上 下
35 / 42
ダンジョンへ

第35話 プラン

しおりを挟む
「はぁ……しんど」

魔物を狩る事もなく数時間走り、やっとお昼件休憩タイムだ。
かなりハイペースで走らされたので流石に疲れた。

「じゃ、お昼ね!」

食料なんかは腰に付けた小さなポーチに詰め込んである。
これはマジックアイテムなので、見た目とは裏腹にその内容量は相当な物だ。

ソアラはそれから肉の塊を取り出して適当に塩をふりかけ、手にした剣の切っ先に刺してそれを炎の魔法でこんがりと焼き上げる。
素晴らしく大雑把な、男飯的調理方法だ。

「アドル、あーん!」

「あーん?」

一瞬『何言ってんだ?」って思ったが。

……ああ、口開けろつってんのか。

まさかとは思うが、その剣ごと肉を俺の口に突っ込む気じゃないだろうな?
いや、いくらソアラでも流石にそんな大道芸みたいな事は求めて来ないはず。

……はず。

「はやく!あーん!」

「……へいへい」

断っても絶対ごり押しで押し切られるのが分かり切っているので、俺は渋々言われた通り大きく口を開けた。
どうか剣を勢いよく突っ込んできませんように、と祈りながら。

「じゃ、行くよ。ふん!」

ソアラが剣を構えて力む。
その瞬間刺さっていた肉がサイコロ状に砕けて分かれ、その半分ほどが俺の口の中に勢いよく飛び込んで来た。
そしてもう残り半分は、ソアラの大きく開いた口の中に消えていく。

「もご……もぐもぐもぐもぐもぐ……んぐ」

口にパンパンに詰まった肉を咀嚼し、飲み込む。
中々美味い。
見事な焼き加減だ。

しかし……

「スゲーなソアラ。いつの間にこんな技覚えたんだ」

切っ先に刺さったままの肉を剣を振る事無くサイコロ状に切り分けて、しかも正確に自分達の口元に飛ばす。
まさに神業レベルの大道芸だ。

たった半年でこんな意味不明な技術を身に着けるとか、流石勇者。
さすゆうである。

「へへへ、バルターさんに教えて貰ったんだ」

「へー、あの人から習ったのか」

「うん!」

剣の道に生きて来ただけあって、色んな技術を持っていると感心せざる得ない。
面白いので、今度俺も機会があったら今の奴を教えて貰えないか頼んでみるとしよう。

え?
ソアラから習えばいいんじゃないって?

そんな事頼んだら、どんなスパルタで叩き込まれるか分かったもんじゃい。
なのでゾーン・バルター一択だ。
教えるのも絶対ソアラよりうまいだろうし。

「じゃ、ダンジョン探索再開!」

「もうかよ。飯食ったばっかじゃねーか」

まだお昼休憩に入ってから10分もたっていない。
それに飯を食ったばっかりだ。
そんな状態で走りたくないんだが?

「大丈夫!もうすぐそこだから!そこで強い魔物が出て来るから!そいつを倒してレベル上げしよ!」

どうやら何を狩るのか、ちゃんとソアラなりに考えてプランを立ててくれていた様だ。
まあ普段の言動はアホっぽいが、こと戦闘関連に関しては天才だからな。
このダンジョンの地形や魔物の分布なんかも、正確にその頭に入っているのだろう。

「強い魔物ね……道中にいたトカゲとゴリラは十分強そうだったんだが?」

途中遭遇した超でっかいトカゲや大槌持ったゴリラみたいな魔物なんかは、結構強かったはずだ。
道中の魔物は全てソアラが接触と同時に瞬殺してしまっているが、その二種類だけは明らかに動きが違っていた。
個人的見立てだと、イモ兄妹単独じゃまず勝てないくらいの強さはあったじゃないかと思う。

「態々強い奴の所行かなくても、狩るならあいつらぐらいが丁度いい気がするんだが?」

「ダメダメ!あんなのアドルの敵じゃないよ!強くなるなら強い魔物を狩らなきゃ!」

魔物は強ければ強い程、倒した際に取得できる経験値の量が跳ね上がっていく。
なので、狩れるならより強い魔物を相手にした方が圧倒的に効率がいいのは確かだ。

だが、ゲームの様に何も考えず気軽にレベルアップを行うという訳にはいかない。
死んだらお金が減るとか、経験値が減るとかでは済まないからだ。
現実での命の取り合いになる以上、余裕のある十分な安全マージンは必須だろう。

まあ最悪、やられそうになったらソアラが助けてくれるとは思うが……

ただその場合、ソアラが保険として討伐に貢献する事になるので、経験値が吸われてしまう事になる――引率がいる場合、貢献していると判定される仕様。
なのであんまりギリギリの魔物と闘わさせられると、彼女の貢献度が上がりまくって割に合わない事になりかねない。

せっかく頑張って強い奴倒したのに、吸われて経験値が今一とかやる気そがれるわ。
後、そもそもの問題として――

ヒーヒー言いながらレベル上げしたくないで御座る。

苦行は普段のソアラとの訓練だけでお腹いっぱいだ。

「出来れば倒しやすい奴からステップアップして――」

「さ!いこう!」

此方の言葉など無視して、ソアラが俺の手を取って走り出す。
まあ言っても聞かないだろうし、仕方ないと諦める。

そこから30分ほど走った所で、ソアラが言った強い魔物の元へと到着した。
訳だが――

「強い魔物って……まさかあれか?」

広い円形の空間。
その中央には魔法陣が描かれており、その上には体長20メートルは軽くあるであろう赤いイカがいた。
その多足の先端には凶暴そうな蛇の頭が付いていて『シャーシャー』威嚇する様に唸り声を上げている。

見るからに、とんでもなく強そうな化け物なんだが?

ソアラが俺の問いに、満面の笑顔で答える

「このダンジョンの中ボスだよ!」

――と。

ダンジョンの初戦闘が中ボスなんて聞いた事無いんですが?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...