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第七章 神獣様と一緒!

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[アルテ視点]

「親父……。オレ、部屋に戻りたい…」

    ザワザワ…と、魔族領の貴族の皆様が集まる大広間の中、人族はオレと親父の二人だけ。時折、討伐で知り合った連中が声をかけてはくれるものの、向けられる視線ー特にご令嬢ーからの敵意にはウンザリしていた。

「バカをいえ……。両陛下にも言われたであろうが。しっかりと連中の間抜け面・・・・を確認しておくようにと……」

「……うちの陛下と気が合うはずだよなぁ……」

   レオの着飾った姿を見たご令嬢達・・・・の様子を記録用魔導具に保存するのが、今回のオレ達の本当の・・・任務です。ないわ……。
    前もって陛下から連絡がいっていたらしく、ノリノリで自分の分も頼むと渡されましたからね。

「そもそも、魔物相手に剣を振り回してばかりの勇ましい方に、王妃などという責務が果たせますの?」

    不意に聞こえてきた言葉にそちらを向けば、取り巻きらしき男達を侍らせたご令嬢がいました。
    漆黒の髪を高く結い上げ、金銀のかんざしや髪飾りをこれでもかと付けて、地肌か白粉なのか不明なくらいの白い顔に、金のつり目をさらに強調した化粧。胸元も谷間を強調し、腰も絞りに絞った真紅のドレスは、右側の裾が際どい位置まで切込みが入っていて、そこから白い脚がチラチラと覗いています。

   ………けば…、ゲフンゲフン。お色気満載なご令嬢です。恐らく事前に聞いていた側妃の第一候補とか言われてたご令嬢でしょう。

「ええ。本当に。女だてらに剣を振り回すなど、王妃になれば気に入らぬ者に何をするやら…」

   ご令嬢の言葉に周りは同意して頷いています。
   が!
   ちゃんとレオのしたことを把握している方々はいらっしゃるようです。魔族領のスタンピードを誰が・・被害も出さずに済ませたのか。さらには孤児院や救貧院、救護院にも個人的に寄付をしていることを知っている方々は、離れた場所から眉を顰めていました。

    うん。まともな方々もいるのは安心ですね。

「王太子ガディル・ヘリオ・ギルメット様。並びに『勇者』レオノーラ様ご入場ーーっ!!」

   その声が響き渡った瞬間、大広間はシンと静まり返り、開かれていく扉に全員の視線が集まりました。

『ーーーっ!?』

    漆黒のタキシードに身を包み、青色のスカーフタイには銀の蝶に黒石オニキスのスカーフリングを付けて、群青色のリボンで銀の髪を緩くひとつにまとめている殿下。
    その殿下の曲げられた腕に手を添え、隣に並び立つのは我らが『勇者』のレオです。
    群青色の生地に、金糸銀糸で刺繍をされたマーメイドドレスを身にまとい、長い黒髪の半分は編み込まれ、残りはそのまま垂らしたまま、銀色の蝶の飾りを髪、耳、首につけたその顔は薄化粧を施されているだけです。
    なのに、いつもの『勇者』要素が見当たらない。
    女は化けるという言葉を思い出しましたね。

    そんな二人の姿に誰もが息をのみ、殿下にエスコートされるレオは、令嬢らしく歩いて魔王陛下の前まで行きました。

「此度はくだらぬ・・・・ことで呼んですまなかったな。頭の固い連中を納得させるために協力をしてもらおう……」

「承りました……」

    スっと腰を下ろし、淑女の礼をしたレオの前に、親父くらいの年の男性が現れました。

「…宰相のカルバン・クル・ラーセンと申します。王太子より貴女がつがいであると申されましたので、確認させていただきます」

    真っ赤な短髪に褐色の肌の宰相殿は、赤眼を細めながらそう言われました。

「…どうぞ。お好きなだけ《鑑定》してください」

    にっこりと笑うレオに、宰相殿が右手を突き出しました。

「……《鑑定》!」

   周囲が見守る中、宰相殿はカッと目を見開くと、その体をふらつかせました。

「…いかがした、カルバン?」

   魔王陛下がニヤニヤしながら尋ねます。

「…間違いなく、殿下のつがいとございます…。それに……」

   ザワついたものの、続く言葉に場が再び静まります。

「…〈神々の加護〉と〈神々の寵児〉がございます……」

「ほう♪」

「当然だ。レオは創造神様が直々に選んだ『勇者』なのだからな…」

    おおっ!とどよめきが生じる中、オレと親父が見ていたのは先程のご令嬢です。

    視線で人を殺せそうなくらいすんごい凶悪な顔でレオを睨んでます。手にしている扇も軋んでます。

    オークみてぇな顔になってんなぁ……。

    ちなみに魔導具にはしっかりと保存されてってます。

    ………オレ、ワルクナイヨ?





   
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