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其の5 11歳*入学当日の朝

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「宝ぁー? ご飯だよー起きてる―~~??」

 1階から、恵比寿を呼ぶとらの声を響く。

 ◆◇


「……っは、ァ??」

 とらの話しに耳を疑った。
 それと、同時に背筋に冷たいものが伝った。
 ガクガク。

「え、っとぉ……、んん??」

 躊躇してしまう。
 そんな恵比寿を2人が見ている。
「何ー? 別におかしい話しじゃないよー?」
 そう、とらが笑う。
「いやいや、ちょっと待ち! いやいや!」
 恵比寿が、それを否定する。
 まだ、子供ではあるが。
 この話が、何か可笑しいということぐらいは分かる。
 突っ込みところも多い。恵比須には。

 まず。

「僕はー博士に造られた人工魂魄なのー」

 ここはいい。
 飛ばそう。

「魔法少女になってねー惑星の悪をぶっ潰してるのー」
 この言葉に。
「ああ。ドレッドに撃退、そして、滅ばされた種族は数多いんだ」
 ビトーが腕を組んで頷いた。表情も忌々しいといったように曇っている。
 ここまでも、受け流せる。

 だが。

「怪人は大概ードレッドの命を狙うんだー。でー、僕を犯して、食べようとするんだよー」

 ここで、恵比寿の顔が青ざめた。
(ぉ、か……す??)
 っど、っど、っど!
 心臓が激しく脈打つ。
 クエッションマークが頭の上に沢山、浮かんでいる。
 聞いたある言葉だが、しかしその意味までは恵比須には分からない。

 そして、ここからだ。

「僕もー怪人の精液ザーメン食糧ゴハンみたいなものだからーいいんだけどー」

 耳を疑る。
 意味が、全く理解出来ない。
 理解したくもない。聞きたくもない。

「怪人の精液ってー人間の精液の何人分だっけー~~? ビトーちゃん」
 目を泳がせる様子に。
「10人分ぐらいだとか言ってなかったかい?」
 ビトーが応えた。
「! そうそう。10人分くらいなんだよー。一体で人間10人分の食糧ー。それにー怪人は抜いたら、あっという間に弱くなるから、すぐ倒せるんだよねー~~えへへ♡」
 とても爽快な笑顔が向けられる。
 しかし、そんな顔が出来る普通の話には見えない。
 恵比寿の顔が見る見ると、曇っていく。
「キミにはー怪人を倒すと同時に、精液を確保してもらってー」

 恵比寿の口が大きくなる。
 パクパクー……。

「なぁに♡ 僕の傷が癒えるまでだよー」

 ブンブン! 勢いよく恵比寿が顔を横に振る。

「あーじゃあ! 一緒に暮らそうかー」

 その言葉に、恵比寿の停止していた理解力が動き出す。
「ぇ?」
 とらは、うんうん! と頷いている。
「そのほうが、安全と言えば安全かな?」
 ビトーも頷く。
 安全と言う言葉に、恵比寿の顔色も明るいものになっていくには理由がある。
 つまりは、この家から出られるチャンスということだ。
 不安はありまくるが、この家から、母親から離れられる一世一代のチャンス。

「これしかないっ!」

 ◇◆

 ぱち。
 恵比寿の目が覚めた。
「っふぁ~~!」 
 大きく腕を伸ばし、首を左右に動かす。
 コキコキ! と音も鳴る。
「なんか、色々、上手く運び過ぎだなぁ」

 あの日、流星に願った『現状打破』は叶った。
 しかし、これからの闘いに恵比寿は、大きくため息を漏らすほかない。
「ま。とらの行動力が、一番怖いっつぅ~~か、なんつぅ~~か」
「僕の何が怖いってー? もー~~ご飯冷めちゃうじゃないかー」

 後ろの長い髪を、赤いリボンで括ったとらが、恵比須を起こしに2階に上がって来ていた。

「さ。学校遅れちゃうよー? 宝ー」
「うん。それも不味いけど、とらのご飯を食べそこねるのはもっとヤバイ!」
「でしょーでしょー~~♡」

 ダガダガ!

 あの日からのとらの行動力も半端なかった。
 まず。
 地球の歴史の勉強。

『昔ー少し居たから、ちょっとは知ってるんだけどねー』
 
 そして、恵比寿の身元のあれやこれ。
 
 及び。

『息子さんをお預かります。お母様には、この手土産をお持ちしましたよー』
 それは《お見合い》と書かれた四角い紙が10枚。
『いい縁がありますようにー娘さんを産んで下さいー』

 娘さん。

 その言葉に母親は両肩を浮かした。
 とらはお辞儀をして、その日は後にした。
『そうね、産んだ方が早いわよね』
 そう口許を吊り上げて、母親もわらった。
 息子ではなく、娘を産みたかった。
 娘じゃない息子を女装させ、向かい合わせていた。

 思春期前に、恵比寿の心が悲鳴を上げる。

 思い切って家出をしたことが、運命の分岐点。

 ダガダガ――ダガ、ダガダ、ガ……。

「母さん……ぅ゛うう゛っ」

 階段を降りる足が止まってしまう。
「何ーまだ眠いのー? 夜遅くまで起きてるからだよー??」
 とらがそう言い、恵比寿の頭を撫でまわす。
「!? 止めてよ! とら‼」
「ほらー早く食べちゃってー」

 引き取る前に、まず一軒家を。
 次に身分証明書を。
 そして、職を。

 とらの手際はとてもよかった。

「あー……ねぇー宝ぁー~~?」
 少し、思い出していた恵比寿に、とらが声をかけた。
 言いにくそうな、言葉。
 その正体を、これから恵比寿は知っていくことになる。
あに~~?」
 ご飯を食べようとした恵比寿も嫌々と声が聞き返された。
「入学早々ー遅刻確定だよー、怪人が出たみたいだよー」
 苦笑交じりに言う。
 そんなとらの言葉の意味が分からずに。

「へぇ~~そうなんだぁ?」

 恵比寿は他人ごとのように聞いていた。
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