上 下
21 / 110
閑話 2

スタンピード

しおりを挟む
「……ん~。ゴブリンとオークがほとんどですねぇ…」

    街を囲む外壁の上から、上がる地煙の方向を《鑑定》しながら、オリクスが報告する。

「前方ゴブリン。後方オークってとこかな?」

    隣で聖剣を肩に担いだレオが呟くと、頷かれた。

「エレが足止めしてる間に、私がゴブリン狩り尽くして、エレが広域魔法ぶち込んで、漏れたの潰してくんでいいかな?」

「そんなとこでしょう…」

    レオの言葉にオリクスは頷き、仲間に伝えに走る。
    先頭のゴブリンの群れは、目視できる迄に近づいていた。

「んじゃ、エレ。任せた!」

「了解。タイミング合わせてね」

「おい、お前ら…」

    話から外されていたことに、ガディルが抗議しようと手を伸ばしたが、その手が捕えるよりも先にレオは外壁から飛び降りていた。

「なっ!」

    思わず外壁から身を乗り出すガディル。
    彼の目には軽々と外壁を蹴り、地面に付くなり、飛び跳ねるように駆け出すレオの姿があった。

「……」

    振り返れば聖杖を構え、集中しているエレの姿がある。

「おい!」

「集中の邪魔をされないように願います!」

    近寄ろうとしたガディルは、護衛騎士であるグランに遮られた。

「スタンピードだぞ!連携が必要な時に、勝手な真似をされては我が国の民が困る!!」

    しかし、ガディルの言葉にグランはにこやかな微笑んだ。

「この程度のスタンピード。御二方には物足りないくらいですよ…」

「は?」

    紡がれた言葉に、一瞬、言葉を失った。

「行きます!《時間停止タイムストップ》!!」

    レオが群れに近づいた瞬間、エレが魔法を発動する。
    停止した群れの中に飛び込んだレオは、聖剣を頭上に放り投げた。

「なっ!?『勇者』は何をしている!?」

    外壁の端に集まり、慌てる魔族領の者や冒険者達を横目に、騎士達は落ち着いていた。
    そして、エレは次の魔法に集中していく。

「いくよ、エメルディア!!《複製コピー》!」

    レオが頭上に手を掲げた瞬間、空中に無数の聖剣が姿を現す。

「…からのぉ、《剣舞ソードダンス》!!」

    手に戻った聖剣を握りしめ、軽やかに舞い踊るようにゴブリンを斬り倒していくレオ。
    その動きを真似るように、浮かんでいた無数の聖剣も、使い手のいないままに、舞うように動き、その刀身でゴブリン達を屠っていく。

『な……』

    レオがオークの群れに近づく頃には、大地には倒れたゴブリン達で埋め尽くされていた。

「エレーーッ!!」

    レオが聖剣を振りながら、エレに合図をする。

「包み滅ぼせ!《炎の壁ファイアーウォール》!!」

    外壁の上から、聖杖カトルディンを掲げたエレが叫ぶと、オークの群れを巨大な炎の壁が包み込む。
    壁が消えると、消し炭になったオーク達が倒れている。
    囲み漏れた数匹のオークは、いつの間にか外に出ていた騎士達とレオが、一瞬で斬り伏せていく。

「………」

    余りの討伐速度に、魔族達も冒険者達も出番もなく、言葉も出ないまま、スタンピードは終息したのであったーーーー。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...