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第43話 勇者とは

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「おーっと!余りにも早すぎて、もはや私には何が起こっているのか分かりません!」

ブルドッグ。
いや、エルフのシンラが、舞台を縦横無尽に動き回りながら連続で光の矢を放って来る。

一撃一撃がとんでもない速度とパワーを誇り、俺はそれを捌くので手いっぱいだ。

「くっ……」

滅茶苦茶腕上げてやがる……

100年前。
俺はシンラと組んで魔王を倒している。
彼女と二人で戦ったのは、力の弱い者が入れば即死するレベルの結界を魔王が張っていた為だ。

その事からも分る様に、シンラの実力は100年前の時点でかなりの物だった。
だがそれでも、俺や魔王と比べれば1~2ランク下の実力しかなかったのだが……

――まったく近付けない。

この100年で、彼女はかつての俺と同水準かそれ以上まで腕を上げてしまっていた。

「メテオレイン!」

シンラが弓を上に向け、特大の光の矢を頭上へと放つ。
それは頭上で破裂し、流星群のように無数の星屑となって俺へと降り注いだ。

「くそっ!」

勝手に強くなってんじゃねぇ!
ていうか、なんで引きこもりのエルフがこんな大舞台に出て来てんだよ!

そんな事を心の中で叫びながら、俺は光の矢の雨を躱す。

「――っ!?」

だが攻撃には追尾効果がある様で、躱した端から円の軌道を描いて俺の下へ戻って来てしまう。

何処の世界に、追いかけて来る雨があるというのか。
メテオストーカーに技名を変えろっての。

これで追撃があった日には、そこでゲームオーバーだった事だろう。
だが幸いにもシンラは追撃してこなかった。
恐らく、スキルの維持に力の多くを使っているためだろうと思われる。

だが……

剣で弾いても光の矢は消滅する事無く戻って来る。
数が減らせず抜け出せもしないない以上、完全にジリ貧だ。

本格的に不味いぞ……

ジワジワと俺の体に、捌ききれずに掠った矢による傷が増えて来た。
優勝を狙っていたのにまさかそれをかつての相棒に阻止されるとか、本当に笑えない話である。

『思い出したぞ。こいつは確か100年前、お前と一緒に私と戦ったエルフだろう』

その時、エーツーが脳内に話しかけて来た。

どうやら相手が誰か気づいた様だが――

「うぉ!?」

――急に話しかけられたせいで一瞬俺の集中が途切れ、危うく腕に矢が突き刺さりそうになってしまう。

極限の集中が必要な状況で、話しかけんじゃねぇよ。
まったく。

普通の声や音ならたいして問題はないが、流石に脳に直接声を掛けられたら集中は乱れてしまう。
なので実質、精神攻撃の類に……

そうか!
この手があった!

シンラはこのスキルに集中している。
なら、その集中を乱せばいいのだ。
先程魔王が俺にやった様に、伝音を使って。

早速俺は、本体から伝を発生させる。
分身側にそれをするだけの余裕はないからな。

え?
試合中に第三者が介入するのは反則じゃないかって?

いやいや、サインは俺の分身体だ。
つまり、本人が本人の試合に介入するだけだからセーフである。

もちろんそれを知らない人間からすれば反則に見えるだろうから直接的な手助けは出来ないが、伝音は見えないので問題ない。

「――っ!?」

「ここだ!」

精神攻撃が効いたのか、如実にメテオレインの動きが悪くなる。
その瞬間、俺は光の矢による包囲を抜け出しシンラへと突っ込んだ。

因みに伝音で飛ばしているのは歯ぎしりの音だ。
この音を、生理的に嫌う人間は多いからな。

「くっ!」

シンラがメテオレインを解除して、俺の攻撃をギリギリで躱す。
だが近づいてしまえばこっちの物だ。
おれはそのままピッタリくっ付く様に接近戦を仕掛ける。

「勇者の癖に姑息な……」

俺の攻撃を弓で防ぎつつ、シンラが呟く。
どうやら俺の正体には気付いていた様だ。

まあ彼女は世界樹の力を秘めた特殊な目を持っているからな。
それで此方の正体を看破してたのだろう。

「シンラ、良い事を教えてやる」

俺は攻撃しながらシンラにだけ聞こえる声で語り掛ける。
より撹乱するために、伝音にゲップとオナラの連続音を追加しつつ。

「勇者ってのは、絶対に勝つから勇者なんだよ」

100年前の戦いで、俺は一対一でも魔王に勝つ自信はあった。
にも拘らず、何故二対一で戦ったのか?
その理由は簡単だ。
確実に勝つためである。

――そう、勇者は勝ってなんぼなのだ。

だから俺は勝つ為なら手段は択ばない!

「あぁっ!?」

俺の一撃を受け、シンラが吹き飛んだ。

勝負ありだ。
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