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竜将軍大会第五回戦(準決勝):最強厨クルシュ VS 百鶫長ナフィ

・ココロとヒビキ - ココロ、嫉妬する -

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 また負けた。
 大会では常勝無敗の私も、この屋敷ではただの敗者だ。

 意識の戻った私は、かぐわしい花の香りに目を開けた。

「あ……大丈夫ですか……?」
「コ……ココロさ――うっっ?!!」

 それは花の香りではなくココロさんの匂いだった。

「動かないで下さい。今、熱くなったお身体を冷やしていますから……」
「な、なぜ……ココロさんが……」

 目を覚ますと私はココロさんの膝の上にいた。
 ココロさんは私の頭を膝に乗せて、とても心配そうに私を見下ろしていた。

 氷の入った手ぬぐいで、無理をした私の首の辺りを冷やしてくれていた。
 汗塗れで気持ち悪いだろうに、ココロさんは汗を気にする素振りすらなかった。

「やり過ぎです……」
「す、すみません……」

「イーラジュ様もです! クルシュ様が大怪我をするかもしれないと言っているのに、どうして二人とも私の言うことを聞いて下さらないのです!」
「いえ、イーラジュ様は私の挑戦に応えて下さっているだけです。感謝するのは私の方です」

「でも、いつ取り返しのつかないことになりますよ! どうして男の人ってみんなこうなのですか!」
「も、申し訳ない……」

 初めて会ったあの日を思い出した。
 あの日も私はココロさんにお説教をされて縮こまっていた。

「聞いていますか? こんなバカなペースで稽古を続けたら、いつか死んでしまいますよ!」
「き、聞いております! 毎日、ご心配をおかけしております……!」

「嘘です、クルシュさんは口ばかりです」
「そ、そんなことはありませんよ……?」

「もっとティティスと話すときみたいに、ズケズケと言って下さい! 余計なお世話だ、すっこんでろ、と!」
「言えるわけがありませんよ、そんなのっ!?」

 というか、話がズレていないか……?
 なぜティティスの話になるのだ……?

「かわいいですよね、ティティス……。同性の私から見ても、かわいくて、綺麗で、明るくて、やり手で、素敵です……」
「は、はぁ……? まあ、性格はともかく見た目は立派なものですが……」

「やっぱり……」

 ココロさんは落胆した。
 わからないが、この話題はやぶ蛇めいた予感がする。
 私はココロさんの膝に頭を預けたまま、別の話題を探した。

 ココロさんは和服が似合うな……。
 ああ、そういえば……。

「つかぬことを聞きますがココロさん、次の対戦相手の付き人に、和装の女性がいたのですが」
「和装……? あっ、姉様に会ったのですか……っ!?」

「姉様……?」
「ナフィ様と、姉様は、元々ここの人間だったのです……っ!」

「姉ですか……どうりで、美人なわけだ……。おっと……?!」

 急にココロさんが膝を上げて立ち上がって、私は頭を廊下に打ち付けかけた。

「クルシュさんって、女性がお好きですよね」
「好きか嫌いかで言えば、大好きですが! なぜ不機嫌に……?」

「なってません!」

 なっているではないですか。
 最近のココロさんは少し不安定だ。

「ところでココロさんのお姉さんとナフィは、ここでどういったことを? なぜナフィは破門に――」
「美人ですものね、姉様……。私、小さい頃からずっと比べられて……私、かわいくないですから……」

「そんなことはありませんっ! ココロさんはかわいいですっ、美人ですっ! そう、たとえるなら、我らのお母さんのような存在ですっ!」

 悲しそうなココロさんが笑った。
 笑ったココロさんがさらに嬉しそうに笑顔を輝かせた。
 そしてその笑顔は最後に沈んだ。

 『お母さんのよう』は、女性を褒める言葉ではない。
 私は今日一つ、大切なことを学んだ。

「私、仕事に戻ります」
「ちょ、ちょっと、待って下さい! 今のはたとえ話であって妙な意味は何も――」

「どうせ私、ちんちくりんの不細工ですから……」

 ココロさんは私を捨てて仕事に戻ってしまった……。
 私はまるで演劇のように差し伸べた手を、ダラリと落とし、空を見上げた。

 女性の心というのは、山の天気よりも移り気だ……。
 私はココロさんに嫌われてしまっているのだろうか……。

「ダハハハッ、いい気味だぜ!!」
「師匠……」

 放心していると師匠が廊下の奥から現れた。
 師匠は中庭用の下駄をはくと、廊下の私に振り返った。

「ったく、若ぇってのはいいなぁ……」
「師匠、ココロさんはなぜ――ウォォッッ?!!」

 そして私の胸ぐらをつかみ、片手一本でぶん投げた!!
 私は小石の混じる土の上に背中から叩きつけられた!

「怪我人に何さらしやがるテメェッッ?!!」
「やかましいっっ!! うちのココロをたぶらかしやがってクソ弟子がッッ!! 立てっ、もう一稽古付けてやるっっ!!」

「意味わかんねーよっ、俺が何をしたっ!!」
「ココロは世界一かわいいだろうがっっ!!」

「んな当然のこと大声で言うな、恥ずかしい!!」

 理由はわからない。
 だが私はイーラジュ師匠の稽古のおかわりをいただけた。

―――――――
 スキル覚醒
―――――――

極限状態を乗り越えたことで、クルシュの中のスキルが覚醒した

【治癒力LV1】→【治癒力LV2】
 傷の回復速度が常人の5倍。

【剣術LV4】→【剣術LV5】
 地方都市で道場を開ける程度の剣術の才能
 いずれにしろ達人には及ばない


以上
―――――――

 不可解なことに、ココロさんの機嫌もその後直っていた。
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