上 下
63 / 70
竜将軍大会第六回戦・決勝:不死身のクルシュ VS 無傷のアルハザット

・大本命クルシュのお祭り騒ぎの入場パレード

しおりを挟む
 夜が明け、決勝戦の日がやってきた。
 今日の私のコンディションは絶好調。
 肉体、精神とも申し分なく充実している。

 今日はティティスの遅刻もなく、小心者のカロン先生もティティスが首に縄を付けて引っ張ってきてくれた。

 これにより私は両手と背中に花。
 さらに左後ろに阿修羅。右後ろに恵比寿様を連れて、イーラジュ邸を出立することになった。

 ちなみに阿修羅はソウジン殿、恵比寿様は大商人にして貴族ホスロー殿である。

「お待ちしておりました。では、応援に参りましょうか、ナフィ様」
「昨晩はお騒がせしたな。お前の試合、今日はしかと見届けさせてもらう」

 武家街の茶屋の前を通ると、ヒビキさんとナフィが合流した。
 二人の合流にココロさんもティティスも嬉しそうだった。

「あの星が見えるか、あんちゃん? あれこそが巨人の星。俺たちベースボーラーの魂は、最期はあそこを目指して昇天すんだってよ……」
「昼間に星なんて見えるかよ……」

 橋の前にやってくると、一回戦の対戦相手だったバース・マルティネスが人の迷惑も考えずに、橋の手すりの上で素振りをしていた。

 バースは勝手に私たちの後をついてきた。

「あっ、きたよ、ナギ!」
「やっとご登場か。やあ、クルシュ! 君のおかげでボクらあれからラブラブだよっ! 今日の試合、ボクも応援させてもらうよ!」

 華やかな宿屋町を横切ると、三回戦の相手だったナルギスとハディージャが私を待っていた。

「試合前にイチャイチャすんな、気が散るだろ……」
「だったら君も彼女を作ればいい! ああ、ハディージャ!」
「ナギ……ダメよ、人が見ているわ……っ」

「ふっ、恥ずかしいのかい……? 男どもに見せつけてやろう、君の美しさを!」

 彼らは的確に私の戦意を削ぎつつ、断りもなく後ろを付いてきた。

 大闘技場を目指してさらに北へ進むと、女性たちの集団が大通りの左右を埋め尽くしていた。

 しかし私たちが通る隙間が中央に残されており、その中央には見知った男が立っていた。

「僕はキョウの太陽、君は星さ」
「いや、意味わかんねーよ……」

 しれっと人を星にして、自分が太陽ぶるところがさすがのロシュ・ジャリマフである。

「僕と僕のファンたちが君を闘技場まで送ろう。いや、君のおかげで、最近絶好調でね。演技の輝きが増したと皆が言ってくれる」
「……ま、いいか。じゃあ頼んだ。いっそ派手に頼むぜ!」

「ああっ、お祭り騒ぎならこのロシュ・ジャリマフに任せてくれ!!」

 ロシュは私の20メートルほど先を歩いた。
 そしてその背後の行列の最前列にいる私に、自分に集まった人々の視線を誘導する。

 さながら今日のロシュは、チョウチンアンコウの発光器官だった。
 たかが闘技場への入場が、とんでもない大パレードに発展していった。

 とてつもない熱狂が行く先々に沸き起こり、キョウの民はクルシュの優勝を願ってくれた。
 いったいどれだけの金が私に賭けられているのやら、想像すると恐ろしくもあった。

「さすがに、恥ずかしいですね……」
「前代未聞だよ、こんなのーっ! 自分が倒してきた選手にさっ、入場をエスコートされるとかさっ、熱いよこれっ! クルシュやるじゃん!」

 私たちは闘技場のレッドカーペットの前までやってくると、そこで行進を停止させた。

「星になれっ、星になってこい、あんちゃんっ!!」

「たとえ相手がどんな奥の手を隠していようと、君の勝利への渇望が栄光に導いてくれる。ハディージャと見守っているよ」

「いやぁ、楽しかった! これもまた一つの演劇の形の一つなのだろうな! 後は君が勝ってくれたら申し分ない。がんばってくれ」

「勝てば屋敷で酒宴だ、待っているぞ。まあ、負傷中のイーラジュ様に酒は飲ませられないが、その分は我々で飲むとしよう」

 私はかつての対戦相手に激励され、両手と背中に花を抱えてレッドカーペットから堂々と入場した。
 左右から届く熱い激励が私を奮い立たせてくれた。

 受付の前にやってくると、イーラジュ様が腹に包帯を巻いて私を待っていた。
 この男がわざわざこんなことをするなんて、いよいよ決勝戦である実感がわいてきた。

「今のオメェなら順当に勝てる相手だとは思うんだが、世の中何が起こるかわかんねぇ」
「おう、油断する気はねぇぜ」

「へっ、マシな顔するようになったじゃねぇか。……とにかく勝ち上がって、将となり、俺に楽させてくれよな」
「師匠までそんなことを……。将軍になんて興味ない」

「なぁに、尻に火が点きゃ気も変わる。とにかく勝って、地上最強の男となりな」

 イーラジュ様は聖帝に作られた究極の生物兵器。
 勝てなくて当たり前の存在だ。

「師匠がいる。師匠に勝たなきゃ最強にはなれん」
「俺の正体、知ってんだろ……? 俺は竜将大会の舞台に立つ資格なんてねぇのさ。だから、これに勝ったら、お前が最強になんだよ」

「だが、本当の最強は師匠だ。いつか追い越してやる」
「そうかい、そりゃ楽しみにしてんぜ!」

 私は一歩進み、後ろのティティス、ココロさん、カロン先生に振り返った。

「行ってきます。どうか応援、よろしくお願いします」

 この催しも今日で終わり。
 そう考えると物寂しい。

「例の話は編集長様が聞いてるべ! 応援しとるべ!」
「忘れないでよ、あの話! もうその予定で計画組み直してるんだから!」
「クルシュ様ならば必ず勝てます。私、クルシュ様の努力を知っていますから……!」

 闘志が増したところで私は感謝を伝えて、西・控え室に向かった。
 戦意は十分。過去最高のコンディションだ。

 どんな相手だろうと、もはや負ける気などしなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...