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第十一章 なりきり、やりきり、これっきり

出産、怖っ!

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[ステリナ視点]

「…ステリナ」

そろそろ産み月となり、いつ産まれても良いようにと、全ての準備が整ったある日、アリス様に呼ばれました。ですが、いつもより声の調子がおかしいのです。
振り返った私は、言葉を無くしました。

「ーーーっ!!」

真っ青なお顔に、痛みを堪えているような息遣い。
ふと床を見ると、アリス様の足元に水溜まりが出来ていました。

ーー破水っ!

知識としてはある物の、実際に目にするのは初めてです。
とりあえず、アリス様はご自分の身に付けていた連絡用の魔導具で、助産師様に連絡していたようです。
バタバタと近寄る複数の足音が聞こえてきました。

「若奥様っ!」

「破水されました!」

アリス様の容態を報告し、そこからは助産師さん達の指示に従い、フェリテさんと共に大量のお湯や綺麗な布を用意していきます。

「リアッ!!」

戻られた若様を見て、フェリテさんと顔を見合せます。
そういえば連絡忘れてましたけど、若様の場合、自分で気づいて戻られるので今更でしたね。
二人で納得して頷きます。
しばらくすると、カイン様やラス様も来られました。
この調子ではもしかしたら、マリアステラ様ばかりか王太子様も来るような気がします。

「…ステリナ…。多分、バスティン様も来るし、もしかしたら神獣様達も来るかもしんない……」

フェリテさんの不吉な言葉は、しばらく後にその通りとなりましたーーーー。



※※※※※※※※

[エヴェン視点]

書類にサインをしていたら、不意に腰に痛みを感じた。
さらには妙な胸騒ぎに襲われ、落ち着かない。
《千里眼》を使うと、真っ青な顔で苦しげなリアの姿が見えた。

「っ!」

慌てて立ち上がり、転移陣へ向かうと、カルステッドが追いかけてきた。

「若様?」

「屋敷に戻ります!リアが苦しんでます!!」

私は叫ぶなり、転移陣を発動させました。

「へ?それって、まさか陣痛…」

光の向こうでカルステッドが呟いていたけど、知った事ではありません。
戻るなり、リアの部屋へ向かっていると、大量のお湯や布を運んでいるフェリテとステリナがいました。
どうやら、リアが産気づいたようです。

「リアッ!!」

聞こえてきたリアの呻き声に、部屋に入ろうとすると、助産師達に叱られ、フェリテに追い出されました。
扉の前でウロウロしていると、カインとラスを連れてカルステッドが戻ってきました。

「エヴァン!アリスは大丈夫ですか?」

「もう産まれましたか!?」

二人がそう聞いてきた時です。

「いたああああぁぁぁぁいぃっ!!!」

部屋の中からリアの絶叫が聞こえてきました。

「「「「っ!?」」」」

初めて聞く声に、私達はオロオロするばかりです。

「あぁ。アリス…。アリス、可哀想に…」

「なんて辛そうなんだ…。代われるものなら代わってやりたい…」

カインとラスの言葉に、私も思いました。

リアの痛みを私が共に耐えてあげれたら……。


※※※※※※※※

[カルステッド視点]

「う……」
「ぐあ……」
「くぅ…」

扉の向こうで、若奥様が陣痛で苦しんでいると、突然、こちらに居た若様と伯爵家のご兄弟が、腹を抱えるようにして床に蹲りました。

「え?え?」

訳も分からず慌てていると、

「ああああああああぁぁぁっ!!」

若奥様の悲鳴が上がると、若様達の苦しむ姿が強くなりました。

「……まさか…」

《鑑定》を若様に使ってみると、新たなスキルが発生しています。

感覚同調シンクロ》とありました。

つまり若様は、若奥様の痛みをどうにかしてあげたいと思う余りにこのスキルを取得し、且つ似たような思いの御二方共々、若奥様の現状に同調したとーー。

え?何それ、ヤバくね?

大の男三人が、毒でも食らったみたいに蹲って苦しんでます。

出産、怖っ!!

女性はこれを毎回出産の度に味わうのです。
女性は尊敬して労わらなければならないのだと、物凄く脳裏に刻み込みました。
苦しむ若様達の姿は、駆けつけた奥様や伯爵夫妻。ついでにうちの両親にも目撃され、旦那様方はその姿に蒼白し、奥様方はウンウンと頷かれていました。

そんな御三方の姿は、奥様の出産が終わるまで続き、無事に終えた後もなかなか動かれませんでした。

感覚同調シンクロ》怖っ!!

その後、若様は今まで以上に若奥様にベッタリとなり、伯爵家のご兄弟は、ご婚約者をそれはそれは大事になさる様になられたそうですーーーー。



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