28 / 105
第27話 投資
しおりを挟む
――コーガス侯爵家の没落は仕組まれた物だった。
エンデル17世は今年42歳。
その腹心と言えるセルイトは40歳だ。
30年前コーガス侯爵家没落時、彼らは12歳と10歳である。
当然その企みに二人は関わっておらず、セルイトに至っては世間で見聞きできる以上の情報を持っていなかった。
だが国王エンデル17世――当時の王太子には、その時点である程度の情報網があった。
そのため、彼は事の顛末を知っているのだ。
コーガス侯爵家は清廉潔白かつ優れた歴代当主による治世により、国民からの評判が非常に高かった。
さらに世界を救った勇者まで輩出している家門であったため、当時の名声は王家を凌ぐ程だったと言われている。
全てを兼ね備えた完璧な家門。
そんなコーガス侯爵家を、貴族や王家がどう思っていたかは言うまでもないだろう。
嫉妬を抱き。
逆恨みを持ち。
何とかコーガス侯爵家の足を掬ってやろうと虎視眈々と狙い続ける貴族達。
その中には、王家すら含まれていた。
しかしコーガス侯爵家は完璧な一族であったため、付け入る隙がまるで無かった。
――だが、そんなコーガス家にどうしようもない愚か者が生まれる。
ハミゲル・コーガス。
彼は次代を約束された嫡子だったにもかかわらずその人格には大きな難があり、やりたい放題の問題児だった。
そんなハミゲルの存在に、コーガス侯爵家の足を引っ張る事を企んでいた者達は歓喜する。
彼らはハミゲルが違法な薬物に手を出すよう誘導し、更にあの手この手で唆してその流通にも一枚かませた。
ここまでくればもう思いのままである。
なにせ王家まで噛んでいる罠だ。
ハミゲルに流通の責任全てを押し付け、大問題とする事は容易かった。
――こうしてコーガス侯爵家は、一人の愚か者の為に没落する事となる。
「ふ……まあタケル・コーガスの功績を考えれば、もう一度小さな恩赦を与えても罰は当たらないだろう」
「はぁ、まあ確かに……」
エンデル17世は30年前の物が恩赦でも何でもなく、寧ろ真逆である事を知っている身だ。
だからその罪滅ぼしとして、もっともらしい理由を付けてコーガス侯爵家を支援する。
――という訳ではない。
国王の感覚からすれば、貴族や王族が自衛するのは当たり前の事であり、罠だろうが何だろうが自衛出来なかったのならば、それはその家の落ち度でしかないのだ。
だから没落したのは、純粋にコーガス侯爵家の傲慢や怠慢。
なので条件はどうであれ、それが出来なかった侯爵家に恩赦を与えた王家は、勇者から託された頼み事をちゃんと果たした。
そう彼は考えている。
ならばなぜ、コーガス侯爵家の得になる行動をするのかという疑問が浮かび上がってくる。
その理由は単純だ。
エンデル17世の為政者としての勘である。
完全に没落しきったコーガス侯爵家の大きな動き。
そこに何かあると感じ、彼は先んじて貸しを作ろうとしているのだ。
それが王家のプラスに働くと考え。
「セルイト。譲渡の手配を頼む」
「は、畏まりました」
「それと……コーガス侯爵家への内偵も頼んだぞ」
「は」
エンデル17世の命を受け、セルイトはその場を後にする。
「さて……30年前に没落した家門がどう立て直すのか、お手並み拝見と行こうか」
いずれ今日の貸しがどのような形で帰ってくるのか楽しみだ。
エンデル17世はそんな他愛ない事を考えてから、自身の政務に戻るのであった。
――コーガス侯爵家への支援は、エンデル17世にとっては他愛のない選択でしかなかった。
だが彼は知らない。
この行動が、想像を遥かに超えるレベルで王家の運命に影響する事を。
もしここで無償提供を行っていなければ、王家は近い将来……
エンデル17世は今年42歳。
その腹心と言えるセルイトは40歳だ。
30年前コーガス侯爵家没落時、彼らは12歳と10歳である。
当然その企みに二人は関わっておらず、セルイトに至っては世間で見聞きできる以上の情報を持っていなかった。
だが国王エンデル17世――当時の王太子には、その時点である程度の情報網があった。
そのため、彼は事の顛末を知っているのだ。
コーガス侯爵家は清廉潔白かつ優れた歴代当主による治世により、国民からの評判が非常に高かった。
さらに世界を救った勇者まで輩出している家門であったため、当時の名声は王家を凌ぐ程だったと言われている。
全てを兼ね備えた完璧な家門。
そんなコーガス侯爵家を、貴族や王家がどう思っていたかは言うまでもないだろう。
嫉妬を抱き。
逆恨みを持ち。
何とかコーガス侯爵家の足を掬ってやろうと虎視眈々と狙い続ける貴族達。
その中には、王家すら含まれていた。
しかしコーガス侯爵家は完璧な一族であったため、付け入る隙がまるで無かった。
――だが、そんなコーガス家にどうしようもない愚か者が生まれる。
ハミゲル・コーガス。
彼は次代を約束された嫡子だったにもかかわらずその人格には大きな難があり、やりたい放題の問題児だった。
そんなハミゲルの存在に、コーガス侯爵家の足を引っ張る事を企んでいた者達は歓喜する。
彼らはハミゲルが違法な薬物に手を出すよう誘導し、更にあの手この手で唆してその流通にも一枚かませた。
ここまでくればもう思いのままである。
なにせ王家まで噛んでいる罠だ。
ハミゲルに流通の責任全てを押し付け、大問題とする事は容易かった。
――こうしてコーガス侯爵家は、一人の愚か者の為に没落する事となる。
「ふ……まあタケル・コーガスの功績を考えれば、もう一度小さな恩赦を与えても罰は当たらないだろう」
「はぁ、まあ確かに……」
エンデル17世は30年前の物が恩赦でも何でもなく、寧ろ真逆である事を知っている身だ。
だからその罪滅ぼしとして、もっともらしい理由を付けてコーガス侯爵家を支援する。
――という訳ではない。
国王の感覚からすれば、貴族や王族が自衛するのは当たり前の事であり、罠だろうが何だろうが自衛出来なかったのならば、それはその家の落ち度でしかないのだ。
だから没落したのは、純粋にコーガス侯爵家の傲慢や怠慢。
なので条件はどうであれ、それが出来なかった侯爵家に恩赦を与えた王家は、勇者から託された頼み事をちゃんと果たした。
そう彼は考えている。
ならばなぜ、コーガス侯爵家の得になる行動をするのかという疑問が浮かび上がってくる。
その理由は単純だ。
エンデル17世の為政者としての勘である。
完全に没落しきったコーガス侯爵家の大きな動き。
そこに何かあると感じ、彼は先んじて貸しを作ろうとしているのだ。
それが王家のプラスに働くと考え。
「セルイト。譲渡の手配を頼む」
「は、畏まりました」
「それと……コーガス侯爵家への内偵も頼んだぞ」
「は」
エンデル17世の命を受け、セルイトはその場を後にする。
「さて……30年前に没落した家門がどう立て直すのか、お手並み拝見と行こうか」
いずれ今日の貸しがどのような形で帰ってくるのか楽しみだ。
エンデル17世はそんな他愛ない事を考えてから、自身の政務に戻るのであった。
――コーガス侯爵家への支援は、エンデル17世にとっては他愛のない選択でしかなかった。
だが彼は知らない。
この行動が、想像を遥かに超えるレベルで王家の運命に影響する事を。
もしここで無償提供を行っていなければ、王家は近い将来……
75
お気に入りに追加
1,522
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる