上 下
46 / 82
【二部】侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する

7.

しおりを挟む
グリオール伯爵夫人ロゼッタは、ベッドの中で小さく息を吐き出した。

今日も夫であるランディとの夜の営みが終わったからだ。

結婚してから、夫がいる日は毎晩続く行為が、ロゼッタはとても辛かった。

淑女教育で『寝所の中では、夫の言うことを聞けば良い』と教わっていた彼女は、優しかったはずの夫から与えられる痛みだけの行為に、心が壊れかけていたのだ。

触れ合った後に、隣で眠ってくれていたならば、まだロゼッタは耐えれたのかもしれない。
だが、初夜の日から毎回。ランディは事が済むと、ロゼッタ一人を夫婦の寝室に残し、自身はベッドへと行ってしまうのだ。

後継を得るためだけの婚姻だったのかと確認し、聞きたくない答えを聞くかもしれないという恐怖から、ロゼッタはランディに尋ねることも出来ず、誰にも相談できないままでいた。

周りから新生活の事を聞かれるのも苦痛になり、体調を崩して寝込んでしまうと、ランディは優しく労わってくれたが、やはり夜の生活に変わりはなかった。
訳が分からなくなってきたロゼッタは、人との関わりを避けるようになり、部屋に閉じ篭もるようになった。
それでも、ランディがベッドに現れると、辛くとも触れられたいという想いで彼に身を任せ、後悔するということを繰り返す。
そんな生活に疲れ切っていた頃、突然、親友である王女が見舞いに来ると連絡があった。

「…お会いするとお伝えして…」

心配して送られてきた手紙に、

『わたくしは元気にしております。
相談したい時は、相談にのってくださいませ』

と、返事を返した。
それから、何の音沙汰もなかったというのにどうしたのだろうと、ロゼッタは首を傾げながらも、侍女達に頼んで出迎える支度を始めた。



「こうして直接お話するのは初めてですわよね?ノクタール侯爵家のアディエル・ノクタールと申します」

シルフィアは王太子の婚約者を同行者として連れてきていた。

「ロ、ロゼッタ・グリオールでございます。本日は御二方に当家においでいただき、光栄に存じます……」

頭を下げて、歓迎の意を示しながら、ロゼッタは哀しくなっていた。
目の前の侯爵令嬢は、王太子が唯一の妻として迎えるために、国法まで変えたことを知っていたからだ。

自分と違って、はっきりと愛されている相手に、心の奥で妬みの芽が芽吹くのが分かった。

「…本当は会いたくなかったのでしょう?なのに、こんな形で押しかけてごめんなさい、ロゼッタ……」

通されたサロンで人払いを頼まれ、三人だけになるなり、シルフィアはロゼッタの手を握りしめて頭を下げた。

「シル様、いけません!」

慌てるロゼッタをアディエルは穏やかな笑みを浮かべて見ている。

「お止めくださいませ。そのような真似をされては、わたくしが困ってしまいます……」

「ごめんなさい。アタクシの気が済まなかっただけなの…。貴女を困らせるつもりは無いわ…」

苦笑しながら頭を上げたシルフィアに、ロゼッタはホッと吐息を漏らした。

「…それで、失礼ですが『断罪令嬢』と呼ばれるノクタール家のアディエル様が、何故当家にお越しなのでしょうか?」

ピンと背筋を伸ばしたロゼッタの姿に、アディエルは満足気に微笑むと、数枚の手紙を取り出すのだったーーーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月
ファンタジー
メラニア・アシュリーは聖女。幼少期に両親に先立たれ、伯父夫婦が後見として家に住み着いている。義妹に婚約者の座を奪われ、聖女の任も譲るように迫られるが、断って国を出る。頼った神聖国でアシュリー家の秘密を知る。新たな出会いで前向きになれたので、家はあなたたちに使わせてあげます。 メラニアの価値に気づいた祖国の人達は戻ってきてほしいと懇願するが、お断りします。あ、家も返してください。 ※この作品はフィクションです。作者の創造力が足りないため、現実に似た名称等出てきますが、実在の人物や団体や植物等とは関係ありません。 ※実在の植物の名前が出てきますが、全く無関係です。別物です。 ※しつこいですが、既視感のある設定が出てきますが、実在の全てのものとは名称以外、関連はありません。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

処理中です...