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【情報】兄:悪の元帥 僕:0kb
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その病に患ったのは9歳の夏のことだった。
誕生日を迎えたその朝目覚めると、不思議な黒い影が目に浮かぶようになった。
それは大きくて四角いぼやけた影で、何かに視線を合わせた時にだけ現れる。
たとえば人を見ればその人のすぐ左隣に影が現れて、正常な眼機能を阻害してしまう。
しかしその病最大の障害は、その黒い影程度の症状ではなかった。
『そうそう奥様、ミュラー様の弟君のアルト様をご存じでして? その弟君、目が銀色にピカピカと光るそうですわ』
人々は噂した。
『まあっ、目が銀色に、ですか?』
皇族の末席に目が光る子供がいると。
『ええ、宮廷では皆が噂しておりますわ。ミュラー様はあんなにご立派なのに、弟の方は魔族の種から産まれた不貞の子なのではないか、と』
そりゃもう奥様ドッタンバッタン言いたい放題。
『それは……ミュラー様がお可哀想ですね……』
僕は兄さんの人生のお荷物だった。
『まったくですわ。ふふ、お可哀想なミュラー様……』
黒い影が目に映ると、妖しく目が光る。
それはもうミラーボールのような銀色に、ギンギラギンに輝いて、なんとやらと。
もはやこれ眼病じゃなくね?
なんで光るの意味とかなくね?
俺って目が『ぴゃーっ』と光る夜行性動物か何かか?
なんと暗い夜道では、目玉が空を飛んで見えたりもするそうですよ、通りがかりの酔っぱらいさん、何度もごめん。
結果、付いたあだ名がジメピカリャー。
帝国図書館の隅っこでジメジメと本を読んでいる陰気な少年が、こっちを向いて『ギラーンッ』と目を輝かせたらそれが僕。
僕、【アルト・ネビュラート】は歩く防犯ライトみたいなその特異体質ゆえに、皇族の末席に転生したというのにメチャメチャにハブられた。
当然、士官学校入り、無理!
まさしく、学術院入り、お断り!
他のあらゆる私塾からも、食らえ連続お祈りメール!(物理)
まあ当然だよね。訓練相手や教室の同窓がいきなり『ぴゃー!』っと目を光らせていたら、そんなの気が散りまくりの歩くデコトラ野郎の御通りだコノヤロー! って話でして。
そんな妖しい僕を理解してくれる人なんて、兄の【ミュラー・ネビュラート】と、図書館の古株たちくらいのものだった。
「ごめんね、兄さん……僕のせいで……」
「アルト、勘違いするな」
兄のミュラーとは10歳も歳が離れている。
去年士官学校を卒業した兄上は、先日の辺境でのモンスター討伐で大手柄を上げたばかりだった。
「ごめんなさい……」
「あのクズどもには、好きなだけ言わせておけ」
「え…………」
「初めから関わる価値もない俗物どもだ」
「でも、僕のせいで、兄さんの評判が……」
「アルトよ、その銀の瞳は私の宝、俗物と真の友人を見分ける灯火だ」
「そうなのかな……。でも……」
「私に負い目を感じる必要はない。アルト、たった1人の肉親として、お前は私の隣に居てくれるだけでよい」
この気高い兄がいなかったら、僕はとうに捨てられ、破滅していただろう。
思い返せば昔遊んだゲームの悪役も、ミュラーという名の立派な、銀髪の美しき元帥様だった。
「いつか私は軍の頂点に立つ。権力さえ握れば、このミュラーの弟の名誉を汚す俗物など、ひねり潰してやれる。少しの我慢だ、アルト。10年以内に私はこの国の元帥となる」
「ミュラー、元帥……?」
「フッ……いつかお前にそう呼ばれる日を夢見ている。アルト、大きくなったら、私の力になってくれ」
「うん……わかった、約束するよ。必ず兄さんの力になるよ、僕」
この世界のアルトとして兄にそう誓いながらも、転生者でもある僕は、新進気鋭の軍人ミュラーの顔を深くのぞき込んだ。
まさか、これ、本物……?
若かりし日の、本物の、ミュラー元帥……?
ヤバい……カ……カッコイイ…………。
「はっ!?」
「む、どうした、アルト?」
ってことはさ?
【異世界転生】していることには気付いていたけど、まさか、ここって……。
僕が少年時代にやり込んだ戦略RPG【ラングリシュエル】の世界……なの……!?
「お、おおおおーーーっっ?!! ミュラー元帥っ、ミュラー元帥だぁーっっ!!」
「フッ……。そう、私がミュラー元帥だ。父を失い、皇帝に疎まれようとも、私は元帥となる。期待していてくれ、アルト」
僕の兄、【ミュラー・ネビュラート】は物語のクライマックスで、光の軍勢と呼ばれる主人公勢力に敗北する。
そしてエンディングでは侵略戦争の戦犯として責任を取り、収監されることになる。
気高き男が自ら望んだこととはいえ、推しとしては後味の悪い結末だった。
「兄さんなら必ず元帥になれるよ。兄さんは、ミュラー元帥になるために生まれた男なんだ!」
「お前がその言葉で私はいくらでも戦える。アルト、家のことは任せたぞ」
「うんっ、任せて!」
兄さんが悪役元帥なら、僕はデータ量0kbの不可知の登場人物だ。僕には顔もテキストも存在しない。
そんな僕は崇拝して止まない兄さんの助けになりたい。今は子供で、兄さんの荷物でも、いつかは弟として兄さんを支えたかった。
誕生日を迎えたその朝目覚めると、不思議な黒い影が目に浮かぶようになった。
それは大きくて四角いぼやけた影で、何かに視線を合わせた時にだけ現れる。
たとえば人を見ればその人のすぐ左隣に影が現れて、正常な眼機能を阻害してしまう。
しかしその病最大の障害は、その黒い影程度の症状ではなかった。
『そうそう奥様、ミュラー様の弟君のアルト様をご存じでして? その弟君、目が銀色にピカピカと光るそうですわ』
人々は噂した。
『まあっ、目が銀色に、ですか?』
皇族の末席に目が光る子供がいると。
『ええ、宮廷では皆が噂しておりますわ。ミュラー様はあんなにご立派なのに、弟の方は魔族の種から産まれた不貞の子なのではないか、と』
そりゃもう奥様ドッタンバッタン言いたい放題。
『それは……ミュラー様がお可哀想ですね……』
僕は兄さんの人生のお荷物だった。
『まったくですわ。ふふ、お可哀想なミュラー様……』
黒い影が目に映ると、妖しく目が光る。
それはもうミラーボールのような銀色に、ギンギラギンに輝いて、なんとやらと。
もはやこれ眼病じゃなくね?
なんで光るの意味とかなくね?
俺って目が『ぴゃーっ』と光る夜行性動物か何かか?
なんと暗い夜道では、目玉が空を飛んで見えたりもするそうですよ、通りがかりの酔っぱらいさん、何度もごめん。
結果、付いたあだ名がジメピカリャー。
帝国図書館の隅っこでジメジメと本を読んでいる陰気な少年が、こっちを向いて『ギラーンッ』と目を輝かせたらそれが僕。
僕、【アルト・ネビュラート】は歩く防犯ライトみたいなその特異体質ゆえに、皇族の末席に転生したというのにメチャメチャにハブられた。
当然、士官学校入り、無理!
まさしく、学術院入り、お断り!
他のあらゆる私塾からも、食らえ連続お祈りメール!(物理)
まあ当然だよね。訓練相手や教室の同窓がいきなり『ぴゃー!』っと目を光らせていたら、そんなの気が散りまくりの歩くデコトラ野郎の御通りだコノヤロー! って話でして。
そんな妖しい僕を理解してくれる人なんて、兄の【ミュラー・ネビュラート】と、図書館の古株たちくらいのものだった。
「ごめんね、兄さん……僕のせいで……」
「アルト、勘違いするな」
兄のミュラーとは10歳も歳が離れている。
去年士官学校を卒業した兄上は、先日の辺境でのモンスター討伐で大手柄を上げたばかりだった。
「ごめんなさい……」
「あのクズどもには、好きなだけ言わせておけ」
「え…………」
「初めから関わる価値もない俗物どもだ」
「でも、僕のせいで、兄さんの評判が……」
「アルトよ、その銀の瞳は私の宝、俗物と真の友人を見分ける灯火だ」
「そうなのかな……。でも……」
「私に負い目を感じる必要はない。アルト、たった1人の肉親として、お前は私の隣に居てくれるだけでよい」
この気高い兄がいなかったら、僕はとうに捨てられ、破滅していただろう。
思い返せば昔遊んだゲームの悪役も、ミュラーという名の立派な、銀髪の美しき元帥様だった。
「いつか私は軍の頂点に立つ。権力さえ握れば、このミュラーの弟の名誉を汚す俗物など、ひねり潰してやれる。少しの我慢だ、アルト。10年以内に私はこの国の元帥となる」
「ミュラー、元帥……?」
「フッ……いつかお前にそう呼ばれる日を夢見ている。アルト、大きくなったら、私の力になってくれ」
「うん……わかった、約束するよ。必ず兄さんの力になるよ、僕」
この世界のアルトとして兄にそう誓いながらも、転生者でもある僕は、新進気鋭の軍人ミュラーの顔を深くのぞき込んだ。
まさか、これ、本物……?
若かりし日の、本物の、ミュラー元帥……?
ヤバい……カ……カッコイイ…………。
「はっ!?」
「む、どうした、アルト?」
ってことはさ?
【異世界転生】していることには気付いていたけど、まさか、ここって……。
僕が少年時代にやり込んだ戦略RPG【ラングリシュエル】の世界……なの……!?
「お、おおおおーーーっっ?!! ミュラー元帥っ、ミュラー元帥だぁーっっ!!」
「フッ……。そう、私がミュラー元帥だ。父を失い、皇帝に疎まれようとも、私は元帥となる。期待していてくれ、アルト」
僕の兄、【ミュラー・ネビュラート】は物語のクライマックスで、光の軍勢と呼ばれる主人公勢力に敗北する。
そしてエンディングでは侵略戦争の戦犯として責任を取り、収監されることになる。
気高き男が自ら望んだこととはいえ、推しとしては後味の悪い結末だった。
「兄さんなら必ず元帥になれるよ。兄さんは、ミュラー元帥になるために生まれた男なんだ!」
「お前がその言葉で私はいくらでも戦える。アルト、家のことは任せたぞ」
「うんっ、任せて!」
兄さんが悪役元帥なら、僕はデータ量0kbの不可知の登場人物だ。僕には顔もテキストも存在しない。
そんな僕は崇拝して止まない兄さんの助けになりたい。今は子供で、兄さんの荷物でも、いつかは弟として兄さんを支えたかった。
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