上 下
49 / 93

第49話 がーん!

しおりを挟む
「ほわぁ!?」

結界について尋ねてきた少女――多分、世界ランク5位のエリス・サザーランドだ。
ネットで顔を見た覚えがある。
とにかく、そのエリスがアングラウスを見て声をあげ、その場で尻もちをついた。

「エリスちゃん!?どうしたっすか!?」

一緒にいた糸目の女性が、慌てて彼女の肩に手をかけて声をかける。
この人、あんな細目でちゃんと見えてるんだろうか?
そんな事を考えつつ、俺は足元にいるアングラウスを見た。

「お前、何かしたのか?」

「なにもしておらんよ。目の辺りに魔力が籠っていたから、恐らく魔眼辺りで我を見定めようとでもしたのだろう」

アングラウスを鑑定して、そのとんでもない結果に腰を抜かしたって訳か。

「それってどこまでみられたんだ?」

驚いているって事は、レベルあたりは確認しているはずだ。
名前だけ見てこの反応はないだろう。

まあ名前やレベルあたりの、表面上の情報を見られるぐらいなら問題ない。
いや、アングラウスの場合はレベルもとんでもない事になってるから、実際はそれ程良くもないんだが。
だがまあそれ位なら、たぶん誤魔化せる。
気がする。

だがアングラウスがエターナルダンジョンのボスと言うのがバレるのは、流石にまずすぎる。
なにせこいつは外に出られる筈のない、しかもExtra指定されているエターナルダンジョンのボスな訳だからな。
もし周囲にその事が知れたらそれこそ大騒ぎだ。

なのでもしそこまで見られてしまっていたなら、何らかの方法での口封じが必要になって来る。

「さあな?我は魔法があまり得意ではないからな。相手の魔眼の能力を魔法で暴く様な真似は出来ん。まあ、その辺りは直接聞いてみればよかろう」

アングラウスって魔法が苦手だったのか。
分身つくったり、結界を張ったりしてるからてっきり得意なのかと。

……そういや、俺と戦った時は魔法一切使ってなかったな。

苦手だから戦闘では使ってなかったという訳か。

「私は大丈夫よ。その猫……一体何者なの?」

起き上ったエリス・サザーランドが、アングラウスが何者か聞いて来る。
何者かを尋ねたって事は、少なくともダンジョンボスである事はバレてないと思っていいだろう。
もしそれが見えていたなら、何故外にいるのか的な質問になっていた筈だ。

「我か?我は只の猫だ」

その問に、アングラウスはしれっと嘘を返した。
流石にそれは無理があると思うんだが?

「なるほど……答えられないって訳ね。まあいいわ。私の目的はその猫の正体を暴く事じゃないから、もうそこは詮索しないわ」

アングラウスについて、エリスは詮索しないと言う。
もし本当なら話が早くて助かる。
とんでもない化け物猫がいるなんて噂を広められても敵わんしな。

「私が知りたいのは、レジェンドスキルのデメリットの突破方法よ。貴方ご希望の100億も用意して来てるわ。だから私……に――」

エリスが途中で言葉を区切り、俺の顔をまじまじと見つめる。
なんだいったい?

「えーっと、出来れば間違いであって欲しいんだけど。貴方って、レベル1……よね?」

「ああ、俺はレベル1だ」

どうやらアングラウスの言っていた魔眼で、俺のレベルを見ていた様だ。

「レベル1って事は……それってひょっとして……もしかしてなんだけど……」

エリスが言葉を詰まらせる。
まるでその先を口にしたくないかの様に。

流石に此処まで来ると、彼女が俺に何を言おうとしているかは分かる。

「お察しの通りだ。俺はレジェンドスキルの突破方法なんて知らない。100億云々は、カイザーギルドが俺への嫌がらせの為に流布したデマだ」

「がーん!」

今にも両眼が飛び出しそうな程に見開かれた目と、大きく開いた口。
こんな漫画みたいな顔初めて見た。
美少女でもこんな奇怪な表情が出来るんだな。

あと、口で『がーん』とか言う奴も初めてだ。
まあそんな冗談みたいなリアクションを取ってしまう程、ショックだったという事なのだろう。

「そんな……そんな……私の……希望が……」

エリスが数歩、後ろによろめく。
そして膝から崩れ落ち、その場に倒れ込んでしまう。

見ると、開きっぱなしのその目は完全に白目をむいていた。
どうやらショックのあまり気絶してしまった様だ。

「え、エリスちゃーん!しっかりするっす!!」

「面白い小娘だな」

「100億をガチで用意して来たみたいだからな。それだけ期待してたって事なんだろう」

噂に踊らされた少女。
ちょっと可哀想な気もするが、俺ではどうしてやる事も出来ない。
突破方法なんてガチで知らないしな。

『マスター!用事が済んだなら家に戻って追いマヨネーズじゃ』

……追加を寄越せって事か。

何が追いマヨネーズだ。
意味が全然違ってるぞ。

「おい悠。その小娘には少し話がある。家に連れて帰るから背負え」

「いやいや、そんな事したら俺が警察に連行されちまう」

気絶した小さな女の子を、成人した男性が背負って連れ帰るとか事案以外何物でもない。
どう見てもただのロリ誘拐だ。

「保護者なら、そこの糸目がいるから大丈夫だろう」

「えーっと、そうですね……休ませて貰えるんなら有難いっす。日本に来るのは初めてなんで、エリスちゃんを休ませてあげられる場所がどこにあるかとか分からないっすから」

日本に来るのが初めての割に、日本語は随分と流ちょうだな。
まあ少々謎の『っす』って訛りがあるけど。

「ああでも、エリスちゃんは私が背負いますんで」

「そうして貰えると助かるよ」

俺はエリスを背負った糸目女性を家へと案内する。
アングラウスは彼女といったい、何の話をするつもりなんだろうな?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

処理中です...