3 / 7
2.
しおりを挟む
位持ちの側妃の後宮入りは、王妃の物より小さめの規模ではあるが、ぶっちゃけ普通に婚姻である。
小規模ではあるが、婚姻式もあるし、お披露目もある。
これに対し、位のない側妃は何の儀式もなく引っ越してくるだけ。
本来ならば、数人の侍女を連れてくるのだが、グレイスは身一つだという。
ならば、する事は決まっている。
二妃の後宮入りと同じ日に、グレイスを後宮入りさせれば良いのだ。
それにより、式典で二妃に注目が集まり、誰もグレイスに目を向けない。
ついでに周囲の使用人は、こちら側の者達を置いておけばよい。
何故なら、位のない側妃の意味を、正しく理解出来ていないのだ。
後宮勤めの使用人の言葉を疑うこともないだろう。
グレイスの後宮入りに難色を示していた高官達は、エリアナからの提案に便乗した。
グレイスの部屋は、最も国王や王妃から離れた場所にある離宮とも言える場所にした。
本来は、側妃の賜るような所では無いのだが、側妃となった事に喜ぶグレイスは気づかなかった。
当然である。
エリアなどイザベラは、少しでも王妃であるエリザベスに害意を向ければ、叩き出すつもりだったのだから。
使用人達もグレイスの前だけでは味方につくような発言をしていた。
後宮入りしてから、一度も王が部屋に来ていないというのも、
「御子様を安心してお産みになれるようにと、距離を置かれておいでなのですよ」
という使用人の言葉に、寵愛されているなどと、自分の都合のいい様に解釈していた。
実際は、悪阻で苦しむ王妃の側にオロオロしながらくっついていたのだが、そんなことが耳に入ることは無い。
何しろ後宮入りしてから、グレイスはずっと傍若無人に振舞っていて、誰からも好かれていなかったから。
そろそろ出産という頃には、三妃の後宮入りが重なった。
表向きは出産のために公務を離れる王妃を、二妃と共に支えるため。という名目での、これまたグレイスの出産を有耶無耶にしてやろうという魂胆である。
そしてお約束なのか、三妃の後宮入り前日から、グレイスは産気づいた。
苦しんでも苦しんでも、王が労いに来ることは無かった。
計算通りである。
三妃との婚姻式の最中だ。まして、血は繋がっていてもいずれ王籍から外れる子。薄情かも知れないが、グレイス以外からは望まれていない子なのだ。
披露パーティーの最中、出産の知らせを届けたものの、「御苦労」の一言ですら、侍従任せであった。
その二日後。今度は王妃が産気づいた。
後宮は上に下にと大騒ぎだったが、グレイスは気づかなかった。
出産後から、異様なまでに眠気に襲われていたのだ。
「気疲れからでございましょう。ゆっくりとお体をお休め下さい」
と医者に言われて、産まれたばかりの子供を乳母に任せて、ひたすら寝ていた。
実際は子に乳をやる気配がなかったので、遠慮なく薬で眠らされていたのだが、グレイスは気づかない。
何しろ自分の子は第一王子だ。次の王となるのだから、瑣末な事は気にしない。
あの断罪の瞬間まで、彼女はずっとそう信じていたのだ。
しかし、王妃の出産後に、二妃の懐妊が判明すると、グレイスは王への取り次ぎを願った。
産後で寝込んでいる王妃と、妊娠して夜会を控えている二妃の代わりにと、自分を選んでもらおうとしたが、ならば必要な知識を身につけろと言われたが、自分しかいないのだから、大丈夫だとまともに覚えなかった。
彼女は三妃が嫁いでいたことを出産のドタバタで忘れていた。
しばらくして、社交には三妃が共をし、王は後宮の王妃の部屋に入り浸っており、すぐ側の二妃の部屋にも、様子をよく見に行くと聞いたグレイスは、自分の立場に慌てた。
王妃の子も王子だったからだ。
我が子の命が危ない!
そう思ったグレイスは、口を開けば「お前は王になるのだから…」と言い聞かせた。
それを耳にしている使用人からすれば、「こいつ、何言ってんだ?」というとこである。
何しろ、位のない側妃の子は、成人すれば王籍から外されるということは、普通に教育を受けていれば知っている事だからだ。
外見磨きにしか興味のなかったグレイスには、欠片もその知識がなかった。
しかし彼らは、成人すれば親子共々出ていくのだから、王妃達に害がなければ問題ないと放置した。
しばらくすると、二妃が出産した。こちらは王女だったが、その翌年に、三妃が第三王子を産み、さらに二年後には王妃が第四王子を出産した。
グレインと名付けられたーーグレイスは自分に似た名前ではなく、王に名付けを望んだが却下されたーー王子が、五歳になるくらいから、カイエンと共に家庭教師を付けられた。
しかし、母親に似たのか、グレインは勉強は苦手とし、しょっちゅう逃げ出していた。
この事を、グレイスは王妃達の命令で教師達が嫌がらせをしているからだと、思い込んだ。
実際は、教育など最低限でいいだろうと言う国王に対し、産まれた子には罪はない!と怒った王妃によって、平等に教育を受けれるようになっていたのだが、自分可愛さに長けたグレイスに理解出来るはずもなかった。
小規模ではあるが、婚姻式もあるし、お披露目もある。
これに対し、位のない側妃は何の儀式もなく引っ越してくるだけ。
本来ならば、数人の侍女を連れてくるのだが、グレイスは身一つだという。
ならば、する事は決まっている。
二妃の後宮入りと同じ日に、グレイスを後宮入りさせれば良いのだ。
それにより、式典で二妃に注目が集まり、誰もグレイスに目を向けない。
ついでに周囲の使用人は、こちら側の者達を置いておけばよい。
何故なら、位のない側妃の意味を、正しく理解出来ていないのだ。
後宮勤めの使用人の言葉を疑うこともないだろう。
グレイスの後宮入りに難色を示していた高官達は、エリアナからの提案に便乗した。
グレイスの部屋は、最も国王や王妃から離れた場所にある離宮とも言える場所にした。
本来は、側妃の賜るような所では無いのだが、側妃となった事に喜ぶグレイスは気づかなかった。
当然である。
エリアなどイザベラは、少しでも王妃であるエリザベスに害意を向ければ、叩き出すつもりだったのだから。
使用人達もグレイスの前だけでは味方につくような発言をしていた。
後宮入りしてから、一度も王が部屋に来ていないというのも、
「御子様を安心してお産みになれるようにと、距離を置かれておいでなのですよ」
という使用人の言葉に、寵愛されているなどと、自分の都合のいい様に解釈していた。
実際は、悪阻で苦しむ王妃の側にオロオロしながらくっついていたのだが、そんなことが耳に入ることは無い。
何しろ後宮入りしてから、グレイスはずっと傍若無人に振舞っていて、誰からも好かれていなかったから。
そろそろ出産という頃には、三妃の後宮入りが重なった。
表向きは出産のために公務を離れる王妃を、二妃と共に支えるため。という名目での、これまたグレイスの出産を有耶無耶にしてやろうという魂胆である。
そしてお約束なのか、三妃の後宮入り前日から、グレイスは産気づいた。
苦しんでも苦しんでも、王が労いに来ることは無かった。
計算通りである。
三妃との婚姻式の最中だ。まして、血は繋がっていてもいずれ王籍から外れる子。薄情かも知れないが、グレイス以外からは望まれていない子なのだ。
披露パーティーの最中、出産の知らせを届けたものの、「御苦労」の一言ですら、侍従任せであった。
その二日後。今度は王妃が産気づいた。
後宮は上に下にと大騒ぎだったが、グレイスは気づかなかった。
出産後から、異様なまでに眠気に襲われていたのだ。
「気疲れからでございましょう。ゆっくりとお体をお休め下さい」
と医者に言われて、産まれたばかりの子供を乳母に任せて、ひたすら寝ていた。
実際は子に乳をやる気配がなかったので、遠慮なく薬で眠らされていたのだが、グレイスは気づかない。
何しろ自分の子は第一王子だ。次の王となるのだから、瑣末な事は気にしない。
あの断罪の瞬間まで、彼女はずっとそう信じていたのだ。
しかし、王妃の出産後に、二妃の懐妊が判明すると、グレイスは王への取り次ぎを願った。
産後で寝込んでいる王妃と、妊娠して夜会を控えている二妃の代わりにと、自分を選んでもらおうとしたが、ならば必要な知識を身につけろと言われたが、自分しかいないのだから、大丈夫だとまともに覚えなかった。
彼女は三妃が嫁いでいたことを出産のドタバタで忘れていた。
しばらくして、社交には三妃が共をし、王は後宮の王妃の部屋に入り浸っており、すぐ側の二妃の部屋にも、様子をよく見に行くと聞いたグレイスは、自分の立場に慌てた。
王妃の子も王子だったからだ。
我が子の命が危ない!
そう思ったグレイスは、口を開けば「お前は王になるのだから…」と言い聞かせた。
それを耳にしている使用人からすれば、「こいつ、何言ってんだ?」というとこである。
何しろ、位のない側妃の子は、成人すれば王籍から外されるということは、普通に教育を受けていれば知っている事だからだ。
外見磨きにしか興味のなかったグレイスには、欠片もその知識がなかった。
しかし彼らは、成人すれば親子共々出ていくのだから、王妃達に害がなければ問題ないと放置した。
しばらくすると、二妃が出産した。こちらは王女だったが、その翌年に、三妃が第三王子を産み、さらに二年後には王妃が第四王子を出産した。
グレインと名付けられたーーグレイスは自分に似た名前ではなく、王に名付けを望んだが却下されたーー王子が、五歳になるくらいから、カイエンと共に家庭教師を付けられた。
しかし、母親に似たのか、グレインは勉強は苦手とし、しょっちゅう逃げ出していた。
この事を、グレイスは王妃達の命令で教師達が嫌がらせをしているからだと、思い込んだ。
実際は、教育など最低限でいいだろうと言う国王に対し、産まれた子には罪はない!と怒った王妃によって、平等に教育を受けれるようになっていたのだが、自分可愛さに長けたグレイスに理解出来るはずもなかった。
1
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
双子の姉は『勇者』ですが、弟の僕は『聖女』です。
ミアキス
ファンタジー
僕の名前はエレオノール。双子の姉はレオノーラ。
7歳の〖職業鑑定〗の日。
姉は『勇者』に、男の僕は何故か『聖女』になっていた。
何で男の僕が『聖女』っ!!
教会の神官様も驚いて倒れちゃったのに!!
姉さんは「よっし!勇者だー!!」って、大はしゃぎ。
聖剣エメルディアを手に、今日も叫びながら魔物退治に出かけてく。
「商売繁盛、ササもってこーい!!」って、叫びながら……。
姉は異世界転生したらしい。
僕は姉いわく、神様の配慮で、姉の記憶を必要な時に共有できるようにされてるらしい。
そんなことより、僕の職業変えてくださいっ!!
残念創造神の被害を被った少年の物語が始まる……。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
慟哭の時
レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。
各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。
気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。
しかし、母には旅をする理由があった。
そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。
私は一人になったのだ。
誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか……
それから母を探す旅を始める。
誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……?
私にあるのは異常な力だけ。
普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。
だから旅をする。
私を必要としてくれる存在であった母を探すために。
私を愛してくれる人を探すために……
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる