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第四章 騎士団長、ストーカーになる!
そうして二度目の恋に落ちた
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その日はいつも通りに人気のない場所の警備で、騎士団副団長のエヴァンは物陰に佇んでいた。
顔の上半分を灰色の仮面で隠し、首から下は全く肌の露出しない【封印布】で作られた特別製の黒い隊服は、黒髪のエヴァンの姿を風景の中に隠してしまう。
ーー私が中にいては、周りが落ち着かないからな。外回りの警備をするのが打倒だろう…。
チラリと目を向けたホールには、今日がデビュタントの若々しい令息、令嬢の姿がチラホラ見える。
5年前の自分のデビュタントでは、自分のことが目立つと思っていたのに、エベリウム伯爵家の次男と重なり、そのせいかあまり注目されずに、すぐに退出することができたことを思い出す。
ーーそう言えば、彼の髪の色……。
エベリウム家の次男ラスティン・ベール・エベリウムの髪の色は、エヴァンの大事な少女リアと同じ髪の色だったことを思い出す。
『エヴァン。カインとラスは私の側近になる。君はラスと同い年だから、仲良くしてね』
王太子であるオーディル・ウォルト・ヘクター・ル・グランディアにエベリウム家の嫡男であるカインベル・ランス・エベリウムと共に紹介された。
『……初めまして、エヴァン殿。ラスティン・ベール・エベリウムと申します。ラスとお呼びください』
『こちらこそ、初めまして。エヴァン・マリウス・ルクセン・グランディバルカスです。私の事もエヴァンと呼んでいただきたい。あと、こんな姿で失礼する』
差し出された手を握ると、ギュッと力を込められた。
『事情は伺っております。ですが、僕と兄から貴方に言う事は一つだけです…』
首を傾げるエヴァン。ラスティンの後ろで、笑いをこらえるオーディルと、うんうんと満足気に頷くカインベルの姿が見えた。
『我が家の妹には近寄らないように願います……』
『は?』
伝えることは伝えたとばかりに立ち去ったエベリウム兄弟を茫然と見送ると、オーディルが涙を目尻に滲ませながら肩を掴んできた。
『あの二人は…、いや、エベリウム家の者は、皆令嬢のアリスを溺愛していてね。彼女の望まぬ相手には嫁がせないと公言してるんだ…。エヴァン。君のスキルで夢中にされないように釘さされたね…』
『…そんな真似しなくとも、私は……』
思い出すのは幼く愛しい少女の笑顔だった。
『あー。うん……。まあ、ね…』
オーディルは苦笑しながら、離れていった。
ーーああ。そう言えばラスの妹君も、今日がデビュタントだと言っていたな…。
ふと何気なく見た先に、見慣れた髪の色を見つけ、エヴァンは目を見開いた。
ホールの中央で踊る一組から目を離せなくなっていた。
ピンクがかった銀髪を後ろで一つにまとめ、蕩けるような笑顔でパートナーを見つめているラスティン。
その手を取り、軽やかにステップを踏んでいるのは、彼と同じピンクがかった銀髪の女性。
淡い薄紫のドレスを身に纏い、妖精のようにステップを楽しげに踏んでいく。
楽しげに嬉しげに、兄を見つめ返す女性の瞳の色は薄い水色。
無邪気に笑うその笑顔に、愛しいリアの面影があった。
ドクン。
心臓が大きく跳ねるのが分かった。
「………リア……。リア、見つけた………」
10年振りに見るリアに、エヴァンは二度目の恋に落ちたーーーー。
顔の上半分を灰色の仮面で隠し、首から下は全く肌の露出しない【封印布】で作られた特別製の黒い隊服は、黒髪のエヴァンの姿を風景の中に隠してしまう。
ーー私が中にいては、周りが落ち着かないからな。外回りの警備をするのが打倒だろう…。
チラリと目を向けたホールには、今日がデビュタントの若々しい令息、令嬢の姿がチラホラ見える。
5年前の自分のデビュタントでは、自分のことが目立つと思っていたのに、エベリウム伯爵家の次男と重なり、そのせいかあまり注目されずに、すぐに退出することができたことを思い出す。
ーーそう言えば、彼の髪の色……。
エベリウム家の次男ラスティン・ベール・エベリウムの髪の色は、エヴァンの大事な少女リアと同じ髪の色だったことを思い出す。
『エヴァン。カインとラスは私の側近になる。君はラスと同い年だから、仲良くしてね』
王太子であるオーディル・ウォルト・ヘクター・ル・グランディアにエベリウム家の嫡男であるカインベル・ランス・エベリウムと共に紹介された。
『……初めまして、エヴァン殿。ラスティン・ベール・エベリウムと申します。ラスとお呼びください』
『こちらこそ、初めまして。エヴァン・マリウス・ルクセン・グランディバルカスです。私の事もエヴァンと呼んでいただきたい。あと、こんな姿で失礼する』
差し出された手を握ると、ギュッと力を込められた。
『事情は伺っております。ですが、僕と兄から貴方に言う事は一つだけです…』
首を傾げるエヴァン。ラスティンの後ろで、笑いをこらえるオーディルと、うんうんと満足気に頷くカインベルの姿が見えた。
『我が家の妹には近寄らないように願います……』
『は?』
伝えることは伝えたとばかりに立ち去ったエベリウム兄弟を茫然と見送ると、オーディルが涙を目尻に滲ませながら肩を掴んできた。
『あの二人は…、いや、エベリウム家の者は、皆令嬢のアリスを溺愛していてね。彼女の望まぬ相手には嫁がせないと公言してるんだ…。エヴァン。君のスキルで夢中にされないように釘さされたね…』
『…そんな真似しなくとも、私は……』
思い出すのは幼く愛しい少女の笑顔だった。
『あー。うん……。まあ、ね…』
オーディルは苦笑しながら、離れていった。
ーーああ。そう言えばラスの妹君も、今日がデビュタントだと言っていたな…。
ふと何気なく見た先に、見慣れた髪の色を見つけ、エヴァンは目を見開いた。
ホールの中央で踊る一組から目を離せなくなっていた。
ピンクがかった銀髪を後ろで一つにまとめ、蕩けるような笑顔でパートナーを見つめているラスティン。
その手を取り、軽やかにステップを踏んでいるのは、彼と同じピンクがかった銀髪の女性。
淡い薄紫のドレスを身に纏い、妖精のようにステップを楽しげに踏んでいく。
楽しげに嬉しげに、兄を見つめ返す女性の瞳の色は薄い水色。
無邪気に笑うその笑顔に、愛しいリアの面影があった。
ドクン。
心臓が大きく跳ねるのが分かった。
「………リア……。リア、見つけた………」
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