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第1章  あの頃と今

10.

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 『やっほー、同窓会ぶり!そしてメッセージでは初めましてだね。森内くんさ、この前あんまり話せなかったから今度話さない?今週の平日で空いてる時間帯無いかな?』

送り主の五文字を見た時、そして送られてきたメッセージを見た時。僕はこの短い瞬間に心臓が爆発しそうになるぐらい大きく動いた。頭の中を思いっきりかき混ぜられたように僕の思考回路は混乱し、しばらくそのメッセージを眺めていた。呼吸をするのさえ忘れて、慌てて息を吸った。必死に心を落ち着かせながらコンビニで水を買い、近くのコンビニのベンチに腰かけて改めて彼女から送られてきたメッセージを見た。いてもたってもいられなくなり、ひとまず僕はヒロキに電話をかけた。

 『おう、タク。どうした?お前が電話かけてくるなんて珍しいな』
 『ごめん、急に。仕事は大丈夫?』
 『おう。今日は休みだからな。何だ?もうみんなと会いたくなったのか?それか吉田か?』

彼女の苗字が出ただけで僕の心臓の鼓動はまた早くなった。

 『それがさ、吉田さんからメッセージが来たんだよ!今度話さないかって!』
 『マジか!すげえ展開じゃん!二人で?』

スマホ越しで勢いよく僕の耳に飛び込んできたヒロキの声で、危うく僕の耳がぶっ壊れるところだった。僕は必死に心を落ち着かせる。

 『あ、でも二人でとは書かれてないかも』
 『まぁ普通なら二人だろ?やったなぁタク!お前、中学の頃めっちゃ好きだったもんな。今も好きなの?』
 『まだ心の整理が落ち着かないけど、とりあえず久々に見た吉田さんはめっちゃ可愛かった』
 『ハハ。そっか!じゃあ、素直なタクにいいこと教えといてやるよ』
 『え、何?』
 『吉田もお前のこと、昔よりもカッコよくなってたって言ってたぞ、最高だろ?』

鼻血が出そうになるほど興奮しているのが自分でも分かった。それほどにヒロキが教えてくれたそれは、衝撃的だった。

 『で、で、でもまだ何があったわけじゃないから!おれの行動に幻滅されるかもしれないし』
 『何でそんな弱気なんだよ。バレーしてる時のお前はめっちゃ堂々としてるのに。とにかくお前は呼び方を吉田さんから変えるところからがスタートだな!』
 『は、はは。確かにそうだね』
 『まぁ力みすぎず楽しんでこいよ。もし上手くいったら俺にも女の人、紹介してくれよ。そろそろ彼女欲しいし』
 『分かったよ。考えとく』

ヒロキの周りにはいつも女の人の気配があることは、今日は流石に突っ込まなかった。

 『じゃあそろそろ筋トレしてくるわ』
 『うん、色々ありがとな。ヒロキ』
 『へーい』

通話時間を見ると四十分ほどヒロキと電話をしていた。驚くほど時間が過ぎていたことを感じ、僕はこれから送るメッセージを何度も見返しながら吉田さんに返信した。

            ✳︎

 「タクちゃん」
 「はい?」
 「なんか良いことあったか?」

キャプテンの永井さんとパスをしていると、徐にそう聞いてきた。動揺した僕は、右手と左手のバランスが崩れてボールが雑に回転したパスを永井さんに出した。

 「ハハ、図星だな。彼女?」
 「ち、違いますよ。まだ何も始まってないです」
 「そうなのか?ニヤニヤしながら体育館に入ってきたから絶対何かあったなって思ったんだけど」
 「まぁ最近、毎日楽しいですけど」
 「おぉ、それはいいことだ」

僕は自分では気づかなかったが、相当分かりやすい性格なのかもしれない。現にあれから吉田さんとご飯に行くことが決まり、メッセージも一日に数回ではあるが届くようになった。僕に気があるような内容を送ってくるわけではない何の変哲もない文章だけれど、彼女から届くそれは僕の心を暖かくさせるには十分すぎる役割がある。彼女のことを考えながら練習をこなし、今日も参加人数が多かったので最後に練習試合を行った。

 「やっぱり今日のタクちゃん、普段よりダントツに良かったわ。どこにトス上げるか全然分かんなかったよ」
 「いやいや。みんなのレシーブが上げやすいからです。余裕持って出来たんすよ」
 「そういや、再来週なんだけど練習試合しないかって俺の学生時代の同級生が言ってきたんだけど、タクちゃんはどう?」
 「おぉ、いいじゃないっすか。ぜひやりましょう」
 「そういうと思ったよ。また今日みたいにメンツ集まるといいな」
 「そうっすね」

キャプテンと話し終え、練習を終えた達成感を味わいながら深呼吸をして車のエンジンをつけた。ポケットからスマホを取り出すと、画面の通知に彼女の名前が出ていた。僕はそれを見ただけで舞い上がりそうになった。

 『今日はバレーの日だよね?お疲れ様!森内くんが言ってくれた金曜日の19時半、私も大丈夫だった!その日にご飯食べに行こっか。オススメの店があるからそこでいいかな?』

僕は今日も頑張った自分を労いながら彼女へ誤字の無いように確認しながらメッセージを返した。僕の好きな秋の香りが漂い始めていたことに気づき、一層嬉しい気持ちが込み上げた。
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