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第90話 はいど・あんど・しーく

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 繋がれた手のは柔らかく。
 荒く、高ぶる脈拍が伝わってくる。

「まどか……?」

 初めて見る桜木の表情に。
 希美もどうしていいのかさえ分からない。
 赤い空間の中で、現実とは思えないこの場所に。
 希美の脈も、速くなっていく。
 きっと、それもーー桜木には伝わっているのだろう。
「のなかちゃん。私ね、……知ってたんだ」
「? 何をなの?」
「……――のなかちゃん。好き、だよね? 篠崎君の、ことを」

「‼」

 突然の言葉に、希美も口を大きく開かせた。
 パニックに近い表情もので。
「っそ、そんなっこ、ことは、……ないわ。まどか」
 上擦った声で、必死に否定をしようとする希美。

「だから。私ね…篠崎君をーー殺しちゃったんだ」

「……――ま、どか。一体、なんの話しをしているの?」

「とても簡単な話しだよ、のなかちゃん」

 じわ。

「殺人のお話しだよ」

 じわじわわ――……。

 繋いだ手に汗が浮き出してしまう。
 体温で温かいはずなのに。
 ひどく、冷たい感覚だ。
 
「まどちゃんは。凶暴なのだね」

 間に挟むかのように、日向がにこやかに訊く。
 それに桜木も。
「ううん。そうですよ、お兄さん」
 苦笑交じりに言い、
「……嫌いに、なりますか? 私の、こと」
 恐る恐る、と日向に桜木は問いかけた。
 勇気を出して聞いた桜木に日向も。

「おれは、勝気な女の子が好きなのだ」

 そう告白をする。
 日向の返事に、桜木の視界が涙で揺らぐ。

「ありがとう、ございます」

 震えた声が日向に返された。
「いやいや。まどちゃんは、おれ側に近いとは思っていたのだ」
「止めて。まどかは、春日部のように強くなんかないわ」
「のなかちゃんは――」

「何?」

「視えていないのだ」

 桜木に引っ張られたまま。
 横につく日向に聞き返す。
 そんな日向を《提灯霊バケモ万物チョロスト》が照らす。

「興味がないからなのだ」

「……言っている意味が分からないわッ! 春日部ッッ!」

 子供扱いされいるかのように思った。
 希美は、大声で日向を怒鳴る。

「私が、この手で――篠崎君を殺したんだよ、のなかちゃん」

「ぅ、うそよ。そんなの……うそよ!」

 希美の顔が真っ青になっていく。
 涙も浮かび、溢れていく。
「ううん。嘘なら、よかったんだけどなぁ」
「だって! だって篠崎は! じゃ、じゃあっ、ぃ、いつ、彼を殺したって言うのよ?!」

「彼を殺したたのは……1回だけじゃないんだよ」

 桜木の告白に。
 希美の頭も、訳が分からずに。
 真っ白に、白濁になっていく。

「い、っかい……じゃない、ですって? どういう、意味なの? まどか」

「初めて彼を、篠崎君を殺したのは。初めてかくれんぼで会ったときだったんだよ」
「……それって。一昨年の話し、よね?」
「ううん。そうだよ」

 桜木の話しが本当なら。
 今日、一緒にかくれんぼをしていた彼は。
 篠崎琢磨は――一体、何者だったのか。
 溢れ出る疑問は口から出すことが叶わない。
 桜木から、もう聞きたくなんかなかったからだ

「彼ね。殺しても、殺しても、殺しても、殺しても……」

 忌々しいと言った口調で、桜木は絞り出すかのように言う。

「タイムリミット後に出て来るんだよ」
「まどか。一体、なんの話しをしているの??」
「多分だけど……篠崎君は、この世界の子なんだと、思う」
「?! まどか??」
「だから。いくら殺しても甦って、必ずのなかちゃんの傍に戻るの」
「まどか?!」

「多分、……篠崎君も。のなかちゃんのことが好きなんだよ!」

 乱暴に手を解かれた希美の身体が。
 勢いそのままに、壁に身体を打ち当てた。
「っつ! ま、どか……??」
 壁に手をつくと、そこには溝があった。
「? ここは」
「エレベーターだよ。のなかちゃん」
「まどか??」

「のなかちゃんは帰って」

 唇を噛み締めながら桜木は吐き捨てた。
 その言葉に、希美も耳を疑う。
「ま、どか? あなた、何を言っているのか分かっているの?」
「ううん。分かってるよ、のなかちゃん」
「! いいえッ! あなたは分かっていないわ!」
「ううん。のなかちゃん、私ね。ここでお兄さんと残るよ」

「まどかッッ!?」

 取り乱す希美の頬に手を添えると。

「のなかちゃん、好きだよ」

 唇に唇を合わせた。
 そして。
 口腔に舌を入れ、歯をなぞり舌を絡めた。

「ん゛!? っふ、ぅあ゛んンん!?」

 桜木の行為に希美は背中の服を掴んだ。
 そして、目を閉じた。

「んン゛ん……ぁ」

 ポチ。

 耳に何かが押された音が鳴った。
 と、思った瞬間。

「ごめんね! のなかちゃんンんん‼」

 開いたエレベーターの中へと希美を押し込んだ。

「っま、まどかッ」

「篠崎君と幸せになるとこなんか。私、横から見られないよ。また、殺しちゃうもんw」

 ゴォンッッ‼

 エレベーターの扉が閉められた。
「まどか! まどか?!」
 希美も、エレベーターの中で、開くのボタンを押すのだが。
 全く反応をしない。
 いや。開かないようになっているようだった。
「いや、イヤよ。まどか……まどかぁ~~」
 希美が床にしゃがみ込み。
 顔を両手で押さえ、むせび泣く。

「のなか、ちゃん」

「!? まど、か?? まどか!」

 希美が立ち上がると、桜木が手を当てていた。
「まどか! まどか!」
「ううん。のなかちゃん」
 扉越しに、二人は手を合わせた。
 桜木の後ろには日向がはにかんでいるような表情で居る。

「篠崎君と幸せになって。私もお兄さんと幸せになるよ」
「ああ。任せるのだ! まどちゃん♡」
「ううん。お兄さん♡」
 肩を抱かれた桜木は、日向の胸に顔を置く。
 涙を流しながら。

「ぅ、うう……まどか、まどかぁ」

「ごめんね、のなかちゃん」

「ぅ、ああァうう……ゃああ゛ッッ‼」

「ばいばい。のなかぢゃ゛ん゛」

 ガ、ッコン――……。

「まどか――ッッ‼」

 別れの言葉が合図かのように。
 勢いよくエレベーターは一階へと降りて行く。

 心を置き去りにして。

 ここで。
 希美の意識も途絶えた。

「まど、かぁ……」 
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