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第一章 アーディル八歳

会えない婚約者

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[アーディル視点]

「……今日も断られました…」

中央侯爵家グランディバルカス家のフィルディアは、生まれた時には私の婚約者となることが決まっていました。
なのに、私がフィルに初めて会ったのは、私が六歳。フィルが五歳の誕生日を迎える少し前でした。
王族と侯爵家の婚約だと言うのに、私からの破棄は許されず、けれどフィルからは婚約を破棄できると聞かされ、彼女に一目惚れした私は、彼女に好かれようとこの二年間頑張りました。

手紙を出せば、返事は来ます。ですが、会いには行けません。お茶会に誘っても、断りの手紙が届くだけです。
来てもらえたのも、私の誕生日の時と、新年の挨拶の時だけ。これでは好きになってもらいようがありません。

「大丈夫よぉ。フィルちゃんのお父様や伯父様達が、ちゃんとアーディが頑張ってるって、フィルちゃんにお話してくれてるわよ。……………多分?」

母様…、最後の一言。ちゃんと聞こえてますからね……。

ムスッとしてしまう自分に、母様は困った顔で笑われた。

「…フィルちゃんはね、狙われてるからあまり屋敷から出れないの…」

そこで私は初めてフィルの家族の詳しい話を聞かされた。

「……………」

自分の部屋に戻った私は、ソファに座って考え込んでいた。

フィルの母様のアリスティリア様は、神様や神獣様の祝福を持ち、尚且つ希少なスキルを持っているため、色んな人達から未だに・・・狙われていること。
さらにグランディバルカス家には、フィルの他にも子供がいて、特に女の子は能力を次の子に引き継ぎやすいため、狙われているのだと説明された。
フィル自身も、神獣様の加護があるとかで、外出の際に何度か襲われたことがあるらしく、私が十歳になるまではなるべく屋敷から出さないことにしたらしい。
どうして、十歳になるまでなのかと尋ねたら、何と私が十歳になったら、王宮に住むことになるからだそうだ。
私の婚約者として、王妃教育を始めるらしいのだが、グランディバルカス家並の防犯設備の整った宮を建設中なので、完成までは出さないということらしい。

「……王妃教育……」

それはつまり、毎日フィルに会えるようになるし、私の妻となる準備をしてくれるということで……。

「…もっと頑張らなければ…」

グッと拳を握って、自分にそう誓いを立てた。

そんな姿は、壁際に控えていた侍女達に微笑ましく見守られていることに気づけなかった。

「アーディ。明日から、剣の稽古はエヴァンが教えてくれるからね」

「は?」

侍女達からの報告を聞いた父様から、晩餐の席でそう言われた。

「徐々にカインやラスからも学ぶようにしておいたから、ね♪」

「……ありがとうございます?」

宰相様とその補佐官のお二人の名前に、首を傾げながらそう返す。

「アーディ。カインとラスはフィルちゃんの伯父様達よ。お二人はお休みの日にはグランディバルカス家の子供達に色々・・と教えていらっしゃるから、頑張ってる姿をフィルちゃんに伝えてもらいましょうね♪」

「っ!!」

思わず真っ赤になった私に、ニヤニヤと笑う両親。壁際には微笑ましく見てくる給仕の者達。

そうです。私がフィルディアにめちゃくちゃ好かれたいと悩み頑張る姿は、王宮中に知れ渡っていたのです。

「ーーっ!!」

言葉も出ず、口をはくはくとさせてしまいます。

「それと、忘れているようだが、アルヴィンはフィルディアの双子の兄だぞ?」

「っ!?」

そうです。私の最側近候補として、五歳の時から一緒に学ぶことのあるアルヴィンは、黒髪ですがフィルと同じ紫水晶アメジストの瞳。中央侯の色持ちでした。
アルヴィン・リオール・ステッド・グランディバルカス。
次期中央侯である彼が、大好きなフィルの兄だと何故気づかなかったのか……。

「?ですが、アルはしょっちゅう、こちらに来てますよね?グランディバルカス家の子供は狙われていたのでは?」

私のその言葉に、父様はしまったという顔をなされました。そんな父様を見て、母様は肩を震わせて俯いています。

「アルが来れるなら、フィルも来れるのでは?」

恨めがましくジトリと父様を見つめると、父様は笑って誤魔化そうとしてきましたが、そうはさせません。

だって、私はフィルに会いたいのですからっ!!





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