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エピローグ
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「さて。伯爵様は皆様の前で、夫人を『穀潰し』と仰いましたが、それは如何なる理由からでしょう?」
愛らしく首を傾げて問いかけるアディエルに、伯爵は懐に入れていた書類を取り出す。
「こ、ここにあるドレスや宝石の領収書をご覧下さい!妻の有り得ない迄の散財がお分かりになるでしょうっ!!」
突き出された書類を受け取り、全てに目を通し終えたアディエルは、にこやかに微笑んで伯爵を見た。
「確かに。これだけの金額を支払えば、領地経営が苦しくなりそうですね」
「そうでございましょう!ですから…」
同意を得られたと思った伯爵は、予定通りになると喜色満面で言葉を紡ごうとした。
「ですが、このドレス。夫人が着る物ではありませんよね?」
「へ?」
「こちらの商会。夫人がご利用になっている商会ですのよ。作成するドレスのサイズが余りにも違っているからと、デザイナーの方が夫人に問い合わせたそうですわ」
「え?え?」
「それに、夫人に出て行けと仰られてましたけど、伯爵は婿養子でございましょう?仮に夫人に非があったとしても、出て行くのは伯爵の方ではありませんか。勿論、離縁された場合は、御二方の間にはお子様がいらっしゃいませんから、夫人の親族の方が爵位を継がれる事となりますわよね?」
「あ……」
サーッと血の気の引いていく伯爵。彼は自信が婿養子だった事を綺麗さっぱり忘れていた。
「商会には伯爵が夫人をお連れになって、ドレスや宝石を購入したとお聞きしてますのよ?」
「……ええ。ワタクシはそう商会の者から伺いました。ここ数年、夫と共に買い物になど出かけたことが無いというのに、不思議なこともあるものだと、アディエル様にご相談いたしましたわ…」
侍女に掛けられたワインを拭いてもらい、伯爵夫人は凛とした態度でアディエルの隣りに立った。
「我が家の財産を娼婦に貢いでいた貴方に、この家を継がせ続ける訳には参りません!今頃、貴方の愛人も、隠れて購入していた別宅を接収されてその身一つで追い出されておりましょう。本日をもって、国王陛下の名のもとに貴方とワタクシの離婚は成立しております。さあ、今すぐ出てお行きっ!!この恥知らず!」
「そ、そんな……」
へたりこんだ元伯爵は、使用人達に引き摺られて門の外へと身一つで放り出された。
「お越しの皆様には見苦しい様をお見せしましたことを深くお詫び致します。ですが、今宵この日。新たに伯爵となります者を紹介させていただきたいのです!」
夫人は新たに迎えた従兄の次男を養子に迎えて、家を継がせることを発表した。
※※※※※※※※※
翌日の侯爵家のサロンで、アディエルはリネットと二人きりでお茶を楽しんでいた。
「あの方。余りにも杜撰な計画でしたわね…」
伯爵家での出来事を思い出し、リネットが呟く。
「本当に。妻の贔屓の商会と知らずに、愛人を夫人と偽って買い物するなんてね…」
苦笑しながらお気に入りのクッキーを口へと運ぶ。
「それで、次はどこの何方を『断罪』されますの?」
「…さあ、何方にしましょうか?」
二人の間のテーブルの上には、束になった手紙が置かれている。
それらは全て、アディエルへの相談の手紙であった。
「そう言えば、二妃様からもお願いされている方がいましたわね?」
「ええ。今は証拠を揃えて確認している所ですわ」
にこやかに微笑んでアディエルは、次の断罪劇のシナリオをその頭の中に書き連ねていくのだったーーーー。
[完]
愛らしく首を傾げて問いかけるアディエルに、伯爵は懐に入れていた書類を取り出す。
「こ、ここにあるドレスや宝石の領収書をご覧下さい!妻の有り得ない迄の散財がお分かりになるでしょうっ!!」
突き出された書類を受け取り、全てに目を通し終えたアディエルは、にこやかに微笑んで伯爵を見た。
「確かに。これだけの金額を支払えば、領地経営が苦しくなりそうですね」
「そうでございましょう!ですから…」
同意を得られたと思った伯爵は、予定通りになると喜色満面で言葉を紡ごうとした。
「ですが、このドレス。夫人が着る物ではありませんよね?」
「へ?」
「こちらの商会。夫人がご利用になっている商会ですのよ。作成するドレスのサイズが余りにも違っているからと、デザイナーの方が夫人に問い合わせたそうですわ」
「え?え?」
「それに、夫人に出て行けと仰られてましたけど、伯爵は婿養子でございましょう?仮に夫人に非があったとしても、出て行くのは伯爵の方ではありませんか。勿論、離縁された場合は、御二方の間にはお子様がいらっしゃいませんから、夫人の親族の方が爵位を継がれる事となりますわよね?」
「あ……」
サーッと血の気の引いていく伯爵。彼は自信が婿養子だった事を綺麗さっぱり忘れていた。
「商会には伯爵が夫人をお連れになって、ドレスや宝石を購入したとお聞きしてますのよ?」
「……ええ。ワタクシはそう商会の者から伺いました。ここ数年、夫と共に買い物になど出かけたことが無いというのに、不思議なこともあるものだと、アディエル様にご相談いたしましたわ…」
侍女に掛けられたワインを拭いてもらい、伯爵夫人は凛とした態度でアディエルの隣りに立った。
「我が家の財産を娼婦に貢いでいた貴方に、この家を継がせ続ける訳には参りません!今頃、貴方の愛人も、隠れて購入していた別宅を接収されてその身一つで追い出されておりましょう。本日をもって、国王陛下の名のもとに貴方とワタクシの離婚は成立しております。さあ、今すぐ出てお行きっ!!この恥知らず!」
「そ、そんな……」
へたりこんだ元伯爵は、使用人達に引き摺られて門の外へと身一つで放り出された。
「お越しの皆様には見苦しい様をお見せしましたことを深くお詫び致します。ですが、今宵この日。新たに伯爵となります者を紹介させていただきたいのです!」
夫人は新たに迎えた従兄の次男を養子に迎えて、家を継がせることを発表した。
※※※※※※※※※
翌日の侯爵家のサロンで、アディエルはリネットと二人きりでお茶を楽しんでいた。
「あの方。余りにも杜撰な計画でしたわね…」
伯爵家での出来事を思い出し、リネットが呟く。
「本当に。妻の贔屓の商会と知らずに、愛人を夫人と偽って買い物するなんてね…」
苦笑しながらお気に入りのクッキーを口へと運ぶ。
「それで、次はどこの何方を『断罪』されますの?」
「…さあ、何方にしましょうか?」
二人の間のテーブルの上には、束になった手紙が置かれている。
それらは全て、アディエルへの相談の手紙であった。
「そう言えば、二妃様からもお願いされている方がいましたわね?」
「ええ。今は証拠を揃えて確認している所ですわ」
にこやかに微笑んでアディエルは、次の断罪劇のシナリオをその頭の中に書き連ねていくのだったーーーー。
[完]
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