僕と彼女の七日間

PeDaLu

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【第三夜】

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「やぁ、坂城さんお待たせ。今日は僕の方が遅くなっちゃったな」
「なに言ってるんですか。集合時間の十分前じゃないですか」
 前回遅れてしまったからだろうか。坂城さんは早く来ていたようだ。そう思って僕も少し早くきたつもりだったのだが。まぁ、それはそれとして。
「さて。目的地も決めてないけど、どこに行こうか」
 二人の予算を確認してから、まずは東北方面に行こうということになった。仙台あたりまで新幹線で一気に移動することにした。
「新幹線か。田舎に帰るとき以来だ」
「先輩の田舎ってこっちの方なんですか?」
「いや、関西方面。しかも、田舎って言いながら自分が住んでいるところのほうが自然が多くてさ。向こうは大都会のど真ん中のマンションで」
「私は福岡なんで、行くときは飛行機ですね。私の田舎は農家なので、絵に描いたような田舎ですよ」
「いいなぁ。そういうの。縁側に座って水を入れたタライに足を突っ込みながら冷えた野菜を食べる。やってみたいなぁ」
「いいですね。それ、やりましょうよ」
 しかし、ことはうまく運ばなかった。母親からの電話。学校に来ていないと連絡が入ったらしくて心配して連絡してきたというわけだ。なんだ。特権で自分の思い通りに行動できるんじゃないのか。坂城さんにも同じような連絡が入ったので仕方なく家に戻って学校に行く準備をした。
 折角なので坂城さんと待ち合わせをして学校に向かう。
「なんか新鮮というか初めてです。こうして男の人と一緒に登校するなんて」
「それは僕も一緒かな。彼女ができるってこんな感じなのかって感じ。そういえば坂城さんは案内人からどんな風に聞いたの?」
「同じ様な感じですよ。貴女は七日後に死にます。死因は言えません、というより分かりません、って」
「やっぱりそれだけなのか。死因は言えませんってのがねぇ。あと正確な時間も」
 そうなのだ。時間も分からないから最終日の過ごし方が困る。何にせよ、もう三日目だ。今日を入れて残り五日間しかない。学校に向かうこの時間すら大事にしないといけない気がする。今まで惰性で過ごしてきた日々がいかに勿体なかったのか。今なら分かる。それにこうして女の子、彼女と一緒に登校なんて今までの人生では考えもしなかった。
「すっかり夏ですねぇ」
 風が木々の葉を揺らしながら通り抜けて少し涼しくはなったが木陰を抜けるとまた初夏の日差しに当たって少し暑い。用水路沿いのこの道の木々は桜の木だ。今年の春に見た桜並木が最期の桜だったなんて。そう思うと感慨深く感じながら木々を眺める。
「ここ、桜が綺麗ですもんね」
 風でなびく髪を抑えながら坂城さんも感慨深い表情で桜並木を見上げている。
「そういえば、私たち遅刻ですよね。遅刻、したことありますか?」
「ないな。初めてだ。この時間だと到着するのは三時間目ってところかな?」
 お昼前の学校。いつもなら窓際の席から校庭を眺めて早く昼休みが来ないかなって考えていた気がする。時間が早く過ぎないかなって。今はこんなにも時間が大切なのに。そう言えば校庭からもこの桜並木はよく見えたな。
「何を考えているか当ててあげましょうか?」
「多分、同じことだよ」
「そうですね。今までは時間は早く過ぎれば良いのにって思っていたのに。今はこんなにも時間が惜しく感じるなんて」
 校門が近くなってきた。ゆっくり歩いてきたつもりでも目的地はやってくるものだ。ゆっくり過ごしても金曜日はやってくるんだ。
 学校に入ると、いつもの登校時間じゃないから当たり前なんだけど、誰もいない。まるでここだけ時間が止まっているようだ。いつもの朝の喧騒が嘘みたいだ。
「ここで一旦お別れですね」
 革靴を下駄箱に仕舞って上履きに履き替える。下駄箱に手をついて片足の踵に手をかけて履く彼女の姿。折り曲げた足がスカートから多めに覗くその姿を見て少し恥ずかしくなったりもした。
「ふふ。何を見てるんですか?気になります?」
 スカートを少し持ち上げながら、そんなことを言われてしまった。僕の方が先に廊下に上がっていたから後ろから差す光が彼女を一層引き立てる。
 教室に行くとやはり三時間目の授業中。授業中に教室に入るなんて初めてだ。どんな目で見られるんだろう。兎に角この目の前の扉を開けなくては始まらない。教室の後ろ側の扉を開くと、皆の視線が僕に集まった。なぜか叱られたような気分になったけど、カバンを抱えて窓際の自分の席に向かう。
「ねぇ、なんで遅れたの?」
 声をかけてきたのは後ろに座っている御坂真琴(みさかまこと)。いつも席が近くになることが多くて一番仲の良い女の子かも知れない。
「ちょっと用事がってな」
 用事ってなんだ。用事って。具合が悪かったとか言えばよかったじゃないか。
「用事って何?」
 ほら。こうなった。今から五日後に死ぬからなんて言えないし。なんて言うかな。
「ちょっと旅に出ようかとおもってたら母さんに止められてね」
「旅ぃ!?」
「そこ!うるさいぞ」
「すみません」
 席に座ってさっき歩いてきた桜並木を見下ろす。こんな何気ない会話も後少しなのかな。午前中の授業は当たり前のように終わって昼休みに入る。早速御坂がさっきのことについて聞いてくる。
「ねぇねぇ、旅ってなに?」
 面倒なことになったな。説明が難しい。
「いや、なんとなく。人生はなんたるかを知るために旅に出ようかと思っただけだよ」
「いや、それは止められるでしょ。学校を休んでまで。あとさ、さっき学校に来るときに誰か一緒だったじゃん?あれは?まさか駆け落ちしようとしてたとか??」
 見られていたのか。余計に面倒なことになった。さっきまでの気分はどこかに消し飛んで普段の喧騒の中に戻った気分だ。
「駆け落ちとかじゃないさ。たまたま遅刻仲間が居たんで一緒に」
 無難。遅刻仲間なのは嘘じゃないしな。そういえばお昼はどうするんだろう。坂城さんと一緒に食べるのだろうか。俺はどうしたい?彼女なんだし、べつに特権事項でもないだろう。今日は朝から変なことがあったから弁当はない。購買の総菜パンをお昼にするか。
「あ、坂城さん。坂城さんもお昼は購買?」
「はい。お弁当が今日は無いので」
 同じ境遇のようだ。折角だから一緒に食べようと提案したら、可愛らしく、いいですよ、と返ってきた。こんなの今まででは考えられないことだ。クラスで弁当を食べる時はいつも男友達と一緒に食べてた。一人で食べてるときはたまに御坂があれやこれや話しかけてきたけども。あれは一緒に食べてるとは言わないだろう。
 僕たちは中庭の植え込み前にあるベンチに座ったけれど、出遅れたのが良くなかった。日陰のベンチは満席で、七月の日差しを浴びるベンチになってしまった。
「いや、しかし暑いな。坂城さん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。気を使ってくれるんですね。当たりの彼氏さん、なのかな?」
 パンを開けようとした手を止めて僕をのぞき込みながらそんなことを言うものだから、思わず視線を逸らしてしまった。こういう時に気の利いた答えを用意出来ないのは彼氏失格なのだろうか。初めての恋人なのでそんなことも分からない。
「しっかしなぁ。本当に五日後になぁ。五日後って金曜日じゃない?こうして学校のベンチでお昼食べてるときにってのもあるのかな」
「そうかも知れませんけど……。折角ですし、今はそんなこと考えないでお昼を食べましょう?」
「そうだな。悪い。今朝からそんなことばかり考えてて」
 そうなのだ。五日後は金曜日の平日なのだ。死ぬって言っても死に方なんて限られると思う。通学中の事故とか、学校の階段で転んでとか。そんなことを考えながら後五日間を過ごすのは勿体ない。この花開いた生活を大事にした方が良いに決まってる。
「そういえば一条さんって部活とかやってるんですか?」
「残念ながら。なにもやってない。坂城さんは陸上部とか?ほら、日曜日もランニングしてたし」
「ええ。そうです。でも今週は休もうかと思ってます。なんか練習するのはちょっと」
 そうだよなぁ。折角の残りの時間を部活動に……。でも、僕のためにいつもの時間を変えてしまっても良いのだろうか。
「あ、自分のために時間を使ってもいいのかって思ってる顔ですね?」
「よくわかるなぁ。さっきから」
「分かります。私、そういうの得意なんですよ。人の心を読むというか。そのおかげで自分がやりたいことをやらずに引いてしまうことが多いんですよね」
 他人の考えを気にしながらの生活ってのは、今までやったことがないな。自由に生きてきたような気がする。これからは一人じゃないし、そういうことも考えないと。
 お昼を食べ終わったとはなんでもない話をしていた。普段は何をやっているのかとか、趣味はあるのかとか。なんだかお見合いみたいな会話だったと思う。教室に帰ったら待ってました、とばかりに御坂が目を輝かせて聞いてきた。
「ねぇねぇ、さっきのって彼女?彼女できたの?」
 見られていたのか。これまた面倒な。でもここは隠しても仕方ないし正直に答えよう。
「そ。昨日から。まだ新鮮な感じだよ」
「え~。彼女作っちゃったんだ~。残念だな~。私、一条くんのことが好きだったのにぃ」
「また冗談を」
 御坂はいつも冗談を言っているからこれも冗談かと思っていたのに。今回は本気だったらしくて、酷く沈んだ表情をされて何故かこっちが悪いことをしているような気分になってしまった。クラスでは御坂と話すことが多かったから、付き合うとしたら、なんて考えたことがなかったといえば嘘になる。もしも、御坂と付き合っていたら五日後に自分が死ぬなんて伝えただろうか。伝えたとしたらどうなっていただろうか。
「そういえばさ、御坂は俺が五日後に死ぬって言ったらどうする?」
「え?」
「あ、いいや、忘れてくれ。ちょっとそういう本を読んだだけだから」
「五日後かぁ。彼氏だったらどうしてたかなぁ。あ~、もしかして旅に出るってそういうこと?本当に死ぬの?自殺?なんで?」
「だからそういうのじゃないから。安心してくれ」
 安心してくれなんて言っても、五日後に死ぬのだから安心も何もないのだけれど。と。そういえば、期限より前に自殺したらどうなるんだろう。いきなり死ぬなんて言われたら取り乱して自殺する人も出るんじゃないのか?って、あれか。死ねないんだったっけ。まぁ、僕はそんなことをする気はないけど。
 午後の授業はひどく退屈で時間を無駄にしているとしか思えなくて。だってこれから何を学んだって無駄じゃないか。そういえば今月は二学期の期末試験がある。それを受けなくても良いと考えると、少しは得した気分になれるか?なんて思ったりもしたけど、試験と命、天秤にかけるものなはずもなく。
「ねぇ、さっきの話、本当なの?五日後に死ぬって」
「だから冗談だって。そういう本を読んだだけだって。でも死ぬとしたらどうする?」
 一応、聞いておこう。僕の周りの人たちがどう思うのか、少しは気になるものだ。
「ん~、そうねぇ。私が一条くんの彼女だった場合と、そうじゃなかった場合で違うかもなぁ。もし彼女だったらどうしようか考えて慌てちゃうし……。あ、でもそうでなくても慌てちゃうか」
 慌てた様子もないし、さっきの話はうまく流れた様子だ。よかった。この話はやっぱり周りの人に話さないほうがよさそうだ。菜々緒には話しておいた方がいいかな。一応、妹だし。
 帰り道で坂城さんに他の人に話たか聞いてみたけど、やはり混乱を招くからという理由で話していないとのことだった。
「ただいま~。おーい、菜々緒~、いるかぁ」
「何よ。うるさいなぁ。なんか用なの?」
「ああ。ちょっと相談というか報告というか。俺、今日から五日後に死ぬらしいから、よろしく」
「は?自殺でもするの?やめてよね。死ぬなら家じゃないところでしてよ」
「冷たいなぁ。もうちょっとこう、何かあるでしょ」
「あのさぁ。そういう話、外でしないほうがいいよ?」
「わかってるって。ってか、信用するの?この話」
「うーん。なんで死ぬか分からないけど、事情があるならはなしてよね。一応、妹なんだから。あと、その話、お父さんとお母さんには話さない方が良いと思うよ」
「そうだな。変な心配かけても仕方ないしな」
 そういえば、菜々緒は俺が困ったときとかいつも相談に乗ってくれていたよな。妹ってもっとこう、生意気なものなんじゃないのかって思うくらいに。菜々緒には本当のことを言っておいた方が良いのかも知れないな。
「実はな、お兄ちゃんは五日後に死ぬんだ」
「それはさっき聞いた」
「ああ、そうだったな。で、何でかっていうと……」
 あれ?なんでだっけ?誰かにそんなことを言われた気がするんだけど、誰だっけ?
「なんでかって言うと?」
「ええっと。なんでだっけ?」
「なぁに?なんなの」
 どうも思い出せない。
「すまん。忘れてくれ」
「なんなのよもう。死ぬとか。そういうの言わないでよね。でもまぁ、ほんとうに死んじゃったら一応は悲しんであげるわよ」
 僕をリビングに置いたまま後ろ手を振りながら菜々緒は自分の部屋に上がっていった。僕も鞄をおいて着替えるために階段を上がる。
 その時だった。脚を滑らせて後ろ向きに階段から落ちた。はずなのだが、気が付いたら階段に立っていた。確かに僕は階段から落ちたはずなのに。
「死ねないわよ。五日後って言ったでしょ。それまではなにがあっても死ねないから」
「あれ?菜々緒?違うな菜々緒ちゃんか」
「そ。五日後って決まってるんだから、それまでに死ねないから。あと、このことを他の人に言うのはやめた方が良いわよ」
 そういうことか。ってことは今の俺は無敵なのか?トラックに飛び込んでもビルから飛び降りても死なない?
「だからぁ。死ねないって。でも無事である保証は無いわよ?今は私が見てたから元に戻ったけど、見てなかったらそのまま事故に会う可能性もあるわよ。で、死ねなくて期限が来るまで苦しむ」
「それは最悪だな。ってか、菜々緒ちゃんは俺が考えていることがわかるのかい?」
「一応はね。案内人だし。案内するヒトがなにを考えているのか分からないと案内しにくいでしょ」
 何をしても死ねない。それはそれで人生を束縛されているようで微妙な気もしなくはない。自らの選択肢を殺されているのだから。だってよくよく考えたら七日後に死ぬなんて言われて絶望の淵に立たされたとしても死ねないのだ。僕はサラッと流したけども失うものが大きい人にとってはショックだろう。現に、彼女ができた今となってはこれから五日後に死ぬのは惜しいと考え始めている。
「死ぬのは怖い?」
「ああ。今はね。最初はそんなこと思っても見なかったけど、今は僕だけの問題じゃなくなってしまった」
「でもその子の人生も同じ日に命を絶たれるんでしょ?」
「だから尚更だよ。僕は彼女に何をしてあげることができるのか、そんなことを考えるようになったよ」
「そう。向こうの案内人とも話したんだけど、概ね同じようなことを言っていたって」
「いつ話したんだ?」
「さっき。電話で」
 坂城さんも同じように思ってきてくれてる事で、更に胸が痛んだ。僕という存在が出来てしまったがために苦しませる事になってしまったと。
 部屋に戻って制服を脱いで半パンとシャツに着替えてから考える。死ぬことが分かっているのなら、精一杯残りの時間を過ごすのか、いつもと変わらない生活を送るのか。窓の外の夏特有の雲を眺めながらそんなことを考えていた。夕飯の時間になるまで、あれやこれやを考えていたのだけれど、答えなんて見つかるはずもなく、返事をして部屋を出て行った。
「どうしたの?黙ちゃって。何か悩み事でもあるの?」
 母さんにそんなことを言われたので、思わず相談しそうになったけど、要らぬ心配をかけさせまいと踏みとどまった。だが、一つだけ聞いてみた。
「母さん、人生で今しな出来ないってことがあったら何かを捨ててまでしてやる?」
「何急に。今しかできないことねぇ。今日は今日しかないから、何か特別なことがなくても一生懸命に生きるかな」
 大人の答えだと思った。今日は今日しかない。確かにその通りだ。いつもの日々を大切に過ごせば良いのだ。
 夕飯を食べ終わってお風呂に入りながらもまた考える。今日というひを楽しむのならこの後に何をすべきか。ただ寝るだけでは勿体ない。そう思ってベッド座って御坂さんに電話をかけた。
「私も今、電話をかけようと思っていたところ」
「似たもの同士か。まぁ、何を考えているのかなんとなく分かるけども。御坂さんはどうしたい?特別な何かをやってみたい?」
「私は、こうして彼氏と電話することがすでに特別なことだから。それで良いのかも知れない。だから、あれやこれや考えて暗く生きるのはやめておこうかと思ってる」
 坂城さんの方が年下なのに、自分よりもしっかりと考えているように思えてならない。僕もこうして彼女と電話することは特別なことだと思うけど、もう少し何かが欲しい気がするのは欲張りなのだろうか。
「坂城さんは一週間後に死ぬって言われた時、どう思った?」
「んー、特にやることもなかったからかなぁ。そうなんだ、くらいにしか思わなかったかな。仲の良い友達とかもそんなにいるわけでもなかったし」
 そう言われた時に御坂の顔が浮かんだ。冗談かとは思うけども、僕のことが好きだったとか言っていたのを思い出したのだ。
「一条くんはなにかあったみたね」
 女の子はこういう時鋭い。隠しごとはできそうにない。
「ああ、僕も最初はそう思っていたんだけど、こうして彼女ができて、今日、そのことを言ったら、僕のことが好きだったのにとか言ってくるやつがいてさ」
「あ、もう浮気心?」
「そういう意味じゃなくて。自分が死んだら悲しむ人が一人でもいることに驚いたんだよ」
 そういってから家族はどうなんだ、とか突っ込まれたらどうしようかと思ったけども、それは基本情報と言ったところだったのか突っ込んでは来なかった。
「私はクラスでもそんなに目立つ方じゃないからそういうのはなかったかなぁ。ねぇ、その子、どんな感じの子なの?」
 興味津々といった感じで聞いてくる。どんな感じか。いつも自分に話しかけてくるやつ?
「えっと。なんかことあるごとに自分に話しかけてくるとか」
「髪型とか見た目は?」
「坂城さんとは正反対で髪の毛は短いかな。ちょっと栗色に染めてて。メガネをかけてる」
「可愛い?」
「僕は坂城さんの黒髪の方が好きかな」
 可愛いかどうかはなんだか恥ずかしくて答えられなかったけどやっぱりそこは突っ込まれたので、正直に坂城さんの方が可愛いと答えたら、満足といった返事が帰ってきた。答えるのはひどく恥ずかしかったけども、女の子はそういうのはないのだろうか。ふと時計を見ると日付が変わろうとしているところだったので、そろそろ切り上げようとしたときに坂城さんはこう言ってきた。
「あー、死にたくないなぁ。ずっとこうしていたいなぁ」
 きっと天井を見上げながら涙が流れるのをこらえるような格好で言っているのだろうと想像ができた。僕はどうだろう。そこまでのこだわりはあるのだろうか。
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