18 / 91
第18話 たぬ吉と望美
しおりを挟む
おいらは狸なんかじゃありません。
見てくださいよ。
この長い身体。
しなやかでしょう?
そして、この毛並み。
そんじょそこらの狸にゃあ、ありませんって‼
しかも、ですよ? あんた!
百歩譲って、おいらと狸を比較して見やしょう。
顔の模様――まあ、おいらとは似てましょう。
尻尾の模様――まあ、似てやせんでしょう?
顔や、尻尾。
それ以上にですよ、あんた。
体のラインが、構造が違うでやんしょう??
「――狸、ね」
おいらは人形。
ええ、それぐらいは。
把握しておりやすよ??
自分がフェレットだってこともですよ?!
しかしですよ、あんた。
しかしですよ、あんた。
「こんなのじゃダメだわ」
あーた!
おいらは歯がゆかったでやんすよ。
話したかった。
否定したかった。
「どうせ、お遊びよ」
しかしですよ、あんた。
しかしですよ、あんた!
可愛い少女。
いえ、おいらを《狸》と勘違いする少女が。
あーた!
「こんなこと」
おいらを選んだんですよ。
たまたま、おいらを最初にとって。
たまたま、おいらと目が合って。
あーた!
こんなことがありやしょうか??
あったんですよ‼
何やら、なんかを杖にはめ込んで。
おいらの額に当てたでやんす。
ぃ、だだっだあだ‼
「あづいでやんす!」
おいらが悲鳴を漏らすと、少女はきょとんとしたでやんす。
普通なら、気色悪~~い! て逃げるでしょう??
なのに、ただ口のへの字に見てたんでやんす。
だから、おいらもでやんす。
「おいらの額、やけどしてないでやんすか?!」
聞いてみたでやんす。
「……いいえ。あ」
「あ?! っちょ、ちょっと待つでやんす!?」
おいらも慌てたでやんすよ、あんた。
「額に、赤い宝石が……できものが浮き上がっているわね」
宝石に見えるほどにキラキラなんでやんしょうなぁ~~?
いや、いや‼
パラパラ――……
「ああ、それは僕の証なんですってよ」
少女が取り扱いの紙を読む。
そして、ポケットに折ってしまって。
「じゃあね。私、急いでいるのよ」
っかっかっか!
「っく、ぅ゛!」
おいらは唖然としたでやんすよ、あんた。
気丈な表情が、苦痛に歪むなんざ。
ただごとじゃありやせんでしょう!
「だ、大丈夫でやんすか? 大丈夫でやんすか??」
うろ、うろとすることしか出来ないおいら。
涙は出ません。
おいらは人形ですからね。
「五月蠅いわよ、たぬ吉」
「たぬ吉ーー~~ッッ?!」
ええ、おいらは人形。
人形に名前なんざ、全部、同じ。
もし、パンなら全ての人形が《パン》て名前でやんす。
《たぬ吉》なんかじゃないでやんすが。
「姐さん! おいら、ついて行きやすよ!」
「人形が何を言っているのかしら」
「姐さんの魔法で大きくして下さいでやんす!」
姐さんが杖を見て、
「お、大きくなーーれ~~」
苦笑交じりに唱えたら、どうでやんす?? あんた。
「あら、イグアナ以上に大きくなったわね」
結局のところ、あんた。
散々といったところ、あんた。
《フェレット》でも。
《狸》でも。
おいらは――幸せになったんでやんす。
他の人形たちよりも、先においらは。
ご主人様を見つけ、見つけられたんでやんすから。
《たぬ吉》も、悪くないでやんす。
◆
タカタカタカ――……
たぬ吉が歩いていく。
その背中に、希美が腰を下ろしている。
「このショッピングモールは、少しおかしいのよ」
「何がやんすか? 姐さん」
「怪物が、居るのよ」
その言葉に。
「姐さん。ロマン主義者なんすね~~♪」
次いで、可愛いでやんす♡ の言葉に。
希美が、たぬ吉の頭を杖で小突いた。
「あだ! で、やんす‼」
希美は頬を膨らませた。
拗ねた表情になっている。
「本当なのよ!」
真っ暗でも、たぬ吉の目に映し出される表情に。
たぬ吉も、はにかんだ。
「分かりやした、おいらも警戒して――……」
たぬ吉の言葉が止まった。
「?? たぬ吉、どうかし……」
真っ暗闇の中。
赤い光りがあった。
人工的なものではない。
「下に、降りるんでやんすよね?? 本当にでやんすか???」
たぬ吉の身体が震えた。
だが、しかし。
「姐さん! しっかり、おいらに捕まってて下さいでやんすよ!」
たぬ吉が勢いよく、希美をを乗せたまま。
駆け出した。
見てくださいよ。
この長い身体。
しなやかでしょう?
そして、この毛並み。
そんじょそこらの狸にゃあ、ありませんって‼
しかも、ですよ? あんた!
百歩譲って、おいらと狸を比較して見やしょう。
顔の模様――まあ、おいらとは似てましょう。
尻尾の模様――まあ、似てやせんでしょう?
顔や、尻尾。
それ以上にですよ、あんた。
体のラインが、構造が違うでやんしょう??
「――狸、ね」
おいらは人形。
ええ、それぐらいは。
把握しておりやすよ??
自分がフェレットだってこともですよ?!
しかしですよ、あんた。
しかしですよ、あんた。
「こんなのじゃダメだわ」
あーた!
おいらは歯がゆかったでやんすよ。
話したかった。
否定したかった。
「どうせ、お遊びよ」
しかしですよ、あんた。
しかしですよ、あんた!
可愛い少女。
いえ、おいらを《狸》と勘違いする少女が。
あーた!
「こんなこと」
おいらを選んだんですよ。
たまたま、おいらを最初にとって。
たまたま、おいらと目が合って。
あーた!
こんなことがありやしょうか??
あったんですよ‼
何やら、なんかを杖にはめ込んで。
おいらの額に当てたでやんす。
ぃ、だだっだあだ‼
「あづいでやんす!」
おいらが悲鳴を漏らすと、少女はきょとんとしたでやんす。
普通なら、気色悪~~い! て逃げるでしょう??
なのに、ただ口のへの字に見てたんでやんす。
だから、おいらもでやんす。
「おいらの額、やけどしてないでやんすか?!」
聞いてみたでやんす。
「……いいえ。あ」
「あ?! っちょ、ちょっと待つでやんす!?」
おいらも慌てたでやんすよ、あんた。
「額に、赤い宝石が……できものが浮き上がっているわね」
宝石に見えるほどにキラキラなんでやんしょうなぁ~~?
いや、いや‼
パラパラ――……
「ああ、それは僕の証なんですってよ」
少女が取り扱いの紙を読む。
そして、ポケットに折ってしまって。
「じゃあね。私、急いでいるのよ」
っかっかっか!
「っく、ぅ゛!」
おいらは唖然としたでやんすよ、あんた。
気丈な表情が、苦痛に歪むなんざ。
ただごとじゃありやせんでしょう!
「だ、大丈夫でやんすか? 大丈夫でやんすか??」
うろ、うろとすることしか出来ないおいら。
涙は出ません。
おいらは人形ですからね。
「五月蠅いわよ、たぬ吉」
「たぬ吉ーー~~ッッ?!」
ええ、おいらは人形。
人形に名前なんざ、全部、同じ。
もし、パンなら全ての人形が《パン》て名前でやんす。
《たぬ吉》なんかじゃないでやんすが。
「姐さん! おいら、ついて行きやすよ!」
「人形が何を言っているのかしら」
「姐さんの魔法で大きくして下さいでやんす!」
姐さんが杖を見て、
「お、大きくなーーれ~~」
苦笑交じりに唱えたら、どうでやんす?? あんた。
「あら、イグアナ以上に大きくなったわね」
結局のところ、あんた。
散々といったところ、あんた。
《フェレット》でも。
《狸》でも。
おいらは――幸せになったんでやんす。
他の人形たちよりも、先においらは。
ご主人様を見つけ、見つけられたんでやんすから。
《たぬ吉》も、悪くないでやんす。
◆
タカタカタカ――……
たぬ吉が歩いていく。
その背中に、希美が腰を下ろしている。
「このショッピングモールは、少しおかしいのよ」
「何がやんすか? 姐さん」
「怪物が、居るのよ」
その言葉に。
「姐さん。ロマン主義者なんすね~~♪」
次いで、可愛いでやんす♡ の言葉に。
希美が、たぬ吉の頭を杖で小突いた。
「あだ! で、やんす‼」
希美は頬を膨らませた。
拗ねた表情になっている。
「本当なのよ!」
真っ暗でも、たぬ吉の目に映し出される表情に。
たぬ吉も、はにかんだ。
「分かりやした、おいらも警戒して――……」
たぬ吉の言葉が止まった。
「?? たぬ吉、どうかし……」
真っ暗闇の中。
赤い光りがあった。
人工的なものではない。
「下に、降りるんでやんすよね?? 本当にでやんすか???」
たぬ吉の身体が震えた。
だが、しかし。
「姐さん! しっかり、おいらに捕まってて下さいでやんすよ!」
たぬ吉が勢いよく、希美をを乗せたまま。
駆け出した。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる