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第六章 五十歩百歩
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[アルテ視点]
あのレオが逆らえることも出来ないまま、侍女軍団ーオレ達はそう呼んでいるーに連れてかれた翌朝。魂が口から抜けたような顔をしたレオが、ガディル殿下に手を引かれて姿を現した。
「お前なら心配あるまいが、くれぐれも無茶をするなよ…」
「…ソウデスネ…」
「しばらく離れる事になるが…」
「…ソウデスネ…」
一方的に語る殿下に、死んだ目で同じことしか返さないレオ。
昨夜、何があった…………。
聞きたいような聞きたくないような気持ちになりつつ、各々で出立準備を済ませれば、二人はまだ会話を続けていた。
「お前に会えないのは辛いが…」
「…ソウデスネ…」
熱く想いを語っている殿下に、塩対応のレオ。同じ男としては、殿下に同情してしまう。
殿下……。めちゃくちゃ、聞き流されてますよ……。
馬車の前では、エレがものすごーく複雑そうな顔で、そんな二人の姿を見ているし、仲間達や殿下の側近のラムダスさんは、痛いものを見る目で見ている。
気づいてない殿下、すげぇな……。
結局、なかなか終わらない二人の会話を、ラムダスさんが何だかんだと引き離し、我々は魔族領の端へと一気に移動して行った。
道中、見かけた魔物は狩りながらとなったものの、旅路に付いてからは本調子に戻ったレオとエレの連携で、サクッと進んで行った。
※※※※※※※※※※
[エレオノール視点]
魔族領の端。〖最果てのガルザーク〗と呼ばれる町に着いた。
正直に言うと、寂れた感が物凄い。荒れた建物に、ガラの悪い住人。怯えて物陰に隠れているのは浮浪者や孤児だろうか?
宿泊施設よりも野営の方が安全と判断され、町外れで野営をすることになった。
………襲撃されました。しかも、三回も。
「……いや、笑えるわ……」
レオが肩を震わせてこっちを見てくる。
「……うるさいよ……」
何が納得いかないって、女のレオでなく、私が狙われていたことだ。
「黒髪娘の方は面倒くせえからほっといて、金髪娘の方を連れてけ!」
って、三回とも私が連れ去られそうになった。
一度目の時は驚いてる間にアルテ達が捕縛し、二度目の時は笑いながら、レオが蹴り倒した。
さすがに三度目は腹が立っていたのもあって、自分の魔法で首から下を凍らせた。
「しょうがない、しょうがない!だって、エレは『聖女』として振舞ってたから、仕草がそれっぽいんだもん」
「それっぽいって何!?」
翌日は討伐の帰り道を襲われた。かなり皆、疲労していたけれど、襲撃者達はレオの一振で吹っ飛ばされて気絶していた。
「「…………」」
さすがに変に思ったので、アルテ達が変装して聞き込みに行ったところ、変な話を拾って戻った。
「は?ガディル殿下の婚約者選別パーティーに出れなくするため?」
「いや、それだと狙われるの私だよね?エレが狙われてたと思うんだけど?」
レオの言葉に頷くと、アルテ達が気まずそうに視線を逸らした。
「…その…。ガディル殿下に男色家疑惑があるらしくてだな…。レオと婚約するのは、エレとの隠れ蓑にするためだから、エレを排除すればレオとの婚約が破棄される…と思われているらしい……」
「……は?」
誰が男色家だって?私には可愛い婚約者がいるってば!
「ぶはっ!カディル、男色家って噂されてんだ~。笑えるぅ~~っ!」
レオはお腹を抱えて笑いだした。
「結構、昔からそう言われてたらしいぞ……」
なるほど。それなら、あの侍女さん達の反応も納得出来る。婚約者となったレオを逃がさないようにしてたんだろう。にしても…。
「レオ。笑いすぎ……」
「いや、だってよ…。男色家ってことは相手はラムダスで噂されてたんじゃないの?」
レオの言葉にアルテ達を見ると、皆の視線があちこちに向けられた。
なるほど……。
「っていうか。そもそも婚約者選別パーティーって何?私との婚約はしてないって事になってるわけ?」
笑いを収めたレオが、にっこりと笑みを浮かべてそう言った。
あ、これ。殿下ヤバいやつだ……。
「ふーん。そっかぁ……」
ニコニコ笑いながら、自分のテントに戻っていくレオ。
私達は事実確認のために、ガディル殿下に向けて、急ぎの使者を走らせることになったーーーー。
あのレオが逆らえることも出来ないまま、侍女軍団ーオレ達はそう呼んでいるーに連れてかれた翌朝。魂が口から抜けたような顔をしたレオが、ガディル殿下に手を引かれて姿を現した。
「お前なら心配あるまいが、くれぐれも無茶をするなよ…」
「…ソウデスネ…」
「しばらく離れる事になるが…」
「…ソウデスネ…」
一方的に語る殿下に、死んだ目で同じことしか返さないレオ。
昨夜、何があった…………。
聞きたいような聞きたくないような気持ちになりつつ、各々で出立準備を済ませれば、二人はまだ会話を続けていた。
「お前に会えないのは辛いが…」
「…ソウデスネ…」
熱く想いを語っている殿下に、塩対応のレオ。同じ男としては、殿下に同情してしまう。
殿下……。めちゃくちゃ、聞き流されてますよ……。
馬車の前では、エレがものすごーく複雑そうな顔で、そんな二人の姿を見ているし、仲間達や殿下の側近のラムダスさんは、痛いものを見る目で見ている。
気づいてない殿下、すげぇな……。
結局、なかなか終わらない二人の会話を、ラムダスさんが何だかんだと引き離し、我々は魔族領の端へと一気に移動して行った。
道中、見かけた魔物は狩りながらとなったものの、旅路に付いてからは本調子に戻ったレオとエレの連携で、サクッと進んで行った。
※※※※※※※※※※
[エレオノール視点]
魔族領の端。〖最果てのガルザーク〗と呼ばれる町に着いた。
正直に言うと、寂れた感が物凄い。荒れた建物に、ガラの悪い住人。怯えて物陰に隠れているのは浮浪者や孤児だろうか?
宿泊施設よりも野営の方が安全と判断され、町外れで野営をすることになった。
………襲撃されました。しかも、三回も。
「……いや、笑えるわ……」
レオが肩を震わせてこっちを見てくる。
「……うるさいよ……」
何が納得いかないって、女のレオでなく、私が狙われていたことだ。
「黒髪娘の方は面倒くせえからほっといて、金髪娘の方を連れてけ!」
って、三回とも私が連れ去られそうになった。
一度目の時は驚いてる間にアルテ達が捕縛し、二度目の時は笑いながら、レオが蹴り倒した。
さすがに三度目は腹が立っていたのもあって、自分の魔法で首から下を凍らせた。
「しょうがない、しょうがない!だって、エレは『聖女』として振舞ってたから、仕草がそれっぽいんだもん」
「それっぽいって何!?」
翌日は討伐の帰り道を襲われた。かなり皆、疲労していたけれど、襲撃者達はレオの一振で吹っ飛ばされて気絶していた。
「「…………」」
さすがに変に思ったので、アルテ達が変装して聞き込みに行ったところ、変な話を拾って戻った。
「は?ガディル殿下の婚約者選別パーティーに出れなくするため?」
「いや、それだと狙われるの私だよね?エレが狙われてたと思うんだけど?」
レオの言葉に頷くと、アルテ達が気まずそうに視線を逸らした。
「…その…。ガディル殿下に男色家疑惑があるらしくてだな…。レオと婚約するのは、エレとの隠れ蓑にするためだから、エレを排除すればレオとの婚約が破棄される…と思われているらしい……」
「……は?」
誰が男色家だって?私には可愛い婚約者がいるってば!
「ぶはっ!カディル、男色家って噂されてんだ~。笑えるぅ~~っ!」
レオはお腹を抱えて笑いだした。
「結構、昔からそう言われてたらしいぞ……」
なるほど。それなら、あの侍女さん達の反応も納得出来る。婚約者となったレオを逃がさないようにしてたんだろう。にしても…。
「レオ。笑いすぎ……」
「いや、だってよ…。男色家ってことは相手はラムダスで噂されてたんじゃないの?」
レオの言葉にアルテ達を見ると、皆の視線があちこちに向けられた。
なるほど……。
「っていうか。そもそも婚約者選別パーティーって何?私との婚約はしてないって事になってるわけ?」
笑いを収めたレオが、にっこりと笑みを浮かべてそう言った。
あ、これ。殿下ヤバいやつだ……。
「ふーん。そっかぁ……」
ニコニコ笑いながら、自分のテントに戻っていくレオ。
私達は事実確認のために、ガディル殿下に向けて、急ぎの使者を走らせることになったーーーー。
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