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〜Another story〜

#2.

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 十年前、中学校からの帰り道。普段はバスケ漬けで休みなんかほとんど無い私の生活の中で、テスト期間という奇跡の連休期間があったおかげで私はずっと同じクラスで親友のチーちゃんと遊ぶ時間ができていた。その日の帰り道も、今からチーちゃんとカラオケに行く予定でお互い自転車を走らせていた。私が彼のことを好きになった日だ。

 「ユカリ、今日はカラオケを楽しむんだからね。前みたいに勉強会にしちゃダメだよ」
 「あはは!大丈夫大丈夫!今日は思いっきりチーちゃんと楽しむつもりで準備してるからさ!喉も既にあったまってるよ!」
 「どうだろうなぁ、ユカリ、前もそんな事言って隙があれば社会の問題集開いてたじゃん」
 「あれは宿題が終わってなかったから!今日はちゃんとやる事終わらせたし、何なら勉強道具は部室に置いてきちゃったよ」
 「それはそれでいいの?」

チーちゃんは口角を上げながら声も大きくなって笑った。車通りの多いところを走っているから車とすれ違う時は、絶妙に下着が見えないタイミングで足を動かす。その足が私もチーちゃんも全く同じタイミングで動いていて少し笑えた。

 「いいのいいの!今日は思いっきり歌お!」
 「あったりまえじゃん!」

車のエンジン音や、ここぞとばかりに叫ぶ蝉の鳴き声に紛れながら私とチーちゃんはいつも一緒に歌うボーイズグループの歌を口ずさむ。しばらく自転車を漕ぎ信号待ちをしていると、向かい側の道をゆっくりと慎重に自転車を押して歩いているおばあちゃんがいた。サドルの後ろの荷台には、買い溜めをしたのかと思えるほど大きく包まれた紫色の風呂敷が置かれていた。その人は日陰を歩いているものの、この暑さで重そうな荷物を押しているのはなかなかの重労働だろうなと私は思っていた。次の瞬間。

 「危ない!」

 私の声と同じタイミングでガシャンと大きな音を立てて、その人が引いていた自転車が倒れた。人とは反対方向に倒れたのでおばあちゃんは無事だった。だが、風呂敷がほどけてしまい、包まれていた中身の果物があちこちに散乱してしまっている。人通りの少なくない道で、私と同じ制服を着ている子たちもその道を通っていくが、みんな見て見ぬフリをして過ぎ去っていく。おばあちゃんが困ったように座り込んでしまっている。私はその状況に腹が立ち、信号が変わったらすぐにおばあちゃんを助けに行こうと決めた。だが、信号は変わったばかりでまだまだ色が変わる気配がない。

 「なんでみんなおばあちゃんを助けないんだろ?」
 「んー、何でだろね。一つ言えるのは私らと同じ制服を着ているヤツらが素通りしていくのがムカつくね」
 「チーちゃんも思ってた?私もさっきから思ってて、次素通りしていくヤツがいたら叫んでしまいそうだよ!」
 「フフ、ユカリはすぐに助けそうだもんね」
 「絶対助ける!何なら今すぐ助けたい!のに、全然青にならないんだけど!」
 「ここの信号、長いからなぁ」

まだ二分ほどしか経っていないのかもしれないけれど、私はこの信号待ちの時間が十五分以上かかっているように感じた。おばあちゃんがゆっくりと腰を上げて落とした果物を拾い始めた。それを見た私はもう声を上げようと大きく息を吸った。するとそこへ、一人の男の子が駆け寄り、倒れた自転車を立て、道に落ちている果物を一つまた一つと拾い上げていく。その男の子は間違いなく私のクラスの森内くんだ。屈んでいても身長が大きいのですぐに分かった。彼はおばあちゃんと言葉を交わす数は少なかったように見えたが、落ちていた果物を全て拾い終えて元にあったようにそれを全て風呂敷を使ってまとめた。その後、おばあちゃんの自転車を森内くんが押しながら彼はおばあちゃんと一緒に道を歩いて行った。私はその一部始終を信号が変わっても一歩も動かないままじっと見つめていた。そして、その時森内くんがヒーローに見えた。本当に漫画の主人公のように見えた。

 「森内、優しいところあんだね。普段、静かだしデカいからちょっと怖いイメージあったけど、印象変わったなぁ。今ので」

チーちゃんも私と同じように感心するわーと言いながら彼とおばあちゃんの姿を見つめている。

 「森内くん、カッコいいなぁ!」
 「ユカリ!?」

私はその出来事があってから森内くんを毎日目で追うようになった。クラスが同じだったし、席もそれなりに距離があるから自然に見つめ続けることができる。ただ、彼は視線に敏感なのか私が見ていると、たまに私の方を見てきたりする。そこで目が合うと絶対にドキドキしてしまうから私は彼と目が合いそうになると慌ててそっぽを向いた。彼はいつも北村くんの近くにいるから、北村くんと話していているといつも彼が近くにいた。平然を装いながらワイワイ話しているけれど、私の心臓は異常な速度で脈を打っていたと思う。森内くんとは少しでも話したかったけれど、彼の顔を見るとあのヒーローみたいな一面が脳裏に蘇ってどうしてもまともに話すことが出来なかった。私はそれがとてももどかしかった。歯痒かった。それでも教室は同じだし、体育館では隣でバレーボールをやっているから、姿を見れるだけで十分だった。彼が頑張っているおかげで私もバスケに打ち込んで、勝手に切磋琢磨しているみたいに思っていた。私はそんな中学時代を過ごした。それでも私は、その中学時代の思い出を宝物みたいに私の心の中にしまっている。
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