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第81話 必読な説明書

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(私は、この魔法少女なんちゃらてアニメを知らない)

 希美は手の中にある魔法の杖を見た。
 おもちゃだと分かる。
 プラスチック素材で、出来たシンプルなデザインのそれ。
 
(でも。だからこそ、私なりに使いこなしてみせる!)

 ガチャガチャのカプセルから取り出した《宝石フォーガ》をポケットから取り出した。
 色とりどりに、宝石の形に製造されたそれを。
 
 ジャラ!

 ジャラジャラ‼

(……色、まぁ。それで判断するほかないわよね。でもーー)

 水=青。

(安易、じゃないわよね?)

 しかし。
 水は水でも、水嵩を増やすための魔法石が必要だ。
 ひょっとしたら、とも思う。
(定番、だと)

 ごくーー……。

「まどか!」

「!? 何かな?? のなかちゃん!?」

 船から身体を乗り出して、希美は桜木に声をかけた。
 桜木も、すぐさま返事をする。
「む? のなかちゃん! 準備は整ったのだ??」
 次いで、日向も聞いた。
「違うわ。魔法石のことで聞きたいのよ!」
「分かったよ! お兄さん、ちょっと行ってくるよ!」
「うむ。分かったのだ!」

 ったったった!

「のなかちゃん!」

「まどか!」

 希美は桜木の顔に手を伸ばした。
「?! のなかちゃん、どうしたの?」
「いいえ。ここでかくれんぼしてただけなのに、こんなに」
「ううん。ぼろぼろ、だね。私も、のなかちゃん、も」
「ええ。本当にーー篠崎のおかげで、ね」

 ふ。

「! ……ううん、篠崎君。探してたんだよね、私たち」

 桜木は、伸ばされた希美の手を取り、頬ずりした。
 その手も擦り傷だらけで。
 切れた箇所から流れた血も、固まっていた。

「でも。居ないんだよ、もう」

 桜木は、自身が最後に見た、篠崎を思い出した。
 鮮血の中央に居る彼を。
 つい、笑ってしまう。

「?」

 桜木は目を閉じ、言い聞かせるかのように言い続けた。


「――……きっと。一人だけで、何も言わないで帰ちゃったんだよ。篠崎君は」

「いいえ。それはないわ」
 
 きっぱりと強い口調で、
「彼は、あんなでも。誰かを傷つける真似を、……することはないわ」
 希美が桜木に言いきった。

「それは。まどか、あなただって分かっていたはずよ」
「のなか、ちゃん……」
「なのに。どうして『居ない』だなんて言うの? まどか」

「……だって。こんなに騒がしいのに、……出て来ない、なら。それしかないよ?」

 引きつった表情の桜木。
 それになんとも言えない気持ちに希美はなったが。
 いまは、それどころじゃない。

「まどか。教えて欲しいの。魔法少女なんちゃってアニメのーー」

 くしゃ。

「はい。カプセルに一緒に入ってた《宝石》、魔法石の説明書だよ。のなかちゃん」

 ぴら!

「多分。水系なのはーーううん。この紫と白のやつだよ」
「ありがとう。まどか」
「ううん! じゃあ、私お兄さんのところに応戦に戻るね!」

「ええ。彼をお願い」

「――……彼??」

「?」

「ううん! 任せて、のなかちゃん!」

 そして。
 桜木は金属バットを振り回し、戻って行った。

「説明書とは、盲点だったわ。私としたことが」
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