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【二部】侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する
26.
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セルドリア皇国。
周囲を大河に挟まれながらも、水害に少ない独特の文化を発展させているその国は、リーゼンブルク王国との間に大小合わせて三つの国を越えた場所にあった。
皇帝クリシューア・ラ・セルドリアの治世のもと、これと言った大きな問題はなく穏やかなお国柄である。
「……遠いところから、よく無事でこんなに早く来たもんだね……」
皇都ユピルスのとある高級宿屋の一室で、皇太子クリューセル・ラ・セルドリアは、秘密裏に訪れている客人を出迎えた。
本来なら、ひと月かかる旅程をその半分にしてやって来た客人に、到着の報せを貰った時は耳がおかしくなったかと思った。
密偵達の使う伝書鳥が到着した三日後の事であった。
「ホントに、よく無事で来れたものだと、僕も思います……」
真っ青な顔ながらも笑みを浮かべたエイデンが答える。彼は窓の外の飛んでいく景色を血の気の引いた顔でずっと眺めていた。
「予定より早く着けましたね。やはり、今後の物流にも取り入れる方向でいきましょうか?」
対してダニエルは、ここまでの道筋で得た様々な観点を控えているし、
「ここまでの日数をあれだけ縮められるなんて!アディエル様はさすがですわっ!!」
と、リネットはうっとりとして、アディエルを褒め称えている。
「………我、必要か?」
苦笑するクリューセルに促され、三人はそれぞれ床に腰を下ろした。
皇国では室内では履物を履かないし、床に直接座るのだ。
そのため、ドレスはこの国には向かない。
リネットは事前に用意していた皇国での一般的な未婚の女性服ーー巻服と言われる一枚布を巻き付けるように着る物に着替えていた。
「では、こちらをご覧下さい…」
エイデンから差し出された書状を手に取り、それを読んでいくクリューセル。終わりに近づくにつれ、どんどん顔色が悪くなっていく。
「……あの方はまだ諦めてなかったのか……」
渡された書状を折り畳み、控えていた侍従に渡すと、大きな溜息をついて、両手で顔を覆った。
「こちらもビックリですよ……」
苦笑するエイデン。
「ええ、本当に驚きました。我が国の王宮に忍び込み、姉を攫って囲おうと計画してるだなんて……。殺します?」
ニコニコしながらもダニエルは本気である。
「アディエル様からあれだけ拒まれたというのに、何をどう勘違いすれば、『囚われの令嬢』などと思われていらっしゃるのか、……頭の中を見せていただきたいものですわ♪」
コロコロと笑うリネットは、掌の中に即効性の麻酔薬を握りしめている。
「………二人とも、落ち着こうね。義姉上の獲物に手出しは無用って言われただろ?僕らの役割は前準備!場を整えるのが仕事なの、忘れてないよね?」
到着早々、この二人の手綱を握るのは無理ではないかと不安になったエイデンであったーーーー。
周囲を大河に挟まれながらも、水害に少ない独特の文化を発展させているその国は、リーゼンブルク王国との間に大小合わせて三つの国を越えた場所にあった。
皇帝クリシューア・ラ・セルドリアの治世のもと、これと言った大きな問題はなく穏やかなお国柄である。
「……遠いところから、よく無事でこんなに早く来たもんだね……」
皇都ユピルスのとある高級宿屋の一室で、皇太子クリューセル・ラ・セルドリアは、秘密裏に訪れている客人を出迎えた。
本来なら、ひと月かかる旅程をその半分にしてやって来た客人に、到着の報せを貰った時は耳がおかしくなったかと思った。
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「予定より早く着けましたね。やはり、今後の物流にも取り入れる方向でいきましょうか?」
対してダニエルは、ここまでの道筋で得た様々な観点を控えているし、
「ここまでの日数をあれだけ縮められるなんて!アディエル様はさすがですわっ!!」
と、リネットはうっとりとして、アディエルを褒め称えている。
「………我、必要か?」
苦笑するクリューセルに促され、三人はそれぞれ床に腰を下ろした。
皇国では室内では履物を履かないし、床に直接座るのだ。
そのため、ドレスはこの国には向かない。
リネットは事前に用意していた皇国での一般的な未婚の女性服ーー巻服と言われる一枚布を巻き付けるように着る物に着替えていた。
「では、こちらをご覧下さい…」
エイデンから差し出された書状を手に取り、それを読んでいくクリューセル。終わりに近づくにつれ、どんどん顔色が悪くなっていく。
「……あの方はまだ諦めてなかったのか……」
渡された書状を折り畳み、控えていた侍従に渡すと、大きな溜息をついて、両手で顔を覆った。
「こちらもビックリですよ……」
苦笑するエイデン。
「ええ、本当に驚きました。我が国の王宮に忍び込み、姉を攫って囲おうと計画してるだなんて……。殺します?」
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「………二人とも、落ち着こうね。義姉上の獲物に手出しは無用って言われただろ?僕らの役割は前準備!場を整えるのが仕事なの、忘れてないよね?」
到着早々、この二人の手綱を握るのは無理ではないかと不安になったエイデンであったーーーー。
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