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第59話 望美と日向

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「あ」

 小さなポシェットから細い腕が生えたように、桜木には見えた。
 そして、長い髪がなびき。
「のなか、ちゃん??」
 小さな顔が出たと、思った瞬間。

『ぷっぎゃ――~~ッッ‼』

 桜木に白いマネキンが襲い掛かった。
「!? ぁ」
 防御が出来なかった桜木に、日向が銛で突き撃墜した。
「大丈夫なのだ?! まどかちゃん!?」
「ううん。お兄さん」

 たん。

「ああ、姐さん?? でやんすか??」
「ええ。そうよ、たぬ吉」
 ぶわわわ!
「大丈夫だったかしら?」
「ばい゛! ばい゛でや゛ん゛ずよ゛ぉ゛~~」
「それにしても。いつも危機ピンチね」
 苦笑交じりに希美が言うと、桜木のもとに行く。
 カラ――……ン……。
 その足に、カプセルが当たった。
「! 《宝石フォーガ》」
 希美は拾い上げると、カプセルのシールにてこずりながらも。
 開けると、《魔法少女の杖》にはめ込んだ。
 《宝石》の効果は知らない、だが。
 説明書を読む暇はない。
 はめこんだ杖は閃光を放っていた。

 白いマネキンが迫り来る中。

「発動しなさい!」

 勇ましく希美が、唱えた。
 ――瞬間。
 杖から白い輪が放たれた。
 すると、白いマネキンの動きが止まる。
「……止まったで、やんす……か??」
「止まった? ようだが」

「ううん。止まった!」

 涙を大きな瞳いっぱいに溜め、
「の゛な゛がぢゃ゛ん゛~~ッッ‼」
 桜木は、希美に抱き着いた。
「わ!」
 希美の身体は、そのままひっくり返ってしまう。
 どすん!
「……まどか、痛いわよ」
「! ぁ、わわわ! ご。ごご、ごめんなさい!」
 希美のお腹に乗ったまま、桜木は狼狽えてしまう。
 重かったが、あえて希美も言わずに。
 桜木の顔を見ていた。

(でも。こうして見ると、篠崎には似ても似つかないのよね)

 希美は腕を伸ばし、優しく桜木の頬に触れた。
「の、なかちゃ、ん」
「ええ。まどか」
 その指に、桜木も頬をつける。
「のなかちゃん……」
「まどか」

 その二人の雰囲気に充てられているのは、日向だ。

 ◆

 一体、なんなのだ?
 彼女は。

「アニキ? どうかしたでやんすか?」
「なんでもないのだ。たぬちゃん」

 おれは、今、いったいどんな顔をしているのだ?
 笑っている?
 怒っている?
 戸惑っている??

 いや。
 面白くないって顔をしているのだろうか?
 たぬちゃんも、声をかけてきたほどなのだ。

「彼女のために、まどちゃんは頑張っていたのだね」
「はいでやんす! 姉さんのためにでやんす!」
「名前は? おれは、初めて会うのだ」

 でも、不思議と腹が立たないのは。
 彼女の――……。

「ぇ、っと、でやんすねぇ」

 たぬちゃんも、名前を知らないのだ??
「私は希美のなか、よ」
 上半身を起こす彼女に、まどちゃんはしがみついている。
「のなか、ちゃん」
「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」
「お、おれは……」

 彼女の笑顔が、優しいものだったからだろう。

「日向春日部なのだ」
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