上 下
91 / 110
第九章 他国訪問〔グラシア王国〕

しおりを挟む
[ラムダス視点]

「陛下っ!サラディナーサが侮辱されたのですよっ!何故、放置しておられるのですっ!!」

    黒髪をきっちりと纏めて、水色の瞳を吊り上げながら、グラシア王国王妃様が、第三王女へ寄り添いました。

「バカを言うでない。侮辱していたのはナーサの方だ。しかも我が国はサラディナーサの発言により、『勇者』からも『聖女』からも討伐依頼を断られることとなった。この責任をどう取らせるつもりだっ!!」

    王妃様はキッとお二人を睨みつけ、手にしていた扇を突きつけました。

「このような平民如き・・・・に頼らずとも、今まで通り魔族領に頼めばよいのですっ!!」

    はい。レオ様の狙い通りの発言が出ました。ここまで、順調にレオ様たちの作戦通りに進んでおります。ホント、味方で良かったです。

「それは困った…」

    ここで我らの殿下の登場です‪。先程の殿下の一言をもう忘れられているのか、第三王女がうっとりとした顔で見上げてます。王妃様に至っては、満足気に微笑んでいらっしゃいますが、これからどんな目に遭うかも理解出来ずにお気の毒なことです。

「そこにいる『勇者』は俺の唯一の番。その番が討伐を受けないと誓言したからには、我が魔族領の者も誰一人として・・・・・・貴国に対して討伐に向かう者はおりますまい」

「「……は?」」

   首を振りながらそう話す殿下に、女性二人はぽかんと大きく口を開けたままです。

「俺が『勇者これ』を唯一の番として溺愛していることは、魔族領では衆知の事実。さらに我が番は魔族領でも我ら王族よりも人気があるのです。その『勇者』を怒らせた者に救いの手を差し出す者がいるとでも?」

    レオ様を引き寄せ、その頬に口づけをしながら、見せつけるように見つめ合ってます。

    ええ。殿下、拒まれないのを良い事に、やりたい放題してますから、後でレオ様に叱られますね。調子に乗りすぎです……。

「な、何でそんな子が……」

    悔しそうに第三王女が呟きますが、王族としての義務を果たしてない御方と、求められている以上の役目を果たしている御方では、比べるまでもありません。

「そんな子?我が番は『聖女』共々、創造神様が直々に選ばれた『勇者』だ。その魔力量は我ら魔族よりも多く、使える魔法も多種多様。対してそちらの王女殿下はどんな功績が?聞けば未だに嫁ぎ先も見つかっておらぬ様子……」

「そ、それ…は……」

    滅茶苦茶悔しそうに、話してる殿下でなく、殿下の腕の中のレオ様を睨んでらっしゃいます。

「サラディナーサは、素晴らしい娘なのです!ですから、この子に相応しい者でなくば「それ、自分の欲望に対して素晴らしく愚かなだけだよね?」」

    我が子を抱きしめる王妃様の言葉を遮り、レオ様が話し出します。

「婚約者のいる男性に無理やり迫ったり、気に入った男性の婚約者に嫌がらせしたり。身分を笠にして贅沢三昧の挙句、王女としての勤めは体調不良を理由に人任せ。王族としての勤めを素晴らしいくらいに果たせてないよね?」

「「っ!?」」

    レオ様の言葉にお二人共真っ赤になってます。またレオ様が、ものすごーく蔑んだ視線を向けながら話されるものですから、身分を一番にしているお二方にはかなり屈辱でございましょう。

「……平民の小娘風情が……。平民如きが王族に向かってその態度は何ですっ!!」

    パシンと王妃様が手にしていた扇をレオ様に叩きつけました。はい。やっちゃいました。決定的な瞬間です。

「…その平民如き・・・・に頼らないと滅ぶんですよ、このグラシア王国は……。そして、貴女方はそれをここにいる皆さんの前でそう望まれた……」

    出番の無いはずのエレ様が、レオ様にぶつけられた扇を拾われました。

「貴女方のせいで、グラシア王国は滅ぶんです。こんな風に…ね?」

    エレ様の手の中で、扇が一瞬で燃え尽き、塵となって風に流されていきました。

「ひ……、ひいっ!!」

    すぐ目の前でそれを見せられた王妃様は、腰を抜かされたようです。そんな王妃様に、真っ青になって震える王女様がしがみついています。

    ……エレ様。芝居でなく本気ですね。レオ様に対しての態度にかなり怒られておいでのようです。

「衛兵っ!王妃達をまとめて何処かに閉じ込めておけっ!!」

    グラシア王の声に、素早く駆け寄った衛兵達が、引きずるように御二方を連れ去りました。

「『勇者』レオノーラ。『聖女』エレオノール。そして、ガディル殿下。この度は我が王妃と第三王女がご迷惑をおかけした。かくなる上はあの二人は王族から外し、辺境にでも蟄居させると約束する。どうか、討伐依頼を受けていただけぬか?」

    御三方の前にグラシア王ばかりか、重鎮の皆様も膝をついて謝罪をされています。その姿に、周囲の貴族の方々も膝をつかれていきました。

    これ。全部。レンドル陛下とレオ様の立てた計画通りの流れです。本っ当に!御二方を敵に回すことがなくて良かったと、ひしひしと感じましたーーーー。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...