上 下
41 / 42
ダンジョンへ

第41話 服装

しおりを挟む
「ここですか?」

「はい」

王女に案内されたのは豪華な門構えを持つ派手な建物で、明らかに高そうな店だった。
看板にはオンリーワン・セレブとか書いてある。
どう考えても庶民お断りの高級店で、俺なら絶対自分からは寄らないタイプの場所だ。

ソアラと来た店だって言うから、もっとリーズナブルな店を想像してたんだけどな……

よくよく考えたら、彼女は国の顔とも言うべき勇者だ。
まだ子供とは言えそこそこな給金を貰っていてもおかしくはない。
何せドラゴン退治まで請け負ってる訳だからな。
それにダンジョンで強い魔物もバリバリ狩れるから、高い素材なんかを換金してるだろうし。
今のソアラは金持ちと考えて間違いないだろう。

やれやれ、たった半年かそこらでえらく差を付けられたもんである。
お互い田舎の村で貧乏くさく――実際はかなり裕福な方ではあったが――暮らしてた頃が懐かしいよ。

というか、このレベルの店に来るなら別にお忍びである必要はないんじゃ?

そんな気がしてならない。
お忍びと言えば庶民の目線とかそんな感じな訳だが、ここは絶対庶民向けじゃないぞ。
ま、余計なお世話か。

「あの……どうかされましたか?」

「ああいや、なんでもありません。入りましょう」

取り敢えず、此処では見るだけにしとこう。
そんな持って来てないからな。
今の俺の手持ちじゃ、服一着買えるかすら怪しい。

まあ仮に足りたとしても買わないけど。
服なんて着れりゃいいんだよ。
着れりゃ。

オシャレ?
そんなもの12歳の子供が考える事じゃないね。

「好きな物を買ってくれて構わないよ。私が支払っておくから」

門を潜ろうとしたら、ゼッツさんがそっとそう耳打ちして来た。
振り返ると彼はウィンクして来る。

食と住を無償で世話になってるってのに、まさか衣類まで提供してくれるとは。
太っ腹すぎるぜ。
流石お貴族様だ。

「ありがとうございます」

心遣いに感謝。
まあとは言え、だ。
あんまり厚かましく他人にたかったりするのは好きじゃない。

取り敢えず一着だけ……

いや、それだと出してくれる相手に逆に失礼になるか。
二着か三着。
比較的安めなのを選ぶとしよう。

「まあまあ、いらっしゃいませ」

ドアを開けて中に入ると、真っ白なパンツスーツ姿の女性が出迎えてくれる。
一緒に中まで付いて来たのはゼッツさんだけで、他の護衛さんは門の外で目立たないように待機ている感じだ。

「レア様、本日もご来店頂きありがとうございます。貴方様に至福の出会いがあれば幸いですわ」

至福と私服をかけてんのかな?

関係ないか。
我ながら親父臭い事を考えてしまった。
まあ中身おっさんだから仕方がない。

しかし……レアンに対する大仰な反応を見る限り、この店員は彼女が王女である事を知っていそうだな。

一緒に入って来た此方には一瞥もくれようとしないし、明らかに態度の差が出ている。

「よろしくお願いします。今日は、その……友人と来ましたので」

レアン王女がもじもじしながら此方を見る。
その様子を見て、ひょっとしたら彼女は友人が少ないのかもしれないと俺は思った。

王族である王女に、気軽に接する事の出来る人間と言うのは相当限られてくるからな。
友人が少なくとも仕方がない事だ。

「レアの友人のアドルと言います」

「……レア様の御友人の方でしたか。当店にようこそいらっしゃいました」

店員が一瞬、本当に一瞬、俺を値踏みする様な目を向ける。
直ぐに笑顔になったので王女は気づいていないだろうけど……

ちょっと感じ悪いな。

まあ普通なら気づかない程の早変わりだったので、勝手に気付いてもやってる俺がおかしいと言われればそれまでだが。

「アドル様のお眼鏡にかなう服が見つかれば宜しいのですが」

さっきの眼に気付いたせいか、「貧乏人にうちの服の良さが分かるのかよ?」的な言葉に聞こえて仕方がないのは流石に考え過ぎか。
まあ仮にそうだったとしても、実際服の良しあしなんて殆ど分からないのも事実だしな。
俺が分かるのは高そうか安そうか位のものである、

「では此方にどうぞ」

店内には色んな服が展示されていた。
全部貴族や、金持ちの子供が来てそうな物ばかりだ。

……値札が一切付いてやがらねぇ。

これだから高級店は困る。
逐一値段を聞くのもなんかアレだし、ここは安そうな服を勘で選んで行くしかないな。

「レア様、此方等は当店の一押し新作になっております?これはレヴローン夫人がデザインされたものでして――」

女性店員がお勧めのドレスっぽいワンピースを手に取って、満面の笑顔でレアンに勧めだす。
見るからにお高そうな服だ。
売りたくて仕方がないのか、蘊蓄ををペラペラと語っている。

「ですので。もしよろしければご試着の方を――」

「あの……アドルさん、私に似合うと思いますか?」

「へ?ああ……」

俺に聞くの?
コーデのセンスゼロなんだけど?
だがまあ、聞かれたのなら素直に答えておくとしよう。

「うーん、そうだな……」

店員のお勧めしているワンピースは装飾過多で、個人的にはあまり好きな感じではなかった。
まあでもレアンは美少女なので、ぶっちゃけ似合うかに合わな回で言うなら、余ほど変なの以外は似合うだろうとは思う。

なので答えは似合うが正解なのだろうが……
ただここでべた褒めしたら、俺の好みだと思われちゃうよな?。

それはなんか嫌だ。
まあだけど似合わない訳ではないので、ちょっと暈した感じで答えるか。

因みに、店員は100点の答えを出せと言わんばかりに満面の笑みを俺に向けているが、そこはスルーだ。
さっきの失礼な視線の事を抜きにしても、忖度してやり謂れは全くないからな。

「まああれだね。ソアラよりは似合うと思うよ」

共通の知人なら、例えとして分かりやすいだろう。

「ふふふ、ソアラさんは活発な人ですから。確かにそうかもしれませんね」

「ああ、あいつだったら絶対直ぐ破るだろうし」

もう何なら、着る際中に「あっ!」とか言って破るまである。
何故なら大怪獣だから。

「ソアラさんにもお揃いの服を送ろうと思ってましたから、この服は止めておきます」

ああ、彼女はソアラとお揃いの服を買うつもりだったのか。
王宮のハンドメイドされてそうな服を送る訳にもいかないから、グレードを落としたと思われるこの店に来た訳だ。

「さ、さようですか。では別の物を――」

がっかりしてるんだろうが、店員の表情は一切崩れない。
さすがプロである。

「あの……ソアラさんと私に似合う服が良いので、もしよかったらアドルさんに選んでもらえると嬉しいんですが。ソアラさんの事を、一番よく知ってらっしゃるから」

「……まあ俺でいいなら」

レアン王女は何来ても似合うので、ここはソアラを基準に考えよう。
彼女に似合うのは動きやすい服装だ。
正直このての店にはあんまりおいて無さそうなんだが……

「これとこれと、これなんかが良いんじゃないかな」

取り敢えず店内を手早く見て回って、俺は三つを候補に挙げる。
一つは男物だったが、まあ子供だし問題ないだろう。

「わかりました。ではこの三つを私とソアラさんのサイズでお願いします」

「畏まりました」

流石に男物が混ざってるのを見て鉄面皮だった店員の顔に一瞬ひびが入ってたが、彼女はすぐさま持ち直してゼッツさんと一緒にカンターへと向かう。

「選んでいただいてありがとうございます」

「あれぐらいお安い御用さ」

「次はアドルさんの服を選びましょ」

「ああ、それも決めてあるから問題ないよ」

レアンの分を探すと同時に、シンプルで生地も高級じゃなさそうな奴を二つチョイスしておいた。
俺が買うのはそれだ。

「そうなんですね」

「ま、服は着れれば何でもいいタイプだからね」

「ふふ、ソアラさんも同じような事を言ってました」

「まあソアラらしいね」

オシャレのオの字も無い。
ただひたすら強さを追い求める姿勢は正に勇者の鑑である。

12歳の女の子としては、そうれはどうかって気もしなくはないが。
まあソアラだし。

代わりにやって来た店員さんに商品を伝えると、俺のサイズを事細かに図りだす。
どうもこの店はデザインを決めて、そこからサイズ別に仕立てるシステムの様だ。
出来上がるのは三日後との事。

値札がないのは、サイズで値段が変わって来るからだろうか?
まああんまり関係ない気もするけど。

「あの、この服なんてどうでしょうか?」

レアン王女が、服を一セット持って――正確には持ってるのは彼女に付きそう店員だが――来た。
胸元にヒラヒラのある感じのシャツと、黒いスーツっぽい上下の服だ。

なんかこう、少女漫画に出て来る王子とかお貴族様が着てそうな感じの奴だな。
そんなもん持って来てどうでしょうかと言われても困るんだが?

「もしよかったら、その……お近づきの印に、アドルさんに貰って頂きたいのですが……」

死ぬ程いらねぇ。
とは流石に言えん。

「あ、ありがとう。レア」

せっかく選んでくれたモノを断ると失礼に当たるので、まあ貰っておくとしよう。
箪笥の肥やし確定だが。

この後清算を済ませて俺達は店を後にした。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一
ファンタジー
黒田武(くろだたけし)。 ブラック企業に勤めていた彼は三十六歳という若さで過労死する。 彼が最後に残した言葉は―― 「早く……会社に行かないと……部長に……怒られる」 だった。 正に社畜の最期に相応しい言葉だ。 そんな生き様を哀れに感じた神は、彼を異世界へと転生させてくれる。 「もうあんな余裕のない人生は嫌なので、次の人生はだらだらスローライフ的に過ごしたいです」 そう言った彼の希望が通り、転生チートは控えめなチート職業のみ。 しかも周囲からは底辺クラスの市民に見える様な偽装までして貰い、黒田武は異世界ファーレスへと転生する。 ――第二の人生で穏やかなスローライフを送る為に。 が、何故か彼の隣の家では同い年の勇者が誕生し。 しかも勇者はチートの鑑定で、神様の偽装を見抜いてしまう。 「アドル!魔王討伐しよ!」 これはスローライフの為に転生した男が、隣の家の勇者に能力がバレて鬼の猛特訓と魔王退治を強制される物語である。 「やだやだやだやだ!俺はスローライフがしたいんだ!」 『ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~白』と、13話までは全く同じ内容となっております。 別の話になるの14話以降で、少し違ったテイストの物語になっています。

スキル【ズル】は貴族に相応しくないと家を追い出されました~もう貴族じゃないので自重しません。使い放題だ!~

榊与一
ファンタジー
「お前はジョビジョバ家の恥だ!出て行け!」 シビック・ジョビジョバは18歳の時両親を失い。 家督を継いだ兄によって追放されてしまう。 その理由は――【ズル】という、貴族にあるまじき卑劣なユニークスキルを有していたためだ。 「まあしょうがない。けど、これでスキルは遠慮なく使えるって前向きに考えよう」 それまでスキルを使う事を我慢していたシビックだが、家を追放されたため制限する必要がなくなる。 そしてその強力な効果で、彼は気ままに冒険者となって成り上がっていく。 この物語は、スキル使用を解放した主人公が無双する物語である。

最弱クラスと言われている死霊術師、前世記憶でサブサブクラスまで得て最強無敵になる~最強ネクロマンサーは全てを蹂躙する~

榊与一
ファンタジー
ある日突然、ユーリは前世の記憶を思い出す。 そして気づく。 今いる場所が、自分がやり込んでいたヘブンスオンラインというゲームに瓜二つである事に。 この物語は最弱職と言われる死霊術師クラスで生まれて来たユーリが、前世廃知識を使って最強のネクロマンサーに昇り詰める物語である。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...