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第五章 そして新たな神話が生まれた

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[ラムダス視点]

「『勇者』レオノーラ!!『聖女』エレオノール!!」
 
    レンドル陛下のその声と同時に、指輪を外したお二人の姿が変化しました。

「………は?」

    現れた『勇者』の姿を目にし、殿下はものすごく間抜けな声を出します。

    長い黒髪を複雑に結い上げ、銀に黒曜石を嵌め込まれた蝶の髪飾りと、揃いの耳飾りと首飾りを身に付け、そのスラリとした体にまとわりつく様な群青色のマーメイドラインのドレス姿。
    その袖や襟、裾周りには金糸銀糸の美しい刺繍が施されてます。ですが、重要なのはそこではありません。いや、まあ多少は重要ですけどもね。
    その身を飾る宝飾品は、蝶をモチーフにしたものです。
    そして、我らが殿下の今日の出で立ちは、全身を漆黒のタキシードに包み、青色のスカーフタイには銀の蝶に黒石オニキスを嵌め込んだスカーフリングを使っているのです。
   
    銀に黒ですよ、銀に黒・・・

    『勇者』の髪色と、殿下の髪色ですね。こちらで今流行りのやつですよ。
    さらに申しますと、殿下の印は〘剣と蝶〙なのです。なので、装飾品には銀の蝶や金の蝶が使われることが多いのです。
    果たして、殿下は気づかれるのか…。

    あちこちの壁際から、殿下にチラチラと視線が向けられます。
    普段、『勇者』達と行動していて、今回の事を知っていた皆様です。
    ぶっちゃけ、『勇者』のあの衣装は、魔族こちら側と人族あちら側の合意の証なのです。

    ここまでお膳立てしているのです。くっついてくれなきゃ困ります…。

   と、隣の殿下の顔を見れば、まあ見事に耳まで真っ赤になって、両手で顔を隠していらっしゃいました。

    オ    ト    メ    か    っ    !


※※※※※※※※

[ガディル視点]

「……は?」

    見慣れたレオの姿がゆらりと揺らいだ瞬間、そこに現れたのは美しい女だった。
    
    長い黒髪を複雑に結い上げ、銀に黒曜石を嵌め込まれた髪飾りと、揃いの耳飾りと首飾りを身に付け、そのスラリとした体にまとわりつく様な群青色のドレス。
    その袖や襟、裾周りには金糸銀糸で美しい刺繍が施されていた。
    だが何よりもその身につけられた装飾品に目が向き、思わず自分の首元のスカーフタイに触れてしまった。

    俺の印だ…………。

    〘剣と蝶〙は王子としての俺の印であり、装飾品に蝶が使われていることは多い。自分の配下に下げ渡す時にも、蝶が記されているのが大半なのだが……。

    揃いの意匠の装飾品。何より、自分と彼女・・の色で作られている。
    彼女の色のドレスを彩るのは俺の色で、その意味に気づいた瞬間、思わず両手で顔を隠してしまった。

   ヤバい、ニヤける………。顔が熱い…………。

   報われないと思っていた想いが、受け入れてもらえると分かった瞬間なのだ。

「「我らの力は民のため。我らの心は王家と共に…」」

「……その言葉。ヒューゲル王家は確かに受け取った!」

    レンドル国王の前に跪いて、誓言を述べる姿に魅入ってしまう。

    ドス!

「ぐ…」

   突然、横腹を軽くだが殴られ、隣のラムダスを睨んだ。

「ここまでお膳立てして差し上げたんです。捕まえ損なったら笑い飛ばしますからね!」

「……大丈夫だろうか?」

   万が一にもと思うと不安になる。

「大丈夫です!『聖女』殿とレンドル陛下のお墨付きですから!!」
    
    胸を張るラムダスに、頷いた時だった。

「そこの『聖女』を騙る不届き者を捕らえよ!!」

    その叫び声を発端に、まあ色々あったわけなのだが、レンドル陛下と踊るレオの姿を見ていると、どんどんこちらに移動しているような気がした。

「ああ、予定通りのようですね。殿下、ちゃんとリードして差し上げてくださいね♪」

 「ん?」

    曲が途切れた瞬間、俺はラムダスによって、近くに来ていた二人へと押し出され、同じタイミングでレンドル陛下に突き飛ばされたレオの体を受け止めた。

「ごめ「…『勇者』。一曲お相手願いたい…」」

   受け止めた身体の手を取り、クルリと回して言葉を遮ると、彼女を抱き寄せて流れ出した音楽に身を任せた。

「……あの、ガディル?怒ってる?」

   申し訳なさそうに上目遣いで見上げられ、思わず抱きしめそうになるのを堪えた。

「……いや。喜んでる…」

「???」

   俺の言葉に目を瞬かせるレオは、よく知るレオのままで。

    『勇者』レオも目の前のレオノーラも、自分にはタダの惚れた相手・・・・・でしかなかった。

「…ドレスも装飾品も、全身で俺の物だと分かるからな……」

「は?」

    俺の言葉に自分の体に視線を向け、顔を上げる瞬間に俺のスカーフタイに目が止まった。

「~~~~っ!!」

    揃いの意匠の装飾品だということに気づいて、真っ赤になったレオ。
    周りに目を向ければ、次の相手を狙っている連中の多さにムッとした。
    動揺しているのをいい事に、二曲目も続けて踊っていると、連中はあからさまに肩を落とす者と、不愉快そうにこちらを見る者に分かれた。

「色々あって疲れただろう?少し向こうで休もう…」

   真っ赤になったままのレオの腰に手を回し、そのままバルコニーへと誘導する。

「………いつから……」

   中から見えにくい場所へと移ると、レオは真っ赤な顔で俺を見上げた。

「…いつからとは?」

「いつから、女だって知ってたの?」

 「さっきだな…」




  
   
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