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ドロシーには指一本触れさせない

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「では、ここが君の仕事場ですから。しっかりと仕事はしてくださいね」

「……わかってる」

 俺はディランの話を受けることに決めて、帝国のとある場所にある工房でブライアー家に武器を作ることになった。やっぱりドロシーに何かされる恐れがある以上、俺がこの要求を呑む以外の選択肢は考えられなかったから。

 もちろん、このまま黙っていうことを聞き続けるつもりは毛頭ないが。

「ちゃんと仕事をした分の成果はしっかりお支払いしますから。もちろん、あなたが粗末な武器を作れば……どうなるかはわかっていますよね?」

「……ああ。てめぇらには絶対ドロシーに指一本触れさせないからな」

「随分と強い口調で言ってくれますね。まぁ、せいぜい良い武器を作り続けてください。そしたらお互いにとっても良いですからね。では、私はこれで」

 嫌味ったらしく下手なことをしたらドロシーに危害を加えるぞと脅して、ディランはその場から去っていった。

「……作るか」

 とにかく、今はさっさと武器を作って仕事を終わらすことが優先だ。普段とは違ってドロシーと離れたところで武器を作らないといけないから、正直早くドロシーに会いたい気持ちが強い。

 ドロシーが本当に大丈夫なのかっていう心配はもちろんあるけど、それ以上に……俺はドロシーと一緒にいたい。ドロシーと一緒にいると俺の心も落ち着くし、何より一緒にいて楽しいから。

 そんな幸せをぶち壊されないためにも、この難局は絶対に乗り切らないと。

「それにしても、素材が一級品しかないな。金がありあまってんのか?」

 武器を作っている最中に、ふとそんなことを思った。なにせここにあるのは手に入れるのが難しいものばかりで、なかなか手に入れることができないものだからだ。貴族だから金があるのはわかるんだけど、それにしたって揃いすぎている気がする。帝国と繋がっているからか? それとも、何か薄汚い金で買ったものなのか? 

 まぁ、少なくとも正当な方法で手に入れたものではなさそうだ。そこを辿ればディランの弱みを握れるのかもしれないが……下手に動き回ってドロシーに危害が及ぶことになるのは困る。とにかく今は辛抱の時、あいつがボロを出すまで耐え抜くしかない。

「ほら、できたぞ」

 そしてようやく依頼されていた分の武器を作り終えて、それを監視しているやつに渡す。もしかしたらもっと作れとか脅されるのかと思っていたが、そう言ったこともなく素直に帰してもらえた。とにかく良い武器を作ればそれで良いのかもしれない。

「……ドロシー」

 帰りの馬車の中で、俺はずっとドロシーのことを考え続けていた。やっぱり心配なんだよ、ドロシーが無事かどうかが。今の俺にとって、ドロシーは心の支えと言っても過言ではないし。どうか何事もなく、ドロシーにおかえりと言ってもらいたい。ただ、それだけを願い続けていた。

「……ドロシー!」

「エリック! おかえり……!」

 家に着くと、ドロシーは外で俺のことを待ってくれていたようで、俺たちはぎゅっとお互いに抱きしめあいながらお互いの温もりを感じあう。良かった、本当に良かった……。

「エリックが無事で良かった……。お兄様に、酷いことされているんじゃないかって心配で……」

「それは俺もだよ、ドロシー。……ご飯食べようか。二人で美味しいもの、たくさん作ろう」

「うん! あ、でも……」

「ど、どうした? な、何かあったのか?」

「こ、コレットさんもいるから、三人だなぁって」

「あ」

「そうだよ、私いるから」

 そうだった、コレットがドロシーのこと見守ってくれてたんだ。あまりにドロシーのことが心配で、つい忘れてしまってた……。

「す、すまんコレット。それじゃあ、三人で一緒に食べよう」

 そんなわけで俺たちは三人で夕飯を作って、至福の日常を過ごした。
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