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閑話 ①

初めてのクッキー

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    ゴキン。バキン。

「…………」

   ジャリジャリジャリジャリ…。

「……あの…アーディル様?」

   アーディル用の応接間で、無言を貫いていたアルヴィンは、ずっと室内に響き渡る異音に耐えきれず、とうとう口を開いた。

「なんだい、アル?これ・・は私がフィルにもらったのだから、君にはあげないよ?」

「いりませんよ、そんな物騒なシロモノ!っていうか、それ・・、フィルが作ったクッキーですかっ!?」

    アーディルの前にあるクッキーに目を向ける。

    いや、これ。絶対クッキー食べて出る音じゃないだろ……。それにフィルがクッキー渡したのって、半月も前じゃないかっ!!

    アルヴィンはゾッとした。

    これはクッキーという名のゴミでは無いのか?ゴミ食べてんのか、この王太子っ!?

「硬いので日持ちもしてるし、食べるために《身体強化》を使わなばならないので、レベルも上がりました♪」

    いや、《身体強化》して食べなきゃいけない食べ物は食べ物でないのでは?

    突っ込むところの多さと、喜んでいるアーディルに、アルヴィンの頭の中は混乱した。

    ステリナ達と一緒に作ったクッキー。フィルディアの分だけは、アーディルに渡されたものの、翌日のお茶の時に出されていたので食べたのだ。普通にサクサクしていて、初心者向けの簡単なものだと説明も聞いたのだ。

    なのにどうして、石版もどき・・・・・なクッキーが出来るんだよっ!?

    恐る恐る控えていた使用人達に目を向ければ、視線はアーディルから外されている。
   彼らは見ないことにしているのだ、この現実を……。

「フィルは私のために、こんな素晴らしいクッキーを作ってくれたのです。頑張って食べきりますとも!」

「……うん。アーディル様がそれでいいなら、僕も気にしないことにします……」

   下手に刺激して、僕までそれ・・を食べることになったら溜まりません…。

   アルヴィンは自身の保身に走った。

※※※※※※※※※※

「フィル。ちょっと聞きたいんだけど……」

    帰宅後。アルヴィンは、フィルディアの部屋を訪れた。

「何ですの?」

    コテンと首を傾げるフィルディアの座るソファの正面に座ると、ゆっくりと息を整える。

「以前、殿下に渡したクッキー。誰か味見した?」

「いいえ。だって、ステリナ達と同じように作りましたもの。必要ないでしょ?」

    不思議そうに答える妹に、アルヴィンは壁際に控えていたステリナに顔を向けて頷いた。

「…フィル様。失礼します…。《鑑定》…」

   しばらくフィルディアを見つめていたステリナだったが、段々目が死んでいった。

「「ステリナ?」」

    その表情に双子が不安気に声をかける。

「フィル様。所持スキルに《不器用》が発生してます。今後は料理や裁縫はお控えください……」

     《不器用》というスキルは、何故か作る物が失敗してしまうという、世間では【不憫スキル】と言われているスキルだった。

「まあ。では、ダンスや作法の授業も控えた方がよろしいわね♪」

    嬉しさを隠しながらそう言うフィルディアに、ステリナが首を振った。

「《たいさばき》と《運動神経》がMAXになってますから、そちらは問題ないかと思います……」

    ステリナの言葉に、ぷくっと頬を膨らませる。

「それと…《音感》も増えてますから、演奏の方も大丈夫かと……」

「……なんですの、それ…。お稽古関係は問題ないだなんて…」

「いや。裁縫できないんだから、刺繍しなくてすむんだろ?」

    ブツブツ文句を言いつつも、気乗りのしない刺繍が減ったことに喜んだ。

    ーー後日。

「おやめください、フィル様っ!!」

「あら。アーディ様の頼みですもの♪」

   フィルのクッキーを食べきったアーディルからの手紙が届いた。

『フィルが私のために作ってくれたのです。とても美味しく全部一人で食べました。
また作ってくださいね』

    ただし、今回は味見をしたため、自身のクッキーを食べたフィルはあまりのショックに寝込んだのであったーーーー。



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