ないからダメなの。」
「危ない?ってことは教室に入ったのかしら。」
邦孟先生の言葉に私は頷く。
「ああ、私が説明しよう。」
気を利かせてくれた様で、九条千亞が説明を申し出る。
「あの教室には霊が居た。2人な。1人は首なしの女子生徒、もう1人は顔がない女子生徒だった。
私達は4人居たんだが…1人殺されてしまったよ。」
「えっ!?」
「殺されたのははなさんだよ。…私を庇って…っ!!」
「月夜優、唇噛みすぎだ。血が出ている。」
「私は自分が許せない。私みたいなゲスい人間なんかが生き残ってはなさんみたいに美人で優しい人が死ぬなんて…。でも…助けて貰ったこの命を無駄に出来ない。せめて皆を元の世界へ戻す為に頑張るから改めて協力して下さい。」
「水臭いよ、優ちゃん!」
「そうよ、私達は貴女に助けて貰ってばかりなんだから。今度は私達に助けさせてくれないかしら。」
「良い…の?私、命がけのことに巻き込んで…。」
「気にしすぎだって。どっちみちクリアしなきゃいけないんだから。ね?」
ライチさんの言葉に皆は頷いてくれた。
〈月村一夜サイド〉
3年の教室の並ぶ廊下に月村一夜達はいた。
「とりあえず片っ端から入っていけば見つかるんじゃない?」
「そうですね、それで行きましょう。」
3人は1組から順番に入っていく事にした。
1組、何もない。
2組、何もないと思っていたが一冊のノートが落ちていた。月村一夜はそれを拾う。
3組、腐臭が酷い。
「う…、何、この匂い。」
あたりを見渡すと、ロッカーから何かはみ出ているのを発見する。
ゆっくりと教室に入り、そのロッカーに手をかける。
「痛っ」
痛みが走り、手を見ると血が出ていた。
「月村さん、大丈夫?」
「大丈夫、です。」
ロッカーを見ると、画鋲がテープで固定されていた。それが刺さったのだろう。
ガチャー。
ロッカーを開けてみる。
「ひっ!?」
中には人間の内臓が詰まっていた。
飛び出していたのは大腸であろう部分。
「もしかして、この教室のロッカー全部こんな感じなのかな?」
そう言って柳類は月村一夜の開けた横のロッカーを恐る恐る開けてみる。
「うっ…。」
そこには雀の死体が入っていた。カッターが乱雑に刺されたままだ。
「ロッカー、あと26個あるけど…。」
口を抑えながら柳類が言う。
「…どうしよう。」
月村一夜は青ざめている。
「俺は全部開けた方が良いと思うけどね。」
そう言って紅蓮は次々にロッカーを開けていく。
結局、いくつかは空で、他には兎の死骸、メダカの死骸、血まみれのカッター、腐りかけている人の手や足、誰か分からないが生首が見つかった。
「う…く」
月村一夜は吐きそうなのを必死に堪える。
「大丈夫ね?」
心配そうにしている紅蓮も顔色が悪い。
まあ、こんな状態で平然としていられる人なんて居ないであろう。
「もうここには何もなさそうだし早く出よう。」
柳類の言葉に2人は頷き、早足に外へ出た。
続いて、隣の4組に入る。
「何、この臭い。鉄臭い…。」
柳類は臭いのする方へ向くと…
「ひっ!?」
そこには見覚えのある人が血まみれで、しかし妖艶で美しい姿でそこにいた。
まるで標本を作ってあるかの様な死体で思わず見とれてしまうほど…。
死体の主ははなと呼ばれていた人物だった。
「うそ…優の大切な人の1人…だよね?」
ショックでよろける月村一夜。
「ここに死体があるってことはここ危ないんじゃない?」
と、紅蓮が言った時だった。
いきなり何かが月村一夜と紅蓮にかかる。
それは暖かくヌルッとしていて独特な香を放つ。
“血”だ。
誰の?
気づいたら柳類の首から上がなく…ー。
「いやあっ!!!」
慌てて2人は逃げる様に走って廊下に出て教室を後にした。
廊下を走って行くと誰かにぶつかった2人。
「いたた…ご、ごめんなさ…」
「え、愛姉?」
「優!!」
「良かった、無事で。」
「っ、無事じゃないよ…」
いきなりそう言って愛姉は大粒の涙を流す。
「え?ど、どうしたの?どこか痛い?怪我、してる?」
「違うの、違…っ」
落ち着くまで話すのを待っていると紅蓮さんが口を開く。
「ごめん、優ちゃん。実は…。」
そこで私はもう1人、失ったことを知る。
「そんな…柳まで…。」
「あとはなさんも…。」
そしてさらにはなさんの死体が弄ばれていたことを知る。
「そんな…わた、私のせいで…私が…」
「それは違うだろ。言い方は悪いが彼女は勝手に君を庇った。庇わずにいたら死なないと分かっても尚庇ったのは彼女自身。君は望んでいなかったとしても彼女は望んだんだ。君が気に病む必要はない。」
「でも…私がしっかりしていたらこんな事にならなかった…。…でも、いくら懺悔してももう元には戻らない。なら、先に進むしかない…。」
「なんだ?立ち直りが早いな。心配いらなかったようだな。」
「…そうね。今までの私なら絶望して先になんて進めなかった。でも、ライチさんがさっき怒ってくれたから、だから私は目が覚めたんだ。もう間違えたりしない。」
「やはり良いな、月夜優。君は観察していて実に面白い。」
「褒め言葉として受け取るわ。とりあえず状況を整理するわね。さっき襲ってきた霊は女子高生の格好をしていて2人いた。恐らく、尚ちゃんをいじめていたって記載されていた3人のうちの2人で間違いない。そしておそらくここの鍵となる霊。2人は3年4組にいた。だけど近づいたら危ない。今はあそこに行ってできることは何もない。なら、今するべきことはもう1人居る筈の霊の捜索。3人に関する情報の収集。九条先生みたいな手助けをしてくれそうな人を探し、頼る。そんなとこかな。」
「私は2手別れて捜索したら良いと思うのだけど、どうかしら?危険なのは変わらない。なら、2手に別れたほうが効率的よ。」
ふと、邦孟先生がそう提案してくる。
「…そう、ですね。それもありかも。待ち合わせを決めておけば良いだけだし。」
「え?危ないよ?」
そう言ったのは愛姉。
「どこに何人いようがリスクは変わらないよ。とりあえず、そこの資料室に待ち合わせとして…あとはどう別れるか…だね。とりあえず、霊である2人は別れるとして…。」
「優…本気なの?」
「え?なんで?」
「っ!!わ、分かった。でもどうやって別れるの?」
「それについては考えてあるわ。」
そう言って邦孟先生が分けたのは、
私、九条先生、コウタさん、ライチさんで1チーム。
愛姉、紅蓮さん、邦孟先生、春日清彦、みっしぇるで1チームだった。
「ちょ、よりにもよってまた優と別なんて…。」
愛姉の顔が絶望満ちていく。
私も意外だった。愛姉は人見知りだから、唯一知っている私といたがる。別にしたらトラブルにだってなるんじゃないかとも考えた。それを防ぐために敢えて一緒にするんだとそう思っていた。
「…何を基準にしたんです?」
「とりあえず男手は分けたつもりよ。女性に関しては…まあ、思うところもあってね。」
「思うところ…?」
「まあとりあえず、私達はもう一体の女子高校生の霊を探すから他は任せるよ。」
「…わ、分かった。ミッションクリア次第資料室に戻るって事で良いです?」
「ええ、そうしましょう。」
それから私達は2手に別れたのだった。
〈月夜優サイド〉
「………。」
歩いてしばらく沈黙が続く。
「…心配?」
ふと、ライチさんが言う。
「うん。心配だよ。愛姉は人見知りなんだ。だからただでさえ不安なのにって…。はは、過保護かな?」
「まあ、否定はしないけど…。私が言いたいのは他の人が心配なのは分かるけど、心配ばっかで自分のことが疎かにならないかってこと。」
「大丈夫。言ったでしょ?もう間違えないって。それに、まら何かあったら助けてくれるでしょ?」
なんて、甘え過ぎかな?
「あ…」
と、何かを思い出したかの様に声をあげるコウタさん。
「どうしたんですか、コウタさん。」
「ん?ああ、俺達…皆に会う前に情報を集めようと職員室に行ったんだ。尚ちゃんの担任がクズ教師過ぎて…。イジメをなかったことにしようとしていたみたいなことを書いたのがあったよ。」
「…イジメが表沙汰になると風評被害になって自分達の立場が危うくなる。それなら自分達は知らぬ存ぜぬでやり過ごそう。って感じかな。つまり、生徒の安全より、自分達の安全ってわけね。」
「多分。邦孟先生も同じ様なこと言ってたよ。」
「まあ、これでも一応教員免許だけは持ってるからね。実習中にも色々見てきたし。それなりには…。問題は誰が尚ちゃんの担任にイジメを告発したのか。」
「なるほどな。告発した者が貞岡尚本人でない限りそいつが味方になる可能性が非常に高い。そういうわけだな。やはり君は頭が良いな。色々あって不調にならないかと思ったが要らぬ心配だったようだな。」
どうやら九条先生は私を心配してくれていたようだ。
「確かにまだこたえてるよ。でも、いくら悔やんでも許されることじゃないしましてや元になんて戻らない。なら出来ることをするまでよ。」
「そうか。」
九条先生はそれ以上はもう何も言わなかった。
「その告発した人物、養護教諭って書いてあったけど。」
「本当?あ、でも…私達、保健室に最初落ちたけど私達以外見当たらなかったし、トラップもあったよ?」
「職員室にも誰も居なかった。」
「じゃあ何処に…。」
考え込んでいると、九条先生が口を開く。
「校長室に行かないか?」
「え?」
「校長室には多分、雇っている教員の情報があるはずだ。」
「なるほど。つまり、教員の情報を元に居そうな場所の特定をってことね。」
「その通りだ。」
九条先生の提案により、私達は校長室へ向かうことにした。
〈月村一夜サイド〉
「…どうして?」
ポツリと呟く月村一夜。
「何がかしら?」
「別々に行動したら優が危ないのに…。」
「それよ。」
「え?」
「貴女は少々依存症が強いみたいね。ここではそれが命取りになるわ。貴女も優ちゃんも危険な目に合うわ。優ちゃんも最初は色んな人に依存してたみたいだけど、少しは改善されたみたいね。今まで一緒にいたのははなさんとライチさんだからどっちかの影響なんでしょうね。だから貴女とは離してみたの。」
「何…それ。私が優を死なせるって言いたいの?」
「そこまでは言ってないけど…。冷静になって考えてみたら答えが見つかるかも知れないわ。頑張りなさい。」
そう言って頭を撫でる邦孟陸奥。
それ以降は月村一夜も何も言わなかった。
「にしてもどこに向かおうか?」
と、みっしぇるが問う。
「職員室でもう一回情報を集めましょう?生徒の情報なら多分職員室に保管してあるはずよ。」
「情報?」
月村一夜は首を傾げる。
「教室には2人しか居なかったんでしょう?クラスにないものって何だと思う?」
「は?」
質問の意図が理解出来ずにいる一同。
「…答えは“部活”よ。つまりもう1人は何かしらの部活に所属していてそこに未練があると考えたら居場所に着くんじゃないかしら?」
「なるほど…。えっと、つまり部活をしてるとしたら高確率でその部活があった場所にいる可能性が高いと…。そういうことですか。」
月村一夜の言葉に邦孟陸奥は頷く。
「そういうこと。じゃ、行ってみましょう。」
一同は頷き、職員室を目指した。
「3年4組はここだったわね。」
本を立てかけるところから分厚い黒台帳を取り出す邦孟陸奥。
ページを捲っていくとふと、邦孟陸奥が口を開いた。
「そう言えば、春日さん。3人の幽霊の名前わかるかしら?」
「…わかる。俺と一夜ちゃんは名前だけ知ってる。1人は宮原香。」
「分かった。宮原香ね。」
そう言って五十音順に並んでいる名簿のページをめくっていく。
「あったわ。宮原香、出席番号26番。学級委員と風紀委員をやっていて成績も学年トップ。常に1位か2位を争っている。問題もなにもなく、先生方からの信頼も厚く将来有望。」
「えっと…違うみたいだから次の子を…えーと…内村加奈枝って子だったかな。」
言ってて自分の記憶に自信を失くす月村一夜。
「調べてみるわ。…あったわ。」
あったとの言葉に月村一夜はホッと胸をなでおろす。
「内村加奈枝、出席番号3番。部活はしていないがピアノの腕はコンクールで金賞を受賞する程の実力。音楽推薦狙い。成績も上位。内気過ぎる性格が偶に傷。他問題なし。」
「部活は入ってないけど、その子が音楽室にいる可能性あるよね。」
みっしぇるの言葉に邦孟陸奥が頷く。
「まあ、まだ判断するのは早いわ。あと1人見て見ないとね。それで、もう1人の名前は?」
「野田智晴。」
春日清彦の言葉を聞き、また探し始める。
「野田智晴、出席番号15番。根っからの体育会系で陸上部所属。2年連続全国大会優勝。次の大会でも優勝が約束されているくらの実力者。体育系の学校への志望あり。学力が若干足りていないが大きく問題はない。」
「…どっちに行くべきかな?」
「とりあえず、校庭が近いから校庭に行ってみましょう。」
邦孟陸奥の提案により皆は校庭へ向かった。
〈月夜優サイド〉
校長室の前に辿り着く。
何故か扉は薄く開いていた
「…どう、思う?罠…かな?」
「こんな分かりやすい罠あるかな?」
と、ライチさんは笑う。
「…悩んでる時間もったいないね。中に入ろう。」
私の言葉に驚いたのか九条千亞は私の腕を掴む。
「正気か?」
「正気だよ。何かあったら皆が助けてくれる。だったらただ前に進めば良いだけ。」
そう言って私はドアを開けた。
「う…。」
開けた瞬間、むせ返るような鉄の匂いが鼻腔を突く。
そこには大漁の血と2体の死体。
2体とも男性の様だ。
と、刹那ー
まるで逆再生でもしたかの様に死体だったソレは綺麗になっていき、やがて息を取り戻す。
「許してくれ…。知らなかったんだ。」
「助けてくれ…。上には逆らえない。」
2人は虚ろな目でそう良いながまた肉塊へと変わり果てる。
そしてまた息を取り戻す。
「貞岡…先生は悪く、ないぞ?」
「校長だって把握できないこともあるんだ。」
また肉塊へ戻る。
どうやら定期的に生き返らせては殺されを繰り返しているようだ。
天井にトラップでも仕掛けてあるのか、目に追えないようでどうして2人がこんなになるまで何で殺されているのかわからない。
とりあえず2人に近づかない限りは私達は安全のようだ。
2人には悪いが今は資料を見なきゃいけない。
恐る恐るロッカーに近づき、手をかける。
「馬鹿者、怪我するかもしれないんだぞ!?」
そう言いながら九条先生は私を押し退け、代わりにロッカーを開けた。
開けたのと同時に大量の刃物が落ちてくる。
「ほら見ろ、言わんこっちゃない!」
「九条先生!!怪我は!?」
「馬鹿者!保健室の件を考えてみろ。私なら大丈夫だ。それに保健室でも同じことがあったんだからもっと警戒をだな…。」
私は力が抜けてその場にへたり込む。
「よ、よかった…。」
「全く…。」
九条先生は呆れた様に笑う。
そのまま、九条先生が教師が全員載っている名簿を取り出してくれた。
「ここで見るのもなんだし一旦外に出よう。」
そう言って私は扉に手をかける。
「え?」
鍵が閉まっている。
つまみを回してみるが勝手に元に戻る。
「何でよ…。」
「もしかして…2人が関係してるとか?」
ライチさんはそう言ってエンドレスで死に続けている2人を見る。
「助けろってこと?」
でもどうやって殺されてるかも分からないのに?
「どうやって…。」
皆分からないようで沈黙が続く。
「やれやれ、仕方ないな。」
九条先生はそう言って天井の方を見る。
そして何を思ったのか本棚の本を取り出し登り始めた。
「ちょっ、何してるんですか!?」
「良いから。」
そう言って九条先生は天辺まで登った。
「月夜優、君はお人好しだな。」
ふと、九条先生が私に向かって言う。
「いや、全然?」
「お人好しじゃなかったら、私や春日清彦を仲間にしたりはせんだろう。」
「…脱出の為よ。」
「それだけじゃ私の心配なんかしないだろう?」
「…何が言いたいの?単刀直入に聞きたい。」
「君は優しい。そして聡明だ。そのせいでだいぶ無理をしてすり減っている。まあ、ライチのおかげで甘さは消えたが…君は君を大事にしない傾向が強い。誰かに頼れ。甘えろ。それと…」
その瞬間、九条先生は寂しそうに笑う。
「ありがとう、楽しかったよ。」
その言葉を告げた後、九条先生は火災報知器を目掛けて飛んだ。
一体死亡フラグたてるようなこと言って何してるんだと思ったのも束の間、九条先生は落下。
しかも、血まみれで…。
「え…?ど、どうして!?」
「っ仕掛け…火災報知器…止めた、から…。」
「そんなっ!!こんな血まみれで…ああ、そうだ!私の能力で今助けるから」
そう言って能力を使うが全然血は止まらなくて助けられないのだと悟る。
「嫌っ、嫌っ!!何で…何でよ!!」
「泣くな。…最後、笑った…顔、み…たい。」
そう言いながら優しく髪を撫でてくる。
「っ!!馬鹿…。」
急いで涙を拭いて無理矢理に笑顔を作る。
「ありがとう。沢山助けてくれて。…もし、死んだら会いに行くからあの世で待ってて。忘れたら承知しないんだからね。」
「ああ。覚えてお…」
言い切る前に髪を撫でていた手がだらりと力なく落ちる。
「っ!!」
号泣しそうになるのを必死に堪える。
「…もう少し、私を助けてて。」
九条先生の髪を束ねていた髪ゴムを外し、自分の癖っ毛の髪を束ねて付ける。
九条先生のおかげで2人の教師は蘇り、攻撃も止んだ。
「…お二人とも、初めまして。私は月夜優。貞岡尚の霊にここに連れて来られた。貴方方には情報提供を要求します。拒否した場合は…。」
「何を聞きたいのかね。」
校長らしき方の教師がそう尋ねてきた。
「貞岡尚のことと養護教諭の先生についての情報。それから貴方方が何故、貞岡尚に恨まれているのか。」
「分かった、順に話そう。まずは私達について…。私はこの翔明(しょうめい)女子高等学校の校長、永岡朔太郎(ながおかさくたろう)。こっちは貞岡くんの担任の氷流蒼須(ひりゅうそうま)だ。私達は氷流くんのクラスの虐めに関して勘違いを起こし、結果…取り返しのつかないことへなってしまってね。それが私達への恨みへつながったのだろう。」
「勘違い?」
「私は貞岡くんが内村くん、宮原くん、野田くんによって虐められていると聞かされていた。氷流くんに。」
「俺はクラスの生徒に聞いて…。でも違った。4人は被害者だった。全員。」
「私はそれを知らなかった。」
「…つまり、虐めの加害者と思われてた3人は無実で巻き込まれた被害者だった。故に加害者は他にいた。でもなら何故、氷流先生は殺されていた時に“上には逆らえない”って言ったの?」
「上は校長等、学校の者ではない。…うちのクラスに居たんだ。国会議員の娘が。その子は“恩嬢寺麗華(おんじょうじれいか)。虐めの主犯格だ。」
「でも職員室にあった貴方の日誌にはめんどくさいとか書いてありましたけど…。」
コウタさんはそういえば職員室に行って来たんだったな。
「あれは”書かされた“んだ。麗華に。」
「その書かされたって日誌に、養護教諭が言ってきたって書いてあったのは?」
すかさずそう聞いてくれるコウタさん。
「養護教諭の話は本当だ。」
「養護教諭は”白木優璃(しろきゆうり)“。新任で親が警察官の影響か正義感が強くて権力での圧力に屈しない人だった。」
「…その養護教諭の白木先生が居そうな場所、知りませんか?私、その人のこと探してて。ちなみに私は最初に保健室に落ちましたがいませんでした。だから雇用情報がありそうな此処に来たんです。」
「…そうだったのか。彼女は、部活の顧問もしていてな。合唱部だったな。もしかしたら音楽室に居るかも知れない。」
「なるほど。…でも今の話だけじゃどうして貴方方がこんなにも貞岡尚から恨まれているのかわからない。」
「どういうこと?こいつらが権力に屈して虐めを黙認してたからじゃないの?」
コウタさんの言う言葉も間違いではない。
ただ、権力には抗えないこと2人を虐めの主犯でもないのにここまで恨むだろうか?虐めの主犯の恩嬢寺麗華はどこかで2人みたいに拷問の様に殺されて生き返らせられを永遠にされているのだろうか?
色んな疑問が脳裏を駆け巡る。
「黙認しただけでこんなに拷問されるんならもっと色んな人が拷問されていると思う。でも見てきた限りじゃそんな雰囲気はない。…ねえ、心当たりはないの?」
「…貞岡尚は内村、宮原、野田とは仲が良く、養護教諭の白木のことは慕っていた。」
「虐めの主犯が恩嬢寺くんだと分かった頃、圧力がかかった。その圧力に私は抗えず、虐めは3人が主犯で仲違いの末に起こったことになり、白木くんは精神的に問題があるとしてクビになった。」
「補足して言うと野田は陸上の県大会出場停止に、内村はピアノのコンクール出場停止、宮原は有名大学内定取消しになっている。」
「つまり、仲良かった、あるいは慕っていた人物が辛い状況になりそれが許せなくて?でも…まだ腑に落ちないわ。」
「…校長へはとばっちりだ。本当に恨まれているのは俺だから。」
そう目を伏せながら悔いるように氷流蒼須はポツリと言葉を漏らす。
「…それは何?」
「俺はこの手で3人を…野田、内村、宮原を殺めた。」
「ど、どうして…。」
「脅されていたんだ。3人を殺さないと娘や家内の身に何が起こるかわからないぞと。」
「…それでやむなくってこと?」
「しかも俺は更に命じられていた。その罪を貞岡にきせろ、と。」
「なるほど。全てが繋がったわ。とりあえず、貴方は私達と来て貰う。3人を成仏させるには貴方が必要。」
「わかった。」
「じゃあ、音楽室に行ってみましょう。」
私達は養護教諭がいることを願って音楽室へ向かう事にした。
皆が出たのを確認し、振り返る。
「九条先生…ありがとう。」
届かないと分かってはいるがそう残し私部屋を後にした。
〈月村一夜サイド〉
校庭へと来た月村一夜達。
その校庭の隅に陸上用のハードルが置いてあり、1人の人影が佇んでいた。
ゆっくりと近づいてみると、駅伝等で着る様なユニフォームを着た少女が悲しそうに校舎を眺めていた。
やがて、少女は月村一夜達に気付き声をかけてきた。
「アンタらは?」
「っ、月村一夜、です。もしかして、野田智晴さん…ですか?」
恐る恐る尋ねると野田智晴はニカッと人懐っこい笑みを浮かべる。
「そだよ!私のこと知ってるんだ?」
「えっと…」
言葉に詰まっていると、みっしぇるが助け船を出す。
「貴女は暴走?してないんだね。」
「ああ、2人に…加奈とかおりんに会ったんだね。」
「教えてくれない?3人の内、1人だけ暴走してる訳。それが誰なのか。」
邦孟陸奥の言葉に野田智晴頷く。
「暴走してるのはかおりんだよ。宮原香。私が正常なのは…助けたい人が居るから。」
「助けたい?」
月村一夜の疑問は皆も一緒の様で皆野田智晴の言葉を待つ。
「私さ、悪い子なんだよ。担任の先生…。結婚してるのに、子どもだっているのに…。不倫させてさ。…私は担任の氷流先生と付き合ってた。まあ、私は遊ばれてただけなのかもだけどさ。それでも…本気で好きだった。」
「その先生を助けたいの?」
「うん。先生は校長室で尚に拷問され続けてる。だからいつか助けたいって。でも…私は此処から動けない呪縛にかかってるみたいで入ろうとしたら壁みたいなのに跳ね返されてさ。…はは、情けないよね。」
「そんなことないよ。」
「でも…なんで貴女は担任の先生がそんなに好きなの?悪いけど、私は職員室でその先生の学級日誌を見たわ。そこには教師有るまじき発言が書かれていた。とても行為を寄せられる様な人には思えない。」
邦孟陸奥の言葉に皆息を飲む。
その言葉を引き金に暴走して襲われないか懸念したのだ。
「あれは書かされたんです。先生の意思じゃない。」
「どう言うことかしら?」
「先生は脅されていたんだ、権力のある奴にさ。大人の事情って奴だよ。うちのクラスには権力者の娘がいて、先生達は毎日そいつのご機嫌取り。何人か違う先生もいたよ。担任の氷流先生も最初は気にしてなかった。でも…私達のグループが先生に良くして貰ってたのが気に食わなかったみたいでさ。そいつ、先生を脅したんだ。私らと仲良くしたらクビにするぞって。でも、先生は聞かなかった。だから要求…脅しはどんどんエスカレートしてって、私達を殺さないと家族に手を出すって言われたみたいで、私達は殺された。」
「想い人殺されたの?そんなの…」
「でも好きなのね。」
「先生はさ、男勝りでスポーツしか取り柄のないあたしを可愛いって凄いって沢山褒めてくれたんだよ。確かに、スポーツは褒められたりしてたけど、可愛いって初めて言われた。それに私は勉強できない馬鹿だよって言ったこともあるけど先生は笑って一緒に頑張ろうって馬鹿にしなかった。だから私は好きになった。殺される時も先生なら良いって…脅されてるし仕方ないって。」
「なるほどね。1つ聞いて良いかしら。」
「なんだい?」
「2人の霊に会った子がいてね。暴走していて仲間が殺されたのだけど、2人は脅されてたって知っていて暴走してるの?」
「…暴走してるのはかおりんだけだよ。かおりんは正義感が人一倍強くてそれが暴走に繋がってしまった。脅されてるの知ってたのは私だけ。先生は他には話すなって言ってたから私はそれを守ってた。でもそっか…かおりん、そんなに追い詰められて…。」
「段々と分かって来たわね。とりあえず一旦待ち合わせ場所に行って皆を待ちましょう。」
「え?この子はどうするんですか?」
「その子、ここから離れられないならここにずっといるでしょう。だから一旦戻って情報を報告しようって話よ。」
それから月村一夜達は待ち合わせ場所である資料室へ向かった。
〈月夜優サイド〉
音楽室の前に着いた。
中からはピアノの優しい音色が聞こえて来る。
「入る…よ。」
ゆっくりとドアを押すと、あっさりとドアは開いて中で美人な女性がピアノを弾いていた。
「なんて…なんて綺麗な音色。」
思わず聞き入ってしまう程に綺麗で…しかしどこか悲しい、そんな音色。
「優ちゃん?大丈夫?」
声をかけられるハッとする。
心配そうに自分の顔を除き込んでいるライチさん。
「え?何が…?」
「いや…泣いてるから。」
言われて初めて、自分が泣いていたことを知る。
「え…?おかしいな。」
涙を必死で拭うが、とめどなく溢れてくる。
「大丈夫ですか?」
ピアノの音が止み、ピアノを弾いていた女性はいつのまにか優の目の前にいた。
「すいません、あまりにも感動しちゃって。」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。」
「私、月夜優って言います。貴女が白木優璃先生、ですか?」
「ええ、そうよ。何故、私の名を?」
「…俺が教えたんだ。」
そう言って、今まで廊下にいた氷流先生が姿を見せる。
「…貴方、どうやってここに。」
「助けられたんだ。彼女達に、な。」
「ん?どうやってって言ったってことは白木先生は氷流先生と校長先生が校長室で拷問を受け続けていたことを知ってたってこと?」
「…ええ、よく分かったわね。私は貞岡さんに色々聞かされてたから。」
「聞かされて…?この次元に貞岡尚がいるの!?」
「いえ、今はいないわ。彼女は次元を渡り歩く事ができるの。もうここには来ないって言ってたわ。」
「…他には?」
「彼女は言っていたわ。ここの世界はやがてなくなる、と。解放の旅人が来たって。」
「解放…旅人…。それって私たちかも。解放って成仏とかそういうやつじゃないの?」
「そこまではごめんなさい。分からないの。」
「それは置いといて、私達に力を貸して下さい。」
「…どういうことかしら。」
「…暴走している生徒の霊を助ける為に白木先生、貴女の協力が必要なんです。」
この世界にいる霊は全員、何かしらの役割がある。つまりは白木先生にも何か重要な役割があるはず。
「協力はいいけれど、貴女は一体どうするつもり?」
「…私、歌います。」
「え?」
驚いたのは白木先生だけじゃないようで、その場にいた皆私のことを目を見開いて見ている。
「私を感動させた白木先生のピアノ。それから私の歌の能力があれば…正気に戻せる気がするの。」
「…確信がないのにそんな提案をするのね。危険よ。」
「危険でも大丈夫です。私には、守ってくれる人が沢山いる。そこで危ないって手をこまねいていても運命は変わらない。なら、私は賭けでも可能性が1でもあるなら賭ける。それに、私のモットーはしないで後悔するよりして後悔した方が良いだから。」
はなさんや九条先生がいなくなるまで思い出せなかったけれど…。
「…そう、分かったわ。でも問題があるわね。」
「え?」
「暴走している生徒の霊は宮原香。その霊は今、3年4組の教室にいる。一方、ピアノはこの音楽室にしかないわ。」
「だったら連れて来れば良い。その宮原香の霊を。」
「どうやって?暴走してるのでしょう?」
「それについては考えがあるの。…とりあえず、一旦仲間と合流したいからここで待ってて下さい。」
「分かったわ。…気をつけてね。」
そう優しく微笑んで手を振っている白木先生を背に私達は音楽室を出て、資料室へ向かった。
合流した私たちはお互いの情報を交換。
「なるほど…。とりあえずそのグラウンドにいた野田智晴の霊は氷流先生をグラウンドに連れていけば解決だね。宮原香の霊も私がなんとかできそう。…問題は内村加奈枝の霊ね。」
「どうして?優に襲って来なかったんでしょ?何か問題あるの?」
「彼女の未練が、成仏の為の方法が分からない、でしょう?」
邦孟先生の言葉頷く。
「首なし霊だから首から上がこの学校のどこかにあって探して戻してあげるとかじゃない?ま、王道だけど。」
ライチさんの言うことは私も考えていた。しかしそんな都合良く成仏するだろうか。
と、ネガティブな考えを振り払い、私は肯定する。
「そうだね。まあ、それは後で考えるとして、まずは宮原香の霊を成仏させる。その後に野田智晴の霊。それから内村加奈枝って順にしましょう。」
「順番に何かこだわりがあるのか?」
氷流先生がそう尋ねてくる。
「貴方には沢山働いてもらわないといけないもの。野田智晴の霊に会ってすぐ成仏されても困るし。」
「でも優ちゃん、あんな暴走してやつどうやって成仏させるつもり?」
「…この作戦にはライチさんの能力も必要。私の為に1回使っちゃってるからここで使用したらもう後一回しか使えなくなっちゃう。それでも…協力して 、くれる?」
ライチさんは優しく笑い私の頭を優しく撫でてくれる。
「大丈夫だよ。まだ1回使えるって考えれば良いんだよ。作戦、教えて?」
「っ!!あ、ありがとう。まず、コウタさんとライチさんで教室に入る。ライチさんが危ない時はコウタさんの
能力ですぐ脱出して。上手く行けば、時を止めて2人の霊を音楽室へ連れて来て欲しい。そうしたら私がどうにかする。」
「…分かった。行くよ、コウタりん。」
「あ…ああ。」
私は2人の無事を祈りながら音楽室へ向かった。
「う…血生臭い。」
3年4組の扉を開けた瞬間、酷い鉄と生ゴミを混ぜた様な強烈な匂いが2人を襲う。
「…はなさんっ」
月村一夜に話を聞いていた通りの姿でそこに飾られていた。
「あっちは柳さんだ…。」
空の棚の真ん中に、首から上が飾られていた。
身体の方はバラバラに解体され、辺りに転がっている。
「マダギダ…」
低い声が響く。
「どこ…?」
慎重に身構えながらゆっくりと2人は前に進む。
「敵、的、滴、笛、摘、扚、踢、逷、踧、迪、嫡、テキ、てき…!!」
宮原香の霊が目の目に来る。
“てき”と連呼しているその顔は般若の様に禍々しく、空気はピリピリとしている。
「ゴポ…ゴポ…。」
もう1人の霊、内村加奈枝が宮原香の隣に来た。
「ドメ、ルナ!!」
どうやら何故か、内村加奈枝は宮原香を止めようとしている様だ。
「…とにかく時間を」
能力を使おうとした時、顔に熱い何かがかかる。
それはヌルっとした感触で…遅れて独特の匂いが強く匂ってくる。
「え?」
疑問に思いつつ、能力を使い時間を止める。
「っ!!う、嘘…」
それまで息をして一緒にいた筈の人。
今では首がぱっくりと割れて血飛沫をあげている。
「ごめん、私がもっと早く能力を使えば…。」
そう呟きながらも動く事はやめない。
やめたら作戦が無意味になるからだ。
「私がしっかりしなきゃ…。」
そう自分に言い聞かせる様に呟くと、ライチは急いで宮原香の霊から音楽室へ連れていく。
最後に内村加奈枝の霊を連れてきて7秒、能力の効果は切れ、時間が再び動き出す。
「ア…?」
教室に居た筈がいつのまにか移動していることに戸惑っている様で宮原香は狼狽、動きが止まる。
その時、ピアノの旋律が響き渡る。
「セン、セイ…?」
ピアノの音に反応する宮原香。
やはり白木先生のピアノには人の心を動かす力があるようだ。
「~♪」
私はピアノに合わせて歌う。
「…?歌、ダレ?」
ピアノの方へ向かっていた足を止め、私の方を向く宮原香。
「~♪」
気にせずに私は歌う。祈りを込めて。
「優しい、声…。それに、このピアノは…」
やがて、宮原香は正気に戻ったのか、あの時の鬼の様な形相は消え頬には涙には涙が伝っていた。
「泣いてる、の?」
私は近づき、涙を拭いてあげる。
抵抗も攻撃もなく、彼女はただ立ち尽くしていた。
「大丈夫?」
そう聞くと、彼女は小さく頷く。
「えっと…私のこと、覚えてる?」
そう聞くと彼女はビクリと身体を震わせる。
「…ご、ごめんなさい、わた…私…っ!!」
どうやら自分がしたことを覚えている様で、震えている身体を抱きしめている。
「…大丈夫。私は怒りたい訳じゃない。お話したいだけ。」
彼女を抱きしめ、優しく背を撫でると次第に落ち着きを取り戻す。
「私は月夜優。貞岡尚ちゃんの霊にここに連れて来られたの。ここから出るには貴女達を成仏させなければいけない。…貴女が怨んでいる氷流先生に謝らせたら、貴女は未練とかなくなる?」
彼女は小さく首を横に振る。
「じゃあ教えて?貴女のして欲しいことを。」
「…どうして、私達を殺したのか、知りたい。それに、皆が成仏するまで私は成仏できない。」
「分かったわ。なら私についてきて。」
「どこに…?」
「野田智晴ちゃんのいるグラウンドよ。」
それから私達はグラウンドへ着く。
「智晴!!」
「え?かおりん!?」
野田智晴は驚いた様で、目を見開いている。
「正気に戻ったんだね!」
嬉しそうにこちら駆けてくる。
「智晴…。」
「…先生!?」
驚きのあまりか足が止まる野田智晴。
「…すまなかったな。話は全て彼女らから聞いた。俺は…教師失格な上、最低な男だぞ?どうしてそんな俺のことを未だに心配し好意を寄せてくれてるんだ?」
「…先生は私に初めて可愛いって言ってくれた。私は男子みたいだよって言ったらさ、スポーツをしてる私はキラキラしててアイドルみたいだって言ってくれて…。すっごく凄く嬉しかったんだ。コンプレックだったことを褒めてくれるなんてさ。」
「…君は何故、俺に殺されると知って尚逃げなっかた?俺は君にだけ教えていた。」
「先生の家族を殺されるかもしれなかったんでしょ?仕方なかったんだよ。それに、私はどうせ死ぬなら先生の手が良かったから。」
「そう…脅されてたのね、先生は。」
そう悲しげに呟く宮原香。
「とりあえず皆揃ってる今、一つ聞きたいことがあるの。…どうして内村加奈枝の霊だけ顔がないの?」
ずっと気になっていた疑問を私は口にする。
「それは…私の殺した後に恩嬢寺が…。」
「…どうして、彼女だけを?」
「あいつの身勝手な私怨だ。あいつもピアノをして…いや、あいつの場合はさせられていた…かな。毎回、コンクールには恩嬢寺と内村が出ていてな。」
「もしかして…恩嬢寺さんって毎回2位入賞だったとか?」
「ああ、その通りだ。2人は実は小学校からの幼馴染らしく、当時は良きライバルと思っていたらしいが中学の時に恩嬢寺の想い人が内村が好きだったらしく…。」
「なるほど。自分の好きな人心が手に入らなかったから妬みに変わってしまい…って訳か。ねえ、白木先生、ここの時空にその恩嬢寺って子の霊は居ないの?」
「…いないわ。でも、この子の顔が何処にあるのかは知っている。」
「顔?顔を戻したらいいの?」
「…内村さんは話をしたいのよ。でも、顔がないから喋れない。」
「でもさ、顔を持って来てそれで喋れるようになるの?」
「そこまでは分からないけれど、試しに持ってきてみたらどうかしら?私達はここで待っているから。」
「…私と愛姉、邦孟先生の3人で行ってくる。何処かありそうな場所…分かる人いない?」
「…私の憶測でしかないけど。」
愛姉は自信ないのか小さな声でそう声をあげる。
「心当たりが?」
「うん、私達、3年の教室を片っ端から見てたの。そしたら3組の教室に…その…。」
言っててどんどん愛姉の顔が青ざめていく。
「大体察しはついた。グロかったんだね。そこに何か手がかりが?」
「そういえば、誰のかわからない首から上のがあったね。」
紅蓮さんの言葉に愛姉が頷く。
「なるほど、それが内村加奈枝のものである可能性がある、と…。」
「目的地は決まりね。早速向かいましょう。」
邦孟先生がそう言った時、「待ってください」と愛姉が叫んだ。
普段からは考えられない声に私ですら驚いた。
「あ、ご、ごめんなさい。でもどうしても知って欲しいことがあって…。」
「知って欲しいこと?」
「うん、これ…拾ったの。中身はまだ見てないけれど…。」
そう言って愛姉に渡されたのは一冊のぼろぼろのノート。
開くと、そこには優しい雰囲気で描かれた絵が姿を見せる。
「これ…白木先生クリソツなんだけど。」
と、次のページには、宮原香、野田智晴が描かれており、さらに次には別の少女が描かれていた。
どれも見ているだけで好きって気持ちの伝わってくる優しい絵。途中数ページ飛んだあと、絵柄がガラリと変わる。
「っ!?」
殴り書きをしたかの様な絵。周りには憎いの文字。
「な、に…これ。」
「…これは貞岡さんの描いたものよ。」
そう白木先生は言った。
「この殴り書きは…誰?」
「多分、恩嬢寺さんでしょうね。貞岡さんは絵を描くのが好きでね。前、好きな物や感じたことを絵で表現するのが好きだと言ってたわ。」
「…もしかしてこの3人目の女の子の絵って内村加奈枝?」
白木先生は私の問いに頷く。
「…じゃあやっぱりあの首…。」
「愛姉?」
「うん、間違いないよ。髪型一緒だったもん。」
「じゃあ、取りに行こう。」
そして私と愛姉と邦孟先生は3年3組へと向かった。
教室のドアを開けると鉄と生臭い匂いが強くむせ返りそうになる。
ロッカーは全部空いてて首はすぐに見つかった。
「この子だね?」
私が首を取った時、同時に愛姉に突き飛ばされた。
「っ!!え…?」
いきなりの事でどうしたのか聞こうとしたがそこには血に塗れた愛姉が横たわっていた。
背中には沢山のガラスの破片が刺さっている。
「いや…嫌、だよ…。」
私は能力を使い、傷を塞ごうと試みるが血は止め処なく溢れている。
「嫌…なんで、なんで!!」
しかし返事は愚か、ピクリともしない。
恐る恐る首に触れると脈が止まっている事を知る。
「いやああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!」
思わず絶叫してしまうと黒い影の様な何かが沢山出てきてこちらへと迫ってくる。
「月夜さん、逃げるわよ!!」
「嫌…愛姉を置いてなんか…」
「何言ってるの!!早く!」
そう無理矢理私の手を引いて邦孟先生は走る。
黒い影の様な何かはこちらを追ってくる。
「っ!?」
途中邦孟先生が足を止める。
「反対からも来たわ…。」
と、邦孟先生はキョロキョロと周りを見渡すと、私の手を引き再び走り出す。
途中、脇道があり、私は其処へ突き飛ばされた。
「早くいって!!」
そう言われた刹那、黒い影は邦孟先生を取り囲む。
「サビシイ、イッショイコウ」
「ゼツボウ…コドク…イタイ…」
影はそうブツブツと喋りながら邦孟先生を覆う。
「かは…が…」
邦孟先生の悲痛な声が漏れている。
きっと私を庇って、今目の前で殺されているのだ。
「ごめん、先生!」
私は走ってグラウンドへ向かう。
生首を抱えながら…。
グラウンドに着く。
あれから影は追ってくる事はなく、私は無事に辿り着く事が出来た。
「優ちゃん!!」
心配そうに真っ先に駆けてきたのはライチさん。
「ちょ、泣いてるの?どうした?」
「っ、わ、私のせいで…2人が!!」
堪えきれず私はその場に泣き崩れる。
「優ちゃん…。」
それ以上は皆何も言わずに私が落ち着くのを待ってくれた。
「その黒い影はここで死んだ人達の怨霊よ。」
私が落ち着いた後、白木先生がそう教えてくれた。
「何で…私達のとこに来たの?今まで居なかったのに…。」
「それは、負の感情に寄って来たのよ。貴女のお姉さんが死んだ時、強い負の感情に囚われた。それに引き寄せられたのよ。」
「でも、それならはなさんが私を庇った時に出てきたはずだよ。」
「出たよ。」
そう言ったのはライチさん。
「私が時間を止める前にそいつらも寄って来たんだよ。逃げるのに必死だったから暴走した宮原の霊がなんか能力使ってると思ってたし。」
「…そう、ですか。ねえ、白木先生、一つ聞きたいの。その怨霊に捕まったらどう…なるの?」
「…端的に言うなら死んでしまうわ。とてつもない力で抑えられて指の力だけで肉をぶちぶちと引きちぎられて…。」
「も、もういい、やめて…。」
聴いてて吐き気がする。
じゃあ邦孟先生はどんな激痛に晒されたのだろうか。
きっと想像も絶する程に違いない。
「とにかく、顔を持って来たよ。」
そう言って私は抱えていた生首を首なしの霊に差し出す。
霊が首を受け取ると徐々に融合していき、やがて普通の霊になる。
「ありがとうございます。」
優しい笑顔でお礼を言う内村加奈枝。
「貴女の未練は何?顔を戻してはい、終わり、じゃないんでしょ?」
「はい、でも顔を戻してくれた今、喋る事が出来るから大丈夫です。」
「…そういえば、貴女は正気なのね。」
私がそう思ったのには疑問があったから。
一番酷い殺され方をされているのに暴走していた宮原香を止めようとしたりしていたからだ。
「…私も智晴ちゃんと似てる、から。」
「どういうこと?」
「私の場合は想いを伝えられなかった未練。告白する勇気が…ううん、私はいつも引っ込み思案で…だからせめてこの想いを伝えたかったの。」
「その相手は探さなきゃいけない?」
私の問いに内村加奈枝は静かに首を横に振る。
「…白木先生、私が好きなのは白木先生です。…最初は勘違いだと思ってたけれど、智晴ちゃんの話を聞いて勘違いじゃないって確信したんです。」
内村加奈枝の告白に白木先生は困った顔をしながらごめんなさいと声を漏らした。
「うん、困らせてごめんなさい。」
断られたが告白という目的を達成したからか内村加奈枝の身体が透け始め、成仏が始まった。
やがて他の霊も成仏し始める。
皆、「ありがとう」と言い残していった。
やがて、次のステージへ行く為の黒い渦が現れる。
「優ちゃん、行こう。」
「…うん。」
本当は行きたくない。もう誰も失いたくない。
でも進まないと今までの犠牲が無駄になってしまうから…。
壊れゆく心を抱きしめながら私は行こうと差し出された手を取った。
その手はとても暖かくて、この先、更に心が蝕まれるという恐怖を薄れさせた。
簡単な医薬品に3つのベット。
壁には保健だよりとプリントされた紙が貼ってある。
どうやら学校の保健室のようだ。
「って、あれ?皆は!?」
ぱっと見だれも見当たらない。
「ここは学校か?」
あ、人じゃないやつはいた。
九条千亞だ。
「貴女だけ?」
「いや、この辺には後2人ならいたよ。」
「誰?」
「誰と言われても…。私は君の名前しか知らないんだが。強いて言うなら女の子2人だ。」
「…案内して。」
「案内も何も、すぐ近くにいるよ。」
九条千亞がそう言ってベット横のカーテンを開けてまわる。
九条千亞が言っていた2人の女の子はライチさんとはな先生だった。
「…他のひとは?」
「多分別の場所に転送されたんじゃないかな。第2ステージで私とコウタりんが一緒だったのに紅蓮だけ別になっちゃったでしょ。その時みたいに…。」
「そんな…。」
よりにもよって愛姉とはぐれるなんて…。
私はまだこの時知るよしもなかった。自分の罪に…ー。
「あれ…?ここは?……優?皆?」
体育館のステージに月村一夜はいた。
「気がついた?」
月村一夜に声をかけたのは春日清彦だ。
「春日さん…。優は!?人達は!?」
「優ちゃんはここにはいない。女と男1人ずつなら近くにいる。」
「そんな…優とはぐれるなんて…。」
「とりあえず2人に声かけて優ちゃん探そう?」
春日清彦に言葉に月村一は頷いた。
体育館に居たのは柳類と紅蓮だった。
「早く優達と合流しよう。」
一方、校長室に残りの3人がいた。
「3人だけみたいね。皆無事だと良いのだけど…。」
そうため息をつくのは邦孟陸奥。
「とりあえず優ちゃんとかなら情報を集めようと思う筈だから情報が何かありそうな場所に行くか。」
「それなら職員室とかは?」
みっしぇるの提案に2人は頷き、職員室へ向かう事にした。
〈月夜優サイド〉
「とりあえず、ここに居ても仕方ない。情報を探しつつ、皆も探そう。」
「まあ、それしかないよね。何処行く?」
「…その前に、保険室でちょっと情報を集めてからね。」
そう言って私は鍵付きの棚を見る。勿論、鍵はかかってて開かない。
「開かないな。どうするんだー?」
開かないことを楽しんでいる九条千亞。
でも鍵が開かないのなんて想定内。私だってそこまで馬鹿じゃない。
「勿論、想定してた。でも開けれるかもしれない。」
「なんだ?ヘアピンか針金かなんかで開けるつもりか?」
「いや、そんな泥棒みたいなスキル持ち合わせてないから。私が考えたのははな先生の能力を使うことだよ。」
「わ、私?」
「水を操れるんでしょ?なら水で鍵を作れないかなあ…って。」
「なるほど、やってはみるけどあんまり期待しないでね。」
そう言うとはな先生は近くの蛇口を捻る。
流れてくる水を手の上に集めていく。まるで見た目は某ゲームのスライム。
「なんかすごい能力…。」
思わず言葉に出す。
「そ、そうかな?」
集めた水を鍵穴へ流し込み、回す仕草をする。
カチャー。
鍵の開いた音がした。どうやら作戦成功の様だ。
「ありがとうございます!…危ないかもしれないので私、開けます。下がっててください。」
「危ないなら月夜さんも危ないよ。」
そう心配して私を止めようとしてくれるはな先生。美人で優しくて…反則だよ、本当に。
「それならさ、九条さんに開けさせたら?霊体なら無害じゃない?」
そうライチさんが提案してくる。
「…でも今まで会った霊って物持ってたよ?貫通はしないから何か危なくない?」
「いや、大丈夫だ。私がやろう。」
そう言って九条千亞は勢いよく棚を開けた。
開けた刹那沢山の鋏やら薬品が降ってきた。
薬品をよく見ると“塩酸”と書いてあった。危ない。
しかし、九条千は全てかぶった筈なのに、無傷だった。
「よく無事だったわね。」
「霊体だからな。細かいこと気にしてたらハゲるよ?」
「ハゲないし。まあ、その…ぶ、無事ならいいの。」
「ツンデレか。」
「違う。」
なんてコントの様に会話しているとライチさんが棚から一冊のファイルを取り出す。
「これ、全学年の全クラスの名簿が載ってるよ。」
「ありがとう、早速貞岡尚を探そう。歳が17だから多分学年は3年生。」
「何で歳知ってるの?」
「第1ステージで情報集めてた時にたまたま見たの。他にも貞岡尚を虐めてたとされるクラスメイトも名前と歳が書いてあって18歳か17歳だった。だから高校3年生の確率が高い。」
「3年生は8クラスあるみたい。とりあえず順番に見てくか。」
そう言ってページをめくって探してくれるライチさん。
ページをめくっていくと4組のところに4人の名前はあった。
「優ちゃん、4組みたいだけどどうする?教室行ってみる?」
「そうだね。何か情報が得られるかもだし、行って損はないかな。ただ、危険な可能性も高い。…まあ、何処に居ても危険か。」
そう口に出した瞬間に改めて愛姉がいない事に不安と焦りを感じる。
とりあえずここに居ても埒があかない。私達は3年4組の教室へ向かう事にした。
〈月村一夜サイド〉
「とりあえず何処に行けば…。」
月村一夜の呟き。
しばらく沈黙が続いたのちに口を開いたのは春日清彦だった。
「尚ちゃんは高校3年生。クラスまでは聞いてないけれど…。だから、3年の教室探せば多分、誰かと合流できる…と思う。」
「優…。優もその情報知ってる!行けば優に会える!!」
「そうだったのか?」
「第1ステージの時にね。私達は偶然、資料室に落ちてのスタートだったの。優の提案で情報をそこで集めててそこで尚ちゃんの年齢や、尚ちゃんを虐めてた?3人組の情報を手に入れてたの。」
「なら、3年の教室を探そうか。組までは分からなくても廊下ウロウロしてたら優ちゃんとは少なくとも合流できるんじゃない?」
紅蓮の言葉に皆頷き、3年の教室を目指した。
一方、邦孟陸奥達は職員室へ来ていた。
「誰もいないわね。」
「まだ来てないのかな?それとももう来た後、とか?」
「分からないけど、とりあえず情報集めないか?」
コウタの提案に2人は頷き、机の上や引き出しの中の捜索を始めた。
しばらく捜索をしていると…
「あ!これって…。」
「みっしぇる、どうかした?」
「これ、3年4組って書いてある日誌みたいなやつに貞岡尚って名前が書いてあるの。」
「何て書いてある?」
「えっとね…貞岡尚がいじめを受けていると養護教諭から報告あり。めんどくさいからしばらく様子見てなかったことに…。」
「酷い話ね。担任の教員日誌みたいなものかしら。」
「でも、こんなクビになりそうなこと書くものなのかな?」
「可能性はあるわよ。校長とか偉い人達の命令だったり。ようはグルってこと。」
「そんな…。」
「ま、よくある話よ。あとは賄賂とかもあるかもね。」
「なんか、ドラマみたいな話ですね。」
「それならここの幽霊って担任の先生?」
「可能性としてはあり得るけれど…。まずはその教室に言ってみない?きっと教室で待っていれば再開できるわ。」
邦孟陸奥の言葉に2人は賛同し、3年4組の教室へと向かった。
「ここ…か。」
私達が着いたその教室は鍵は開いていてすぐに扉は開いた。
木の床は所々抜けていて自分の重みで床が壊れないか心配だ。
「古いのかな?床が危ないから皆気をつけて。」
中に人の姿はなさそう。真っ暗な中、手探りで電気をつける。
人がいる様子はないが黒板に何か書かれている。
“無罪は有罪に。有罪は無罪に。”
と書かれて下に小さな字でみっちりと“許さない”文字。
「これは…きっと貞岡尚が書いたんだ。」
「ほう?何故そう思う。」
「貞岡尚は3人組の女子生徒を中心に虐めを受けていた。最初、私は刑務所のステージをクリアした。その刑務所では貞岡尚は捕まっていたって聞いた。看守記録には3人を殺してって書いてあったの。でも、同時にそのステージの鍵だった春日清彦の日記には貞岡尚は無実の人って書いてあった。」
「矛盾してるじゃん。」
ライチさんの言葉に私は頷く。
「そして黒板を見て確信したわ。貞岡尚は殺人の汚名をきせられた無罪の人間だった。」
「っ!?優ちゃん、後ろ!!」
いきなり取り乱したライチさん。
急いで振り返ると、そこには幽霊がいた。
名前はわからないが首から上がなく、首断面がゴポゴポと音をたてている。
多分、本人は何かを喋っているつもりなのだろう。
「えっと…3人の中の誰かってことしかわからないな。」
そう言いながらゆっくりと後ろに下がるとドンっと誰かにぶつかった。
「あ、ごめ…っ!?」
3人の誰かだと思ったが今度は顔面ぐちゃぐちゃに潰された幽霊が現れ、そいつにぶつかってしまった。
(囲まれた…。)
明らかに最悪の状況。
とりあえず首なしの方は危害を加える様子はなく、何かを必死に訴えている様に見える。
とー
「月夜さん、危ない!!」
はなさんがそう叫んだ後、視界が真っ暗になる。
そして次第に手に違和感が伝わる。
それは生暖かくてヌルリとした感触。
そして少し時間を空けて鉄の匂いが鼻腔を突く。
何が起こったか分からず、確認しようと身じろぎ、ようやくその光景を見ることが…いや、見てしまった。
「え…?」
何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
否、理解したくなかった。
私の上には背中から血を流し倒れているはなさん。
「な、なんっ!?」
私はもう冷静じゃいられなかった。
必死に持っている簡易救急セットで止血しようと試みた。
能力も使った。
でも、血は止まらない。
「嘘……やだ、やだ!!」
次第に涙が溢れて溢れる。
だって私のせいで巻き込まれた。
だから助けたかった。
なのに私が腑抜けて いたばかりに死にそうな今。
「つ、月夜…さ…。」
「喋っちゃダメですよ!こんなに怪我してて喋ったら!」
「なか、な…で…。」
どんどん掠れていく声。
死にそうなのに人の心配。
優しく頭を少し撫で、その手はゆっくりと降りて…。
それが死であると悟る。
「や…ヤダ…。冗談…だよね?……ねえ!!」
しかし屍となった彼女が返事をする訳も無く…。
「っ、優ちゃん、ここから一旦離れよう。」
「嫌!!だってはなさんが!こんなとこに置いて行ったら何されるか!」
「そんなの、はなさんが庇ってくれたのを台無しにするようなもんだよ!!」
「死体になって弄ばれるなんてヤダよ…。」
「まだ霊がいるんだよ!早く逃げないと本当に死んじゃう!」
頭では勿論分かっているが感性が強くて私はライチさんの話を聞こうとすることが出来ずにいた。
「マズイな。」
「…こうなったら。」
それから気付いたら私は社会準備室にいた。近くにはライチさんと九条千亞がいた。
「私…」
「ライチに感謝するんだな、月夜優。ライチが能力を使ってここまでお前を運んでくれなかったら今頃皆で仲良くお陀仏だったぞ。」
「…はなさんは?」
そう聞いた瞬間、頬に熱くなり、次第に痛みが走る。
叩かれた事に気づくのに少し時間がかかった。
「気持ちは分かるけど…今は生き残ることに集中して!!せっかく命をかけて守ってくれたはなさんに失礼。」
「っ!!」
「今出来ることは私達が1人でも多く生き残ること。ちがう?」
「……ごめん、なさい。私…。」
泣いたって何も変わらないことは分かるのに涙が溢れて止まらない。
「ちが、止めるから……止まるまで……」
必死に涙を拭っているとライチさんは優しく肩を寄せてポンポンと子どもをあやすようにしてくれた。
「今泣いておけばまた立ち直れるから。泣くのは我慢しないで良いよ。」
「う、うあああっっ!!!」
ぷつんと糸が切れた様に、私はただ泣きじゃくった。涙が枯れるまで。
「もう、大丈夫だから。ありがとう。ライチさんが一緒いてくれて良かった。」
「ん、良かった。私でよければまた助けるから。無理しない様に。」
「うん。」
そう話して廊下に出てみると人影が見えた。
警戒していたがその警戒はすぐ解かれた。
「みっしぇる!コウタさん!邦孟先生!」
「良かった、会えて。私達、情報調べて貞岡尚が3年4組だったって聞いて向かってたとこ。」
「行っちゃダメ!!!」
そう笑うみっしぇるに思わず叫んでしまった。
「え?ど、どうしたの?」
「危ないからダメなの。」
「危ない?ってことは教室に入ったのかしら。」
邦孟先生の言葉に私は頷く。
「ああ、私が説明しよう。」
気を利かせてくれた様で、九条千亞が説明を申し出る。
「あの教室には霊が居た。2人な。1人は首なしの女子生徒、もう1人は顔がない女子生徒だった。
私達は4人居たんだが…1人殺されてしまったよ。」
「えっ!?」
「殺されたのははなさんだよ。…私を庇って…っ!!」
「月夜優、唇噛みすぎだ。血が出ている。」
「私は自分が許せない。私みたいなゲスい人間なんかが生き残ってはなさんみたいに美人で優しい人が死ぬなんて…。でも…助けて貰ったこの命を無駄に出来ない。せめて皆を元の世界へ戻す為に頑張るから改めて協力して下さい。」
「水臭いよ、優ちゃん!」
「そうよ、私達は貴女に助けて貰ってばかりなんだから。今度は私達に助けさせてくれないかしら。」
「良い…の?私、命がけのことに巻き込んで…。」
「気にしすぎだって。どっちみちクリアしなきゃいけないんだから。ね?」
ライチさんの言葉に皆は頷いてくれた。
〈月村一夜サイド〉
3年の教室の並ぶ廊下に月村一夜達はいた。
「とりあえず片っ端から入っていけば見つかるんじゃない?」
「そうですね、それで行きましょう。」
3人は1組から順番に入っていく事にした。
1組、何もない。
2組、何もないと思っていたが一冊のノートが落ちていた。月村一夜はそれを拾う。
3組、腐臭が酷い。
「う…、何、この匂い。」
あたりを見渡すと、ロッカーから何かはみ出ているのを発見する。
ゆっくりと教室に入り、そのロッカーに手をかける。
「痛っ」
痛みが走り、手を見ると血が出ていた。
「月村さん、大丈夫?」
「大丈夫、です。」
ロッカーを見ると、画鋲がテープで固定されていた。それが刺さったのだろう。
ガチャー。
ロッカーを開けてみる。
「ひっ!?」
中には人間の内臓が詰まっていた。
飛び出していたのは大腸であろう部分。
「もしかして、この教室のロッカー全部こんな感じなのかな?」
そう言って柳類は月村一夜の開けた横のロッカーを恐る恐る開けてみる。
「うっ…。」
そこには雀の死体が入っていた。カッターが乱雑に刺されたままだ。
「ロッカー、あと26個あるけど…。」
口を抑えながら柳類が言う。
「…どうしよう。」
月村一夜は青ざめている。
「俺は全部開けた方が良いと思うけどね。」
そう言って紅蓮は次々にロッカーを開けていく。
結局、いくつかは空で、他には兎の死骸、メダカの死骸、血まみれのカッター、腐りかけている人の手や足、誰か分からないが生首が見つかった。
「う…く」
月村一夜は吐きそうなのを必死に堪える。
「大丈夫ね?」
心配そうにしている紅蓮も顔色が悪い。
まあ、こんな状態で平然としていられる人なんて居ないであろう。
「もうここには何もなさそうだし早く出よう。」
柳類の言葉に2人は頷き、早足に外へ出た。
続いて、隣の4組に入る。
「何、この臭い。鉄臭い…。」
柳類は臭いのする方へ向くと…
「ひっ!?」
そこには見覚えのある人が血まみれで、しかし妖艶で美しい姿でそこにいた。
まるで標本を作ってあるかの様な死体で思わず見とれてしまうほど…。
死体の主ははなと呼ばれていた人物だった。
「うそ…優の大切な人の1人…だよね?」
ショックでよろける月村一夜。
「ここに死体があるってことはここ危ないんじゃない?」
と、紅蓮が言った時だった。
いきなり何かが月村一夜と紅蓮にかかる。
それは暖かくヌルッとしていて独特な香を放つ。
“血”だ。
誰の?
気づいたら柳類の首から上がなく…ー。
「いやあっ!!!」
慌てて2人は逃げる様に走って廊下に出て教室を後にした。
廊下を走って行くと誰かにぶつかった2人。
「いたた…ご、ごめんなさ…」
「え、愛姉?」
「優!!」
「良かった、無事で。」
「っ、無事じゃないよ…」
いきなりそう言って愛姉は大粒の涙を流す。
「え?ど、どうしたの?どこか痛い?怪我、してる?」
「違うの、違…っ」
落ち着くまで話すのを待っていると紅蓮さんが口を開く。
「ごめん、優ちゃん。実は…。」
そこで私はもう1人、失ったことを知る。
「そんな…柳まで…。」
「あとはなさんも…。」
そしてさらにはなさんの死体が弄ばれていたことを知る。
「そんな…わた、私のせいで…私が…」
「それは違うだろ。言い方は悪いが彼女は勝手に君を庇った。庇わずにいたら死なないと分かっても尚庇ったのは彼女自身。君は望んでいなかったとしても彼女は望んだんだ。君が気に病む必要はない。」
「でも…私がしっかりしていたらこんな事にならなかった…。…でも、いくら懺悔してももう元には戻らない。なら、先に進むしかない…。」
「なんだ?立ち直りが早いな。心配いらなかったようだな。」
「…そうね。今までの私なら絶望して先になんて進めなかった。でも、ライチさんがさっき怒ってくれたから、だから私は目が覚めたんだ。もう間違えたりしない。」
「やはり良いな、月夜優。君は観察していて実に面白い。」
「褒め言葉として受け取るわ。とりあえず状況を整理するわね。さっき襲ってきた霊は女子高生の格好をしていて2人いた。恐らく、尚ちゃんをいじめていたって記載されていた3人のうちの2人で間違いない。そしておそらくここの鍵となる霊。2人は3年4組にいた。だけど近づいたら危ない。今はあそこに行ってできることは何もない。なら、今するべきことはもう1人居る筈の霊の捜索。3人に関する情報の収集。九条先生みたいな手助けをしてくれそうな人を探し、頼る。そんなとこかな。」
「私は2手別れて捜索したら良いと思うのだけど、どうかしら?危険なのは変わらない。なら、2手に別れたほうが効率的よ。」
ふと、邦孟先生がそう提案してくる。
「…そう、ですね。それもありかも。待ち合わせを決めておけば良いだけだし。」
「え?危ないよ?」
そう言ったのは愛姉。
「どこに何人いようがリスクは変わらないよ。とりあえず、そこの資料室に待ち合わせとして…あとはどう別れるか…だね。とりあえず、霊である2人は別れるとして…。」
「優…本気なの?」
「え?なんで?」
「っ!!わ、分かった。でもどうやって別れるの?」
「それについては考えてあるわ。」
そう言って邦孟先生が分けたのは、
私、九条先生、コウタさん、ライチさんで1チーム。
愛姉、紅蓮さん、邦孟先生、春日清彦、みっしぇるで1チームだった。
「ちょ、よりにもよってまた優と別なんて…。」
愛姉の顔が絶望満ちていく。
私も意外だった。愛姉は人見知りだから、唯一知っている私といたがる。別にしたらトラブルにだってなるんじゃないかとも考えた。それを防ぐために敢えて一緒にするんだとそう思っていた。
「…何を基準にしたんです?」
「とりあえず男手は分けたつもりよ。女性に関しては…まあ、思うところもあってね。」
「思うところ…?」
「まあとりあえず、私達はもう一体の女子高校生の霊を探すから他は任せるよ。」
「…わ、分かった。ミッションクリア次第資料室に戻るって事で良いです?」
「ええ、そうしましょう。」
それから私達は2手に別れたのだった。
〈月夜優サイド〉
「………。」
歩いてしばらく沈黙が続く。
「…心配?」
ふと、ライチさんが言う。
「うん。心配だよ。愛姉は人見知りなんだ。だからただでさえ不安なのにって…。はは、過保護かな?」
「まあ、否定はしないけど…。私が言いたいのは他の人が心配なのは分かるけど、心配ばっかで自分のことが疎かにならないかってこと。」
「大丈夫。言ったでしょ?もう間違えないって。それに、まら何かあったら助けてくれるでしょ?」
なんて、甘え過ぎかな?
「あ…」
と、何かを思い出したかの様に声をあげるコウタさん。
「どうしたんですか、コウタさん。」
「ん?ああ、俺達…皆に会う前に情報を集めようと職員室に行ったんだ。尚ちゃんの担任がクズ教師過ぎて…。イジメをなかったことにしようとしていたみたいなことを書いたのがあったよ。」
「…イジメが表沙汰になると風評被害になって自分達の立場が危うくなる。それなら自分達は知らぬ存ぜぬでやり過ごそう。って感じかな。つまり、生徒の安全より、自分達の安全ってわけね。」
「多分。邦孟先生も同じ様なこと言ってたよ。」
「まあ、これでも一応教員免許だけは持ってるからね。実習中にも色々見てきたし。それなりには…。問題は誰が尚ちゃんの担任にイジメを告発したのか。」
「なるほどな。告発した者が貞岡尚本人でない限りそいつが味方になる可能性が非常に高い。そういうわけだな。やはり君は頭が良いな。色々あって不調にならないかと思ったが要らぬ心配だったようだな。」
どうやら九条先生は私を心配してくれていたようだ。
「確かにまだこたえてるよ。でも、いくら悔やんでも許されることじゃないしましてや元になんて戻らない。なら出来ることをするまでよ。」
「そうか。」
九条先生はそれ以上はもう何も言わなかった。
「その告発した人物、養護教諭って書いてあったけど。」
「本当?あ、でも…私達、保健室に最初落ちたけど私達以外見当たらなかったし、トラップもあったよ?」
「職員室にも誰も居なかった。」
「じゃあ何処に…。」
考え込んでいると、九条先生が口を開く。
「校長室に行かないか?」
「え?」
「校長室には多分、雇っている教員の情報があるはずだ。」
「なるほど。つまり、教員の情報を元に居そうな場所の特定をってことね。」
「その通りだ。」
九条先生の提案により、私達は校長室へ向かうことにした。
〈月村一夜サイド〉
「…どうして?」
ポツリと呟く月村一夜。
「何がかしら?」
「別々に行動したら優が危ないのに…。」
「それよ。」
「え?」
「貴女は少々依存症が強いみたいね。ここではそれが命取りになるわ。貴女も優ちゃんも危険な目に合うわ。優ちゃんも最初は色んな人に依存してたみたいだけど、少しは改善されたみたいね。今まで一緒にいたのははなさんとライチさんだからどっちかの影響なんでしょうね。だから貴女とは離してみたの。」
「何…それ。私が優を死なせるって言いたいの?」
「そこまでは言ってないけど…。冷静になって考えてみたら答えが見つかるかも知れないわ。頑張りなさい。」
そう言って頭を撫でる邦孟陸奥。
それ以降は月村一夜も何も言わなかった。
「にしてもどこに向かおうか?」
と、みっしぇるが問う。
「職員室でもう一回情報を集めましょう?生徒の情報なら多分職員室に保管してあるはずよ。」
「情報?」
月村一夜は首を傾げる。
「教室には2人しか居なかったんでしょう?クラスにないものって何だと思う?」
「は?」
質問の意図が理解出来ずにいる一同。
「…答えは“部活”よ。つまりもう1人は何かしらの部活に所属していてそこに未練があると考えたら居場所に着くんじゃないかしら?」
「なるほど…。えっと、つまり部活をしてるとしたら高確率でその部活があった場所にいる可能性が高いと…。そういうことですか。」
月村一夜の言葉に邦孟陸奥は頷く。
「そういうこと。じゃ、行ってみましょう。」
一同は頷き、職員室を目指した。
「3年4組はここだったわね。」
本を立てかけるところから分厚い黒台帳を取り出す邦孟陸奥。
ページを捲っていくとふと、邦孟陸奥が口を開いた。
「そう言えば、春日さん。3人の幽霊の名前わかるかしら?」
「…わかる。俺と一夜ちゃんは名前だけ知ってる。1人は宮原香。」
「分かった。宮原香ね。」
そう言って五十音順に並んでいる名簿のページをめくっていく。
「あったわ。宮原香、出席番号26番。学級委員と風紀委員をやっていて成績も学年トップ。常に1位か2位を争っている。問題もなにもなく、先生方からの信頼も厚く将来有望。」
「えっと…違うみたいだから次の子を…えーと…内村加奈枝って子だったかな。」
言ってて自分の記憶に自信を失くす月村一夜。
「調べてみるわ。…あったわ。」
あったとの言葉に月村一夜はホッと胸をなでおろす。
「内村加奈枝、出席番号3番。部活はしていないがピアノの腕はコンクールで金賞を受賞する程の実力。音楽推薦狙い。成績も上位。内気過ぎる性格が偶に傷。他問題なし。」
「部活は入ってないけど、その子が音楽室にいる可能性あるよね。」
みっしぇるの言葉に邦孟陸奥が頷く。
「まあ、まだ判断するのは早いわ。あと1人見て見ないとね。それで、もう1人の名前は?」
「野田智晴。」
春日清彦の言葉を聞き、また探し始める。
「野田智晴、出席番号15番。根っからの体育会系で陸上部所属。2年連続全国大会優勝。次の大会でも優勝が約束されているくらの実力者。体育系の学校への志望あり。学力が若干足りていないが大きく問題はない。」
「…どっちに行くべきかな?」
「とりあえず、校庭が近いから校庭に行ってみましょう。」
邦孟陸奥の提案により皆は校庭へ向かった。
〈月夜優サイド〉
校長室の前に辿り着く。
何故か扉は薄く開いていた
「…どう、思う?罠…かな?」
「こんな分かりやすい罠あるかな?」
と、ライチさんは笑う。
「…悩んでる時間もったいないね。中に入ろう。」
私の言葉に驚いたのか九条千亞は私の腕を掴む。
「正気か?」
「正気だよ。何かあったら皆が助けてくれる。だったらただ前に進めば良いだけ。」
そう言って私はドアを開けた。
「う…。」
開けた瞬間、むせ返るような鉄の匂いが鼻腔を突く。
そこには大漁の血と2体の死体。
2体とも男性の様だ。
と、刹那ー
まるで逆再生でもしたかの様に死体だったソレは綺麗になっていき、やがて息を取り戻す。
「許してくれ…。知らなかったんだ。」
「助けてくれ…。上には逆らえない。」
2人は虚ろな目でそう良いながまた肉塊へと変わり果てる。
そしてまた息を取り戻す。
「貞岡…先生は悪く、ないぞ?」
「校長だって把握できないこともあるんだ。」
また肉塊へ戻る。
どうやら定期的に生き返らせては殺されを繰り返しているようだ。
天井にトラップでも仕掛けてあるのか、目に追えないようでどうして2人がこんなになるまで何で殺されているのかわからない。
とりあえず2人に近づかない限りは私達は安全のようだ。
2人には悪いが今は資料を見なきゃいけない。
恐る恐るロッカーに近づき、手をかける。
「馬鹿者、怪我するかもしれないんだぞ!?」
そう言いながら九条先生は私を押し退け、代わりにロッカーを開けた。
開けたのと同時に大量の刃物が落ちてくる。
「ほら見ろ、言わんこっちゃない!」
「九条先生!!怪我は!?」
「馬鹿者!保健室の件を考えてみろ。私なら大丈夫だ。それに保健室でも同じことがあったんだからもっと警戒をだな…。」
私は力が抜けてその場にへたり込む。
「よ、よかった…。」
「全く…。」
九条先生は呆れた様に笑う。
そのまま、九条先生が教師が全員載っている名簿を取り出してくれた。
「ここで見るのもなんだし一旦外に出よう。」
そう言って私は扉に手をかける。
「え?」
鍵が閉まっている。
つまみを回してみるが勝手に元に戻る。
「何でよ…。」
「もしかして…2人が関係してるとか?」
ライチさんはそう言ってエンドレスで死に続けている2人を見る。
「助けろってこと?」
でもどうやって殺されてるかも分からないのに?
「どうやって…。」
皆分からないようで沈黙が続く。
「やれやれ、仕方ないな。」
九条先生はそう言って天井の方を見る。
そして何を思ったのか本棚の本を取り出し登り始めた。
「ちょっ、何してるんですか!?」
「良いから。」
そう言って九条先生は天辺まで登った。
「月夜優、君はお人好しだな。」
ふと、九条先生が私に向かって言う。
「いや、全然?」
「お人好しじゃなかったら、私や春日清彦を仲間にしたりはせんだろう。」
「…脱出の為よ。」
「それだけじゃ私の心配なんかしないだろう?」
「…何が言いたいの?単刀直入に聞きたい。」
「君は優しい。そして聡明だ。そのせいでだいぶ無理をしてすり減っている。まあ、ライチのおかげで甘さは消えたが…君は君を大事にしない傾向が強い。誰かに頼れ。甘えろ。それと…」
その瞬間、九条先生は寂しそうに笑う。
「ありがとう、楽しかったよ。」
その言葉を告げた後、九条先生は火災報知器を目掛けて飛んだ。
一体死亡フラグたてるようなこと言って何してるんだと思ったのも束の間、九条先生は落下。
しかも、血まみれで…。
「え…?ど、どうして!?」
「っ仕掛け…火災報知器…止めた、から…。」
「そんなっ!!こんな血まみれで…ああ、そうだ!私の能力で今助けるから」
そう言って能力を使うが全然血は止まらなくて助けられないのだと悟る。
「嫌っ、嫌っ!!何で…何でよ!!」
「泣くな。…最後、笑った…顔、み…たい。」
そう言いながら優しく髪を撫でてくる。
「っ!!馬鹿…。」
急いで涙を拭いて無理矢理に笑顔を作る。
「ありがとう。沢山助けてくれて。…もし、死んだら会いに行くからあの世で待ってて。忘れたら承知しないんだからね。」
「ああ。覚えてお…」
言い切る前に髪を撫でていた手がだらりと力なく落ちる。
「っ!!」
号泣しそうになるのを必死に堪える。
「…もう少し、私を助けてて。」
九条先生の髪を束ねていた髪ゴムを外し、自分の癖っ毛の髪を束ねて付ける。
九条先生のおかげで2人の教師は蘇り、攻撃も止んだ。
「…お二人とも、初めまして。私は月夜優。貞岡尚の霊にここに連れて来られた。貴方方には情報提供を要求します。拒否した場合は…。」
「何を聞きたいのかね。」
校長らしき方の教師がそう尋ねてきた。
「貞岡尚のことと養護教諭の先生についての情報。それから貴方方が何故、貞岡尚に恨まれているのか。」
「分かった、順に話そう。まずは私達について…。私はこの翔明(しょうめい)女子高等学校の校長、永岡朔太郎(ながおかさくたろう)。こっちは貞岡くんの担任の氷流蒼須(ひりゅうそうま)だ。私達は氷流くんのクラスの虐めに関して勘違いを起こし、結果…取り返しのつかないことへなってしまってね。それが私達への恨みへつながったのだろう。」
「勘違い?」
「私は貞岡くんが内村くん、宮原くん、野田くんによって虐められていると聞かされていた。氷流くんに。」
「俺はクラスの生徒に聞いて…。でも違った。4人は被害者だった。全員。」
「私はそれを知らなかった。」
「…つまり、虐めの加害者と思われてた3人は無実で巻き込まれた被害者だった。故に加害者は他にいた。でもなら何故、氷流先生は殺されていた時に“上には逆らえない”って言ったの?」
「上は校長等、学校の者ではない。…うちのクラスに居たんだ。国会議員の娘が。その子は“恩嬢寺麗華(おんじょうじれいか)。虐めの主犯格だ。」
「でも職員室にあった貴方の日誌にはめんどくさいとか書いてありましたけど…。」
コウタさんはそういえば職員室に行って来たんだったな。
「あれは”書かされた“んだ。麗華に。」
「その書かされたって日誌に、養護教諭が言ってきたって書いてあったのは?」
すかさずそう聞いてくれるコウタさん。
「養護教諭の話は本当だ。」
「養護教諭は”白木優璃(しろきゆうり)“。新任で親が警察官の影響か正義感が強くて権力での圧力に屈しない人だった。」
「…その養護教諭の白木先生が居そうな場所、知りませんか?私、その人のこと探してて。ちなみに私は最初に保健室に落ちましたがいませんでした。だから雇用情報がありそうな此処に来たんです。」
「…そうだったのか。彼女は、部活の顧問もしていてな。合唱部だったな。もしかしたら音楽室に居るかも知れない。」
「なるほど。…でも今の話だけじゃどうして貴方方がこんなにも貞岡尚から恨まれているのかわからない。」
「どういうこと?こいつらが権力に屈して虐めを黙認してたからじゃないの?」
コウタさんの言う言葉も間違いではない。
ただ、権力には抗えないこと2人を虐めの主犯でもないのにここまで恨むだろうか?虐めの主犯の恩嬢寺麗華はどこかで2人みたいに拷問の様に殺されて生き返らせられを永遠にされているのだろうか?
色んな疑問が脳裏を駆け巡る。
「黙認しただけでこんなに拷問されるんならもっと色んな人が拷問されていると思う。でも見てきた限りじゃそんな雰囲気はない。…ねえ、心当たりはないの?」
「…貞岡尚は内村、宮原、野田とは仲が良く、養護教諭の白木のことは慕っていた。」
「虐めの主犯が恩嬢寺くんだと分かった頃、圧力がかかった。その圧力に私は抗えず、虐めは3人が主犯で仲違いの末に起こったことになり、白木くんは精神的に問題があるとしてクビになった。」
「補足して言うと野田は陸上の県大会出場停止に、内村はピアノのコンクール出場停止、宮原は有名大学内定取消しになっている。」
「つまり、仲良かった、あるいは慕っていた人物が辛い状況になりそれが許せなくて?でも…まだ腑に落ちないわ。」
「…校長へはとばっちりだ。本当に恨まれているのは俺だから。」
そう目を伏せながら悔いるように氷流蒼須はポツリと言葉を漏らす。
「…それは何?」
「俺はこの手で3人を…野田、内村、宮原を殺めた。」
「ど、どうして…。」
「脅されていたんだ。3人を殺さないと娘や家内の身に何が起こるかわからないぞと。」
「…それでやむなくってこと?」
「しかも俺は更に命じられていた。その罪を貞岡にきせろ、と。」
「なるほど。全てが繋がったわ。とりあえず、貴方は私達と来て貰う。3人を成仏させるには貴方が必要。」
「わかった。」
「じゃあ、音楽室に行ってみましょう。」
私達は養護教諭がいることを願って音楽室へ向かう事にした。
皆が出たのを確認し、振り返る。
「九条先生…ありがとう。」
届かないと分かってはいるがそう残し私部屋を後にした。
〈月村一夜サイド〉
校庭へと来た月村一夜達。
その校庭の隅に陸上用のハードルが置いてあり、1人の人影が佇んでいた。
ゆっくりと近づいてみると、駅伝等で着る様なユニフォームを着た少女が悲しそうに校舎を眺めていた。
やがて、少女は月村一夜達に気付き声をかけてきた。
「アンタらは?」
「っ、月村一夜、です。もしかして、野田智晴さん…ですか?」
恐る恐る尋ねると野田智晴はニカッと人懐っこい笑みを浮かべる。
「そだよ!私のこと知ってるんだ?」
「えっと…」
言葉に詰まっていると、みっしぇるが助け船を出す。
「貴女は暴走?してないんだね。」
「ああ、2人に…加奈とかおりんに会ったんだね。」
「教えてくれない?3人の内、1人だけ暴走してる訳。それが誰なのか。」
邦孟陸奥の言葉に野田智晴頷く。
「暴走してるのはかおりんだよ。宮原香。私が正常なのは…助けたい人が居るから。」
「助けたい?」
月村一夜の疑問は皆も一緒の様で皆野田智晴の言葉を待つ。
「私さ、悪い子なんだよ。担任の先生…。結婚してるのに、子どもだっているのに…。不倫させてさ。…私は担任の氷流先生と付き合ってた。まあ、私は遊ばれてただけなのかもだけどさ。それでも…本気で好きだった。」
「その先生を助けたいの?」
「うん。先生は校長室で尚に拷問され続けてる。だからいつか助けたいって。でも…私は此処から動けない呪縛にかかってるみたいで入ろうとしたら壁みたいなのに跳ね返されてさ。…はは、情けないよね。」
「そんなことないよ。」
「でも…なんで貴女は担任の先生がそんなに好きなの?悪いけど、私は職員室でその先生の学級日誌を見たわ。そこには教師有るまじき発言が書かれていた。とても行為を寄せられる様な人には思えない。」
邦孟陸奥の言葉に皆息を飲む。
その言葉を引き金に暴走して襲われないか懸念したのだ。
「あれは書かされたんです。先生の意思じゃない。」
「どう言うことかしら?」
「先生は脅されていたんだ、権力のある奴にさ。大人の事情って奴だよ。うちのクラスには権力者の娘がいて、先生達は毎日そいつのご機嫌取り。何人か違う先生もいたよ。担任の氷流先生も最初は気にしてなかった。でも…私達のグループが先生に良くして貰ってたのが気に食わなかったみたいでさ。そいつ、先生を脅したんだ。私らと仲良くしたらクビにするぞって。でも、先生は聞かなかった。だから要求…脅しはどんどんエスカレートしてって、私達を殺さないと家族に手を出すって言われたみたいで、私達は殺された。」
「想い人殺されたの?そんなの…」
「でも好きなのね。」
「先生はさ、男勝りでスポーツしか取り柄のないあたしを可愛いって凄いって沢山褒めてくれたんだよ。確かに、スポーツは褒められたりしてたけど、可愛いって初めて言われた。それに私は勉強できない馬鹿だよって言ったこともあるけど先生は笑って一緒に頑張ろうって馬鹿にしなかった。だから私は好きになった。殺される時も先生なら良いって…脅されてるし仕方ないって。」
「なるほどね。1つ聞いて良いかしら。」
「なんだい?」
「2人の霊に会った子がいてね。暴走していて仲間が殺されたのだけど、2人は脅されてたって知っていて暴走してるの?」
「…暴走してるのはかおりんだけだよ。かおりんは正義感が人一倍強くてそれが暴走に繋がってしまった。脅されてるの知ってたのは私だけ。先生は他には話すなって言ってたから私はそれを守ってた。でもそっか…かおりん、そんなに追い詰められて…。」
「段々と分かって来たわね。とりあえず一旦待ち合わせ場所に行って皆を待ちましょう。」
「え?この子はどうするんですか?」
「その子、ここから離れられないならここにずっといるでしょう。だから一旦戻って情報を報告しようって話よ。」
それから月村一夜達は待ち合わせ場所である資料室へ向かった。
〈月夜優サイド〉
音楽室の前に着いた。
中からはピアノの優しい音色が聞こえて来る。
「入る…よ。」
ゆっくりとドアを押すと、あっさりとドアは開いて中で美人な女性がピアノを弾いていた。
「なんて…なんて綺麗な音色。」
思わず聞き入ってしまう程に綺麗で…しかしどこか悲しい、そんな音色。
「優ちゃん?大丈夫?」
声をかけられるハッとする。
心配そうに自分の顔を除き込んでいるライチさん。
「え?何が…?」
「いや…泣いてるから。」
言われて初めて、自分が泣いていたことを知る。
「え…?おかしいな。」
涙を必死で拭うが、とめどなく溢れてくる。
「大丈夫ですか?」
ピアノの音が止み、ピアノを弾いていた女性はいつのまにか優の目の前にいた。
「すいません、あまりにも感動しちゃって。」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。」
「私、月夜優って言います。貴女が白木優璃先生、ですか?」
「ええ、そうよ。何故、私の名を?」
「…俺が教えたんだ。」
そう言って、今まで廊下にいた氷流先生が姿を見せる。
「…貴方、どうやってここに。」
「助けられたんだ。彼女達に、な。」
「ん?どうやってって言ったってことは白木先生は氷流先生と校長先生が校長室で拷問を受け続けていたことを知ってたってこと?」
「…ええ、よく分かったわね。私は貞岡さんに色々聞かされてたから。」
「聞かされて…?この次元に貞岡尚がいるの!?」
「いえ、今はいないわ。彼女は次元を渡り歩く事ができるの。もうここには来ないって言ってたわ。」
「…他には?」
「彼女は言っていたわ。ここの世界はやがてなくなる、と。解放の旅人が来たって。」
「解放…旅人…。それって私たちかも。解放って成仏とかそういうやつじゃないの?」
「そこまではごめんなさい。分からないの。」
「それは置いといて、私達に力を貸して下さい。」
「…どういうことかしら。」
「…暴走している生徒の霊を助ける為に白木先生、貴女の協力が必要なんです。」
この世界にいる霊は全員、何かしらの役割がある。つまりは白木先生にも何か重要な役割があるはず。
「協力はいいけれど、貴女は一体どうするつもり?」
「…私、歌います。」
「え?」
驚いたのは白木先生だけじゃないようで、その場にいた皆私のことを目を見開いて見ている。
「私を感動させた白木先生のピアノ。それから私の歌の能力があれば…正気に戻せる気がするの。」
「…確信がないのにそんな提案をするのね。危険よ。」
「危険でも大丈夫です。私には、守ってくれる人が沢山いる。そこで危ないって手をこまねいていても運命は変わらない。なら、私は賭けでも可能性が1でもあるなら賭ける。それに、私のモットーはしないで後悔するよりして後悔した方が良いだから。」
はなさんや九条先生がいなくなるまで思い出せなかったけれど…。
「…そう、分かったわ。でも問題があるわね。」
「え?」
「暴走している生徒の霊は宮原香。その霊は今、3年4組の教室にいる。一方、ピアノはこの音楽室にしかないわ。」
「だったら連れて来れば良い。その宮原香の霊を。」
「どうやって?暴走してるのでしょう?」
「それについては考えがあるの。…とりあえず、一旦仲間と合流したいからここで待ってて下さい。」
「分かったわ。…気をつけてね。」
そう優しく微笑んで手を振っている白木先生を背に私達は音楽室を出て、資料室へ向かった。
合流した私たちはお互いの情報を交換。
「なるほど…。とりあえずそのグラウンドにいた野田智晴の霊は氷流先生をグラウンドに連れていけば解決だね。宮原香の霊も私がなんとかできそう。…問題は内村加奈枝の霊ね。」
「どうして?優に襲って来なかったんでしょ?何か問題あるの?」
「彼女の未練が、成仏の為の方法が分からない、でしょう?」
邦孟先生の言葉頷く。
「首なし霊だから首から上がこの学校のどこかにあって探して戻してあげるとかじゃない?ま、王道だけど。」
ライチさんの言うことは私も考えていた。しかしそんな都合良く成仏するだろうか。
と、ネガティブな考えを振り払い、私は肯定する。
「そうだね。まあ、それは後で考えるとして、まずは宮原香の霊を成仏させる。その後に野田智晴の霊。それから内村加奈枝って順にしましょう。」
「順番に何かこだわりがあるのか?」
氷流先生がそう尋ねてくる。
「貴方には沢山働いてもらわないといけないもの。野田智晴の霊に会ってすぐ成仏されても困るし。」
「でも優ちゃん、あんな暴走してやつどうやって成仏させるつもり?」
「…この作戦にはライチさんの能力も必要。私の為に1回使っちゃってるからここで使用したらもう後一回しか使えなくなっちゃう。それでも…協力して 、くれる?」
ライチさんは優しく笑い私の頭を優しく撫でてくれる。
「大丈夫だよ。まだ1回使えるって考えれば良いんだよ。作戦、教えて?」
「っ!!あ、ありがとう。まず、コウタさんとライチさんで教室に入る。ライチさんが危ない時はコウタさんの
能力ですぐ脱出して。上手く行けば、時を止めて2人の霊を音楽室へ連れて来て欲しい。そうしたら私がどうにかする。」
「…分かった。行くよ、コウタりん。」
「あ…ああ。」
私は2人の無事を祈りながら音楽室へ向かった。
「う…血生臭い。」
3年4組の扉を開けた瞬間、酷い鉄と生ゴミを混ぜた様な強烈な匂いが2人を襲う。
「…はなさんっ」
月村一夜に話を聞いていた通りの姿でそこに飾られていた。
「あっちは柳さんだ…。」
空の棚の真ん中に、首から上が飾られていた。
身体の方はバラバラに解体され、辺りに転がっている。
「マダギダ…」
低い声が響く。
「どこ…?」
慎重に身構えながらゆっくりと2人は前に進む。
「敵、的、滴、笛、摘、扚、踢、逷、踧、迪、嫡、テキ、てき…!!」
宮原香の霊が目の目に来る。
“てき”と連呼しているその顔は般若の様に禍々しく、空気はピリピリとしている。
「ゴポ…ゴポ…。」
もう1人の霊、内村加奈枝が宮原香の隣に来た。
「ドメ、ルナ!!」
どうやら何故か、内村加奈枝は宮原香を止めようとしている様だ。
「…とにかく時間を」
能力を使おうとした時、顔に熱い何かがかかる。
それはヌルっとした感触で…遅れて独特の匂いが強く匂ってくる。
「え?」
疑問に思いつつ、能力を使い時間を止める。
「っ!!う、嘘…」
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「ごめん、私がもっと早く能力を使えば…。」
そう呟きながらも動く事はやめない。
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「私がしっかりしなきゃ…。」
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最後に内村加奈枝の霊を連れてきて7秒、能力の効果は切れ、時間が再び動き出す。
「ア…?」
教室に居た筈がいつのまにか移動していることに戸惑っている様で宮原香は狼狽、動きが止まる。
その時、ピアノの旋律が響き渡る。
「セン、セイ…?」
ピアノの音に反応する宮原香。
やはり白木先生のピアノには人の心を動かす力があるようだ。
「~♪」
私はピアノに合わせて歌う。
「…?歌、ダレ?」
ピアノの方へ向かっていた足を止め、私の方を向く宮原香。
「~♪」
気にせずに私は歌う。祈りを込めて。
「優しい、声…。それに、このピアノは…」
やがて、宮原香は正気に戻ったのか、あの時の鬼の様な形相は消え頬には涙には涙が伝っていた。
「泣いてる、の?」
私は近づき、涙を拭いてあげる。
抵抗も攻撃もなく、彼女はただ立ち尽くしていた。
「大丈夫?」
そう聞くと、彼女は小さく頷く。
「えっと…私のこと、覚えてる?」
そう聞くと彼女はビクリと身体を震わせる。
「…ご、ごめんなさい、わた…私…っ!!」
どうやら自分がしたことを覚えている様で、震えている身体を抱きしめている。
「…大丈夫。私は怒りたい訳じゃない。お話したいだけ。」
彼女を抱きしめ、優しく背を撫でると次第に落ち着きを取り戻す。
「私は月夜優。貞岡尚ちゃんの霊にここに連れて来られたの。ここから出るには貴女達を成仏させなければいけない。…貴女が怨んでいる氷流先生に謝らせたら、貴女は未練とかなくなる?」
彼女は小さく首を横に振る。
「じゃあ教えて?貴女のして欲しいことを。」
「…どうして、私達を殺したのか、知りたい。それに、皆が成仏するまで私は成仏できない。」
「分かったわ。なら私についてきて。」
「どこに…?」
「野田智晴ちゃんのいるグラウンドよ。」
それから私達はグラウンドへ着く。
「智晴!!」
「え?かおりん!?」
野田智晴は驚いた様で、目を見開いている。
「正気に戻ったんだね!」
嬉しそうにこちら駆けてくる。
「智晴…。」
「…先生!?」
驚きのあまりか足が止まる野田智晴。
「…すまなかったな。話は全て彼女らから聞いた。俺は…教師失格な上、最低な男だぞ?どうしてそんな俺のことを未だに心配し好意を寄せてくれてるんだ?」
「…先生は私に初めて可愛いって言ってくれた。私は男子みたいだよって言ったらさ、スポーツをしてる私はキラキラしててアイドルみたいだって言ってくれて…。すっごく凄く嬉しかったんだ。コンプレックだったことを褒めてくれるなんてさ。」
「…君は何故、俺に殺されると知って尚逃げなっかた?俺は君にだけ教えていた。」
「先生の家族を殺されるかもしれなかったんでしょ?仕方なかったんだよ。それに、私はどうせ死ぬなら先生の手が良かったから。」
「そう…脅されてたのね、先生は。」
そう悲しげに呟く宮原香。
「とりあえず皆揃ってる今、一つ聞きたいことがあるの。…どうして内村加奈枝の霊だけ顔がないの?」
ずっと気になっていた疑問を私は口にする。
「それは…私の殺した後に恩嬢寺が…。」
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邦孟先生がそう言った時、「待ってください」と愛姉が叫んだ。
普段からは考えられない声に私ですら驚いた。
「あ、ご、ごめんなさい。でもどうしても知って欲しいことがあって…。」
「知って欲しいこと?」
「うん、これ…拾ったの。中身はまだ見てないけれど…。」
そう言って愛姉に渡されたのは一冊のぼろぼろのノート。
開くと、そこには優しい雰囲気で描かれた絵が姿を見せる。
「これ…白木先生クリソツなんだけど。」
と、次のページには、宮原香、野田智晴が描かれており、さらに次には別の少女が描かれていた。
どれも見ているだけで好きって気持ちの伝わってくる優しい絵。途中数ページ飛んだあと、絵柄がガラリと変わる。
「っ!?」
殴り書きをしたかの様な絵。周りには憎いの文字。
「な、に…これ。」
「…これは貞岡さんの描いたものよ。」
そう白木先生は言った。
「この殴り書きは…誰?」
「多分、恩嬢寺さんでしょうね。貞岡さんは絵を描くのが好きでね。前、好きな物や感じたことを絵で表現するのが好きだと言ってたわ。」
「…もしかしてこの3人目の女の子の絵って内村加奈枝?」
白木先生は私の問いに頷く。
「…じゃあやっぱりあの首…。」
「愛姉?」
「うん、間違いないよ。髪型一緒だったもん。」
「じゃあ、取りに行こう。」
そして私と愛姉と邦孟先生は3年3組へと向かった。
教室のドアを開けると鉄と生臭い匂いが強くむせ返りそうになる。
ロッカーは全部空いてて首はすぐに見つかった。
「この子だね?」
私が首を取った時、同時に愛姉に突き飛ばされた。
「っ!!え…?」
いきなりの事でどうしたのか聞こうとしたがそこには血に塗れた愛姉が横たわっていた。
背中には沢山のガラスの破片が刺さっている。
「いや…嫌、だよ…。」
私は能力を使い、傷を塞ごうと試みるが血は止め処なく溢れている。
「嫌…なんで、なんで!!」
しかし返事は愚か、ピクリともしない。
恐る恐る首に触れると脈が止まっている事を知る。
「いやああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!」
思わず絶叫してしまうと黒い影の様な何かが沢山出てきてこちらへと迫ってくる。
「月夜さん、逃げるわよ!!」
「嫌…愛姉を置いてなんか…」
「何言ってるの!!早く!」
そう無理矢理私の手を引いて邦孟先生は走る。
黒い影の様な何かはこちらを追ってくる。
「っ!?」
途中邦孟先生が足を止める。
「反対からも来たわ…。」
と、邦孟先生はキョロキョロと周りを見渡すと、私の手を引き再び走り出す。
途中、脇道があり、私は其処へ突き飛ばされた。
「早くいって!!」
そう言われた刹那、黒い影は邦孟先生を取り囲む。
「サビシイ、イッショイコウ」
「ゼツボウ…コドク…イタイ…」
影はそうブツブツと喋りながら邦孟先生を覆う。
「かは…が…」
邦孟先生の悲痛な声が漏れている。
きっと私を庇って、今目の前で殺されているのだ。
「ごめん、先生!」
私は走ってグラウンドへ向かう。
生首を抱えながら…。
グラウンドに着く。
あれから影は追ってくる事はなく、私は無事に辿り着く事が出来た。
「優ちゃん!!」
心配そうに真っ先に駆けてきたのはライチさん。
「ちょ、泣いてるの?どうした?」
「っ、わ、私のせいで…2人が!!」
堪えきれず私はその場に泣き崩れる。
「優ちゃん…。」
それ以上は皆何も言わずに私が落ち着くのを待ってくれた。
「その黒い影はここで死んだ人達の怨霊よ。」
私が落ち着いた後、白木先生がそう教えてくれた。
「何で…私達のとこに来たの?今まで居なかったのに…。」
「それは、負の感情に寄って来たのよ。貴女のお姉さんが死んだ時、強い負の感情に囚われた。それに引き寄せられたのよ。」
「でも、それならはなさんが私を庇った時に出てきたはずだよ。」
「出たよ。」
そう言ったのはライチさん。
「私が時間を止める前にそいつらも寄って来たんだよ。逃げるのに必死だったから暴走した宮原の霊がなんか能力使ってると思ってたし。」
「…そう、ですか。ねえ、白木先生、一つ聞きたいの。その怨霊に捕まったらどう…なるの?」
「…端的に言うなら死んでしまうわ。とてつもない力で抑えられて指の力だけで肉をぶちぶちと引きちぎられて…。」
「も、もういい、やめて…。」
聴いてて吐き気がする。
じゃあ邦孟先生はどんな激痛に晒されたのだろうか。
きっと想像も絶する程に違いない。
「とにかく、顔を持って来たよ。」
そう言って私は抱えていた生首を首なしの霊に差し出す。
霊が首を受け取ると徐々に融合していき、やがて普通の霊になる。
「ありがとうございます。」
優しい笑顔でお礼を言う内村加奈枝。
「貴女の未練は何?顔を戻してはい、終わり、じゃないんでしょ?」
「はい、でも顔を戻してくれた今、喋る事が出来るから大丈夫です。」
「…そういえば、貴女は正気なのね。」
私がそう思ったのには疑問があったから。
一番酷い殺され方をされているのに暴走していた宮原香を止めようとしたりしていたからだ。
「…私も智晴ちゃんと似てる、から。」
「どういうこと?」
「私の場合は想いを伝えられなかった未練。告白する勇気が…ううん、私はいつも引っ込み思案で…だからせめてこの想いを伝えたかったの。」
「その相手は探さなきゃいけない?」
私の問いに内村加奈枝は静かに首を横に振る。
「…白木先生、私が好きなのは白木先生です。…最初は勘違いだと思ってたけれど、智晴ちゃんの話を聞いて勘違いじゃないって確信したんです。」
内村加奈枝の告白に白木先生は困った顔をしながらごめんなさいと声を漏らした。
「うん、困らせてごめんなさい。」
断られたが告白という目的を達成したからか内村加奈枝の身体が透け始め、成仏が始まった。
やがて他の霊も成仏し始める。
皆、「ありがとう」と言い残していった。
やがて、次のステージへ行く為の黒い渦が現れる。
「優ちゃん、行こう。」
「…うん。」
本当は行きたくない。もう誰も失いたくない。
でも進まないと今までの犠牲が無駄になってしまうから…。
壊れゆく心を抱きしめながら私は行こうと差し出された手を取った。
その手はとても暖かくて、この先、更に心が蝕まれるという恐怖を薄れさせた。
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