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竜将軍大会第二回戦:実力派の超ド素人クルシュ VS 外道傀儡師ドローミ
・真夜中の来訪者 - 引き裂かれたココロ -
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その晩、私は部屋にこもって、ティティスが貸してくれた恋愛漫画を読みふけっていた。
恋愛漫画という代物は、私が好むバトル漫画と比較して、読者の想像力がより必要とされるジャンルであるようだ。
恋愛漫画を深く楽しみたいのならば、人の心の移り変わりを注意深く観察することだ。
そしてキャラクターの表情から、心の機微を丁寧に読み取ってゆけば、より深く漫画家が表現しようとしたことが理解できる。
よく言えば繊細。
悪く言えば、深く読み取る労力が必要な面倒なジャンルと言えるだろう。
生前の私は、恋愛漫画を作画やストーリーラインだけで理解しようとしていた。
しかしどうやらそれは、大きな間違いであったようだ。
「うっ……ソウジン殿め、少しくらい加減しろ……」
急に現実の話に戻るが、今日はソウジン殿と昼過ぎから晩まで休みなく打ち合った。
竹刀ではなく、あの硬い木刀でだ。
そのせいか今夜は手がいやに痺れる。
ソウジン殿は私を勝たせるために――いや、守るために全力で鍛えてくれた。
次の対戦相手はそれほどまでに危険な相手なのだと、ここまでされてはバカな私にも理解できた。
「いかん、男キャラがみんなソウジン殿に見えてきた……。いや、女キャラも……!? うっ……今日はもう、寝るか……」
私は布団を押入から出して床にしいた。
しいた布団に身を横たわらせて、一日の疲れに一息をついた。
明日もソウジン殿は全力で打ち込んでくる。
ならば私もその善意に報いねばならなかった。
寝ると決めるとすぐに眠くなる健康的な肉体に感謝しつつ、私はまぶたを閉じた。
祖母の家もこのような、木の香りのする心地よい家だった。
「もし……」
ところが、私の眠気は遠くか細い声に破られた。
「もし……クルシュさん……」
「その声は……ココロさん……?」
月光差し込む外廊下側の障子に、ココロさんの影が映り込んでいる。
「お部屋に入っても……よろしい、でしょうか……?」
「え、ええ……どうぞ」
何かあったのかと思い、私は障子を開いた。
向こう側には白い寝間着姿のココロさんが立っていた。
「ココロさん? どうかされましたか?」
ココロさんは私を見ず、私の背中の向こう側に焦点を合わせている。
心配になり、私はココロさんの顔をのぞき込んだ。
「あ…………」
そこまでするとやっと視線が合った。
「これが知れたらイーラジュ様にぶっ殺されてしまいますが、取り合えず中へどうぞ」
「…………なきゃ」
「え?」
「……さ、なきゃ……」
「すみません、よく聞き取れません。もっと大きな声で――」
「刺さなきゃ――」
突然、私の右の二の腕が熱を帯びた。
いや、これは、熱いというより――いっ、痛い!!
「なっ、何を……っ?!」
「ぁ…………」
私は後ずさった。
血がポタポタと音を立てて畳に流れ落ち、それにココロさんが大きく目を広げて驚いた。
「え、なんで、血……。えっ、わ、私……私が、これ……なんで……」
「大丈夫です、致命傷とはほど遠い浅い傷です」
「わ、私が、やったのですか……!? そんな、なんで、私が……私がなんで……?!!」
事情はわからないが、今のココロさんは元のココロさんに見えた。
刺してはいけない人を刺してしまい、恐慌状態に陥っていた。
そんなココロさんを私は片腕で抱き寄せた。
流血など些細なことだった。
止血は彼女が落ち着いた後でいい。
「ココロさんは悪くありません。とにかく、落ち着いて」
悪くないと私が言葉を発すると、彼女はすぐに落ち着いた。
ありがたい反面、素直過ぎるような気がした。
自分で言っておいてなんだが、なんの根拠もない無責任な言葉だったというのに。
「おいっ、どうしたココロッッ?!」
「ああ、師匠、いいところに――」
「ぬぁっっ?!! テ、テメェッッ、この糞弟子ィィッッ!!」
「な、何――ゴホァァッッ?!!」
私は理不尽にぶん殴られた。
ココロさんは師匠にとって、大切な我が娘のような存在であるからな。
そのココロさんの背中に、こんな夜中に腕を回していたら、イーラジュ様がブチ切れるのも当然の話だった。
・
イーラジュ様の右ストレートは、私に処方された鎮痛剤だった。
刺された二の腕よりも、殴られた左頬の方がよっぽど痛かった。
ココロさんは泣きながら私に傷の手当てをしてくれて、何度も何度も私に謝罪した。
そのたびに私はココロさんに笑い、大丈夫だと慰めた。
そうしながら、詳しい事情をイーラジュ様とソウジン殿に説明した。
どっちも恐かった。恐ろしく怒っていた。
無礼を承知でホスロー殿のところのティティスに使いを送り、ココロさんの面倒を見てもらうことにした。
ソウジン殿に連れられて、ティティスが屋敷にやってきたところまで見届けると、怪我人である私は休むことになった。
恋愛漫画という代物は、私が好むバトル漫画と比較して、読者の想像力がより必要とされるジャンルであるようだ。
恋愛漫画を深く楽しみたいのならば、人の心の移り変わりを注意深く観察することだ。
そしてキャラクターの表情から、心の機微を丁寧に読み取ってゆけば、より深く漫画家が表現しようとしたことが理解できる。
よく言えば繊細。
悪く言えば、深く読み取る労力が必要な面倒なジャンルと言えるだろう。
生前の私は、恋愛漫画を作画やストーリーラインだけで理解しようとしていた。
しかしどうやらそれは、大きな間違いであったようだ。
「うっ……ソウジン殿め、少しくらい加減しろ……」
急に現実の話に戻るが、今日はソウジン殿と昼過ぎから晩まで休みなく打ち合った。
竹刀ではなく、あの硬い木刀でだ。
そのせいか今夜は手がいやに痺れる。
ソウジン殿は私を勝たせるために――いや、守るために全力で鍛えてくれた。
次の対戦相手はそれほどまでに危険な相手なのだと、ここまでされてはバカな私にも理解できた。
「いかん、男キャラがみんなソウジン殿に見えてきた……。いや、女キャラも……!? うっ……今日はもう、寝るか……」
私は布団を押入から出して床にしいた。
しいた布団に身を横たわらせて、一日の疲れに一息をついた。
明日もソウジン殿は全力で打ち込んでくる。
ならば私もその善意に報いねばならなかった。
寝ると決めるとすぐに眠くなる健康的な肉体に感謝しつつ、私はまぶたを閉じた。
祖母の家もこのような、木の香りのする心地よい家だった。
「もし……」
ところが、私の眠気は遠くか細い声に破られた。
「もし……クルシュさん……」
「その声は……ココロさん……?」
月光差し込む外廊下側の障子に、ココロさんの影が映り込んでいる。
「お部屋に入っても……よろしい、でしょうか……?」
「え、ええ……どうぞ」
何かあったのかと思い、私は障子を開いた。
向こう側には白い寝間着姿のココロさんが立っていた。
「ココロさん? どうかされましたか?」
ココロさんは私を見ず、私の背中の向こう側に焦点を合わせている。
心配になり、私はココロさんの顔をのぞき込んだ。
「あ…………」
そこまでするとやっと視線が合った。
「これが知れたらイーラジュ様にぶっ殺されてしまいますが、取り合えず中へどうぞ」
「…………なきゃ」
「え?」
「……さ、なきゃ……」
「すみません、よく聞き取れません。もっと大きな声で――」
「刺さなきゃ――」
突然、私の右の二の腕が熱を帯びた。
いや、これは、熱いというより――いっ、痛い!!
「なっ、何を……っ?!」
「ぁ…………」
私は後ずさった。
血がポタポタと音を立てて畳に流れ落ち、それにココロさんが大きく目を広げて驚いた。
「え、なんで、血……。えっ、わ、私……私が、これ……なんで……」
「大丈夫です、致命傷とはほど遠い浅い傷です」
「わ、私が、やったのですか……!? そんな、なんで、私が……私がなんで……?!!」
事情はわからないが、今のココロさんは元のココロさんに見えた。
刺してはいけない人を刺してしまい、恐慌状態に陥っていた。
そんなココロさんを私は片腕で抱き寄せた。
流血など些細なことだった。
止血は彼女が落ち着いた後でいい。
「ココロさんは悪くありません。とにかく、落ち着いて」
悪くないと私が言葉を発すると、彼女はすぐに落ち着いた。
ありがたい反面、素直過ぎるような気がした。
自分で言っておいてなんだが、なんの根拠もない無責任な言葉だったというのに。
「おいっ、どうしたココロッッ?!」
「ああ、師匠、いいところに――」
「ぬぁっっ?!! テ、テメェッッ、この糞弟子ィィッッ!!」
「な、何――ゴホァァッッ?!!」
私は理不尽にぶん殴られた。
ココロさんは師匠にとって、大切な我が娘のような存在であるからな。
そのココロさんの背中に、こんな夜中に腕を回していたら、イーラジュ様がブチ切れるのも当然の話だった。
・
イーラジュ様の右ストレートは、私に処方された鎮痛剤だった。
刺された二の腕よりも、殴られた左頬の方がよっぽど痛かった。
ココロさんは泣きながら私に傷の手当てをしてくれて、何度も何度も私に謝罪した。
そのたびに私はココロさんに笑い、大丈夫だと慰めた。
そうしながら、詳しい事情をイーラジュ様とソウジン殿に説明した。
どっちも恐かった。恐ろしく怒っていた。
無礼を承知でホスロー殿のところのティティスに使いを送り、ココロさんの面倒を見てもらうことにした。
ソウジン殿に連れられて、ティティスが屋敷にやってきたところまで見届けると、怪我人である私は休むことになった。
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