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【番外編】侯爵令嬢は今日もにこやかに拒絶する
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「……踊れたじゃないか…」
踊り終わって、王妃達の元に向かいながら、つまらなそうにカイエンが呟く。
「…私、得意ではないと申しましたけど、苦手とは申してませんわよ?」
「確かに…」
何となく悔しくなったカイエンである。
「アディッ!カイエン様っ!二人とも素晴らしかった!!」
興奮している三妃は、少し地が出かけていたし、二妃に至っては喜びのあまりか涙目になり、ハンカチを握りしめて震えていた。
「…アディエル嬢。カイエンと私達の我儘に付き合ってくれてありがとう…」
穏やかに微笑む王妃に、アディエルは困りつつも笑みを返して頭を下げた。
「……カイエン様、話が違いませんか?」
さらに二年後の十歳の誕生パーティーでも、アディエルはカイエンと踊らされていた。
その頃には二人とも互いに名前で呼ぶようになっていたし、大半は二人が婚約するのは決定だと信じていた。
「アディ。文句は母上達に頼む…」
「…くぅ…」
アディエルから言えるはずもなく、カイエンが言うはずもない。
そんな訳で都度都度、ファーストダンスの相手は必ず互いのままになるのだ。
「周りからも私の婚約者はアディで決定だと思われてるのに、どうして断るのかなぁ…」
踊りながらのため、どちらも笑みを浮かべたままの会話である。
「王家に嫁ぐのはお断りします!」
にこやかに、いつも通りにきっぱりと断る。
「ふむ…」
踊り終えて挨拶もし、カイエンはそのまま庭園へとアディエルを連れて移動していく。
四阿に着くと、隣合って腰を下ろし、カイエンは人払いをした。
声の聞こえない距離まで、使用人も護衛も離れていく。
「ねえ、アディ。私は今まで君に婚約して欲しいと言い続けてきたよね?」
「そうですわね」
「いつも断られてるけど…」
「そうですわね」
「…エイデンにね。『何で断られてるの?』って言われて、アディから理由を聞いてないことに気づいたんだ…」
ハアと溜息をつきながらそう言ったカイエンに、アディは不思議そうな顔を向けた。
「ねえ、アディ。私の婚約者になるのは、どうして嫌なの?」
「……私は、両親に憧れてますので…」
「侯爵?ああ、夫人と仲がよろしいね。理想の夫婦と言われてると聞いてるよ?」
「…二妃様と三妃様のお話も聞いています…」
「……なるほど…」
アディエルの言葉に、カイエンは理解してしまった。
王家に嫁ぐと、必ずと言っていいほど、『位持ちの側妃』という存在が発生する。
しかもこの国では、『位持ちの側妃』は『王妃』を支える存在でなければならない。
故に、王妃が側妃を選ばなければならないのだ。
過去には王妃を支えるために、愛する者と別れた側妃もいたという。
自身が信じている者といえど、自分の夫に嫁がせなければならないのだ。
自分から飛び込んで行った、二妃と三妃のような例など滅多にない。実際、初めての事案だったほどである。
そして、ノクタール侯爵夫妻は政略結婚なれど、周囲が羨むほどの仲睦まじさである。
つまり、アディエルは、『一夫多妻制はお断りします』と言うことなのだ。
しかし、カイエンはもうアディエルしか選ぶつもりはなかった。
「うん。じゃあ、私はアディエルしか妻にしないと誓おう!」
「……は?」
突然、アディエルの両手を握りしめ、にっこり笑ってそう告げたカイエンに、アディエルはポカンとなってしまった。
「ははっ♪アディのそんな顔、初めて見たよ」
「っ!?」
嬉しそうに笑ったカイエンに、アディエルは自分の顔が赤くなったのが分かって動揺する。
「よし、決めたっ!正式に婚約を申し込むことができる十二歳になるまでに、王妃一人でも認めさせれるような法を考える!そしたら、婚約を受け入れて、一緒に手伝ってくれるかい?」
「……一緒に…ですの?」
「うん!一緒に、だ!!」
「……し、仕方ありません。カイエン様がそこまで仰るなら…。ですが私に認められなければ、お受けしませんからねっ!!」
悔しそうに真っ赤な顔で答えたアディエルに、カイエンは絶対に認めさせると、その日から合間合間に法律関係の事を調べ始めた。
これに協力したのは、当然、二妃エリアナである。
三妃は残念ながら、そちら方面には弱かったので、根回しに関することは引き受けていた。
当然である。
この二人。どうしても、どーーーーしても、アディエルとカイエンが一緒になるのを見たかったのだから。
原因である王妃は不思議そうにしていたが、国王マクスウェルは知っている。
何気なく王妃が何気なく漏らした一言が原因だったのだと。
『まあ。アディエル嬢は聡明なばかりかとても愛らしいですわね。あのような子がカイエンに嫁いでくれればよいのですが…』
エリアナの所に来ていたアディエル。たまたま通りかかった王妃エリザベスが、その様子を見て、隣にいた三妃イザベラに話しかけていたのだ。
当然、その場にエリアナがいなくともイザベラから伝わった。
カイエンとの初対面になるはずだったあの日。
エリアナはカイエン好みのドレスを、わざわざ作らせてアディエルへと送っていたのだ。
結果としては、着ることなくカイエンの興味を引いた訳なのだが…。
二人が王妃の為にとしている事を咎めでもしたら、自分の身が危うい。
命、大事。ホント、大事っ!
長年の付き合いで骨身に染みていた国王マクスウェルは、カイエンが無事に婚約出来ることをただ祈るのみであった。
国王、無力ーーーー。
踊り終わって、王妃達の元に向かいながら、つまらなそうにカイエンが呟く。
「…私、得意ではないと申しましたけど、苦手とは申してませんわよ?」
「確かに…」
何となく悔しくなったカイエンである。
「アディッ!カイエン様っ!二人とも素晴らしかった!!」
興奮している三妃は、少し地が出かけていたし、二妃に至っては喜びのあまりか涙目になり、ハンカチを握りしめて震えていた。
「…アディエル嬢。カイエンと私達の我儘に付き合ってくれてありがとう…」
穏やかに微笑む王妃に、アディエルは困りつつも笑みを返して頭を下げた。
「……カイエン様、話が違いませんか?」
さらに二年後の十歳の誕生パーティーでも、アディエルはカイエンと踊らされていた。
その頃には二人とも互いに名前で呼ぶようになっていたし、大半は二人が婚約するのは決定だと信じていた。
「アディ。文句は母上達に頼む…」
「…くぅ…」
アディエルから言えるはずもなく、カイエンが言うはずもない。
そんな訳で都度都度、ファーストダンスの相手は必ず互いのままになるのだ。
「周りからも私の婚約者はアディで決定だと思われてるのに、どうして断るのかなぁ…」
踊りながらのため、どちらも笑みを浮かべたままの会話である。
「王家に嫁ぐのはお断りします!」
にこやかに、いつも通りにきっぱりと断る。
「ふむ…」
踊り終えて挨拶もし、カイエンはそのまま庭園へとアディエルを連れて移動していく。
四阿に着くと、隣合って腰を下ろし、カイエンは人払いをした。
声の聞こえない距離まで、使用人も護衛も離れていく。
「ねえ、アディ。私は今まで君に婚約して欲しいと言い続けてきたよね?」
「そうですわね」
「いつも断られてるけど…」
「そうですわね」
「…エイデンにね。『何で断られてるの?』って言われて、アディから理由を聞いてないことに気づいたんだ…」
ハアと溜息をつきながらそう言ったカイエンに、アディは不思議そうな顔を向けた。
「ねえ、アディ。私の婚約者になるのは、どうして嫌なの?」
「……私は、両親に憧れてますので…」
「侯爵?ああ、夫人と仲がよろしいね。理想の夫婦と言われてると聞いてるよ?」
「…二妃様と三妃様のお話も聞いています…」
「……なるほど…」
アディエルの言葉に、カイエンは理解してしまった。
王家に嫁ぐと、必ずと言っていいほど、『位持ちの側妃』という存在が発生する。
しかもこの国では、『位持ちの側妃』は『王妃』を支える存在でなければならない。
故に、王妃が側妃を選ばなければならないのだ。
過去には王妃を支えるために、愛する者と別れた側妃もいたという。
自身が信じている者といえど、自分の夫に嫁がせなければならないのだ。
自分から飛び込んで行った、二妃と三妃のような例など滅多にない。実際、初めての事案だったほどである。
そして、ノクタール侯爵夫妻は政略結婚なれど、周囲が羨むほどの仲睦まじさである。
つまり、アディエルは、『一夫多妻制はお断りします』と言うことなのだ。
しかし、カイエンはもうアディエルしか選ぶつもりはなかった。
「うん。じゃあ、私はアディエルしか妻にしないと誓おう!」
「……は?」
突然、アディエルの両手を握りしめ、にっこり笑ってそう告げたカイエンに、アディエルはポカンとなってしまった。
「ははっ♪アディのそんな顔、初めて見たよ」
「っ!?」
嬉しそうに笑ったカイエンに、アディエルは自分の顔が赤くなったのが分かって動揺する。
「よし、決めたっ!正式に婚約を申し込むことができる十二歳になるまでに、王妃一人でも認めさせれるような法を考える!そしたら、婚約を受け入れて、一緒に手伝ってくれるかい?」
「……一緒に…ですの?」
「うん!一緒に、だ!!」
「……し、仕方ありません。カイエン様がそこまで仰るなら…。ですが私に認められなければ、お受けしませんからねっ!!」
悔しそうに真っ赤な顔で答えたアディエルに、カイエンは絶対に認めさせると、その日から合間合間に法律関係の事を調べ始めた。
これに協力したのは、当然、二妃エリアナである。
三妃は残念ながら、そちら方面には弱かったので、根回しに関することは引き受けていた。
当然である。
この二人。どうしても、どーーーーしても、アディエルとカイエンが一緒になるのを見たかったのだから。
原因である王妃は不思議そうにしていたが、国王マクスウェルは知っている。
何気なく王妃が何気なく漏らした一言が原因だったのだと。
『まあ。アディエル嬢は聡明なばかりかとても愛らしいですわね。あのような子がカイエンに嫁いでくれればよいのですが…』
エリアナの所に来ていたアディエル。たまたま通りかかった王妃エリザベスが、その様子を見て、隣にいた三妃イザベラに話しかけていたのだ。
当然、その場にエリアナがいなくともイザベラから伝わった。
カイエンとの初対面になるはずだったあの日。
エリアナはカイエン好みのドレスを、わざわざ作らせてアディエルへと送っていたのだ。
結果としては、着ることなくカイエンの興味を引いた訳なのだが…。
二人が王妃の為にとしている事を咎めでもしたら、自分の身が危うい。
命、大事。ホント、大事っ!
長年の付き合いで骨身に染みていた国王マクスウェルは、カイエンが無事に婚約出来ることをただ祈るのみであった。
国王、無力ーーーー。
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