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其の1 魔法少女*おしつけ

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「うし!」

 恵比寿宝エビスタカラは日常品をドラムバッグに押し込んだ。
 息を巻いて家出を決行をする。
 それに至るまでには色々。本当に色々なことがあった。
 しかし、すぐに立ち止まってしまう。

「はぁ、家出も出来ねぇのかよ、俺ェ」

 行くあてがない。
 行く場所もない。


 恵比寿には、これといって仲がいい友達がいる訳でもない。
 母親が母親なだけに、相手の親も距離を置く。

 友達が出来ない。

 少し、涙声になってしまう。
 夜はとっぷりと浸透している。
 辺りは真っ暗だ。

 小学6年生である恵比寿。
 間違いなく100%補導だ。
 黒目がちの吊り上がった目に、柔らかくも跳ねた髪。
 身長も、140センチほどしかない。
 明らかに大人とはかけ離れている。

「帰りたくない、帰りたくない、帰りたくない、帰りたくないっ!」
 
 大きな建設現場に行き当たった場所で、足を止めて空を見上げた。
 夜の22時の時間もあったのだが、一番星や金星がキラキラと輝いている。

 ヒュン!

 ヒュン!

「あ。流れ星だ!」

 ヒュン!

 ヒュン!


 目に映った流星群に恵比寿は願った。

「現状打破! 現状打破! 現状打破!」

 早口言葉で言うも、恵比寿は自身で何を願ったのかもよく分かっていない。
 取り敢えず、今の状況から逃げたかっただけだ。

 流れ星に3回言えば、どんな願いも叶う。
 それにすがりついた。

 結果。

「ぇ?! ぇえ?? っな?!」

 建設現場に、それが落っこちて来た。

 ドゴゴゴゴン!

 突風が勢いよく立ち昇る。砂利も飛ぶ。
 その風圧に、恵比寿の身体も吹っ飛んでしまった。
 体重が軽いことも原因だったが。

「あ゛、っだ!」

 ただ持っていたドラムバッグによって、ことなきを得た。

「っな、なななな、何が落っこちて来たんだよ!?」

 遠目から見える、落っこちて来た何者かに、少しの興味心が湧いてしまう。
 そこは恐れを知らない小学生で、男の子だ。
 何の危険すらも頭になく、思った行動を起こすのは当然だった。

「ちょっと、ちょっとだけ!」
 立ち上がり、身軽るに立ち入り禁止の柵を越えた。
 辺りは破損した建物のコンクリートやら、木材などが散乱している。
「ひっで~~なァ~~こりゃあ~~…ん?? っはァ??」
 細い足が倒れ資材の中から伸びていた。

 バクバクバクバク!

「ォ、オイ! だ、大丈夫なのか??」
 恵比寿がドラムバッグを放り投げる。
「いい、生きてるかっ?!」

 ガラーー……ン!

「ぅ、うぅー~~ぁ、たたた~~ぁ゛」
 駆け寄るよりも早く立ち上がった。

 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!

「ぅ、わっ!」

 その少女の容姿に、恵比寿は胸を高鳴った。

 バクバク。

「キミ、ダレー?」

 少女は唇を突き出す。
 惚けていた恵比寿は答えられない。

 とととと。

「へぇーー同じ、人型かぁーーへぇ~~--」
 切れ長の赤い目、亜麻色の髪は肩まで伸びている。
 少し膨らんだ胸。
 身長は少女の方が高い。

 バクバクバク。

 声が出ない。

「ねぇ」

 少女が恵比寿の前に跪く。
 柔らかい手が、恵比寿の手を握る。

 バクバクバクバク!

「《魔法少女》になってよ」

 バックン!?

「っへ?!」

 すると、抵抗する間もなく。
 唇を奪われた。

「?! ン゛ん゛ン゛??」

 そして、あろうことか、口腔に柔らかいものが侵入してきた。

「ぁ、んあ、っは?? ぁお、や、だーーっつ!」

 ガリ!

「?! ったーー」
 少女は唇を拭った。
 恵比寿はへなへなと地面に腰を下した。

ベロがぁああっ! 」

 恵比寿は口を覆い混乱をしてしまう。
 混乱する恵比寿と少女と向かい合う恰好になる。少女はにこやかに手を振って、倒れ込んでしまうのだった。

「じゃあ。よろしくね♪ 魔法しょ、ぅ、じょーー……」

 バッタンっっっっ‼

「っへ?? っちょ、ちょっと! 大丈夫かよぉう!?」

 混乱する恵比寿の背後から、

《見つけたぞ! ドレッドッッッッッ》

 そう言葉が吐出された。

「はぃ????」

 振り返った恵比寿の視界の先には、マンガや特撮ドラマに出ていてもおかしくない怪人が居た。
 敵役だと分かるのは相手が恵比須を見る目つきだ。
 まるで、母親のような目つきに恵比須は唾を飲み込み、口をへの字にさせる。

《今日こそ、倒させてもらおう!》

 恵比寿は目を疑った。
 少女へと視線を戻すと、そこに少女の姿がない。
 同じ髪の色をした青年が寝ていた。恵比寿の目が見開かれる。

「お前は誰よぉうぅうう‼」

 そして、あろうことか。
 恵比寿の服装が変わっている。

 大きく胸がはだけた服。
 短い髪の毛の両脇にリボンの長いものがくっついている。
 見なくても、分かる。
 とても、重いからだ。

「おお、俺、ななな、何か、ヤバくねぇかぁ??」

 家出をした日。
 流星に願った日。

 全てがーー重なった今日。

 恵比寿宝の日常は一変する。
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