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第69話 上へ

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 バシュ!

 バシュシュ!


「すごいわね」

 希美は、黒いマネキンに体当たりし、長い角で攻撃をするカジキマグロに、息を飲んだ。
 スプリンクラーからの、水は激しく降り注いでいる。
 しかし、床に水が溜る様子はない。
 僅かな水面を、木製の漁船が突き進んで行く。
「おいら、こんな乗り物、初めて見たでやんすよぉう♡」
 たぬ吉が、喜々として漏らした。
「そうね、たぬ吉」
 優しく希美は、たぬ吉の頭を撫ぜた。
「うぇへっへ~~姐さぁ~~ん♡」
 希美とたぬ吉を、桜木は横目で見ていた。

(本当に、お兄さん……す、ごい)

 視線に気づいたのか。
 日向ひゅうがが、桜木を見た。
「おれ。かっこいいのだ?」
「‼ っは、はいぃいい~~!」
 突然の問いかけに、桜木の声も、裏返ってしまう。
「有難うなのだ。まどちゃん♪」
 桜木は、思いっきり顔を下げてしまう。

 バクバク。

 バックン! バックン‼

(音、聞こえちゃうよぉう~~)

 そんな桜木から、日向は顔を前に向かせた。
 唇を噛み締めながら。
(どう、行けばいいのだ??)
 額に汗も滲む。
(マネキンを破壊するのは、造作もないこと)
 
 バシュ。

 バシュシュ!

(しかし。壊せば、壊すほどに)

『ッギッギッギ!』
 真っ暗闇の中に、赤い光が鈍く輝く。
『ッギャッギャッギャ!』

(集まって来るのだ)

 希美は、たぬ吉から視線を外した。
 そして。
 前にいる桜木。

 日向の背中を見た。
(? 春日部??)
 少し、背中に異変を感じ、ゆっくりと立ち上がった。
 視線の先には、黒いマネキンの大群の姿があった。
 

「潰せば、仲間を呼び寄せる。蜂のようなのだ」

 その言葉に、希美も咽喉を鳴らした。
「ええ。そのようね」
「なんでやんすか? なんでやんすか? 姐さん! アニキ‼」
 幸せそうなたぬ吉が、寄って来た。
 希美と、日向の視線を追い、

「っぎゃああ~~でやんすぅうう~~‼」

 希美の首元に巻きついた。
「たぬ吉。苦しいわよ」
「姐さん! 姐さぁ~~ん‼」
「春日部」

 日向の身体が、希美の言葉に反応する。
「!? っな、なんなのだ? のなか、ちゃん」
「前に。進みましょう」
 強い口調で、希美は日向に言い放った。
「うむ。分かってはいるのだ」

 ガッキン!

「「「???」」」

 金属音に、希美と日向。
 たぬ吉が、後ろを振り向いた。

 そこには、黒いマネキンの残骸があり。
 ずり、落ちていった。

 ちゅ、ぽん。

「っは、はぁ……びっくり、した、ぁ。急に、飛んで来るんだ、もん」
 肩で息を吐きながら、桜木は。
 満面の笑みで。

「――……飛ぶ、なのだ」

 日向が、そう閃いたことを口にした。
 希美は、
「どうやって?」
 冷淡に、聞き返すのだった。
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