上 下
44 / 154
第六章 アリスティリア悟る

笑うしかないのです

しおりを挟む
ラフィンとフェリテはどうしようもなく立ち尽くしていた。

アリスティリアと部屋に篭もること、三日三晩。
やっと出てきたエヴァンは、それはもう見たこともないくらい機嫌が良かった。

「落ち着いたので、城に行ってきます。申し訳ありませんが、リアをお願いします」

そう言われて、恐る恐る入った寝室は、気をつかって換気をしたらしく、窓が開かれていた。

「…………」

ベッドの上には完全に意識のないアリスティリアが横たわっている。
ナイトガウンー当然、エヴァン作ーを着せられているものの、明らかにやつれているのが分かる。

「…まあ、三日三晩。水くらいしか口にしてないと、ね………」

フェリテは風呂の準備に向かった。

「若様、浮かれすぎだわ……」

交換用のシーツと新しい着替えを用意しながら、ラフィンは溜息をつく。

10年以上想い続けた令嬢相手だ。我慢のしようもなかったことは理解できる。できるが、それと、このアリスティリアの状況は別物だ。

仮にも『護衛メイド』なのだ。
《気配察知》や《索敵》のスキルを持っているはずの『護衛メイド』が周りに他人が近寄っても、意識もないまま、動けないままの状況に追い込まれるなど、どんだけやらかされたのかと、体験者なだけにゾッとする。

「~~っ……」

布団の中のアリスティリアは、目が覚めたのか、呻きながらゆっくりと体を起こした。

「おはようございます。お加減はいかがですか?」

ーー聞かなくても分かるけどねーっ!!

ラフィンは心の声を内に止めつつ、アリスティリアに声をかけた。

「……おはよ…うござい…ます……」

まだマトモに覚醒出来てないであろう状態で、挨拶を返しても気怠げにしている。

「…お風呂の用意ができておりますが、如何ですか?」

「……お風呂……」

その単語を繰り返して、ボーッとしていたアリスティリアは、突然、ハッと正気に戻った。

「お、お、おはようございます!ラフィンさん!!」

真っ赤になったアリスティリアに、ホッと息をつく。

「お体がお辛いでしょうから、《回復》かけさせていただきますね」

軽い《回復》魔法なら、『護衛メイド』は全員使える。

「……ありがとうございます…」

真っ赤なまま礼を述べるアリスティリアに、ラフィンは我が身を振り返っていた。


※※※※※※※※

[ラフィン視点]


「「「…………」」」

浴室では誰も声を出せなかった。
ご令嬢は恥ずかしさで、私達は気まずさからだ。

首元は薄らと紅い痕が数個付いていた。
問題はそこから下だ。
特に胸元。へそ周り、脚の付け根と、何だこれ、新手の病気か?というくらい、若様が付けたであろう痕があるのだ。

しかも軽い《回復》では追いつかないくらいの、ご令嬢の疲労困憊っぷりに、フェリテとドン引いた。

ご令嬢自身も《回復》はかなりの高レベルで使えるらしいが、《回復》そんな事する暇もなかったらしい若様のご寵愛に、本気でドン引きである。

何で足腰立たなくなるほどにヤって下さるのだろうか……。

恥ずかしげにではあるが、ポツポツ話されるご令嬢の言葉から、こちらも新たな事実が判明して、もう笑うしかない。

何だ、手作りの媚薬入り香油って!?

うちの若様、騎士団長だろうがっ!
一体、どこまでをどんだけ極めるつもりなんだっ!?

一緒に話を聞いているフェリテに至っては、笑顔を浮かべてはいるが、既に目が遠くを見ている。

うん、分かる。分かるけどね。
私までそうすると、ご令嬢が更にいたたまれなくなるだろうから、頑張ってお相手させてもらいますとも!

笑うしかないけどねっ!!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。

シェルビビ
恋愛
 明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。  いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。  監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。  元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。  しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。 「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

処理中です...