上 下
24 / 110
第三章 困惑、混乱、初めての恋?

しおりを挟む
    パン屋のゴル兄さんこと、ゴルディーニ・ロドクリフは、抱きついてきた双子に驚いた。
    彼は自分の故郷にいたこの双子が、『勇者』と『聖女』だと知っているからだ。

「お、お前ら、何でここに…」

    式典やら何やらで、どんな格好を普段しているか把握しているだけに、いつもと全く違う姿にお忍びであると判断した。

「冒険者登録にきた!」

    だからこそ、にこやかに言い切ったレオの言葉が一瞬理解できなくても仕方がないだろう。

「……何だって?」

    聞き間違いだ、気のせいだと呟きながら、ゴルディーニは聞き返した。

「「冒険者登録にきました!!」」

    今度は双子が同時に言った。
    ハッキリと聞こえてしまった彼は、頭を抱えたくなった。
    だが人前であることと、ギルマスとしての立場から何とか持ちこたえた。

「……とにかく、こっちに来い……。登録は話を聞いてからだ……」

    彼は四人を連れて、自分の執務室へと案内した。



※※※※※※※※

    たったひと月の間に、王都の冒険者ギルドでは名の知らぬ者はいないというパーティーが現れた。

    パーティーの名は〖レンドルの花冠〗。
    ひと月の間にFランクから一気にCランクに上がった現在話題のパーティーである。

    リーダーは回復役の『神官』の青年クルト。
    前衛は紅一点の『剣士』ノーラ。
    中衛は『魔導士』のノール。
    後衛は『射手』のアルテ。

    美形揃いで性格も良く、稼ぎも良いと来れば女性からの人気は凄まじかった。

    紅一点のノーラは、周りの女達から妬まれるかと心配されていたが、ノールの姉であることと、持ち前の天然さで好かれていた。

「はい。依頼完了ご苦労様でした。こちら、報酬になりまーす♪」

    にこやかな笑顔で受付嬢が報酬を差し出す。

「ありがとうございます」

    にっこり微笑むクルトに、受付嬢は机の下で拳を握りしめていた。
    今までなら押し付け合いであった受付の担当は、クルト達と話せるために取り合いとなっているのだ。

「あの、クルトさん。良かったら、こ「おう、『花冠』の。戻ってんならこっちに来てくれ。話がある」」

    千載一遇のチャンスを逃すまいと、声をかけていた所をギルマスの言葉に遮られた。

「はい。分かりました。皆、行きますよ。すみません、失礼しますね」

    にっこり笑ってギルマスの所へ向かう面々に、受付嬢はがっくりと肩を落とし、それを見ていた他の女子職員達は、自分達に回るかもしれないチャンスに心踊らせるのであった。


※※※※※※※※

「ゴル兄さん、何か依頼?」

    執務室のソファに座り、レオが尋ねる。

「依頼じゃねえんだが…。お前ら、武器はどうしてんだ?さすがに別の使ってんだろ?」

    ゴルディーニの言葉に、レオとエレは顔を見合わせた。

「「使ってないよ」」

「は?」

    双子の言葉に、ゴルディーニは二人の装備に目を向けた。
    どう見ても、そこらの武器屋で売っている少し高めの品にしか見えない。

「さすがに【聖剣】や【聖杖】は使えないから、別のを使うつもりだったんだけど…」

    二人がそれぞれの武器を手にすると、ユラリと武器の輪郭が揺れた。

「っ!!」

    ゴルディーニは、上げそうになった悲鳴を両手で押さえ込んだ。
    目の前の武器が【聖剣】と【聖杖】に姿を変えたのだ。

「離れたくないって、形変えてくれたんだよね…」

    エレがこてんと首を倒して言う。

「…つまり、四六時中持ち歩いてんだな…」

    聞くんじゃなかったと後悔しながらも、ゴルディーニは確認する。

「…にしても、あのパーティー名は、何とかならなかったのか?よりによって、陛下の名前じゃねえか…」

    ゴルディーニの言葉に、全員が気まずそうな顔になる。

「だって冒険者登録の条件が、『陛下の指定した人間とパーティーを組むこと』と、『パーティー名は陛下が決めたものにすること』だったんだよ…」

「あれ、絶対何か企んでるよね。面白いこと思いついたって、顔だったもんねぇ…」

    エレとレオの言葉に、他の二人は苦笑している。
    賢王と名高き国王レンドルのそんな話に、ゴルディーニは知りたくなかったと、頭を抱えるのであったーーーー。



*******
いつも読了ありがとうございます。
まだまだ拙い文章ですが、楽しんでもらえるように頑張ります!


しおりを挟む

処理中です...