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第37話 生き延びたい
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「はぁっ、はぁっ……勝てた。けど……」
息が上がる。
目の前には牛の化け物が血まみれになって横たわっていた。
そして周囲には、共に行動していた仲間達の変わり果てた姿が。
――私のパーティーは、こいつ一匹に壊滅させられてしまった。
「中層に転移トラップがあるなんて……」
このダンジョンは浅瀬、中層、そしてそれ以上を深層というエリアで区切られている。
私達のパーティーの平均レベルは40台で、中層で活動するには十分な実力を持っていた。
今回の探索もレベル上げがメインの目的だったのだが――
「だから……止めた方が良いって言ったのに」
地図に無い未踏の場所で発見した宝箱。
本来なら無視するべきだったそれに、欲に目が眩んだ仲間の一人が手を出してしまったのだ。
気づけばメンバー全員見た事もない場所に飛ばされており、前方には巨大な魔物――ミノタウロスが立っていた。
「どう考えても、もうダメよね……」
現在の自分の位置は、当然不明だ。
しかもミノタウロスの様な上位の魔物が出る場所で、私一人ではどう足掻いても生き残る事は出来ないだろう。
「私は……」
私の名はエンデ・バルター。
王国最強の騎士と名高い、ゾーン・バルターの娘だ。
父の血を引く私は、周りから将来はさぞ優秀な騎士になるだろうと期待されていた。
私自身も、幼い頃はそうなれると信じて努力してきた。
……だが、現実とは残酷な物だ。
月日が流れるにつれ、私は自分に才能がない事を嫌と言う程突き付けられてしまう。
「強くなりたかった。才能が欲しかった。父や……彼女達みたいな天才になりたかった……」
騎士学校最後の年、既に周囲から凡庸の烙印を押されていた私はある兄妹と出会う。
彼女達は私より2つ下だったが、その強さは平凡な私から見ても明らかに突出した物だった。
その兄妹の名はタロイモとベニイモ。
風の噂で、妹の方が今年の金獅子賞を授与されたと聞いている。
紛れもなく、天才兄妹だ。
「あんな風に強くなれたら、父だって……」
無能な娘に失望してか、父――ゾーン・バルターは私との時間を取る事は無かった。
ただ血を引いただけの血縁者。
それがあの人の中での私の立ち位置。
それでも父に認められたくて、騎士学校卒業後私は冒険者になった。
騎士は職務の都合上、内勤が多い。
それよりも、外で魔物と戦った方がレベルを上げやすいと考えたからだ。
――剣の才覚が無くとも、レベルさえ上げれば強くはなれる。
レベルを上げて少しでも強くなって。
父に認められて。
胸を張って自分がゾーン・バルターの娘だと、私は言いたかった。
「けど……」
私はここで死に、それは敵わぬ夢に終わる。
そう思うと、自然と涙が込み上げて来た。
「ぐぅっ……く……」
感情を抑えきれず、声を殺してすすり泣く
死ぬのが怖い。
でもそれ以上に、父に認められずに果てる事が無性に悔しかった。
「ふぅ……」
30分ほど泣きくれて、少しは落ち着く。
「まだよ……」
私は徐に立ち上がり、死んだ仲間達の所持品を漁る。
まだ死にたくない。
諦めたくない。
そんな思いが、無駄だと分かっていても私を突き動かす。
「ごめんね。でも……確率は殆どなくても、それでも最後まで足掻きたいんだ。だから……力を貸して」
一人一人に謝りながら、使えるものと、遺品になりそうな物を集める。
遺品はもし外に出れた時、彼女達の家族に渡すための物だ。
――紅嵐。
それが私の所属していたパーティーの名だ。
女性だけで構成されており、冒険者としてずぶの素人だった私に居場所を与えてくれた仲間達。
「私、最後の最後まで生き抜くよ」
出来れば遺体を埋葬してあげたかったが、下は硬い岩盤でとても掘り返せそうにない。
せめてもと、私は彼女達の手を重ね合わた。
「皆……さようなら」
皆に別れを告げ、私は歩き出す。
――生きるために。
息が上がる。
目の前には牛の化け物が血まみれになって横たわっていた。
そして周囲には、共に行動していた仲間達の変わり果てた姿が。
――私のパーティーは、こいつ一匹に壊滅させられてしまった。
「中層に転移トラップがあるなんて……」
このダンジョンは浅瀬、中層、そしてそれ以上を深層というエリアで区切られている。
私達のパーティーの平均レベルは40台で、中層で活動するには十分な実力を持っていた。
今回の探索もレベル上げがメインの目的だったのだが――
「だから……止めた方が良いって言ったのに」
地図に無い未踏の場所で発見した宝箱。
本来なら無視するべきだったそれに、欲に目が眩んだ仲間の一人が手を出してしまったのだ。
気づけばメンバー全員見た事もない場所に飛ばされており、前方には巨大な魔物――ミノタウロスが立っていた。
「どう考えても、もうダメよね……」
現在の自分の位置は、当然不明だ。
しかもミノタウロスの様な上位の魔物が出る場所で、私一人ではどう足掻いても生き残る事は出来ないだろう。
「私は……」
私の名はエンデ・バルター。
王国最強の騎士と名高い、ゾーン・バルターの娘だ。
父の血を引く私は、周りから将来はさぞ優秀な騎士になるだろうと期待されていた。
私自身も、幼い頃はそうなれると信じて努力してきた。
……だが、現実とは残酷な物だ。
月日が流れるにつれ、私は自分に才能がない事を嫌と言う程突き付けられてしまう。
「強くなりたかった。才能が欲しかった。父や……彼女達みたいな天才になりたかった……」
騎士学校最後の年、既に周囲から凡庸の烙印を押されていた私はある兄妹と出会う。
彼女達は私より2つ下だったが、その強さは平凡な私から見ても明らかに突出した物だった。
その兄妹の名はタロイモとベニイモ。
風の噂で、妹の方が今年の金獅子賞を授与されたと聞いている。
紛れもなく、天才兄妹だ。
「あんな風に強くなれたら、父だって……」
無能な娘に失望してか、父――ゾーン・バルターは私との時間を取る事は無かった。
ただ血を引いただけの血縁者。
それがあの人の中での私の立ち位置。
それでも父に認められたくて、騎士学校卒業後私は冒険者になった。
騎士は職務の都合上、内勤が多い。
それよりも、外で魔物と戦った方がレベルを上げやすいと考えたからだ。
――剣の才覚が無くとも、レベルさえ上げれば強くはなれる。
レベルを上げて少しでも強くなって。
父に認められて。
胸を張って自分がゾーン・バルターの娘だと、私は言いたかった。
「けど……」
私はここで死に、それは敵わぬ夢に終わる。
そう思うと、自然と涙が込み上げて来た。
「ぐぅっ……く……」
感情を抑えきれず、声を殺してすすり泣く
死ぬのが怖い。
でもそれ以上に、父に認められずに果てる事が無性に悔しかった。
「ふぅ……」
30分ほど泣きくれて、少しは落ち着く。
「まだよ……」
私は徐に立ち上がり、死んだ仲間達の所持品を漁る。
まだ死にたくない。
諦めたくない。
そんな思いが、無駄だと分かっていても私を突き動かす。
「ごめんね。でも……確率は殆どなくても、それでも最後まで足掻きたいんだ。だから……力を貸して」
一人一人に謝りながら、使えるものと、遺品になりそうな物を集める。
遺品はもし外に出れた時、彼女達の家族に渡すための物だ。
――紅嵐。
それが私の所属していたパーティーの名だ。
女性だけで構成されており、冒険者としてずぶの素人だった私に居場所を与えてくれた仲間達。
「私、最後の最後まで生き抜くよ」
出来れば遺体を埋葬してあげたかったが、下は硬い岩盤でとても掘り返せそうにない。
せめてもと、私は彼女達の手を重ね合わた。
「皆……さようなら」
皆に別れを告げ、私は歩き出す。
――生きるために。
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