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昔からグレイスは、自分の容姿が美しいことを自慢にしており、高位貴族の妻となる事を夢見ていた。
しかし、容姿が美しいだけで教養のない身分の低いグレイスにきたのは、隣の領のアルベルトとの縁談だけ。
領主である兄ならまだしも、次男の妻となることに、グレイスは不満を持っていた。
そんな折、立太子したばかりの王太子が、国内を公務で訪れていると、アルベルトの屋敷で耳にした。
話していた執事からさらに詳しく話を聞き出し、カーチス領とバーシャン領に近々訪れると知る。

グレイスはアルベルトに連れられて訪れた食事処で、『クォーツ』という香辛料の存在を知り、王太子にそれを使って既成事実を得ようと画策した。
その為の協力者として、金に困っていたカーティス子爵家の執事に目をつけた。
『クォーツ』を入手するために執事に口添えさせ、納得できる理由をつけた。
媚薬入りの酒を寝室に用意することにしながらも、執事から効果がないかも知れぬと言われ、王太子と同じ髪色と瞳の色を持つ己の婚約者のアルベルトを利用することに決めた。
さりげなく媚薬を使い、アルベルトに媚びを売って甘え、妊娠しやすくなると言う薬も使って、アルベルトと半月の間、体を繋げた。
アルベルトに媚薬を飲ませるのは執事の役目だった。

純血でないことをどう誤魔化すかと聞いた執事に、グレイスは屋敷で飼っている家畜の血を使えばいいと答えた。

蜂蜜を最後に王太子の口に入れさせるために、菓子を使うという事も口にしていた。

計画通りに子を宿し、側妃となったグレイスから、礼だと言って宝石を幾らか手にした彼は、その後も子爵家に仕えていた。
だが数年前。水害によって当主が亡くなってしまった。当主には妻がいたが、なかなか子が出来ず、夫を亡くしたショックで早々に妻も儚くなり、弟のアルベルトが跡を継ぐことになった。
その手続きのため、アルベルトの代理として訪れた王都で見てしまったのだ。

アルベルトの若い頃に瓜二つ・・・の第一王子の顔を……。

そして、いずれ自分が王太子となり、国王となるのだと話す姿に、自分が飛んでもなく恐れ多い真似をやらかしたことに気づいたのだ。

王族でない者・・・・・・をグレイスが王にしようとしている。

明らかに謀叛である。

少しばかりの金銭を得るために犯した罪の重さに彼は恐怖し、その全てを誰にも吐き出せずに手帳へとしたためた。

そして、最後に書かれていた言葉を、アルベルトが口にした。

「…『ああ。グレイン様は間違いなくアルベルト様のお子だ。あの首の付け根にある小さな三角形を思わせる三つの並んだホクロ・・・。あれは間違いなくカーティス家の男児にあらわれるのだから…』」

シンと静まり返った室内。
ワナワナと蒼白した顔で全身を震わせているグレイスは、息子のグレインの左袖を掴んでいた。

「ホクロ……。アザではなく、ホクロ……」

ブツブツと呟く姿に、アディエルが視線を向ける。

「ええ、アザではなく、ホクロですわ。側妃様がご存知か確認するためでしたの」

アディエルの微笑みが、グレイスには悪魔の笑みにしか見えなかった。

「…アルベルト・カーティス。そなたの首の付け根を見たい…」

「はっ!お目汚しではございますが、失礼いたします…」

アルベルトが首元を緩め、王達に背中を向けて跪く。

顕になった首の付け根には、三角形の点を置いたようなホクロが並んでいる。

「……グレイン。そなたの首の付け根を見せよ」

王の言葉に、グレインは首の付け根に手をやり、潤んだ瞳で王の顔を見上げた。

「ダメよ!ダメッ!!」

立ち上がろうとするグレインの顔を己の胸へと引き込み、グレイスは必死で首の付け根を隠そうとした。

「…引き離せ!」

王の言葉に控えていた騎士達が、力づくでグレイスを引き剥がし、彼らに連れられて王達の目の前に座り込んだグレインの首周りが緩められた。

『っ!!』

そこには先程目にしたアルベルトと、全く同じ位置に同じ形のホクロがあった。

「……その女を地下牢へ連れて行けっ!!」

「陛下っ!違いますっ!!陛下、聞いて下さいませっ!!陛下ーーーっ!!」

両脇を騎士達に捕まれ、グレイスは叫び続けたが連れて行かれた。
室内に静寂が訪れる。

「…俺は死刑でしょうか…」

ボソリと呟いたグレインに、全員の視線が集まる。

「ふむ。我が子でないとはいえ、そなたは知らなかった事であるしな。さて、どうしたものか…」

「元よりグレイン殿は卒業と同時に王籍から外れることとなっておりました。ここは最初に話した通り、ナタリー男爵家に婿入りさせればよろしいのでは?」

三妃の言葉に、フィルマは涙目で首を振る。

「そうですわねぇ。血筋的にも家格的にも男爵家と子爵家。釣り合いは取れますし、グレイス様は病気療養として、遠方に行かれたことにでもされればよろしいのでは?」

続く二妃の言葉に、フィルマは狂ったように首を振る。

自分の望む未来を得られない上に、謀反人の親を持つ夫など冗談ではなかった。

「……ナタリー男爵令嬢」

開いていた扇をパシンと閉じ、王妃が視線をフィルマへと向ける。

「選びなさい。生か、死か…」


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