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竜将軍大会第五回戦(準決勝):最強厨クルシュ VS 百鶫長ナフィ

・試合前、帝からの招待状

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 竜将大会準決勝の日がやってきた。
 私は正午までに予定を片付けて、外廊下でゆっくりとティティスとココロさんを待った。

 ココロさんは朝から屋敷の仕事で慌ただしく、ティティスもティティスで昨日から姿が見えない。

 売り掛け金の回収や、経費の支払い。回収した金を使っての増刷。
 昨日のティティスは相当に忙しかったのではないかと思う。

「ティティス、まだきませんね?」
「新商会の運営がよっぽど忙しいのでしょう」

 約束の正午を過ぎてもティティスは現れなかった。

「そうみたいです。すごく忙しくなると言っていましたから……」
「どうしましょうか? 先に行ってしまいますか?」

「……ダメです。だってそれは、フェアではありません」
「フェア……? まあどちらにしろ必ずここにくるでしょう。パトロンぶるために」

 私たちはしばらく何をするわけでもなく、庭のアジサイやヒメシャラの花や晴天の空を眺めて過ごした。

 そうやって二人だけでたたずんでいると、この前のヒビキさんの言葉を思い出した。

「何か……?」
「い、いえ、何も! 何も!」

 ココロさんは落ち着いている。
 私に心惹かれているような様子などどこにもない。
 残念だ。やはりヒビキさんが大げさにとらえていただけなのだろう。

「ごめん二人ともっ、お待たせ……っ!!」

 玄関先が慌ただしくなり、ティティスが庭を回ってここ外廊下に駆け込んできた。

「おせーぞ」
「ホントごめんっっ!! 仕事、てんてこ舞いの、ぐるぐるのっ、しっちゃかめっちゃかでっ、もう死にそうっ!!」

「大会が終わったら手伝えんだけどな……がんばってくれてありがとよ。……さて、では行きましょうか、ココロさん」

 私は外廊下から庭に下りて、ココロさんに手を差し伸べた。
 ココロさんは恐る恐る男の手に触れて、私の力を借りて立ち上がった。

「それいいなぁー、今度あたしにもして?」
「なら遅刻しないこったな」

「いやホント忙しくて……でもねっ、とんっでもない稼ぎになったよっ!!」
「その話は試合が終わったらな」

「うんっ、楽しみにしててよ! すっごいよ!」

 私は両手に花を抱えて屋敷を出た。
 左手にティティス、右手にココロさん。
 カロン先生は同伴して下さらなかったが、やはり気分のいい出立だった。


 ・


 都の人々は私をお祭り騒ぎで応援してくれた。
 中には青騎士物語の絵巻を広げて、買ったぞと私にアピールしてくれる人たちもいた。

 私たちは大闘技場への道を練り歩き、野次馬の行列を背後に抱えて、それはもう騒がしい大騒ぎで行進した。

 大闘技場の前には見渡す限りの人の海が私たちを待ちかまえていて、レッドカーペットを進むクルシュ選手に割れんばかりの大歓声を送ってくれた。

 冴えない書店員だった頃の私ならば、過大な評価とプレッシャーに縮み上がってしまうところだが、ククルクルスのクルシュは決して動じなかった。

 歓声は私の闘志に変わり、それがコンディションを高めてくれた。

「ぁ……姉様……」
「あーっ、ヒビキさんだーっ! 久しぶりーっ!」

 受付にやってくると、ヒビキさんが私の入場を待っていた。

「本日はよろしくお願いいたします」

 ヒビキさんは私に深々とお辞儀をして、ティティスとココロさんにはやさしく手を降ってから、東控え室側に消えた。

「え、何っ!? 今の何っ!?」
「後で話す」

「どういうこと!?」
「ちょっと頼まれごとをされただけだ」

 ココロさんは姉の後ろ姿を見送っていた。
 もう人混みに隠れてしまって見えないというのに、さっきからずっとあちらを見つめている。

「ティティス、ココロさんを観覧席に頼む。なんか心配だ……」
「おっけー。ほら行くよー、ココロ。話は上で聞くからさ」
「う、うん……。クルシュ様、どうか姉様とナフィ様のために、この試合、勝って下さい……」

 失念していた。ココロさんはイーラジュ様に幼い頃より仕えていた人だ。
 私なんかよりよっぽど事情に詳しいのだろう。

「がっつり賭けといたから勝ってよねっ、クルシュ!」
「バカな賭け方すんなっっ!! って言ってんだろっ!! はぁ……っ、行ってまいります、ココロさん。貴女と姉君のためにも私は必ず勝ちます」

 私は二人と別れて、西・控え室に向かった。


 ・


 私の控え室の前には見張りがいなかった。
 もしやと思い中に入ると、またもや客人が私を待ち伏せしていた。

「またかよ……。ここのセキュリティ体制はどうなってんだよ……」
「ふふふー、キョウコさんは関係者だからー、勝手に入っていいのでーす♪」

「いやぁ、その理屈には賛否両論ってとこかな……」

 試合前におっぱいの大きなバニーさんなんて見たら、やる気がそがれる。
 今の私にはキョウコさんは毒だ。猛毒だ。性欲はいらない。闘志だけが私の糧だ。

「試合が終わったらー、お姉さんとー、いいところにいかなぁーい?」
「ぼったくりバー以外なら検討する」

「ふふふー、もっと素敵なところよー♪」
「……なら、聖帝がらみか?」

「あら正解っ、サトシさん人形をあげましょう♪」
「アンタ何歳だよ……」

「聖帝は貴方に大切なお話があると申しております。貴方を聖帝のお住まい、禁裏へとご招待いたしますので、試合終了後は――キョウコお姉さんについてきてねー♪」

 練り上げた闘志が今のでだいぶ散った……。
 やさしくて、美人で、胸が大きくて、あざといところが大好きなのだが、やはりキョウコさんは試合前となると毒だ。

「ありがたく招聘に応じる。聖帝によろしくお伝え下さい」

 私は控え室の扉を開き、外へと手招きして、『エッチなバニーさんを見ていると気が散るから早く出て行け』と、態度で示した。

「うふふー♪ この試合に勝てたらー、お姉さんがいいことしてあげましょうかー♪」
「さっさと出てってくれっ!! そのおっぱいに闘志が吸われるっ!!」

「若い子に欲情されるのー、キョウコさん大好きよー♪」
「早く、出て行って下さい……」

 エッチな黒バニーさんも仕事があるのか、用事が済むとピョンピョンと軽い足取りで出て行ってくれた。

 これまでの相手でも特に格上の強敵と競い合うというのに、妙なことに精神力を削がれてしまった。
 試合まで、座禅でも組んでみようか……。

「おこんにちわーっっ!! あーなーたーのっ、アーツ・モーリーちゃんよぉぉーっっ!!」

 ささやかな私の願いは叶わなかった。
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