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第8話 黒猫
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アングラウスの転移魔法で家へ帰ると――
「悠!どこに行ってたの!」
――まだ日の出前だと言うのに母は起きていた。
「お母さん凄い爆発音で飛び起きて、しかも悠がいないからびっくりしたじゃないの!何かあったんじゃないかって心配したのよ!!」
山を吹き飛ばす轟音はこの辺りまで響いていた様だ。
まあ凄い衝撃だったからな。
「心配かけてごめん、母さん。ちょっと気分転換にランニングしてたんだ。そしたら凄い音がしたから慌てて家に帰って来たんだよ」
「そう、まあ無事で本当に良かったわ。憂の事が心配だから、母さん今から病院に行って来るわね」
俺の無事を確認した母は、慌てて家を飛び出していく。
引き止めようかとも思ったが止めておいた。
「山が吹っ飛んだだけで、病院に影響はないよ」
とは言えないからな。
近くの山が吹き飛んで安心しろとか、無理があり過ぎる。
だいたい何でお前がそんなこと知ってんだって話だし。
まあ余計な事は言わず、病院はそこまで遠くはないので自分の目で見て安心して貰うのが一番だろう。
「ったく……お前のせいだぞ」
俺が足元の黒猫に文句を言うと――
「アレは些細な事故だ。細かい事を一々気にするな」
――ふざけた返事が返って来る。
この黒猫は、魔竜アングラウスの変身した姿だ。
見知らぬ女を朝っぱらから家に連れて行く訳にもいかないので、猫に化けて貰っている。
「お前にとっては些細な事でも、弱い人間にとっては生き死にのかかった脅威になるんだよ」
「そうか。なら、次からは気を付けるとしよう」
次からは気を付けると、アングラウスはあっさり口にする。
此方としては有難いのだが、凶悪なダンジョンボスが人間に配慮して行動すると言うのは何だか違和感が半端ない。
「所で……人間と言うのは皆、命が複数ある物なのか?」
「藪から棒だな。人間の命は一つだけだ。だから無暗に壊さないでくれよ」
「一つか……つまり、二つの命を持つお前の母親は特別という訳だな」
「——っ!?」
こいつ、母さんの中に命が二つある事を見抜いてやがる。
命なんて物は通常可視化できるものではないし、魔法で何かやったわけでもないってのに。
「命の数が見えるのか?」
「見えると言うよりは、感じると言った方が正しいな。因みに、今のお前の命の数は三つだ。どうだ?あっているだろう」
アングラウスが俺の中の命の数を正確に言い当てる。
本能か。
それともスキルか。
何にせよ、奴は他人の命を感知する能力がある様だ。
「因みに……戦ってる最中ずっと我は思っていたぞ。何故貴様の命は減らないのか?こいつまじウゼェ、と」
「俺はまあ……不死身だからな」
「羨ましい限りだな」
「羨ましい……ね」
不老不死と聞くと、大抵の奴は羨ましいと言う。
実際、普通に生活する分にはメリットしかない訳だからな。
特にアングラウスは既に強さを兼ね備えているので、不死身になれば正に鬼に金棒だろう。
けど……レベル1の雑魚だった俺にとって、強くなれないってのはプレイヤーとして致命的だった。
お陰で死ぬ程苦労した挙句、家族を守る事も出来なかったのだ。
だからそんな能力を羨ましいと言われても、正直微妙な気分にしかならない。
いやまあ、結果的には強くなれた訳だし。
こうして時間を巻き戻して家族を守るチャンスも手に入れた訳だが。
それでも、そこに至るまでの苦労を考えると、とてもこのスキルを誇る気にはなれなかった。
「あの時のお前は命が十二あった。今三つしかない事を考えると……その辺りがお前の強さの秘訣と言った所か」
俺の強さの秘密を、アングラウスは的確に見抜いて来る。
とんでもなく鋭い奴だ。
「まあその辺りはどうでもいいか。で?お前はどれぐらいであの時の強さに戻れるのだ?」
「数年はかかる」
出力として増やした命を慣らすのには、時間がかかる。
それは数が増えれば増えるほど長くなっていく。
それに命を肉体に連動させるための経路作りも、数が増えるごとにかかる時間が多くなてしまう。
俺の目安だと、1年で6から7個。
そこから更に1から2年かけて、やっとダンジョン攻略時の12個にまで持っていける計算だ。
「何年もかかるのか?長いな」
「これでもかなり短い方なんだけどな」
一度やった経験があるからその程度で済むのだ。
もしゼロからなら、一万年近く時間がかかる事になる。
実際、一万年かけて俺はその状態に至ったわけだからな。
「やれやれ。お前へのリベンジマッチはしばらく我慢する必要がある様だな」
アングラウスは、完全に力を取り戻した俺にリベンジしたいと考えている様だが……
分かっているんだろうか?
俺が以前の力を取り戻したら、奴には勝ち目がないと言う事を。
単純な強さならアングラウスの方が上だが、此方は不死身だ。
それはつまり、絶対に俺が負けない事を意味していた。
「仕方がない。力を取り戻すまでお前の側にいるとしよう」
「……」
この化け物に自由に行動されるのは大問題だが、長々と傍にいられるのもそれはそれで……
まあ家族に手を出さないと誓っているので、それだけが救いではあるが。
「傍にいるのは良いが。暴れるのは勘弁してくれよ」
「安心しろ。こう見えて分別はあるつもりだ。無意味に暴れたりはせんよ」
山吹っ飛ばした奴に分別があると言われても、説得力がまるでないんだが?
まあどちらにせよ、今の俺の力ではどうしようもないので選択権はない。
アングラウスに分別が本当に備わっている事を祈るばかりだ。
「まあよろしくな」
そう言うと、足元の黒猫は性悪そうに笑う。
「悠!どこに行ってたの!」
――まだ日の出前だと言うのに母は起きていた。
「お母さん凄い爆発音で飛び起きて、しかも悠がいないからびっくりしたじゃないの!何かあったんじゃないかって心配したのよ!!」
山を吹き飛ばす轟音はこの辺りまで響いていた様だ。
まあ凄い衝撃だったからな。
「心配かけてごめん、母さん。ちょっと気分転換にランニングしてたんだ。そしたら凄い音がしたから慌てて家に帰って来たんだよ」
「そう、まあ無事で本当に良かったわ。憂の事が心配だから、母さん今から病院に行って来るわね」
俺の無事を確認した母は、慌てて家を飛び出していく。
引き止めようかとも思ったが止めておいた。
「山が吹っ飛んだだけで、病院に影響はないよ」
とは言えないからな。
近くの山が吹き飛んで安心しろとか、無理があり過ぎる。
だいたい何でお前がそんなこと知ってんだって話だし。
まあ余計な事は言わず、病院はそこまで遠くはないので自分の目で見て安心して貰うのが一番だろう。
「ったく……お前のせいだぞ」
俺が足元の黒猫に文句を言うと――
「アレは些細な事故だ。細かい事を一々気にするな」
――ふざけた返事が返って来る。
この黒猫は、魔竜アングラウスの変身した姿だ。
見知らぬ女を朝っぱらから家に連れて行く訳にもいかないので、猫に化けて貰っている。
「お前にとっては些細な事でも、弱い人間にとっては生き死にのかかった脅威になるんだよ」
「そうか。なら、次からは気を付けるとしよう」
次からは気を付けると、アングラウスはあっさり口にする。
此方としては有難いのだが、凶悪なダンジョンボスが人間に配慮して行動すると言うのは何だか違和感が半端ない。
「所で……人間と言うのは皆、命が複数ある物なのか?」
「藪から棒だな。人間の命は一つだけだ。だから無暗に壊さないでくれよ」
「一つか……つまり、二つの命を持つお前の母親は特別という訳だな」
「——っ!?」
こいつ、母さんの中に命が二つある事を見抜いてやがる。
命なんて物は通常可視化できるものではないし、魔法で何かやったわけでもないってのに。
「命の数が見えるのか?」
「見えると言うよりは、感じると言った方が正しいな。因みに、今のお前の命の数は三つだ。どうだ?あっているだろう」
アングラウスが俺の中の命の数を正確に言い当てる。
本能か。
それともスキルか。
何にせよ、奴は他人の命を感知する能力がある様だ。
「因みに……戦ってる最中ずっと我は思っていたぞ。何故貴様の命は減らないのか?こいつまじウゼェ、と」
「俺はまあ……不死身だからな」
「羨ましい限りだな」
「羨ましい……ね」
不老不死と聞くと、大抵の奴は羨ましいと言う。
実際、普通に生活する分にはメリットしかない訳だからな。
特にアングラウスは既に強さを兼ね備えているので、不死身になれば正に鬼に金棒だろう。
けど……レベル1の雑魚だった俺にとって、強くなれないってのはプレイヤーとして致命的だった。
お陰で死ぬ程苦労した挙句、家族を守る事も出来なかったのだ。
だからそんな能力を羨ましいと言われても、正直微妙な気分にしかならない。
いやまあ、結果的には強くなれた訳だし。
こうして時間を巻き戻して家族を守るチャンスも手に入れた訳だが。
それでも、そこに至るまでの苦労を考えると、とてもこのスキルを誇る気にはなれなかった。
「あの時のお前は命が十二あった。今三つしかない事を考えると……その辺りがお前の強さの秘訣と言った所か」
俺の強さの秘密を、アングラウスは的確に見抜いて来る。
とんでもなく鋭い奴だ。
「まあその辺りはどうでもいいか。で?お前はどれぐらいであの時の強さに戻れるのだ?」
「数年はかかる」
出力として増やした命を慣らすのには、時間がかかる。
それは数が増えれば増えるほど長くなっていく。
それに命を肉体に連動させるための経路作りも、数が増えるごとにかかる時間が多くなてしまう。
俺の目安だと、1年で6から7個。
そこから更に1から2年かけて、やっとダンジョン攻略時の12個にまで持っていける計算だ。
「何年もかかるのか?長いな」
「これでもかなり短い方なんだけどな」
一度やった経験があるからその程度で済むのだ。
もしゼロからなら、一万年近く時間がかかる事になる。
実際、一万年かけて俺はその状態に至ったわけだからな。
「やれやれ。お前へのリベンジマッチはしばらく我慢する必要がある様だな」
アングラウスは、完全に力を取り戻した俺にリベンジしたいと考えている様だが……
分かっているんだろうか?
俺が以前の力を取り戻したら、奴には勝ち目がないと言う事を。
単純な強さならアングラウスの方が上だが、此方は不死身だ。
それはつまり、絶対に俺が負けない事を意味していた。
「仕方がない。力を取り戻すまでお前の側にいるとしよう」
「……」
この化け物に自由に行動されるのは大問題だが、長々と傍にいられるのもそれはそれで……
まあ家族に手を出さないと誓っているので、それだけが救いではあるが。
「傍にいるのは良いが。暴れるのは勘弁してくれよ」
「安心しろ。こう見えて分別はあるつもりだ。無意味に暴れたりはせんよ」
山吹っ飛ばした奴に分別があると言われても、説得力がまるでないんだが?
まあどちらにせよ、今の俺の力ではどうしようもないので選択権はない。
アングラウスに分別が本当に備わっている事を祈るばかりだ。
「まあよろしくな」
そう言うと、足元の黒猫は性悪そうに笑う。
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