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王子様頑張る

剣技大会

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むぅ、相手は私の母親か。
母は父にぞっこんなので不倫の心配はないが、どうやって諦めさせたらいい物か。
だいたい諦めさせても、根本としてラーが年上好きだった場合、年下のハム子ちゃんとくっつけるのは難しいだろう。ラーが偏った趣味を持っていない事を祈るばかりだ。
そんな他人事に頭を悩ませていると、今度は私の悩みが飛び込んできた。

自室で寛いでいると、扉がノックされ。
お父様かお母さまかなと思い、侍女に目配せして迎え入れさせると。
開いた扉の先には ペペロン王子ずつうのたねが花束を持って立っていた。

「お、おおおお。王子様!どうしてここに!?」

「やあ、ハニー。元気にしてたかい?君に会いたくてやって来たよ」

度肝を抜かれた私は急いで椅子から立ち上がろうとして、足を引っかけて椅子からひっくり返りそうになる。
それを咄嗟にラーに受け止められて難を逃れた。

「あ、ありがとう。ラー」

「これぐらいおやす――」

彼の返事を遮るかのように、王子が腰に手をまわして私を胸元に引き寄せる。

「お、おおおおおお、王子!?」

「ご苦労。だが彼女は俺の妻となる女性だ。事故とはいえ、他の男にあまり長く抱きしめてられているのは気分が宜しくないのでね」

「これは、失礼いたしました」

ラーは丁寧に王子へと腰を折り、後ろへと下がる。
彼に落ち度はないと言うのに酷い話だ。

文句のひとつも言ってやりたい所だが、ラーが家の為に我慢して嫌な顔一つせず笑顔で下がってくれたのだ。主の私がそれを無駄にするの憚られる。
ま、今の王子なら私が何を言っても笑顔で受け流してくれそうではあるが。
無用なリスクを背負ってまで試す気は更々ない。

それにしても王子意外と胸板あるわね。
それに凄く良い匂いがする。
このまま抱きしめられ続けたいと言う誘惑が私を襲う。
でもこのままじゃ流石にあれなので、誘惑を振り切り何とか言葉を絞り出す。

「あ、あの……ペペロン王子。皆が見ていますので、そうきつく抱きしめられては……その、私困ってしまいますわ」

「ふふ、俺達は婚約者同士だ。何も憚る必要はないさ。見せつけてやろう」

くっ、眩しい。
超イケメンにそんな台詞言われたら、眩しすぎて相手の顔を直視できない。
今の私は完全に茹蛸状態だ。

ああ、このまま……ってダメダメ!
早く離してくれないと興奮しすぎて鼻血が垂れちゃう!

鼻の奥がツーンとしてきたので、魔力で強化して胸板を押し、無理やり王子を引きはがす。
危うく人前で間抜けな鼻血姿を晒すところだった。
不細工な上に鼻血とか見苦しい事この上ないもの。

「照れ屋さんだな。ハニーは」

王子がウィンクを飛ばしてきたので体を逸らして躱す。
今のは危険な攻撃だった。
この王子様はそんなに私に鼻血を流させたいのか?

「そ、それで今日はどういったご用件で?」

「君に会うのに用件など必要かい?」

だから一々ウィンク飛ばすなっての!
全く困った王子だ。

「まあ、一応無い訳では無いんだけどな」

「そうですか、それで用件と言うのは?」

態々アポも取らずにやって来たのだ。
相当な用件だろう。
少し嫌な気がする。

「ああ、実は……」

「実は?」

王子が不敵に笑い、勿体ぶって引き延ばす。
その様子に私は思わず唾を飲み込む。
緊張したから――

ではなく、単にその様子がかっこよくて涎が出てきたからだ。

「実は来月の剣技大会に出場する事になってね。君に応援に来てもらおうと思って」

「は?」

剣技大会?
それって毎年この国で開催される、剣技を競う大会にペペロン王子が出るって事?
私に一発でのされる体たらくで?

いやまあ、あの一発は王子は態と喰らったわけだし。
魔力が拳に乗ってたから、それで判断するのはどうかとも思わなくも無いが。
正直目の前の王子が勇壮に剣を振るう姿が思い浮かばない。

そもそも王家の人間がそういった大会に出るなど私は聞いた事が無い。
剣技を競う大会である以上、大怪我をする危険性もあるわけで。
この王子、一体何を考えてそんな危険な大会に出るつもりなのやら。

やっぱ早く何とかしないといけないわね。
この御乱心は完全に私の所為に違いない。

「実は君に良い所を見せようと、ここ暫く猛特訓していてね。それで君に会いにこれなかったって訳だ。寂しい思いをさせて悪かったね」

あー、べた惚れぽかったのにここ最近顔を見せなかったのはそういう訳か。
しかし女に良い所見せたくて特訓して大会に出るとか、真面目に剣を極めようとしている人達にこれ程失礼な話はないのだが。
ま、言ってもしょうがないか。

「寂しいだなんてそんな。ペペロン王子はお忙しい方だと存じておりますから、私気にいたしませんわ。是非大会も見学させて頂きます」

「ありがとう、ハニー。ペペロン・チーノの名に懸けて、大会の優勝を君に捧げる事を誓うよ」

王子は跪き、右手の花束を私に捧げる。
私はそれを受け取りにっこりと微笑んだ。

ま、確実に大恥をかくことになるだろうけど。
しょうがないから、その時は私が慰めてあげるとしよう。
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