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第八章 魔導具の聖地?

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「エレは挨拶行かないの?」

   神獣きんちゃんが神界へと帰還した翌日。騎士達との訓練の合間の休憩中に、突然レオがそう訊ねた。

「え?何処に?」

「いや。何処って……、ねえ?」

    キョトンとして答えたエレに、レオは周囲の騎士達へと視線を向けた。

「…エレ。お前、トワレ男爵んとこに、ちゃんと挨拶行ってねえだろ…」

    呆れ顔でアルテに言われ、エレは視線を上に向け、右、左、下へと動かした。

「……やっぱり、きちんとした方がいいのかな?」

   『聖女』や『勇者』と呼ばれていても、二人とも田舎の平民育ちである。それなりに教育は受けてはいたものの、そこまでは理解が追いついていなかったのだ。

「え?私は知らないよ?だって、ほら。私の場合は相手が相手だから、周りが勝手に動いてくれるわけだし…」

「……うん。レオは少し黙ろうな…」

    言い出したのに、何もする気のない発言のレオは、アルテにより発言権を奪われた。なぜなら、無駄に引っ掻き回すだけだから。

「トワレ家は男爵家ですが、その治めている領地は、魔道具の聖地と言われるほどですからね。男爵本人が陞爵に興味がないのでそのままですが、本来ならとっくに伯爵まで上がっていてもおかしくないんですけどね……」

    エレの護衛騎士であるグランが、苦笑しながら説明する。

「…無欲すぎる……」

   ポツリとレオが呟いた。

「無欲というか、あそこの連中はなんて言うかこう……。なあ?」

   オリクスが何とも言えない顔でグランを見る。

「そうですね。良く言えば無欲。悪く言えばその……。一直線…ですかね?」

   グランも何とも説明しづらそうに話す。

「……思い込みが強いってこと?こうと決めたら、融通がきかなくなっちゃうってやつ?」

「あー。そんな感じだな、あそこの連中は……」

   レオの言葉にオリクスが頷く。

「目当ての魔導具が完成間近になると、食事や睡眠を抜くのも当たり前とか聞きますからねぇ…」

   グランが苦笑する。

「それは……。大丈夫なの?」

   エレが不安気にそう言うと、ポンとレオが肩を叩いた。

「いい例が近くにいるじゃん!」

『?』

   レオの言葉に皆は首を傾げる。

「フレイアだって、魔導具ではないけど、刺繍に関したら似たようなもんでしょ?」

「あー。確かに……」

「フレイア殿も一気に集中して仕上げますからねぇ…」

「レオの衣装の時のなんか、あれ、よく間に合ったよなってくらい凄かったもんなぁ…」

    騎士達もウンウンと、実際に目にした刺繍の素晴らしさを思い出す。

「あ、でも。魔導具見てみたいかも。見たことないのとか、たくさん有りそうだよね?挨拶がてら見に行こうよ!」

「いや。挨拶必要なの、エレだからな…」

「そこは、ほら。冒険者として…」

    アルテとレオの会話を他所に、エレはしばらく考え込んでいた。

    挨拶……かぁ……。うちの両親にも会いに行った方がいいんだろうけど。レオはどうするんだろう……?

   既に魔導具のことしか話題になっていない会話に呆れつつ、これはレンドルに相談だろうなぁと、エレは結論を出すのであったーーーー。






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