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第五章 誘拐からの救出監禁
風の吹くまま、気の向くままに
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精霊国エスタルディアの〖風の大精霊〗の血筋であるエスタール侯爵家の次期当主であるネイゼル・フェーン・エスタールは、緑がかった黒髪に碧眼の青年である。
本来ならば国外へ出ることなど興味は無かったのだが、レティーシアの嫁ぎ先である聖王国グランラディアに二色混じりの髪色の令嬢がいると聞き、無理やり使節団の中に入り込んだのだ。
「ほぅ……。あの髪色。〖火の大精霊〗の血筋か?」
ダンスホールで踊るアリスティリアを見つけ、ネイゼルはにやりと笑みを浮かべた。
「他国であのような色合いが産まれるとは…。珍しいこともあるものですな」
使節団の代表を務めるエスタルディア宰相ヘーゼル・アーシェル・スタルディは、茶色がかった金髪を撫で付け、焦げ茶色の瞳を細めた。
「絶えて久しい火の血筋です。早速我が国へ連れ戻しましょう!」
目を輝かせるネイゼルに、ヘーゼルの呆れた顔が向いた。
「彼女は伯爵家の令嬢ですぞ。しかも、『エイデル商会の幸運の女神』と呼ばれている。彼女が望まぬのにエスタルディアに連れていけば、各国からの非難が我が国に集中します」
「あれは我が国の者ではありませんか!連れ帰ることに何の問題がありましょう。四大精霊の血筋が続くことこそ、我が国の本来の姿!彼女を連れ戻り、〖火の大精霊〗の血筋を取り戻さねば!!」
「まだそうと決まったわけではない!早まって馬鹿な真似だけはしないように!分かりましたな、ネイゼル殿!!」
きつく言いつけられても、その言葉はネイゼルには届かなかった。
ーー確認の必要が何処にある!あの色こそは紛れもなく〖火の大精霊〗の一族の証ではないかっ!!
不機嫌になりながらも、ネイゼルは兄達と談笑しているアリスティリアに足早く近づいた。
「失礼、私はエスタルディア侯爵家のネイゼル・フェーン・エスタールと申します。火の精霊のような貴女と是非踊らせていただきたいのですが?」
「「!?」」
突然の発言に、眉を顰める兄達。
アリスティリアはにっこりと微笑んだ。
「お初にお目にかかります、エスタール侯。エベリウム伯爵家が息女アリスティリア・リン・エベリウムにございます。わたし如きが火の精霊だなどと、恐れ多いこと。拙い足捌きに精霊もお怒りになりましょう…」
周りの目を引きつけるように美しいお辞儀をし、やんわりと断りを告げる。
「なんと謙虚なことか!そのようなことはありません。〖風の大精霊〗の血を引く私とならば、精霊達も喜ぶというもの…」
「「「っ!」」」
素早くアリスティリアの手を掴み、口付けようとするネイゼル。
しかし、甲に唇が触れる直前にその手は奪われた。
「強引な男は嫌われますよ…。ましてや、婚約者のいない令嬢に許可なく触れるなど、国が違えどとても同じ侯爵家の者とは思えませんね……」
「……これは申し訳ない。全ては美しさに惑わされたせいとお思いいただきたい……」
「…エヴァン様…」
アリスティリアを背に庇ったのは、今日もいつもと変わらぬ姿のエヴァンだった。
いつもと違うのは帯剣してないことぐらいだ。
「…申し訳ありません、エスタール侯。妹は貴方より先にグランディバルカス侯と踊る約束をしていたのですよ」
睨み合う二人の間に、エベリウム兄弟が割って入る。
「妹はこの後、仕事に戻らねばなりません。申し訳ありませんが、また次の機会がありましたら、よろしくお願いします」
ネイゼルに見えぬよう、後ろ手に二人が立ち去るように手を振っている。
「お待たせして申し訳ありません、アリス。私のお相手をお願いできますか?」
手を差し出し、そう述べたエヴァンに、フワリと微笑んだアリスティリアの指が伸びた。
「ええ、もちろん。お待ちしておりましたもの、エヴァン様」
重ねた手をそのままに、二人は踊りの輪の中へと優雅に歩いていく。
ーーこいつとアリスを踊らせるくらいなら、エヴァンの方が千倍もマシだ!
悔しそうに二人を見るネイゼルに、ニコニコと圧をかけていくカインベル。
「……仕方ありません。次の機会には是非…」
ーーはあ?次の機会なんて、僕達がやると思うなよ!!
頭を軽く下げ、立ち去っていく背中をキツく睨みつけるラスティン。
客人といえど大事な妹を無礼な男に触れさせるぐらいならば、多少なりとも認めれるよく知る男の方がいいと、瞬時に判断した二人であったが、とても嬉しげにエヴァンと踊る妹の姿に複雑な思いを抱えるのであったーーーー。
本来ならば国外へ出ることなど興味は無かったのだが、レティーシアの嫁ぎ先である聖王国グランラディアに二色混じりの髪色の令嬢がいると聞き、無理やり使節団の中に入り込んだのだ。
「ほぅ……。あの髪色。〖火の大精霊〗の血筋か?」
ダンスホールで踊るアリスティリアを見つけ、ネイゼルはにやりと笑みを浮かべた。
「他国であのような色合いが産まれるとは…。珍しいこともあるものですな」
使節団の代表を務めるエスタルディア宰相ヘーゼル・アーシェル・スタルディは、茶色がかった金髪を撫で付け、焦げ茶色の瞳を細めた。
「絶えて久しい火の血筋です。早速我が国へ連れ戻しましょう!」
目を輝かせるネイゼルに、ヘーゼルの呆れた顔が向いた。
「彼女は伯爵家の令嬢ですぞ。しかも、『エイデル商会の幸運の女神』と呼ばれている。彼女が望まぬのにエスタルディアに連れていけば、各国からの非難が我が国に集中します」
「あれは我が国の者ではありませんか!連れ帰ることに何の問題がありましょう。四大精霊の血筋が続くことこそ、我が国の本来の姿!彼女を連れ戻り、〖火の大精霊〗の血筋を取り戻さねば!!」
「まだそうと決まったわけではない!早まって馬鹿な真似だけはしないように!分かりましたな、ネイゼル殿!!」
きつく言いつけられても、その言葉はネイゼルには届かなかった。
ーー確認の必要が何処にある!あの色こそは紛れもなく〖火の大精霊〗の一族の証ではないかっ!!
不機嫌になりながらも、ネイゼルは兄達と談笑しているアリスティリアに足早く近づいた。
「失礼、私はエスタルディア侯爵家のネイゼル・フェーン・エスタールと申します。火の精霊のような貴女と是非踊らせていただきたいのですが?」
「「!?」」
突然の発言に、眉を顰める兄達。
アリスティリアはにっこりと微笑んだ。
「お初にお目にかかります、エスタール侯。エベリウム伯爵家が息女アリスティリア・リン・エベリウムにございます。わたし如きが火の精霊だなどと、恐れ多いこと。拙い足捌きに精霊もお怒りになりましょう…」
周りの目を引きつけるように美しいお辞儀をし、やんわりと断りを告げる。
「なんと謙虚なことか!そのようなことはありません。〖風の大精霊〗の血を引く私とならば、精霊達も喜ぶというもの…」
「「「っ!」」」
素早くアリスティリアの手を掴み、口付けようとするネイゼル。
しかし、甲に唇が触れる直前にその手は奪われた。
「強引な男は嫌われますよ…。ましてや、婚約者のいない令嬢に許可なく触れるなど、国が違えどとても同じ侯爵家の者とは思えませんね……」
「……これは申し訳ない。全ては美しさに惑わされたせいとお思いいただきたい……」
「…エヴァン様…」
アリスティリアを背に庇ったのは、今日もいつもと変わらぬ姿のエヴァンだった。
いつもと違うのは帯剣してないことぐらいだ。
「…申し訳ありません、エスタール侯。妹は貴方より先にグランディバルカス侯と踊る約束をしていたのですよ」
睨み合う二人の間に、エベリウム兄弟が割って入る。
「妹はこの後、仕事に戻らねばなりません。申し訳ありませんが、また次の機会がありましたら、よろしくお願いします」
ネイゼルに見えぬよう、後ろ手に二人が立ち去るように手を振っている。
「お待たせして申し訳ありません、アリス。私のお相手をお願いできますか?」
手を差し出し、そう述べたエヴァンに、フワリと微笑んだアリスティリアの指が伸びた。
「ええ、もちろん。お待ちしておりましたもの、エヴァン様」
重ねた手をそのままに、二人は踊りの輪の中へと優雅に歩いていく。
ーーこいつとアリスを踊らせるくらいなら、エヴァンの方が千倍もマシだ!
悔しそうに二人を見るネイゼルに、ニコニコと圧をかけていくカインベル。
「……仕方ありません。次の機会には是非…」
ーーはあ?次の機会なんて、僕達がやると思うなよ!!
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客人といえど大事な妹を無礼な男に触れさせるぐらいならば、多少なりとも認めれるよく知る男の方がいいと、瞬時に判断した二人であったが、とても嬉しげにエヴァンと踊る妹の姿に複雑な思いを抱えるのであったーーーー。
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