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第五章 誘拐からの救出監禁

小さな華でも棘はある

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「…………」

アリスティリアは不愉快全開で目の前の男を睨んでいた。

「そのような顔をしないで欲しい。寧ろ、感謝して欲しいな。君は本来の自分を取り戻せると約束しよう!」

両手両足には【封印布】で作られた枷が嵌められている。
気がついてからずっと、一言も発さずに睨みつけるアリスティリアを見つつも、ずっとこんな調子で自分に感謝しろと言っているのだ。

「……貴方は自分のしている事の意味を理解してますか?」

本人の意思確認もせず、無理やり拐っているのだ。
国家間の揉め事になるのは確実だと言うのに、自分は間違っていないと聞く耳を持たない男に、アリスティリアの表情は冷たかった。

「転移陣を使っての誘拐です。貴方の地位も名誉も地に落ちるんです…」

「…だから?」

「は?」

「わたしの地位と名誉がなんだと言うのか。元より私達に流れるのは大精霊の血。自然のあるべき姿に戻ればよいだけ…。精霊にあるのはただその美しさと力の強さのみ!」

「……」

ーーうん、ダメだ。この人、完全に自分の中の精霊としての血に引っ張られちゃってる……。

アリスティリアは冷静に判断する。
なぜなら、こんな理由で拐われるのは初めてではないからだ。
5年前。ラスティンが社交界デビューしてから、精霊至上主義と名乗る輩に、何度も狙われ始めた。
精霊の血筋は、精霊の力を借りることができるからだ。

ーーとりあえず、血を混ぜるつもりはないみたいだから、大丈夫だとは思うんだけど…。

【封印布】を無効にする方法を知っているため、いざという時には無効化をして、逃げ出さなければならない。
問題は、今の自分は愛用していたメイド服ではなく、町娘が着るような簡単な服だ。
しかも、色替えの魔導具を付けられたらしく、髪の色は茶色くなっている。

ーー《空間収納》使えるようになれば、暗器も道具もあるんだけど…。

現在、自分がいるのはグランラディアでも、エスタルディアでもないと予想している。
そんな簡単な逃亡劇で済ませるはずがないのだ。

ーー脳筋に見えて、実は陰険腹黒系……。

だが、エスタルディアでないならば、アリスティリアに取っては、実は庭みたいなもんだということを目の前のネイゼルは知らない。

ーー予備の認識阻害魔導具貰ってて良かったぁ…。

獣王国エランディアなら、空を見上げて翼人族に声を届ければいい。
魔王国ディクルディアか、神聖国ブランディアなら、教わっている魔法陣を描いて、相手を召喚すればいい。
それ以外の三国ならば、『エイデル商会』を見つければいいだけなのだ。

ーーでも、一番大事なことは……。

目の前の男に視線を向ける。
完全に自分の世界に浸っている男は、アリスティリアの様子を気にもしていない。


ーーこのひと、絶対に一発ぶっ飛ばす!!



グランラディアの妖精姫は、中身はドラゴン並みに取り扱い注意であったーーーー。
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