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第1章 あの頃と今
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腕時計を確認すると、針は十九時を回っていた。それなのにまだまだ熱風のような風が僕を追い越して吹き去っていく。ガヤガヤと店の外にまで色んな種類の笑い声が聞こえてきて扉を引こうとした手が止まった。ヒロキが作ったグループトークに動きがあり、結果的には八人ほどが集まり、同窓会というには規模が小さいかもしれないが実際に開催されることが決まった。そして同窓会の会場は、居酒屋を経営している平松くんの実家で行われることになった。彼曰く、今日は僕らの同窓会で貸切になっているらしい。なので、この笑い声の主たちは全員僕の関係者になる。もうすでに五人位の笑い声が聞こえていた気がするので今僕が店に入ると、みんなが楽しんでいる空気に水を差しそうで怖くなった。
「おう、タク」
背後から聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには首元に大きめの十字架のネックレスをぶら下げて、黒に近いぐらい濃い青色のデニム生地のジャケットに同じ色のデニムのパンツを合わせた、いかにも合コンで本気を見せにきたような格好のヒロキがいた。ヒロキの服の趣味ってこんな感じだったっけ。数年ぶりに会うヒロキだから変わっていても不自然ではないが、僕は以前着ていた服の方がヒロキに似合っていると思った。
「おぉー、ヒロキ。ナイスタイミングだったね。いつ入ろうかめっちゃ迷ってて」
「ハハ、何だそれ。普通にガラって扉開けりゃいいのに。まぁタクらしいな。てかお前、また身長伸びなかったか?」
「んなわけないじゃん。もう大人なんだし。久々に見たから感覚狂ってんだよ」
「そういうもんかな?中二ぐらいまで俺の方が大きかったのになぁ」
「まぁ立ち話も何だから」
「タクが待ってたんだろ」
「はは。そうとも言う」
ヒロキが扉を横に動かすと、今の今まで聞こえていた笑い声が消えて全員の顔がこっちを向いた。昔の面影が残っているやつもいれば、全く昔の顔を思い出せないやつもいた。彼らは僕らに気づくと再び大きな声を上げた。
「おぉー!バレー部コンビ!待ってたよー!」
「やっぱり予想通り二人で来たね」
「昔と変わらずデカいねー!」
そんな声が一気に耳に入ってくるものだから、僕はどれに返答しようか迷っているうちにどれにも答えることが出来ないでいた。
「久しぶり!みんな!集まってくれてありがとう」
僕の前に立ってみんなをまとめるヒロキの姿を見た瞬間、あぁやっぱりコイツはいつまでもヒロキだなと思った。
「ヒロくん、何そのネックレス」
ヒロキのつけているネックレスを指差して笑っているのは下村ナギサだ。特徴的な垂れ目と一際小柄な印象が今でもすぐに分かった。そういえば当時はヒロキの事が好きだったりしていたような覚えがある。
「イケイケの若さを取り入れてみた!ちょっとホスト感ありすぎたかな?」
一回大きな笑いをとったヒロキが上手に話を切り上げて僕とヒロキも席に座った。さっきはたくさんの視線に見つめられて焦っていたけれど、よくよくみんなを見渡すと少しずつ名前が思い出せるような気がする。我ながら記憶力は悪くないかもしれない。ただ、その集団の中に吉田ユカリの姿はなかった。ガッカリした気持ちが半分とほっとした気持ちが半分、ちょうど同じタイミングで僕の心の中に芽生えた。
「タクヤくんもヒロキくんも昔と変わらずイケメンだね」
「ホントだよ。俺なんかビール飲みすぎてズボンのサイズ、三年前より二つぐらいデカくなってるのに」
「ケースケは昔、めっちゃ細かったのにね!ほんとウケるよ。あ、二人はまだバレーとかしてるの?」
中三の頃、同じクラスで割と話をする回数の多かった園田さんが僕に話しかけてきた。二人とは言いながらも僕の方だけを見つめる彼女の目を、僕はわざとらしく逸らした。
「おれはまだやってるよ。小さいクラブチームでだけどね」
「そうなんだ!やっぱり!」
「やっぱり?」
「いやぁ私、いつもみんなより早く学校に来てたのに、その私よりも早くに学校に来て毎日バレーボール触ってたじゃん?その時、この人はいつまでもバレーをやり続けるんだろうなって思ってたよ」
僕のバレーをしている姿に対して、そんな風に思ってくれている人がいたなんて知らなかった。心の中が少しだけ暖かくなった。ただ、朝練をしていた理由はバレーが好きだからだけではない。それも、違う理由の方が目的の割合が大きいなんて誰にも言えない。
「確かにタクはいつも、誰よりも早く練習来てたよなぁ。俺は理由知ってるけど」
ヒロキの言葉を聞いて僕の心臓が大きく跳ねた。確かにヒロキは僕が朝早くに学校へ行っていた理由を知っている。
「え?バレーが好きだからじゃないの?」
「へへ。教えない」
「えー?なんか気になるー!」
「バレーが好きなのはもちろんそうだろうけど、それよりもカッコいい理由だと俺は思うよ。みんなには言わないけど」
「何それ!余計気になる!タクヤくん!もう時効でしょ?教えてよー!」
「いやぁ、ハハ...」
みんなはそれぞれに違う話題で話し合っているはずなのに、僕には今から僕が喋ろうとしている言葉を聞き逃すまいと耳を傾けているように感じた。僕はそれにあからさまに戸惑った。次の瞬間、
ガラガラと小さな石を挟む音を鳴らしながら再び店の扉が力強く開かれた。そこにいた女の人を見た刹那、僕の心臓はさっきよりも数段大きく跳ねた。油断すると、それが口から出てきそうになりそうなほどだった。
「こんばんは!ごめんねみんな、到着も返事も遅くなりました!」
そこにいたのは、紛れもなく彼女だった。僕の初恋の人で僕の片想い相手。吉田ユカリの笑顔を見た途端に、僕は何故か涙が出そうになった。
腕時計を確認すると、針は十九時を回っていた。それなのにまだまだ熱風のような風が僕を追い越して吹き去っていく。ガヤガヤと店の外にまで色んな種類の笑い声が聞こえてきて扉を引こうとした手が止まった。ヒロキが作ったグループトークに動きがあり、結果的には八人ほどが集まり、同窓会というには規模が小さいかもしれないが実際に開催されることが決まった。そして同窓会の会場は、居酒屋を経営している平松くんの実家で行われることになった。彼曰く、今日は僕らの同窓会で貸切になっているらしい。なので、この笑い声の主たちは全員僕の関係者になる。もうすでに五人位の笑い声が聞こえていた気がするので今僕が店に入ると、みんなが楽しんでいる空気に水を差しそうで怖くなった。
「おう、タク」
背後から聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには首元に大きめの十字架のネックレスをぶら下げて、黒に近いぐらい濃い青色のデニム生地のジャケットに同じ色のデニムのパンツを合わせた、いかにも合コンで本気を見せにきたような格好のヒロキがいた。ヒロキの服の趣味ってこんな感じだったっけ。数年ぶりに会うヒロキだから変わっていても不自然ではないが、僕は以前着ていた服の方がヒロキに似合っていると思った。
「おぉー、ヒロキ。ナイスタイミングだったね。いつ入ろうかめっちゃ迷ってて」
「ハハ、何だそれ。普通にガラって扉開けりゃいいのに。まぁタクらしいな。てかお前、また身長伸びなかったか?」
「んなわけないじゃん。もう大人なんだし。久々に見たから感覚狂ってんだよ」
「そういうもんかな?中二ぐらいまで俺の方が大きかったのになぁ」
「まぁ立ち話も何だから」
「タクが待ってたんだろ」
「はは。そうとも言う」
ヒロキが扉を横に動かすと、今の今まで聞こえていた笑い声が消えて全員の顔がこっちを向いた。昔の面影が残っているやつもいれば、全く昔の顔を思い出せないやつもいた。彼らは僕らに気づくと再び大きな声を上げた。
「おぉー!バレー部コンビ!待ってたよー!」
「やっぱり予想通り二人で来たね」
「昔と変わらずデカいねー!」
そんな声が一気に耳に入ってくるものだから、僕はどれに返答しようか迷っているうちにどれにも答えることが出来ないでいた。
「久しぶり!みんな!集まってくれてありがとう」
僕の前に立ってみんなをまとめるヒロキの姿を見た瞬間、あぁやっぱりコイツはいつまでもヒロキだなと思った。
「ヒロくん、何そのネックレス」
ヒロキのつけているネックレスを指差して笑っているのは下村ナギサだ。特徴的な垂れ目と一際小柄な印象が今でもすぐに分かった。そういえば当時はヒロキの事が好きだったりしていたような覚えがある。
「イケイケの若さを取り入れてみた!ちょっとホスト感ありすぎたかな?」
一回大きな笑いをとったヒロキが上手に話を切り上げて僕とヒロキも席に座った。さっきはたくさんの視線に見つめられて焦っていたけれど、よくよくみんなを見渡すと少しずつ名前が思い出せるような気がする。我ながら記憶力は悪くないかもしれない。ただ、その集団の中に吉田ユカリの姿はなかった。ガッカリした気持ちが半分とほっとした気持ちが半分、ちょうど同じタイミングで僕の心の中に芽生えた。
「タクヤくんもヒロキくんも昔と変わらずイケメンだね」
「ホントだよ。俺なんかビール飲みすぎてズボンのサイズ、三年前より二つぐらいデカくなってるのに」
「ケースケは昔、めっちゃ細かったのにね!ほんとウケるよ。あ、二人はまだバレーとかしてるの?」
中三の頃、同じクラスで割と話をする回数の多かった園田さんが僕に話しかけてきた。二人とは言いながらも僕の方だけを見つめる彼女の目を、僕はわざとらしく逸らした。
「おれはまだやってるよ。小さいクラブチームでだけどね」
「そうなんだ!やっぱり!」
「やっぱり?」
「いやぁ私、いつもみんなより早く学校に来てたのに、その私よりも早くに学校に来て毎日バレーボール触ってたじゃん?その時、この人はいつまでもバレーをやり続けるんだろうなって思ってたよ」
僕のバレーをしている姿に対して、そんな風に思ってくれている人がいたなんて知らなかった。心の中が少しだけ暖かくなった。ただ、朝練をしていた理由はバレーが好きだからだけではない。それも、違う理由の方が目的の割合が大きいなんて誰にも言えない。
「確かにタクはいつも、誰よりも早く練習来てたよなぁ。俺は理由知ってるけど」
ヒロキの言葉を聞いて僕の心臓が大きく跳ねた。確かにヒロキは僕が朝早くに学校へ行っていた理由を知っている。
「え?バレーが好きだからじゃないの?」
「へへ。教えない」
「えー?なんか気になるー!」
「バレーが好きなのはもちろんそうだろうけど、それよりもカッコいい理由だと俺は思うよ。みんなには言わないけど」
「何それ!余計気になる!タクヤくん!もう時効でしょ?教えてよー!」
「いやぁ、ハハ...」
みんなはそれぞれに違う話題で話し合っているはずなのに、僕には今から僕が喋ろうとしている言葉を聞き逃すまいと耳を傾けているように感じた。僕はそれにあからさまに戸惑った。次の瞬間、
ガラガラと小さな石を挟む音を鳴らしながら再び店の扉が力強く開かれた。そこにいた女の人を見た刹那、僕の心臓はさっきよりも数段大きく跳ねた。油断すると、それが口から出てきそうになりそうなほどだった。
「こんばんは!ごめんねみんな、到着も返事も遅くなりました!」
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