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#30 風雲告げに来たヒト
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「っこ、こんなはずじゃなかったんだ!」
長谷部は着替え終えて、ともみにそう言葉を漏らした。
そう声を噛み殺していうのはバックルームでもある調理場の倉庫だ。
「まさか、父さんが学校まで迎えに来るとかっ、思わねぇじゃん!?」
「多分だけど、…いや。きっと、店長が恋焦がれているお客さんの為に単身で乗り込んで来たんじゃないのかな? お前の父さんってば、いい人じゃんかw」
ともみの言葉に長谷部も、
「いい人だよ。でも、なんだって父さんが来るんだよぉ~~もぉうぅうう!」
思わずと聞き返してしまう。
「まぁ。接客中に愚痴られたか、それともまたママ活で《縁司》に会いたかった、か。この二択の内のどちらかだとは思うよ。さ、早く表に出ようw 恵の奴に怒られちゃうしさ」
「っはぁー~~」
肩を下げて小さくため息を長谷部は漏らした。
◆
「えぇと。店長さんはいらっしゃいますか? 私は――」
「長谷部の奴の、……父親さん、ですよね? 不躾ですいませんねw」
にこやかに恵は海潮に言うと海潮の目が大きくなるも、すぐみ細められた。
赤くテカるグロスの塗った唇も微笑みの形になり、
「はい。長谷部君の父親の、三柴海潮ですわ」
会釈をして恵に自己紹介をする。
「俺は同僚の吉川恵っつぅ者っす。初めまして」
「ご丁寧にありがとうございます♡ それで、店長さんはいらっしゃいますか?」
「あァー~~っと、…店長わぁー」と上擦った口調の恵の様子に、海潮の鼻先がヒクついた。
「すいませ~~ん。注文いいでしょうかぁ?」と海潮の背後から女子高生が顔をひょっこりと出した。それには海潮も「どうぞ♡」と順番を譲るのだった。
恵にとって助けに船といった状況だ。
(つぅか! ともみの奴はっ、どこで油を売ってんだよっっっっ‼)
心の中でともみへの恨み節で一杯だが、恵は笑顔を絶やさなかった。
注文を請け負い、接客をスムーズにこなす恵を海潮も見入っている。その視線は、もちろんのこと恵も痛い位に感じている分、一刻も早く相棒でもあるともみの登場を心の底から思った。
「ご注文がお決まりの方。こちらでお伺いしますよ」
ひょいと長い腕を宙に上げてともみが言う。
「!? と、ともみっ!」と目を細める、明らかな怒りの表情を向ける恵からともみは視線をあえて横に反らした。
(あそこにいんのが海潮さん。長谷部のパパンだ)
(聞いた。…似てねぇな。つぅか完全に女の人じゃんw)
ひそひそと小声で言いつつ、手は休めずに動かしていく。2人のコンビネーションには海潮も、店に引き抜きたくなった。しかし、明らかなノンケに唾をつける趣味もない。
(縁司さんみたく、ウケはよさそうなんですけどねぇ)
しかし、欲しい逸材だとは本気で思ってしまうもので。
(長身で、若くてノンケは本当にいい逸材なんですよねぇ)
スカウトのことが脳裏で大きくなっていく。
(でも。長谷部君に怒られちゃいますね)
「いらっしゃいませー」
そんな中で皿を下げて来た竜司が会釈をした。
そして、そのまま裏へと入った。
「! 縁司さん!?」
突然の竜司の登場にワンテンポ遅れた海潮が竜司の偽名を呼んだ。
それと同時に、
がっしゃん!
何かが落ちて割れる音が店内に響き渡った。
「お騒がせして、すいません!」と恵が店内で食事する客に謝罪を口にした。
「ちょっと、後ろ見て来るな」
「ああ」
恵がともみの肩を叩き中へと足早に向かった。
入ってすぐの場所には割れた皿とコップが散乱をしている様子に、恵も肩を竦めた。
「店長ぉおー~~?」
その脇で身体が硬直している竜司の姿があった。
「ぅ、ううぅっし、ぉおおおぉっさンんンン!?」
長谷部は着替え終えて、ともみにそう言葉を漏らした。
そう声を噛み殺していうのはバックルームでもある調理場の倉庫だ。
「まさか、父さんが学校まで迎えに来るとかっ、思わねぇじゃん!?」
「多分だけど、…いや。きっと、店長が恋焦がれているお客さんの為に単身で乗り込んで来たんじゃないのかな? お前の父さんってば、いい人じゃんかw」
ともみの言葉に長谷部も、
「いい人だよ。でも、なんだって父さんが来るんだよぉ~~もぉうぅうう!」
思わずと聞き返してしまう。
「まぁ。接客中に愚痴られたか、それともまたママ活で《縁司》に会いたかった、か。この二択の内のどちらかだとは思うよ。さ、早く表に出ようw 恵の奴に怒られちゃうしさ」
「っはぁー~~」
肩を下げて小さくため息を長谷部は漏らした。
◆
「えぇと。店長さんはいらっしゃいますか? 私は――」
「長谷部の奴の、……父親さん、ですよね? 不躾ですいませんねw」
にこやかに恵は海潮に言うと海潮の目が大きくなるも、すぐみ細められた。
赤くテカるグロスの塗った唇も微笑みの形になり、
「はい。長谷部君の父親の、三柴海潮ですわ」
会釈をして恵に自己紹介をする。
「俺は同僚の吉川恵っつぅ者っす。初めまして」
「ご丁寧にありがとうございます♡ それで、店長さんはいらっしゃいますか?」
「あァー~~っと、…店長わぁー」と上擦った口調の恵の様子に、海潮の鼻先がヒクついた。
「すいませ~~ん。注文いいでしょうかぁ?」と海潮の背後から女子高生が顔をひょっこりと出した。それには海潮も「どうぞ♡」と順番を譲るのだった。
恵にとって助けに船といった状況だ。
(つぅか! ともみの奴はっ、どこで油を売ってんだよっっっっ‼)
心の中でともみへの恨み節で一杯だが、恵は笑顔を絶やさなかった。
注文を請け負い、接客をスムーズにこなす恵を海潮も見入っている。その視線は、もちろんのこと恵も痛い位に感じている分、一刻も早く相棒でもあるともみの登場を心の底から思った。
「ご注文がお決まりの方。こちらでお伺いしますよ」
ひょいと長い腕を宙に上げてともみが言う。
「!? と、ともみっ!」と目を細める、明らかな怒りの表情を向ける恵からともみは視線をあえて横に反らした。
(あそこにいんのが海潮さん。長谷部のパパンだ)
(聞いた。…似てねぇな。つぅか完全に女の人じゃんw)
ひそひそと小声で言いつつ、手は休めずに動かしていく。2人のコンビネーションには海潮も、店に引き抜きたくなった。しかし、明らかなノンケに唾をつける趣味もない。
(縁司さんみたく、ウケはよさそうなんですけどねぇ)
しかし、欲しい逸材だとは本気で思ってしまうもので。
(長身で、若くてノンケは本当にいい逸材なんですよねぇ)
スカウトのことが脳裏で大きくなっていく。
(でも。長谷部君に怒られちゃいますね)
「いらっしゃいませー」
そんな中で皿を下げて来た竜司が会釈をした。
そして、そのまま裏へと入った。
「! 縁司さん!?」
突然の竜司の登場にワンテンポ遅れた海潮が竜司の偽名を呼んだ。
それと同時に、
がっしゃん!
何かが落ちて割れる音が店内に響き渡った。
「お騒がせして、すいません!」と恵が店内で食事する客に謝罪を口にした。
「ちょっと、後ろ見て来るな」
「ああ」
恵がともみの肩を叩き中へと足早に向かった。
入ってすぐの場所には割れた皿とコップが散乱をしている様子に、恵も肩を竦めた。
「店長ぉおー~~?」
その脇で身体が硬直している竜司の姿があった。
「ぅ、ううぅっし、ぉおおおぉっさンんンン!?」
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